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1章 巡る運命

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  それは隊員全員が飛行船に乗り込み、ある程度高度を取ったときだった。
目下の要塞が火を噴き上げて大爆発したのだ。
隊員全員、俺もふくめて全員が目下の惨劇に言葉なく見下ろすことしかできない中、腕の中のナオトがもがいた。
「……れいん。……れいん。」
力なく、か細い声でナオトは目下の要塞に手を伸ばしていた。
ぽろぽろと涙がその頬をぬらす。
俺はそれを見せないように胸の中に力一杯閉じ込めた。
「フェルマン。ナオトを診てくれ。」
部隊の治療師である部下のフェルマンに呼びかけて船室へと入る。
「その子が龍族の?」 
フェルマンは俺の後ろについて船室に入り扉を閉める。
「あぁ、かなり衰弱してる。あと、今から見るものは他言無用だ。」
「了解しました。」
ノーマンは抱えたナオトを簡易ベットに寝かせると包んでいた布を少しめくった。
そこにあったものにフェルマンは目を瞠る。
ぐったりと力なく横たわる少年の微かに上下するその胸にはひび割れてしまった青い結晶とそれを守るよう赤い膜で包まれてた。
本来、人であればそこにない不思議なものが丸々露出していた。
「これは……」
「俺も見るのははじめてだ。龍族にはこうして核があるらしい。彼らは魂魄と呼んでいるが、簡潔にいうと龍族の力の源だ。……昔、龍族が狩られたのはこれが目的だった。」
ノーマンはナオトの手を握って荒い呼吸で苦悶の表情を浮かべるナオトをみつめる。
「……治せるか?」
フェルマンは難しい表情で傷を見ながらノーマンに問うた。
「……これは本来胸の中にあるはずのものなのですよね?それが露出してしまってる。」
「ああ、そうだ。」
フェルマンはナオトの首筋に触れて治癒をはじめた。
「とりあえず、今は寝かせましょう。痛みは患者の体力を減らしますし。」
そう言ってフェルマンはナオトの首筋にふれて魔力を流す。
「治す……身体を治すなら問題はないでしょう。ただ……」
フェルマンはその青い結晶に目をやる。
「これも本来はこんなに傷もついてないはずなのですよね。」
「あぁ……。」
ノーマンはうなずく。
「こっちの核に関しては私はお手上げです。」
「……わかった。それはこっちでなんとかする。身体のほうを頼むよ。」
ノーマンはなんとかフェルマンのおかげでいくらか表情も和らいで眠りについたナオトの髪をなでた。
「……なんとかって……アテはあるんですか?」
フェルマンは厳しい顔つきでノーマンをみると、その表情は今までにみたことのないほど真剣で、どこかナオトをみるその視線は優しげだった。
「アテはないことはない。……ただちょっとめんどうなだけだ。そこは気にするな。」
「……わかりました。私もこの子を癒やすためなら尽力しましょう。」
フェルマンはそういって少しノーマンに微笑んだ。
ノーマンもつられて少し微笑むと椅子に座ってそのまだ幼さの残る手を離そうとはせずに飛行船を降りるまでそばに寄り添い続けた。

―――――――――――――――――――――――

  とっぷり日も暮れてやっとめんどくさい詰問から逃れて自分のテリトリーに帰ることができた。
ノーマンは自分の宮殿に入ると後を追うハロルドにいう。
「容態は。」
「さきほどニコラス様が到着して、すぐに治療に入っていただきました。」
「……そうか。案外早かったな。」
あの事件からもうすでに3日たった。
あれからフェルマンの治療で傷は塞がったが問題の核はまだボロボロで、とりあえず傷を塞ぐためにも今はその胸に核は見えないがやはり核は傷ついたままのようでナオトは熱にうかされて、痛みに起きては気絶するように眠る日々を繰り返していた。
寝室に入ろうとドアに手をかけた瞬間。
それを侍女のソフィアに止められる。
「ノーマン様。入るまえにまず身体をお清めください。」
薄い少しウェーブのある紫の髪を高く結い上げた彼女はそういって頭をさげる。
彼女はノーマンが幼い頃から侍女として仕え、さらに側近のハロルドの従兄妹でもあった。
「今日はべつに外に出てない。古狸どもの相手をしてただけだ。」
ノーマンは苛立たしげにそう言い放つ。
「それでもです。今はニコラス様の尽力のおかげで容態は落ち着いております。まず、夕食をとって、身体を清めて自分のことをなしてからでも遅くありません。」
「だが……!」
食い下がるノーマンにソフィアはため息をつく。
「ノーマン、いうことを聞きなさい。いいからダイニングに行く!!!」
ソフィアは厳しい声でそういってノーマンを追い出してしまった。
仕方なくノーマンはグチグチ言いながらもソフィアの指示にしたがう。
「……助かりました。ソフィア。」
ノーマンのコートを受け取ってハロルドが安堵したようにそういう。
「兄様は甘いのよ。こいつにはこれくらいちゃんと言わないと。そのピリピリ空気まとわせながらあの子に会う気?はっ倒すわよ。」
「ぐっ……」
図星なのか居た堪れなくなってノーマンは前を歩きつつも押し黙る。
「頭の硬い古狸になにを言われたのか知らないけどそんなの無視しなさいよ。もっと胸をはりなさい。あなたはちゃんとその手で愛しい子を守れたんだから。」
厳しくも優しいソフィアのその言葉にノーマンはさらに押し黙る。
「ちょっと落ち着いて、一息つく時間が今のあなたには必要よ。」
「……すまない。ありがとう。」
肩口でノーマンがそういうとソフィアは苦笑しながら肩をすくめた。
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