野良猫は愛に溺れる

桜 朱理

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1巻

1-3

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 いい年をして、自分の酒量も把握できていないことに情けなくなる。
 鷹藤にはこれ以上情けないところなんて、欠片かけらも見せたくない。
 環は一度まぶたを閉じて、深くゆっくりと呼吸した。そして、まぶたを開く。
 まだ少し眩暈めまいは残っているが、慎重に歩けば無様ぶざまに転ぶこともないだろう。

「もう大丈夫。離してくれる?」

 大丈夫だという合図を込めて、環は腰に回された鷹藤の手を軽く叩いて、身を離そうとした。
 しかし、逆に引き寄せられる。

「よ、陽介?」

 先ほどよりも増した密着度に、声が上擦うわずった。

「まだふらついているんだから、無理しないで掴まってろ。ついでに、ちょっと俺の部屋で休んでいけ」
「そこまでしてくれなくても大丈夫よ」
「いいから言うことを聞け。そんな顔でふらふらされるとこっちがたまらない」

 何だかひどく怒ったような声で言われて、環は首をかしげる。
 ――一体何をそんなに不機嫌になっているの?
 珍しく感情をあらわにする男の態度に疑問をもつが、酔いのまわる頭ではそれ以上考えられなかった。
 正直、動くのも億劫おっくうなほどだったから、鷹藤の申し出はありがたい。
 半ば引きずられるように、環は鷹藤が泊まっているスイートルームに連れていかれた。
 部屋に入ると同時に手首を強く引っ張られ、バランスを崩しそうになる。

「陽介!?」

 酔いにとろりとゆるんでいた意識が覚醒かくせいし、掴まれた手首がうずく。
 普段意識することもない血脈が確かにそこにあることを、環は感じた。
 次の瞬間、ふらつく腰を抱き寄せられ、思わずのける。その視線の先、吐息の触れる距離に、鷹藤の真っ黒い瞳が迫る。
 気付けば、環は鷹藤の腕の中にとらわれていた。

「な、何を……」

 状況が理解できずに問う環は、ひどく混乱していた。
 まるで夜の闇さながらの深くて黒い瞳に見下ろされて、呼吸が止まりそうになる。
 射竦いすくめるような強い眼差まなざしに、からんだ視線が離れない。

「冗談……やめ……て……」

 自分でも情けなくなるくらいに、震えてかすれた声がこぼれた。
 もがくような弱い動きで鷹藤の腕から逃れようとするが、酔った身体は思う通りには動かない。
 逆に、ますます鷹藤に引き寄せられた。
 何故こんなことをするのか理解できずに、環はゆるゆると首を振る。

「お前ね、環。いくら何でも警戒心がなさすぎるだろ」
「は、な……して」

 唇に鷹藤の吐息が触れて、環の戦慄わななきはひどくなる。

「まぁ、俺に警戒心をもたないのはいいことだけど」

 目をすがめて、何故か不機嫌な様子を見せる男が冷たくわらう。
 背中から首筋をすっと撫で上げてきた大きな手のひらが、環の髪を鷲掴わしづかみにした。

「……っ! 陽介……」

 髪をまとめていたかんざしが強引に引き抜かれて、乱れた髪が肩先に落ちる。
 カツンと軽い音が聞こえた。
 お気に入りのかんざしの行方ゆくえを追って視線を彷徨さまよわせた環が気に入らないというように、鷹藤が指に髪をからませて引っ張る。
 その痛みに、環は顔をしかめた。
 上向きに顔を固定され、あらがう間もなく乱暴な所作で唇を奪われる。

「……んっ! んん!!」

 重ねられた唇から逃げようと首を振れば、環を拘束する腕はさらに強くなった。深くなった抱擁ほうように、目がくらむ。
 唇に滑り込んできた舌が、我が物顔で環の口の中を蹂躙じゅうりんする。
 背筋を駆け上がってきたうずきにこらえ切れなくて思わず首をらすと、唇がより深く重なった。
 濡れた舌が柔らかく淫猥いんわいな動きで、環の口腔こうこう内を舐めあげる。

