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1章 巡る運命
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「ナオト!!!!」
ごちんっと痛そうな音を立ててレインのパイオネットがナオトの脳天に落ちた。
「おまえ!また東むこうの山に行ったな!!あれほど行くなって言っただろ!このあほ!おまえの耳は飾りか!!」
「違うもん!!山には行ってないもん!飛んでただけだし!レインの横暴!!」
ぎゃいぎゃいと村について早々2人が言い合いを始めた。
「そういうのを屁理屈って言うんだ!ちょっとは人の言うこと聞け!」
「レインのバーカバーカ!!おれの話なんか聞かないくせに自分は聞けって言うんだ!!!」
「こんのっ…ガキ!!」
レインはナオトを引っ掴むとナオトの尻を叩いた。
「ぎゃあああ!!いたいいたい!!」
その光景を村人たちが少し呆れつつも微笑ましそうにながめるなか、ヴィクセンがいう。
「おいおい、レイン。そのへんにしといてやってくれや、今回はナオトのおかげでここまでこれたんだからよ。」
ヴィクセンは苦笑しながらレインを諭す。
「こいつ毎回こうなんだ!今日という今日は許さん!!」
そうヴィクセンに話したその一瞬のうちにナオトはレインの腕から身をひねってするりと抜け出すと半泣きでレインに言い放つ。
「レインのバーーーーカ!あほ!!だいっきらい!!」
そう言うがはやいかダダッと走って村より少し上に造られた神殿へと走り去って行った。
「はぁ……」
そこに残されたレインが重くため息をついた。
ヴィクセンは変わって大笑いである。
「笑い事じゃないんだよ……」
「いやいや、ちょっと見ないうちにやんちゃになってまぁ……前来たときはおまえの服掴んでずっとべったりだったのによ……ふふっ……今年で何歳になるんだ?」
「8つだよ。」
レインは頭をかきながらヴィクセンのもとへ歩み寄る。
「へぇ、8つかー。たいしたもんだったぜ?あの飛行技術は大人顔負けだろ?」
「まぁな、……確かにその点に関しては俺も目を瞠るところがあるが……なにせ好奇心旺盛すぎて俺の言うことなんか聞きゃしねぇ。レムもナオトには甘いし、困ってるんだよ。」
その言葉にヴィクセンはまた大笑いした。
「あの歴戦のおまえがナオトには苦戦してるみたいだな。いやぁ、愉快愉快!」
「おまえなぁ……」
2人がそんな話をする中、一人の人影が歩み寄った。
「船長、歓談中すまないが紹介してもらえないか?」
ノーマンはそう言ってレインをみる。
「おお!いけねぇ、本題をそろそろ話さないとな。殿下、こちら俺の親友で龍族のレイン。で、レイン。この方がこの間少し手紙で話していたこの国プレギエーラ国、第2王子のノーマン・プレギエーラ様だ。」
レインは少し居住まいを正して、頭をさげた。
「これは殿下。遠いところを来てくださったのにお見苦しいところを見せてしまってすみません。」
「いや、かまわないよ。それにあの子、ナオトといったかな?あの子には助けられたんだ。あんまり叱らないであげてほしい。」
ノーマンは苦笑しながらレインにいうとレインも苦笑していう。
「愚息が少しでも役に立ったなら今回は大目に見ようかと思います。」
二人は少し笑い合うとレインがこちらへと案内をする。
「とりあえずお泊り頂けるところを用意しましたので殿下はこちらへ。と言ってもせまい我が家なので側近の方とも離れてしまいますし宮殿のように、とは行きませんが。」
「いや、そこは気にしないでくれ。押しかけたのは私なのだから。」
「そう言って頂けると幸いです。」
レインはまた少し苦笑して村の自分の家へと歩いた。
―――――――――――――――――――――――
ぐすぐすと泣きながら村奥の神殿へとナオトは入っていく。
神殿とは言ってもナオトにとってはおばあちゃんの家に入り浸る感覚でいつも通っていた。
そこには村長のレムがいる。
レムは人間ではない、龍だ。
銀色のそれは大きな美しい龍。おれたちの種族が龍族と言われる理由の1つだった。
[どうしたんだい?そんなに泣いて、ナオト。]
広い神殿奥の空間に天窓から差した光が銀色のレムの翼を照らした。
「レム……」
[ほらほら、そんなに目をこすったら赤くなってしまうよ。]
おれは横たわるレムの翼と身体の間に座り込んでまたぐすぐすと泣いた。
[またレインに叱られたのかい?]
