君と巡る運命の中で生きていく。

clavis

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2章 広がる世界

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 「ちょ……ちょっと待って……もうだめ……」
ナオトはとりあえずクハナ、アリオン、ナイルの順番で手合わせをはじめ、さぁ2巡目に突入しようというところで尻もちをついて座り込んだ。
「なんだよー俺らから一本とっておいて勝ち逃げか?」
アリオンがそういって不服そうにナオトの近くにしゃがむ。
「一旦休憩だ。ナオト、はい。疲れたろ?」
そういってナイルが差し出してくれたのは透明な瓶に入っている水だった。よく冷やされていたようで瓶の表面はアセをかいている。
「ありがとう。」
ナオトはありがたくそれをうけとり、口をつけた。
「ぷっはぁーーー……おいしい。」
その冷たさにただの水でもとても美味しく感じて思わず声がもれる。
「それはよかった。」
ナイルの持ってきてくれたそれをもって木陰で休憩をとる。
ふと、落ちついてしまったせいでナオトは少しその沈黙に耐えられず、まわりを見回してみた。
他にも自分たちと同じように手合わせをしている人や走り込んでいる人、弓の練習や筋トレをしている人、みんなが思い思いにその訓練場で鍛錬をしていた。
「すごいなあ……」
思わずナオトはぼそりとつぶやく。
「なにが?」
そのつぶやきにアリオンが反応してナオトをのぞきこんだ。
「人がこんなにたくさんいるし、建物も大きくてなんかまだ感覚が変というか……」
「あーナオトは龍族の村から出るのははじめてなんだったっけ?」
クハナがそういってナオトに聞いた。
「おれのこと知ってるの?」
「そりゃもちろん、というか今王都のどこでもおまえの話で持ち切りだぜ?」
アリオンは楽しげにそういって笑う。
「え……?なんで???」
そんな自分に話題性があるなんて露ほども思ってなかったのでナオトは首をかしげる。
「龍族ってのはみんな伝説やおとぎ話でしか知らなない人も多いし、数十年前に交流がなくなってからはそれこそ本当の伝説になりはじめてたからな。」
ナイルがそう説明してくれる。
「それがこの間の事件をきっかけに龍族の話題で盛り上がって、今じゃ生き残ったおまえのことをうちの国民はみんな同情的な目でみてるやつが多いよ。」
「そう……なんだ。」
ナオトは一言そういって口をつむぐ。
「悪い、今話すことじゃなかったな。」
そういってナイルがぽんぽんとナオトの頭に手をおいた。
「でも、あの事件の顛末を見てた俺たちはナオトがこうして元気になってくれてすごく嬉しかったんだ。」
クハナは少し真剣な面持ちでナオトに伝える。
「実は俺たちあの要塞に突入したメンバーでさ、何人も龍族の人が亡くなってるのを見たから……間に合わなかったって思ったんだ。でも……ナオトが助かってくれた。ナオトは大切な人も親しい人も亡くして失意のどん底だろうけど……それでも俺たちはナオトが生きていてくれてよかったってそう思う。」
「身勝手な話で悪いな。でもこれは俺たちみんなの本心だ。」
続けてアリオンがそういって立ち上がる。
「生きていてくれてありがとう、ナオト。」
まぶしいほどのそのアリオンの笑顔に先程まで暗い淀んだ心情も少し和らいでつられて笑った。
「こちらこそ、……遅くなったけど、助けてくれてありがとう。」
ナオトもアリオンの前に立ち上がり精一杯の感謝をのせてそう告げた。


―――――――――――――――――――――――

 

 それから少しまた話をしてさぁ手合わせを再開しようとアリオンが意気込んだとき、フェルマンがナオトの元へやってきた。
「今日はこのへんにしておきましょう。病み上がりで長く運動するのもあんまりよくないですからね。」
「……はーい。」
ナオトはそう言われ少ししゅんとする。
「また明日、昼からの訓練ならお誘いしますから。」
ナオトのその落胆ぶりにフェルマンは苦笑しながらそういう。
「じゃあまたな、ナオト。」
そんなナオトをアリオンはなだめるように頭をなでる。
「ナオト、明日またな。」
「また明日。」
クハナとナイルもそういって手をふる。
ナオトもそれに手を振り返してフェルマンのあとを追いかけた。
するとちょうど進んださきに昼間こちらをなぜか睨んできたリュシュがいて、このときもやっぱりこちらをにらんでいた。
すれ違いざまにふとリュシュのつぶやきが聞こえる。
「………よそ者のくせに。」
その意味もリュシュがどうしてそんな態度なのか知るのも、もう少し先の話。


―――――――――――――――――――――――

 
 ノーマンは王宮の長い廊下を歩いて自分の宮殿へ帰ろうしていたときだった。
「ノーマン。」
聞き慣れた声が聞こえて立ち止まって振り返る。
「兄上、どうかしましたか?」
そこには最近は会議でしか顔をあわせることのないノーマンの兄、ルシアスがいた。
「龍族の子、目が覚めたんだろう?」
ルシアスは口に微笑みを浮かべてノーマンをみる。
「それがどうしましたか?」
「そろそろうちの穀潰しが痺れを切らしててね、議会の出席を要求してきてるよ。」
「まだ病み上がりです。もう少しあとでもいいでしょう。」
ノーマンは煩わしそうに眉間にシワをよせた。
「報告では今日飛んだりはねたりずいぶんと元気そうだと聞いたけど?」
対してルシアスはどこかたのしそうでもある。
「監視ですか……悪趣味ですね。」
「人聞きが悪いな、警護と言ってくれるかい?」
そういってルシアスはノーマンに歩み寄り、手を伸ばせば届く距離で立ち止まった。
「こちらもそろそろ限界なんだよ、察しのいいおまえならわかるだろう?」
「それでもまだ早すぎます。あともう2週間くらい……」
「そうもいってられない。……そろそろこちらも本格的に動かないと面倒なことになる。そうなる前に手を打たなければ。」
「……それは……そうですが。」
「龍族の子はこれから逃れたくても逃れられないしがらみがごまんとでてくるだろう。それを自覚してなおも先へ進んでもらわなければなにもはじまらない。」
ルシアスの厳しい意見にノーマンは視線を逸らす。
その様子にルシアスは苦笑してノーマンの肩を叩いた。
「……込み入った話は明日龍族の子を交えて話そう。明日の昼すぎに私の執務室に来なさい。」
「……わかりました。」
ルシアスはそう伝えるとノーマンの横を通り過ぎていった。
一人取り残されたノーマンは唇を噛み締めてその背を見送った。
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