「ん……やぁ……!」

 吐息ごと奪われるような口づけに、息苦しさを覚える。こぼれた声は、ひどく甘い女の声をしていた。
 せめてもの抵抗に男の肩を叩くが、それは頼りなく、力ないものだった。
 ねっとりとした口づけに、身体の奥にアルコールの火照ほてりとは別の熱がともされる。
 そうして、環は思い知る。
 自分が、この男の肌にひどくえていることに――
 久しぶりに触れ合った肌はあまりに環の身体に馴染なじんでいて、今、離れてしまえば引き離される痛みにおかしくなってしまう気がした。
 心がどうしようもなくきしんで、悲鳴を上げる。
 こんな痛みを環に与えるのは鷹藤だ。けれど、この痛みから解放してくれるのも鷹藤しかいない。その矛盾むじゅんに、環の混乱はますますひどくなる。
 鷹藤の口づけに翻弄ほんろうされて、身体から力が抜けていく。崩れ落ちていきそうな身体が怖くて、環は鷹藤の背に腕を回してすがった。
 大きな手のひらが環の背中から腰にかけていまわり、柔らかなラインを描く尻を鷲掴わしづかむ。いつも飄々ひょうひょうとして掴みどころがない男は、こんなときばかりはその印象を裏切り、執拗しつように環の身体をとろかせる。
 長く続いた口づけが解かれた。
 離れていく唇を追うように、環は閉じていたまぶたを開いた。
 見上げた男の瞳に、環は自分と同じえを見つけ、何だか不思議な気持ちになる。
 濡れた唇を、鷹藤の指がぬぐう。薄い皮膚の上を辿られて、震える吐息がこぼれた。
 抑えきれない情動に、環は唇を辿る鷹藤の親指を口にくわえる。
 驚きに鷹藤の目が一瞬だけ見開かれるが、すぐに険しい表情にとって代わった。

「少しは自覚しろ」

 何を? とは問わなかった。問うたところで、鷹藤は答えないことを環は知っている。代わりに、最後の悪あがきで呟く。

「……愛人の振りはするって言ったけど!! こんなことまでするなんて聞いてない」
「俺は最初に言ったはずだが?」

 からかう素振りで覗き込んでくる男の眼差まなざしはひどく獰猛どうもうで、環は早々に白旗をあげたくなった。さらりと笑っているように見せて、環を抱く男の腕は抵抗を許さない力で、彼女をとらえている。

『環。お前、俺の愛人になれ』

 確かに愛人になれとは言っていた。愛人についても、セックスの相手だと堂々とろくでもない説明をしてくれていた。

「最低男」

 湧き上がる苦い感情のまま吐き捨て、環は男の眼差まなざしから逃れるように顔を背ける。

「褒め言葉だ」

 環のののしりがこたえた様子はない。むしろ笑って、環の首筋を甘噛みする男のろくでもなさが腹立たしい。
 だが、何よりも腹立たしいのは、この状況に流されそうになっている自分だ。
 今こんな風に抱き合っている事実があっても、鷹藤が環を求めているとはどうしても思えない。だというのに、環はこの男の肌を求める衝動を抑えられなかった。
 この男に対するどうしようもないえが環の理性を彼方かなたへと吹き飛ばす。

「きゃぁあ!」

 不意に視界がまわった。鷹藤の腕に抱え上げられている。
 成人女性一人を抱えているとは思えないほどしっかりとした足取りで、男は歩き出す。
 揺れる視界が怖くて、環は無言で鷹藤の首に腕を回した。満足げに、鷹藤が笑う。
 その微笑みに、環は肉食獣の前に差し出されたような恐怖を覚えた。
 もう逃げることもできない。
 せっかくの東京の夜景を堪能たんのうする暇もなく、環は広いスイートルームを鷹藤に抱きかかえられたまま横断した。