レムの大きな顔がすいっと近づいてきてその金色の瞳が優しく見つめた。
「レインいっつもおれの話聞いてくれないんだ……すぐ叩くし。」
[そんなことはないよ。レインはナオトが心配でそうやっていつも厳しいことを言ってるのさ。ナオトのことをわかろうとしていないわけじゃない。それはナオトもわかってるだろう?]
ナオトはそう諭されて少し唇を尖らせる。
[だからナオト。レインのことを大嫌いなんて言っちゃいけないよ?]
「……だいっきらいじゃないもん。」
[ふふっ……そうだね。さぁ、ちょっと一寝入りしておいき。飛んだら魔力を使うから疲れたろ?]
「なんでレム見てないのに知ってるの?」
ナオトが首をかしげて聞くとレムの鼻先がナオトの頬をすりすりとなでた。
[私の結界を超えるときナオトの優しい魔力が触れるからね。そりゃわかるさ。]
「そうなんだ……。」
[ほらほら、もう寝てしまいなさい。]
「うん。」
ナオトはもぞもぞとレムによりかかって横になると目をとじた。
いつもそうだ。レムは優しい。
レインと喧嘩したらいつもここに来てはこうしていつも諭される。
おれの大好きな場所。
―――――――――――――――――――――――
少し休憩をはさみ、レインはノーマンと側近のハロルドを連れ立って神殿へとむかった。
神殿奥にはこの村長である銀龍のレムがその大きな身体を横たえてこちらを見ていた。
見ればその傍らにはまるまっていつものように不貞腐れて眠るナオトがいる。
「やっぱりここだったか……」
今日何度目かになるため息をついてレインはナオトのもとへと歩み寄る。
[レイン、褒められることはちゃんと褒めてやらないとナオトも反発するだけだよ。]
「そんなもん、わかってる。わかってるが……」
レインはしゃがみこんで眠るナオトの頭をなでた。
[ふふ……似たもの親子だね。困ったものだ。]
「うるせぇよ……それよりほら、話してた客人だ。」
レインはそう言って少し後ろで待つノーマンとハロルドをみた。
「お初にお目にかかります。銀龍レム。私はプレギエーラ国、第2王子のノーマン・プレギエーラです。」
[話には聞いている。遠いところをよく来てくれた、歓迎するよ。ノーマン王子。]
レムはそう言いながらもどこか気だるそうに息をついた。
[さっそく本題を聞こうか?この国の王子が遠路遥々ここまで来たその理由を。]
さきほどの雰囲気から一変、ピリピリとしたその空気にノーマンは息をのむ。
[とりあえずそこにかけるといい。]
そう言われ、そこにあった椅子に腰掛けた。
[……昔と同じように龍族を城へ徴兵したい、と言うのがそちらの要求かな?]
金色の厳しい眼差しがノーマンを見つめ返す。
それに負けじとノーマンも言葉を紡いだ。
「はい、今世界ではあちこちで不吉な現象が起こり、国同士での戦争も視野にいれた交渉が水面下でなされています。我々としては空から得られる情報は他の国と一線を画すまたとない力なのです。そしてあなたたちの持つ特殊な能力も。……どうか、この国のためにご助力願いたい。」
[……ほう。そちらの言い分はわかった。確かに世界の異変は私としても見過ごせないものになってきている。]
「では……」
[だが、答えは否だ。]
ノーマンの言葉を遮り、レムは厳しい声音で否定する。
[私達にとって外界で起こった凄惨な記憶はまだ新しいものなのだ。おまえも聞いているだろう?外界のものたちが龍族になにをしたのか。]
「……聞き及んでいます。龍族をその類まれなる魔力を手に入れるために狩った……と。」
[あぁ、そこにいるレインの親もその被害で帰らぬものとなったのだ。だから私は龍族をあつめ、外界から結界で切り離し、簡単には人の手の及ばないここで暮らしている。]
「……存じています。」
[ならばわかるだろう?……もう我らをそっとしておいてくれないか?]
