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1章 巡る運命
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しおりを挟む身支度を終えてやっとソフィアのお許しを貰い、ノーマンは寝室に入る。
そこにはいつもの寝室と窓際に置かれたソファに腰掛け出された紅茶をすする黒髪長髪を片側で結い上げたその男はその赤い目でこちらをみて微笑んだ。
「やぁ、ノーマン。久しぶり。」
「あぁ、久方ぶりだな、ニコラス。できればあいたくなかったけどな。」
ノーマンは言葉少なめにそう言ってベットのほうに歩み寄る。
そこには先日よりはずいぶんと安らかな寝息で眠るナオトがいた。
「えーひどくないかい?それが久方ぶりに会う友人に言う言葉?」
「無駄口はいい。容態はどうなんだ。」
ノーマンはニコラスのほうには振り返らずベット横にある椅子に座ってナオトの頬に触れた。
幾分か高かった熱もひいたみたいだ。
「ひどいなぁ、まったく。……とりあえずかなり弱ってたからね、体内の魔力もちょっと整えてあげたから今はだいぶ落ち着いてるよ。」
「そうか……よかった。」
ホッとノーマンは安堵してナオトの手を握った。
「けど、本題はこっから。」
ニコラスはカップを机に置いてベットに近寄ってきた。
「ここからはおまえの出番。」
そう言ってノーマンの肩を叩く。
その言葉に訝しげにノーマンはニコラスを見上げる。
「おまえ、この子の運命だろ?」
「……何度かそれは言われたが……それがなにかあるのか?」
「龍族にとっちゃかなり大事なことなんだよ。最愛の半身って意味だ。羨ましいねぇ、ノーマン。」
ニコラスはにやにやしながらそういうとノーマンはギッと睨んでその肩におかれたその手をはらった。
「真面目に話せ。」
「真面目も真面目。大真面目だってば。おまえ、この子になにか貰ったことないか?」
「……貰う。……あ。」
ふと思い立ってノーマンは服の下のペンダントを引っ張り出した。
「おおーこれはこれは。綺麗な空の瞳だな。」
ニコラスはそれを見て微笑む。
「これと運命にどう関係するんだ?」
「龍族が空の瞳を贈るのは最大の愛情表現だよ。まぁー……この子の年齢からして貰ったのはそれなりに前か?本人そのつもりで渡してるかちょっと怪しいけどな。」
ニコラスはケラケラと笑う。
「なんだ……?まったく話がわからん。」
ノーマンはため息をつきつつ、空の瞳を服の下に戻す。
「運命だって、言われたのはこの子が言ったわけじゃない。大方あの銀龍が言ったんだろ。」
「そうだが……」
ニコラスは今までとはうってかわって厳しい表情でノーマンを見る。
「ならもっと重要な意味がある。僕もさすがにそこまではわからないけど。もっと……龍族の秘密に関わるような、とても重要なことに。だからおまえはあの日銀龍の加護を得た。全部この運命のために。」
すべてを見通すようにその赤い目がノーマンを見つめた。
「まぁ、とりあえず今わからんことは置いておいて。この子のためにおまえが必要なんだよ。」
ニコラスはナオトを見つめて、微笑んだ。
「……なにがあったのか。僕には計り知れないけど。龍族が魂魄をここまで疲弊させて生きてるのは奇跡だよ。……そんな状態でもちゃんと回復傾向にあるのはこの子の魂魄を守ってたあの赤いモノとおまえの銀龍の加護だ。だからおまえが極力そばにいてやるのが今は一番の薬だよ。」
ニコラスはベットの端に腰掛けて、眠るナオトをみた。
「おまえは託されたんだよ。あの龍とこの子の養い親が心血注いで愛してやまないこの子を。」
ニコラスはそう言ってノーマンを見ればその視線は少し心苦しそうにしながらもナオトの手をとってその手を祈るようにつつんだ。
「せいぜいその手を離すなよ。あの銀龍の愛子だ。どこで誰が狙っててもおかしくない。」
ニコラスは視線をそらして足を組んだ。
「龍族って……愛が重いよなぁ。いつも捨て身だし。」
月明かりがカーテンの隙間からのぞいて室内を少し照らす。
ニコラスは隙間からのぞくその光を静かにみつめていた。
―――――――――――――――――――――――
痛い、ずっと痛みがひかない。その痛みよりも大切な人が側にいないのが苦しい。
わかってしまった……わかりたくなんかなかったのに。
懐かしいあのぬくもりはいくら探してもそばにはなくて。ずっと暗闇の中で蹲っていた。
まだどこかで期待をしてる。
そのぬくもりがいつものように触れてくれることを。
レインはおれが幼いときから変わらず額にキスを落としてくれた。
褒めてくれたとき。
喧嘩して仲直りしたとき。
嫌なことがあって泣いたとき。
その理由はいつもちがっていたけど全部おれのためだった。
大きくなってからは小っ恥ずかしくて手ではらってしまったりしたけど。でもレインはおれが寝入るころには絶対にそうやって触れてくれた。おれは本当は起きてたけど寝たふりをして。
いつもそれが日課で。
ねぇ、目が覚めたらそこにいてくれる?
いつもみたいにそのぬくもりをくれる?
じんわりと胸の中の懐かしい暖かいぬくもりが染み込むようにゆっくりと広がっていく。
あぁ……ずっとここにあったんだ。
ずっとそばにあった。
でもそれも溶けるように形はわからなくなる。
涙が滲んで手繰り寄せるように胸を掻き抱いた。
そのとき、ふと懐かしいぬくもりがふってくる。
夜、寝る前にかならずしてくれたように。
額にキスを落として、その暖かい大きな手で優しくなでてくれた。
最後に見たあの背中のその向こうの表情はたぶん、きっと――。
目が覚めたら、金色が降ってきた。
同時にきつく抱きしめられて。
たくさん、謝られた。
どうしてノーマンが謝るのだろう。
ノーマンはなにもしてないし、助けてくれたのに。
とても、会いたかったその人との望んだ再会ではなかったけど。
本当はもっと楽しくて穏やかな再会を望んでいたはずだったのに、……謝るのはこっちのほうで。
たくさん、話したいことがあるのにうまく言葉にならなくて。
抱きしめられたぬくもりがさっきまでの喪失感を少し和らげてくれたのに、涙が止まらなくて。
みっともなく、ノーマンにすがって泣くことしかできなくて。
ノーマンはそのまま、おれが泣き止んで疲れて眠るまでずっと抱きしめたままでいてくれた。
ごめんね、多分しばらくは止まりそうにないから。
悲しみがとまるまで、……どうかそのぬくもりをわけていて。
ちゃんと、ノーマンと話せるように。
ちゃんと、笑顔で再会を喜べるようになるから。
今だけは。どうか。
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