「環、ドア開けて」

 命じられるまま、そのドアを開ける。
 そこは寝室で、男は環をどさりと広いベッドの上に投げ出した。そして彼女の身体を組み敷くと、のけった首筋に本格的に噛みついた。

「痛っ……!」

 鋭い痛みに、鷹藤の背を強く叩く。唇が離れた。
 首筋に与えられた痛みでにじんだ涙を、覆いかぶさってきた男がぬぐう。だがその指先は、どこまでも優しくなかった。
 目元から下りてきた男の手でスーツの上着を脱がされて、環は我に返る。慌てて、その不埒ふらちな指を捕まえた。

「ちょっと! 待って!」
「何だ?」
「何だじゃない!! せめて、シャワーぐらい浴びさせて!」

 仕事終わりにここにきたのだ。汗もかいていれば、ほかに色々気になることもある。
 この状況は受け入れるにしても、このままはさすがに勘弁してほしい。
 しかし、そんな繊細な女心はこの男には通じなかった。

「俺は気にしない」

 そういう問題じゃない、と上げかけた声は、鷹藤の唇の中に吸い込まれ霧散むさんした。
 すぐにからんできた舌が、環の理性を本格的にダメにする。

「環」

 名前を呼ばれた。甘く優しい声で――
 今さらそんな声で呼ばれたところで、懐柔かいじゅうなんてされてやらないと思う。
 この男が誰よりも優しくなくて、身勝手なのだと環は知っている。
 だけど、この声に名前を呼ばれるたび、錯覚したくなる。
 こんな風に甘くとろけるような声で名前を呼ばれる女は自分一人なのだと。
 そんなふうに思わせる男が憎らしく、環は男の唇を自分の唇で塞いだ。

「ん……っあ」

 しかし、奪ったはずの口づけは、あっさりとその主導権を取られた。
 からめた舌を引きずり出され、きつく吸われる。歯列を辿り、裏あごをくすぐられた。ぞくぞくとした悦楽えつらくが、背筋を駆け上がってくる。
 酸素を求めた唇がキスをこうとしたが、手で顔を固定された。
 鷹藤に自分の名を呼ばせるのをやめさせたかっただけなのに、執拗しつようなまでの口づけが与えられる。
 口内にどちらのものともわからない唾液が溜まり、呑み込み切れずにあふれてあごを伝う。

「……ん……ゃ……あ……」

 キスをする間も、鷹藤の指が環の身体の上をいまわる。
 スカートからシャツが引き出され、そのボタンを次々と外される。
 シャツの前が開かれ、火照ほてった身体が空気に触れた。
 肩からシャツを脱がされ、すそから手のひらが忍び込んでくる。キャミソールがまくり上げられ、ブラジャーに包まれた環の乳房が鷹藤の目の前にさらされた。
 男の吐息が鎖骨に触れ、環は目を閉じる。
 次の瞬間、再び覚えた痛みに、環は奥歯を噛んで悲鳴をこらえた。
 仕事終わりの汗をかいたままの肌に吸いつかれ、いくつもの赤い花びらを散らされる。
 三年ぶりに触れた男の指先に、環の心と身体はひどく乱された。
 ――触れたかった。もう一度、抱いてほしかった。
 何故この飢餓きがに気付かないままでいられたのか。自分でもいっそ不思議なほど、環は今この瞬間の鷹藤がほしくてたまらない。
 背中に回された手がすっと背骨を辿るようにい上がり、ブラジャーのホックが外された。
 そして、キャミソールとブラジャーをぎ取られる。
 外気に触れた胸のいただきが、硬く立ち上がるのを感じた。
 女の衣服を戸惑いもためらいもなく脱がす、相変わらずの男の手管てくだ。そこからけて見える場数の多さに、もう嫉妬しっとする気力もない。
 それよりも気になるのは、肌の上を滑るネクタイの感触だった。
 自分は上半身裸の間抜けな姿をさらしているのに、覆いかぶさる男は、いまだスーツの上着を脱いだだけで、ほとんど乱れていない。
 それがひどく腹立たしい。
 環は力の入らない指で、目の前のネクタイを掴んで引き寄せる。

