君と巡る運命の中で生きていく。

clavis

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2章 広がる世界

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 「ところでナオトくん。」
しばらく部屋の中を探索していると机で少し書類仕事をしていたフェルマンが話しかけた。
「はい?」
「運動は得意ですか?」
フェルマンのその質問の意図がよくわからずナオトは首をかしげながら応える。
「嫌いじゃないし、むしろ好きな方だとは思うけど……でもどうして?」
そう聞くとフェルマンは書類から顔をあげて言った。
「いえ、これから部隊の訓練がありますから。もし体調に問題なさそうであれば参加しませんか?」
「いいの?……でもおれ足引っ張っちゃうかも。」
ナオトはそう言いながら少しうつむく。
「大丈夫です。無理のない範囲でやるので。」
フェルマンは微笑むと立ち上がってナオトに歩み寄った。
「さっそく訓練場に行きましょうか。疲れたと感じたら無理せず休んで大丈夫ですからね。」
「はい!」
フェルマンはそう言ってナオトを連れ立って医務室を後にした。


――――――――――――――――――――――

 

  フェルマンはナオトを連れてまず訓練場の隅にある倉庫へと足を運んだ。
「とりあえず、軽く手合わせをしましょうか。」
そう言ってナオトに刃を潰した、直剣を手渡す。
それを受け取るが想像より重いその剣にびっくりする。
「……重いんだね。」
ぶっちゃけこれを振る自信が早々になくなったナオトが苦笑していう。
「あー……持ち上がります?」
「持ち上がりはするけど……振れるかな。」
ナオトは勢いをつけてとりあえず縦に振り下ろしてみた。
「重い……」
「とりあえずやってみましょうか。」
フェルマンも少し苦笑して剣を取ると倉庫からでてひらけた場所へとやってくる。
そんな二人を見つけて訓練中の隊員数名がぞろぞろと見物にやってきた。
「3点先取の攻撃は当てないで寸止め。このルールでお願いしますね。」
「はい。」
ナオトはその重い剣を中段で構える。
「いきますよっ!」
フェルマンがその声とともにまず斬りかかった。
剣と剣がぶつかる甲高い音が響く。
その最初の衝撃1つでナオトの腕はビリビリと震えた。
それに耐えてなんとか押し返し横薙ぎに払う。
フェルマンはそれを受け止めながらさらに追撃に入った。
2撃目をなんとか受けた、と思ったところでナオトの手の中の剣がすっぽ抜けて地面におちる。
「うぅ……やっぱり重い。」
「そうですか……思うように動けませんか?」
フェルマンにそう聞かれ、ナオトはしょんぼりしながらこくんとうなずいた。
「ふむ……なるほど。じゃあ今度はナオトくんのパイオネットを使ってもらって大丈夫ですよ。」
「いいの?」
ナオトは顔をあげてフェルマンに伺う。
「ええ、大丈夫ですよ。……すいません。試すようなことをして。龍族はパイオネット以外の武器を使うとどうなるのかな?と少々思いまして。」
フェルマンはそう言って謝るとナオトの手からすっぽ抜けたそれを拾って近くにいた隊員に手渡した。
「あ!そういえばおれ、今までパイオネットしか使ったことなかったや。」
ナオトはぽんと手をうって今更なことに気づく。
「剣は使わなかったのですか?」
「村には何人か使う人もいたけどだいたいみんなパイオネットを使ってたし、おれも剣を使う必要がなかったから使わなかったなぁ。」
ナオトは顎に手をあててうんうんと一人納得してうなずく。
「なるほど、ではパイオネットを使ってもう一度やってみましょうか。」
「はい!」
ナオトは腰にさげたパイオネットを抜き放つと構えた。
「では、いきますよ!」
フェルマンのその掛け声とともに剣がふるわれる。
ナオトはそれをパイオネットで一瞬うけとめて少し傾けながら剣筋を横に反らしてはじく。
フェルマンもそのさきほどとは違うしなやかな動きに驚きつつも弾かれた剣筋を立て直し、追撃をはじめた。
今度は横薙ぎに中段でフェルマンが仕掛ける。
ナオトはそれを胸を反らしてよけてその勢いのまま足で剣を真上に跳ね上げた。
その衝撃に耐え、なんとか剣を離さずにいれたフェルマンは少し後ろに下がって距離をとる。
ナオトもそれにならってまた構え直した。
今度はナオトから仕掛けられ、フェルマンはそれを受け止める。
が、ナオトはパイオネットをくるんと舞うように一回転させてフェルマンの剣筋を操るように下へとそらす。
それに対応するように斬り上げで追撃するも
紙一重で少し身体をそらしてよけられた。
もはや寸止めのルールはなく、フェルマンの余裕もなくなりはじめる。
なぜなら理由はよくわからないがそもそもあてられない、のだ。
まるで風を相手にしているように、すべてをのらりくらりと躱される。
少しフェルマンも大人気なく楽しくなってきて剣をふるい始めた。
それをナオトは難なく、パイオネットの先で剣先を弾きかわし、くるくるとパイオネットをまわしてそれに巻き込んで弾き、自身も身軽にまるで舞うように攻撃を躱す。
ふと、交わしたナオトの瞳が真剣にフェルマンの瞳を見つめた。
その吸い込まれそうな空色の瞳に一瞬ひるんだフェルマンのスキをナオトはついた。
フェルマンの剣筋をパイオネットで少し弾きながらも紙一重でよけて、突き出されたパイオネットがフェルマンの袖を巻き込んでナオトは自分に引き寄せた。完全にフェルマンの懐に入ったナオトがその首に手刀をかるくぽんとおとした。
「これでも一本になる?」
「……参りました。」
フェルマンがそういって両手をあげる。
するといつのまに集まっていたのかギャラリーがわっと歓声をあげた。
それにナオトはびっくりして肩をはねさせる。
そのギャラリーに混じってさきほどのアリオンとクハナ、ナイルがやってくる。
「すげぇな!!ちまっこくて細いやつだと思ってたけどおまえ強いな!!」
アリオンが乱暴にうりうりとまたナオトの頭をなでた。
「あわわわ……」
ナオトはされるがままである。
それをクハナがまたアリオンの手をはじいてとめた。
「おまえは加減をおぼえろよ!!……ったく、大丈夫か?」
「あ、……はい。」
「そうか。よかったらなんだが俺とも手合わせしてくれないか?」
クハナは笑顔でそういうとそのままナオトの肩をだいてギャラリーの輪の外へと行く。
「あ!!おまえ!ちょっとまて!!ずりぃぞ!」
その後をアリオンと呆れ顔のナイルが続く。
「うるさい、早いもの勝ち。」
クハナは後ろから追いかけてくるアリオンに舌をだしてからかった。
「……あの、これ3点先取の試合だったんだけど……まぁ、いいか。」
完全に置いてけぼりをくらったフェルマンだったが少しずつみんなの前でも笑顔をみせるナオトの様子に安心してそれを見守ることにした。
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