金色の瞳が悲しげに揺らいだ。
「……ですがっ!我々としてもこのままではただ目の前の問題にたいして指を加えて見ているしかないのです!解決のためには龍族の力がどうしても必要なのです!!」
[ノーマン王子。]
レムはその金色の瞳を細めていう。
[我らにこれ以上、犠牲を払えとおっしゃるのか?]
「…………」
ノーマンは膝の上で拳を握りしめ黙り込んだ。
[……すまない、意地悪な言い方をした。了承はできないがどうか心ゆくまで村に滞在してくれればいい。私はおまえを歓迎する。]
その言葉にノーマンは立ち上がって頭を下げると神殿から立ち去った。そのあとをハロルドも追う。
その場に残されたのはレムとレインとすやすやと眠るナオトだけだった。
「おまえにしてはだいぶ優しい物言いだったな。」
レインは眠るナオトを抱き上げながらそういった。
[あの子もわかっているのさ。わかっていながらそれを言うしかなかった。優しい物わかりのいい子だ。それ故、いろいろと苦労もしているようだ。王子だから仕方ないとはいえ、まだ15歳かそこらだろうに。]
「ふーん……あんたにしちゃ、ずいぶん優しいと思えば……いつも王城の奴らなら村から即刻叩き出すくせに。なにかあるのか?」
その言葉にレムはちらりと眠るナオトをみた。
「……ナオトに関係してるのか?」
[さぁ、まだなんとも。ただ……]
レムはナオトの安らかな寝顔に優しげに目を細めて見つめる。
[この子が連れてきたもの、というのは特別なんだよ。]
「なんだ、またナオト贔屓か。」
レインはそういうとスタスタと神殿出口へと向かう。
[なんだとは、なんだ。失礼な。]
「はいはい、んじゃあ、またな。」
[まったく、生意気になりおって。あんなにピーピー泣いとった子供のくせに。]
「うるせぇわ、いつの話してんだよ!ったく……」
レインはそう言って文句をたれながら神殿をでていった。
その背中をレムはその優しい金の眼差しで見送る。
[この空の子らに幸多からんことを。]
そのささやきを聞くものはそこにはもう誰もいなかった。
ごちんっと痛そうな音を立ててレインのパイオネットがナオトの脳天に落ちた。
「おまえ!また東むこうの山に行ったな!!あれほど行くなって言っただろ!このあほ!おまえの耳は飾りか!!」
「違うもん!!山には行ってないもん!飛んでただけだし!レインの横暴!!」
ぎゃいぎゃいと村について早々2人が言い合いを始めた。
「そういうのを屁理屈って言うんだ!ちょっとは人の言うこと聞け!」
「レインのバーカバーカ!!おれの話なんか聞かないくせに自分は聞けって言うんだ!!!」
「こんのっ…ガキ!!」
レインはナオトを引っ掴むとナオトの尻を叩いた。
「ぎゃあああ!!いたいいたい!!」
その光景を村人たちが少し呆れつつも微笑ましそうにながめるなか、ヴィクセンがいう。
「おいおい、レイン。そのへんにしといてやってくれや、今回はナオトのおかげでここまでこれたんだからよ。」
ヴィクセンは苦笑しながらレインを諭す。
「こいつ毎回こうなんだ!今日という今日は許さん!!」
そうヴィクセンに話したその一瞬のうちにナオトはレインの腕から身をひねってするりと抜け出すと半泣きでレインに言い放つ。
「レインのバーーーーカ!あほ!!だいっきらい!!」
そう言うがはやいかダダッと走って村より少し上に造られた神殿へと走り去って行った。
「はぁ……」
そこに残されたレインが重くため息をついた。
ヴィクセンは変わって大笑いである。
「笑い事じゃないんだよ……」
「いやいや、ちょっと見ないうちにやんちゃになってまぁ……前来たときはおまえの服掴んでずっとべったりだったのによ……ふふっ……今年で何歳になるんだ?」
「8つだよ。」
レインは頭をかきながらヴィクセンのもとへ歩み寄る。
「へぇ、8つかー。たいしたもんだったぜ?あの飛行技術は大人顔負けだろ?」
「まぁな、……確かにその点に関しては俺も目を瞠るところがあるが……なにせ好奇心旺盛すぎて俺の言うことなんか聞きゃしねぇ。レムもナオトには甘いし、困ってるんだよ。」
その言葉にヴィクセンはまた大笑いした。
「あの歴戦のおまえがナオトには苦戦してるみたいだな。いやぁ、愉快愉快!」
「おまえなぁ……」
2人がそんな話をする中、一人の人影が歩み寄った。
「船長、歓談中すまないが紹介してもらえないか?」
ノーマンはそう言ってレインをみる。