「おっと!」

 不意を突かれた鷹藤がバランスを崩したのに乗じて、環は体あたりで体勢を入れ替えた。

「よいっしょ」

 年寄臭い掛け声を出して、鷹藤の腹の上にまたがる。

「どうした急に?」

 面白がるように環にされるがままになっていた鷹藤が、にやりと笑う。

「流されるのは好きじゃないのよ」

 既にこの事態が流された結果だとわかっていながら、自分でもひどく矛盾むじゅんしていると思う反論を口にした。
 乱れた髪が落ちかかってきて、鬱陶うっとうしさに髪をかき上げる。
 そうして見下ろした自分の身体を、ひどくみっともないと環は思った。
 ホックを外されたスカートは、中途半端に腰にまとわりついている。鷹藤の上にまたがっているために、スカートのすそはめくれ上がり、太ももがあらわになっていた。ガーターベルトで留めたストッキングが丸見えだ。しかし、上半身は素っ裸。あちらこちらに、鷹藤がつけたあとが散らばっている。
 環は、みずからスカートを脱いで蹴り飛ばした。
 そのいさぎよさに、鷹藤がふざけた様子で口笛を吹く。

「絶景だな」
「うるさい」

 環はガーターベルトの留め具に指を伸ばして、ストッキングを脱ごうとした。しかし、下からい上がってきた手に阻まれる。

「陽介?」
「せっかくの絶景なので、このままで。相変わらず好きだね、ガーターベルト」
「色々と楽なのよ。何か文句ある?」
「いいや? 文句なんてないよ。むしろ歓迎してる」

 男が情欲に濡れた眼差まなざしで、自分にまたがる環を見上げる。そして、その太ももに手をわせた。
 そんな瞳で環を見つめるくせに、男は息すらも乱れていない。その余裕の表情がしゃくに障る。
 ストッキングの上を滑る男の指先を、感情のままに振り払った。

「環?」
「本当に、ムカツク」

 独り言のように呟いて、環は鷹藤をにらみつける。そうして、ネクタイを掴んで持ち上げた。
 鷹藤が一瞬だけ苦しげに眉を寄せたのに溜飲りゅういんを下げ、環はその唇を奪った。
 しかし、触れるだけですぐに離す。
 キスを続けてしまえば、主導権がこの男に奪われるとわかっていたから。

「やるならやるで本気を見せなさいよ。手抜きしてんじゃないわよ」
「手抜きねぇ? 何をもって手抜きだなんて言ってんだ、うちの野良猫のらねこは。十分本気のつもりだけど?」
「どこがよ。服も脱がないで余裕ぶってる男の言葉なんて信じない」

 反論を許さない強さでそう言うと、環は掴んでいた鷹藤のネクタイをほどいた。ついでに鷹藤のYシャツのボタンを次々と外していく。
 鷹藤は面白がっているのを隠さない表情で、環にされるがまま大人しくしている。
 はだけたシャツの間から覗く、男の肌に触れた。そして、鎖骨からへそにかけてのなめらかなラインに指先を滑らせる。

「くっ……」

 鷹藤の肌の熱が上がった気がした。
 心臓の真上に触れたとき、手のひらにとても速い男の鼓動を感じた。
 力強く刻まれるリズムが、鷹藤の本当の状態を教えてくれる。

「ったく、誰が本気じゃないって?」

 もっと鼓動を確かめたいと手のひらを強く押しつければ、それまで大人しくしていた鷹藤が苦笑して起き上がった。

「きゃっ」

 再び身体が入れ替えられ、環はベッドに押し倒される。

「お前は本当に何もわかってない。いい加減、その綺麗な猫目をちゃんと開けて、俺を見ろよ」
「陽介?」

 ひどく目をすがめた鷹藤に見下ろされ、環の背筋を冷たいものが滑り落ちていく。

「ちゃんと見れば、俺ほどわかりやすい男もいないぞ?」

 ――どこが!!

