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2章 広がる世界
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しおりを挟むごめんね、一緒にいてあげられなくて。
君が目覚めたとき、1番最初におはようを言ってあげたいのに。
それすら許されないようだから。
だから約束をしよう。決して消えない約束だよ。
もう一度君に逢えるように。再会の約束を。
この約束が僕らを導いてくれますように。
どうか、忘れないで。
「――――――――――――。」
朝、昨日の恥ずかしかったこともなんとか気持ち的には少し落ちついてナオトは起き上がった。
あれ?なんかまたあの夢を見た気がするけどなんだかよくわからなかった。
「おはよう、ナオト。」
まだ寝そべったままで少し目がとろんとしたまま、ノーマンがそう言って微笑む。
それになぜかちょっとドキッとしつつも「おはよう」とナオトは返事をする。
ん?なんでドキッ??
不思議に思いながらも今日もノーマンのおさがりの服を着て朝食を食べた。
「ナオくん、今日の午前中は仕立て屋が来ますからちゃんと服を作ってもらいましょう。」
朝食を食べ終わってすぐソフィアが笑ってそういう。
「うん、おれはなにすればいいの?」
「サイズを測ったあとは……そうね、自分の好きな服を選べばいいのよ。きっとナオくんが見たことのないような服もあると思うわ。」
ソフィアはとても楽しげにそういってにこにこしている。そこにノーマンが少し厳しい声音でいう。
「午後からは外せない用事があるから延長はなしだぞ。ソフィア。」
「あら、どんな用事?」
「兄上と話をしてくる。ナオトを連れて。」
その言葉にあのソフィアが真剣な表情になる。
「もう少ししてからでもいいんじゃないの?まだナオくんも目が覚めて2日しかたってないのに……」
その様子にナオトも少し不安げに表情を曇らせた。
「ナオト、大丈夫だ。兄上は少々変わった……というか、少々腹黒いが悪い人ではない。後々議会の招致は避けられないからそれの前準備といったところだ。たからそんな顔をするな。」
ノーマンはそういってナオトの頭を撫でた。
「……うん。」
「ソフィア、昼前にはナオトを王宮によこしてくれるか?フェルマンには話を通したから迎えにくるはずだ。」
「わかったわ。」
「ナオト、俺は仕事があるから王宮に行くが向こうで待ってるからな。大丈夫だ。」
「うん、わかった。ノーマン、いってらっしゃい。」
ナオトはまだ少し不安に瞳を揺らしながら微笑む。
「大丈夫だ。だからナオトはその心のまま、自由にいていい。」
ノーマンはそっとナオトを抱きしめて王宮へと向かっていった。
―――――――――――――――――――――――
その後すぐに仕立て屋が来てまず最初に採寸をすることになった。
別室で仕立て屋にはまってもらい、ソフィアがナオトを採寸していく。
「不安?」
ソフィアが採寸をしながらナオトに聞く。
「……うーん、不安というか……どうしたら正解かわからなくて……。」
たぶん、ノーマンのお兄さんは今後おれがどうするのかを話したいんだと思う。
プレギエーラ国民としてこれから生きていくのか、龍族の退廃的な態度は変えずにいるのか。
そもそもおれはこの事件の顛末を知る必要はあるのだろうか
龍族が滅ぼされた本当の理由も、あの日あったことの真実を知るべきなのだろうか?
本音を言えばレムの所在さえわかればほかはどうだってよかった。
真実を知るのがこわい。
知ってしまったら……そのあとおれはどうすればいいんだろう。どうなるんだろう。
そこにある漠然とした不安にどうしようもなく足がすくむ。
「ナオくん。」
ソフィアがそう呼びかけてナオトの頬を両手で包んだ。
「そんなに怖がらなくていいのよ。」
「……え?」
ソフィアは微笑んでそういうとナオトの頬から手を離した。
「あの事件のこともこれからのこともなにもわからなくて不安だと思う。……けど忘れないで。ここにはあなたの味方がたくさんいるわ。とくにあのデカブツなんかアゴで使ってやればいいのよ。」
「ふふっ……アゴではノーマンを使えないかなぁ。」
ナオトは少し苦笑してそういう。
「こういうときこそ無駄にあるその王子の肩書きをつかってやりなさい!ナオくんのためなら喜んでやるわよ、あいつ。」
ソフィアはナオトの両手をとって優しく握る。
「大丈夫。あなたはあなたが納得する方法で自由でいていい。何にも縛られずに。」
まっすぐで綺麗なソフィアの瞳がこちらをみつめる。
「……小さなころに聞いた龍族の伝承があるんだけどね。」
「そんなのあるの?」
「ええ、探せばたくさんあるわよ。お話はどれも空と龍族にまつわる話が多いかしら。私の知ってる話もそう。たくさんのものをあるだけなんでもほしがる人々はある日訪ねてきた龍族をだまして、龍族の持つ珍しい価値の高いものや知恵を奪うの。馬鹿な奴らめって笑って。でも龍族はなにも言わず、なにも持たずその大空を飛んでいったんだって。……あなたは龍族。誇り高い、なににも縛られない自由な翼をナオトは持ってるでしょう?」
ソフィアは微笑んでそういうとナオトの頭をなでた。
「あなたはあなたの心のままに、自由でいていいのよ。」
その言葉に少し胸のつかえがとれてナオトも笑った。
「ありがとう、ソフィアさん。」
「いいえ、たいしたことは言ってないわ。さぁ、採寸も終わったし服を選びましょう。」
「うん!」
ソフィアにうながされるままナオトは部屋をでていく。
少しだけ、幼いころにレインに言われたことを思い出した。
確かアヴィオンにうまくまだ乗れなかったときの話だ。
「うまく飛べない……」
飛べなくてアヴィオンから落っこちていじけて泣いていたらレインが来て、レインのアヴィオンに乗せてくれた。
「みんなこうやって飛び方を覚えていくんだから泣いてないで頑張れ。自由に飛ぶってのは最初は難しいもんなんだよ。」
「……うん。」
雲よりも高い青い空を二人で飛んでいく。
「けど、自由に飛べるようになったらどこまでも自分で飛んでいけるんだ。おまえは好奇心旺盛だからどこまでも飛んでいっちまいそうだなぁ。」
背中にレインの体温を感じながら見上げたレインの苦笑を思い出す。
「大丈夫、ナオトは自由だよ。おまえならどこまでも高く遠くに望むところへ飛んでいけるさ。」
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