「おお!いけねぇ、本題をそろそろ話さないとな。殿下、こちら俺の親友で龍族のレイン。で、レイン。この方がこの間少し手紙で話していたこの国プレギエーラ国、第2王子のノーマン・プレギエーラ様だ。」
レインは少し居住まいを正して、頭をさげた。
「これは殿下。遠いところを来てくださったのにお見苦しいところを見せてしまってすみません。」
「いや、かまわないよ。それにあの子、ナオトといったかな?あの子には助けられたんだ。あんまり叱らないであげてほしい。」
ノーマンは苦笑しながらレインにいうとレインも苦笑していう。
「愚息が少しでも役に立ったなら今回は大目に見ようかと思います。」
二人は少し笑い合うとレインがこちらへと案内をする。
「とりあえずお泊り頂けるところを用意しましたので殿下はこちらへ。と言ってもせまい我が家なので側近の方とも離れてしまいますし宮殿のように、とは行きませんが。」
「いや、そこは気にしないでくれ。押しかけたのは私なのだから。」
「そう言って頂けると幸いです。」
レインはまた少し苦笑して村の自分の家へと歩いた。
―――――――――――――――――――――――
ぐすぐすと泣きながら村奥の神殿へとナオトは入っていく。
神殿とは言ってもナオトにとってはおばあちゃんの家に入り浸る感覚でいつも通っていた。
そこには村長のレムがいる。
レムは人間ではない、龍だ。
銀色のそれは大きな美しい龍。おれたちの種族が龍族と言われる理由の1つだった。
[どうしたんだい?そんなに泣いて、ナオト。]
広い神殿奥の空間に天窓から差した光が銀色のレムの翼を照らした。
「レム……」
[ほらほら、そんなに目をこすったら赤くなってしまうよ。]
おれは横たわるレムの翼と身体の間に座り込んでまたぐすぐすと泣いた。
[またレインに叱られたのかい?]
レムの大きな顔がすいっと近づいてきてその金色の瞳が優しく見つめた。
「レインいっつもおれの話聞いてくれないんだ……すぐ叩くし。」
[そんなことはないよ。レインはナオトが心配でそうやっていつも厳しいことを言ってるのさ。ナオトのことをわかろうとしていないわけじゃない。それはナオトもわかってるだろう?]
ナオトはそう諭されて少し唇を尖らせる。
[だからナオト。レインのことを大嫌いなんて言っちゃいけないよ?]
「……だいっきらいじゃないもん。」
[ふふっ……そうだね。さぁ、ちょっと一寝入りしておいき。飛んだら魔力を使うから疲れたろ?]
「なんでレム見てないのに知ってるの?」
ナオトが首をかしげて聞くとレムの鼻先がナオトの頬をすりすりとなでた。
[私の結界を超えるときナオトの優しい魔力が触れるからね。そりゃわかるさ。]
「そうなんだ……。」
[ほらほら、もう寝てしまいなさい。]
「うん。」
ナオトはもぞもぞとレムによりかかって横になると目をとじた。
いつもそうだ。レムは優しい。
レインと喧嘩したらいつもここに来てはこうしていつも諭される。
おれの大好きな場所。
―――――――――――――――――――――――
少し休憩をはさみ、レインはノーマンと側近のハロルドを連れ立って神殿へとむかった。
神殿奥にはこの村長である銀龍のレムがその大きな身体を横たえてこちらを見ていた。
見ればその傍らにはまるまっていつものように不貞腐れて眠るナオトがいる。
「やっぱりここだったか……」
今日何度目かになるため息をついてレインはナオトのもとへと歩み寄る。
[レイン、褒められることはちゃんと褒めてやらないとナオトも反発するだけだよ。]
「そんなもん、わかってる。わかってるが……」
レインはしゃがみこんで眠るナオトの頭をなでた。
[ふふ……似たもの親子だね。困ったものだ。]
「うるせぇよ……それよりほら、話してた客人だ。」
レインはそう言って少し後ろで待つノーマンとハロルドをみた。
「お初にお目にかかります。銀龍レム。私はプレギエーラ国、第2王子のノーマン・プレギエーラです。」
[話には聞いている。遠いところをよく来てくれた、歓迎するよ。ノーマン王子。]
レムはそう言いながらもどこか気だるそうに息をついた。
[さっそく本題を聞こうか?この国の王子が遠路遥々ここまで来たその理由を。]
さきほどの雰囲気から一変、ピリピリとしたその空気にノーマンは息をのむ。
[とりあえずそこにかけるといい。]
そう言われ、そこにあった椅子に腰掛けた。
[……昔と同じように龍族を城へ徴兵したい、と言うのがそちらの要求かな?]
