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2章 広がる世界

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  ふと、肌に光を感じて目が覚めた。
自分の手を誰かが握ってくれているのが視界に入る。
それが誰かなんて考えるまでもなくて。
見れば隣にはちょっと眉間に皺をよせて眠るノーマンがいてくれた。
……すごく大人びたなぁ。でもなんだかその眉間の皺はいただけない、と思って少し近づいて人指指でこしこしとその眉間の皺をなでた。
だって7年前よりすっごく大人びていてかっこよくなったのになんかもったいない気がした。
しばらくそうしてると目が覚めたノーマンとパチリと目があった。
「……なにしてるんだ?」
「……いや、えっと……シワ撫でたらとれないかなって。」
そんなふうに聞かれるものだからちょっとしどろもどろに応えるといきなりガバッとその腕の中に閉じ込められた。
「……ちょっと落ち着いたか?」
驚いたけど言われたその言葉にたくさんの想いが一緒にのっていることがわかって、もういいかげん枯れちゃっただろうと思ったそれが溢れた。
「……うん。」
その大きな背中に腕を回してぎゅっとだきついた。
「ノーマン。」
その肩に顔をうずめて彼の名前を呼ぶ。
「ん?」
優しいあの日と変わらない声でノーマンは聞いてくれる。
ノーマンから少し離れてその綺麗な碧の瞳をしっかりみてずっと言いたかったことを。
「ありがとう……ノーマン。久しぶり、会えて嬉しい。」
涙は止まらないけど。
全然格好はつかないけど。
それでもノーマンに絶対に伝えようと決めた言葉を。
そう言えばノーマンはその目尻に涙をためておれの涙をぬぐった。
「俺もだよ。……俺も会えて嬉しい。久しぶり、ナオト。大きくなったな。」
そう言ってノーマンはまたきつく抱きしめてくれた。
お互いしばらくそうして抱きしめあっていた。
これからさき、きっとたくさんいろいろあるんだろうけど。
今のおれたちにはまずこれが必要だと思ったから。

―――――――――――――――――――――――

  
  その後、少し身支度してノーマンはある人をつれてきた。深い緑の髪の優しげな目のおじさんだ。
フェルマン・ソディックと名乗ったその人はおれが寝込んでいる間ずっと治療にあたってくれていた人だとノーマンが教えてくれる。
おれはありがとうございますとお礼をするとその大きな手で頭をなでられた。
「元気になってくれてよかったよ。」
その人は人懐っこいその目を細めてそう言ってくれた。

  
  「はい、口開けてくださいね。」
フェルマンに言われてそれに従う。
「はい、いいですよ。じゃあ次そこに寝て。」
フェルマンはナオトの口が閉じる前に飴を口の中においてそういった。
それにちょっと驚きつつも甘くておいしくてちょっとその味を堪能しているとフェルマンの次の指示を聞き逃す。
その様子にフェルマンは笑ってまた頭をなでてくれた。
「おいしいですか?」
ナオトはそれにこくこくとうなずく。
「それは体力回復効果のある飴ですから、疲れたなとか思ったら舐めるといいですよ。あとでいくつか包んであげますね。」
そう言われてうれしくて思わずナオトは顔をほころばせた。
「ほら、ナオト。ここに寝て。」
後ろで苦笑しながら見ていたノーマンがナオトをベットに寝かせる。
「じゃあ少し触診しますね。いいですか、殿下。」
「あぁ。」
フェルマンはそういうとナオトの上のシャツを胸までまくりあげてあちこち触れて確かめていく。
最後に首元に触れるとじんわりと魔力を流した。
「……はい、問題ないですね。さすが聞きしにまさる龍族といったところですか。身体のほうはもう大丈夫です。」
そう言いながらナオトの服を直すとフェルマンは微笑んだ。
「そうか、よかった。」
ノーマンは少しホッとしたようにナオトの頭をなでる。
ナオトもそれにうれしそうに微笑むもんだからつられてノーマンも笑った。