金色の厳しい眼差しがノーマンを見つめ返す。
それに負けじとノーマンも言葉を紡いだ。
「はい、今世界ではあちこちで不吉な現象が起こり、国同士での戦争も視野にいれた交渉が水面下でなされています。我々としては空から得られる情報は他の国と一線を画すまたとない力なのです。そしてあなたたちの持つ特殊な能力も。……どうか、この国のためにご助力願いたい。」
[……ほう。そちらの言い分はわかった。確かに世界の異変は私としても見過ごせないものになってきている。]
「では……」
[だが、答えは否だ。]
ノーマンの言葉を遮り、レムは厳しい声音で否定する。
[私達にとって外界で起こった凄惨な記憶はまだ新しいものなのだ。おまえも聞いているだろう?外界のものたちが龍族になにをしたのか。]
「……聞き及んでいます。龍族をその類まれなる魔力を手に入れるために狩った……と。」
[あぁ、そこにいるレインの親もその被害で帰らぬものとなったのだ。だから私は龍族をあつめ、外界から結界で切り離し、簡単には人の手の及ばないここで暮らしている。]
「……存じています。」
[ならばわかるだろう?……もう我らをそっとしておいてくれないか?]
金色の瞳が悲しげに揺らいだ。
「……ですがっ!我々としてもこのままではただ目の前の問題にたいして指を加えて見ているしかないのです!解決のためには龍族の力がどうしても必要なのです!!」
[ノーマン王子。]
レムはその金色の瞳を細めていう。
[我らにこれ以上、犠牲を払えとおっしゃるのか?]
「…………」
ノーマンは膝の上で拳を握りしめ黙り込んだ。
[……すまない、意地悪な言い方をした。了承はできないがどうか心ゆくまで村に滞在してくれればいい。私はおまえを歓迎する。]
その言葉にノーマンは立ち上がって頭を下げると神殿から立ち去った。そのあとをハロルドも追う。
その場に残されたのはレムとレインとすやすやと眠るナオトだけだった。
「おまえにしてはだいぶ優しい物言いだったな。」
レインは眠るナオトを抱き上げながらそういった。
[あの子もわかっているのさ。わかっていながらそれを言うしかなかった。優しい物わかりのいい子だ。それ故、いろいろと苦労もしているようだ。王子だから仕方ないとはいえ、まだ15歳かそこらだろうに。]
「ふーん……あんたにしちゃ、ずいぶん優しいと思えば……いつも王城の奴らなら村から即刻叩き出すくせに。なにかあるのか?」
その言葉にレムはちらりと眠るナオトをみた。
「……ナオトに関係してるのか?」
[さぁ、まだなんとも。ただ……]
レムはナオトの安らかな寝顔に優しげに目を細めて見つめる。
[この子が連れてきたもの、というのは特別なんだよ。]
「なんだ、またナオト贔屓か。」
レインはそういうとスタスタと神殿出口へと向かう。
[なんだとは、なんだ。失礼な。]
「はいはい、んじゃあ、またな。」
[まったく、生意気になりおって。あんなにピーピー泣いとった子供のくせに。]
「うるせぇわ、いつの話してんだよ!ったく……」
レインはそう言って文句をたれながら神殿をでていった。
その背中をレムはその優しい金の眼差しで見送る。
[この空の子らに幸多からんことを。]
そのささやきを聞くものはそこにはもう誰もいなかった。
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