  診察も終わって少ししてあれからあったことを聞いた。ノーマンは今はまだ気にしなくていいって言ってくれたけどおれは首をふった。
ちゃんと知らなきゃいけない。この悲しみはなくならなくても。つらくても。きっとレインならそうしたから。ならおれもそうするべきだと、そう思ったから。
そう伝えればノーマンは少し眉間にシワをよせて黙り込む。ナオトは負けじとノーマンの瞳をみつめた。しばらくそうして二人の間でのみ視線の攻防が続いて最後に折れたのはノーマンだった。
ノーマンは吐き出すように息をついてナオトを抱きしめる。
「ナオトは変わらないな。」
「ノーマンも変わらないよ。」
そう言えばノーマンは少し離れて苦笑する。
「そうか?」
ノーマンがそう問えばナオトは微笑んでいう。
「うん、変わらない。すごく綺麗な魔力も、優しいのもあのときと変わらないよ。」
その言葉にノーマンは少しびっくりしてそしてうれしそうに破顔した。
「ありがとう。変わらずいれたのはナオトのお守りのおかげだよ。」
ノーマンはとりあえず話は朝食をとってからにしようと言うとフェルマンをみた。
「おまえはどうする?食べていくか?」
そう聞けばフェルマンは少し悩んで首をふった。
「せっかくですが少々隊舎のほうでやることがありまして。また誘ってください。」
「なんだ?何かあったのか?」
ノーマンがそう聞けばフェルマンは苦笑していう。
「いえ、すっごく呆れるほどくだらないのですが何人か昨日飲んだくれて帰ってきたものがいましたから。どうせそろそろアリオンとナイルあたりが医務室になだれ込んでくると思うので。」
「……なにをやってるんだ、あいつらは」
その話に呆れつつノーマンが額に手をあてる。
「では、私はこれで。……ナオトくん。」
最後に名前をよばれてナオトはちょっとびっくりして上擦った声で返事をした。
「あとで散歩がてら隊舎に来ませんか?その時に飴を渡しますよ。」
「ほんとう?!行ってもいいの?」
ナオトはうれしそうに勢いあまって立ち上がる。
「ええ、昼前にお迎えにあがりますね。殿下いいですか?」
「おまえ、先に俺に許可をとれよ。」
ノーマンは腕をくんでジトッとフェルマンを睨んだ。
「殿下に先に言えば却下されそうで。」
「わかってるじゃないか。」
「殿下、ナオト君が大事なのはわかりますがそろそろ少し運動もしないとですよ。過保護に囲いこむのは心の毒です。」
フェルマンは臆せずそういって微笑む。
「それに、彼はどうやらそんなタマでもないようですし。」
フェルマンはナオトをみて微笑むと少し頭をさげて部屋からでていった。
「フェルマンさん優しい。」
「ナオト、あれは策士っていうんだ。あぁいう手合いは気をつけろよ。」
「でも飴くれたよ?」
ナオトのうれしそうにそういう言葉と笑顔にノーマンは苦笑しながらぽんぽんと頭をなでた。
「食事にしようか。」 
「うん。」

――――――――――――――――――――――

 しばらくして部屋に直接食事が運ばれて来ると
その食事をワゴンで運んできてくれた紫色の髪の女性がスッと綺麗な姿勢で頭をさげると微笑んだ。
「ナオト、紹介しておく。」
ノーマンは彼女の横に並んで立つと言った。
「彼女は俺の専属侍女のソフィア・ユースティティア。これから俺がそばにいなくてなにかあったときは彼女を頼ってくれ。」
ナオトは椅子から立ち上がるとソフィアに少し頭をさげる。
「あの……よろしくお願いします。ナオトです。」
「はい、よろしくお願いしますね。ナオトくん。」
ソフィアはまた微笑んでそういった。
「でも……ノーマン。」
ナオトは少し居心地悪そうにうつむく。
「おれ、部外者なのにノーマンの専属侍女さんを頼ってもいいの?」
するとノーマンが口を開く前にソフィアがナオトの手を握っていった。
「大丈夫よ。そんなの気にしなくていいわ。このデカブツなんかほっておいても自分でなんとかするもの。それよりもナオトくんのほうが私はいいわ。まだ少しここには慣れないだろうけどここを家だと思ってくれていいからね。」
ソフィアは満面の笑顔でそう言ってナオトに詰め寄った。
「そうだわ、ノーマン。私、この子の専属になるわ。それが一番よ。そうして頂戴。」
ソフィアは後ろで佇むノーマンに巻くしたててそういう。もちろん、満面の笑顔で。
「……ソフィア。ナオトのことを気に入ってくれるのはいいが話が性急ずぎるうえに俺はなんかよくわからない間に貶されてるしでどこからツッコめばいいかわからんのだが。」
ノーマンは額に手をあててため息をついた。
「あら、カタブツのあなたにもツッコむという概念があったのね。見直したわ。」
ソフィアは微笑みのままそう言う。その様子にノーマンはさらにため息をついた。
「……えっと……喧嘩?」
ナオトが首をかしげてきけば二人して同じことを言う。
「気にしないで、いつものことよ。」
「気にするな、こいつの悪い癖なんだ。」
「失礼ね、そういうこと言うとナオくんにあなたの幼少期から現在までの恥ずかしいエピソードを余さず語り明かすわよ。」
「……かんべんしてくれ。」
ノーマンが渋い顔をする中、ナオトは興味津々で「聞きたい!聞かせて!」
と瞳を輝かせた。
「ええ、時間ができたら話しましょう。今はとりあえず冷めてしまうまえに食事にしなさいな。」
ソフィアは笑ってそういうと食事を机にセットして部屋をでていった。
「ソフィアさんすごくいい人。」
「ナオト、あれは猛獣というんだ。気をつけろよ。」
ノーマンはやっと一息ついて椅子に座るとそういった。
「でもおれの知らないノーマンのことたくさん話してくれるって言ってたよ?」
「それ聞きたいか?絶対につまらないぞ?」
ノーマンは苦笑して聞くとナオトは満面の笑顔でうなずた。
「そんなことない!すっごく聞きたい!!」
ナオトの無邪気な笑顔にノーマンは毒気を抜かれてつられて笑った。
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