野良猫のらねこに最低とののしられても、ほしいものが俺にはあるんだ。それが何かちゃんと気付け」

 ――気付けって何を? ほしいものって何?
 何にも執着しない男だと思っていただけに、その言葉はひどく意外だった。
 だが環がその意味を考えるよりも早く、鷹藤の手が環の乳房をすくい上げるように掴んだ。そして、胸のいただきひねられる。

「やあぁ!」

 いきなり与えられた苦痛と官能に、思考がまとまらない。
 そのまま口に含まれ、じっくりともてあそばれる。ぴんと立ち上がった乳首を舌で押しつぶされ、吸いつかれる。たまらなく身体がうずいた。
 腹を滑り下りた指が、クロッチを大胆に脇に寄せて秘所に触れる。
 環のそこはキスと胸への愛撫あいぶで、既にぬるついていた。
 うるおいを見せはじめた秘所に、鷹藤の指が触れる。びくりと身体が跳ねた。
 蜜を指にまとわせるようにして、鷹藤が環の秘所の表面を探る。

「……ぁん……ぁ……あ……」

 指がゆっくりと差し込まれた。
 久しぶりに味わう感覚に、環の眉間みけんしわが寄る。
 すがりつくものを欲して、環はシーツをきつく掴んだ。

随分ずいぶん、狭くなってるな」

 デリカシーのない言葉に、環の顔がしゅに染まる。鷹藤の顔を見ていられなくて、環はまぶたを強く閉じた。
 鷹藤がこめかみに口づけを落とす。
 その甘い仕草に、何故かひどく恥ずかしさを覚えた。

「痛いか?」

 聞かれて、環は無言で首を横に振る。
 この三年――誰にも、自分でも滅多に触れることがなかったせいで、差し込まれた鷹藤の指に、秘所はきしんでいた。知らず身体に力が込もり、全身が緊張する。
 だが、それは痛みを伴っているからではなかった。鷹藤に触れられるたびにたかぶっていく身体の感覚にこそ、環は戸惑っていた。
 環をなだめるように、鷹藤が環の唇に、ひたいに、口づける。
 触れるだけのキスが何度も繰り返された。
 そのもどかしいような、ただただ甘さを感じさせるキスに、徐々に環の身体から力が抜けていく。
 どろりとはらの奥がとろけて、蜜をこぼした。それを確かめた鷹藤が、秘所に差し入れていた指を再びゆっくり動かし始める。

「くっ……んん……あ……」

 ゆるゆると内部をられて、声があふれて止まらなくなる。
 どこまでも甘ったるい声は、まるで自分のものとは思えない。羞恥しゅうちから声をこらえたいのに、身体をうるおす指の動きに、唇を閉じることもできない。
 長い指で秘所の奥をくすぐられ、たまらないうずきに襲われる。
 とろり、とろりとあふれた蜜が、環の太ももを流れ、ガーターベルトを濡らす。

「環、腰上げて」

 下着を脱がせようとする男の言葉に、素直に腰を上げる。
 足から下着が抜かれて、ベッドの下に落とされた。ガーターベルトとストッキングだけの姿にされて、どうしようもない恥ずかしさを感じる。
 しかしそんな環の様子など男は気にせず、再び秘所に指をもぐり込ませ、好き勝手に動かした。
 環の身体を誰よりもよく知っている男が、ひだの中で指を折り曲げ、一番感じる場所を引っかいた。

「あぁぁ! やぁ……!!」

 その一点を執拗しつようなまでに攻められて、目の前にちかちかと星が飛ぶ。
 ひだに覚える生々しい快楽に、爪先つまさきまでうずきが駆け抜けていく。
 絶頂がすぐそばまできていた。シーツを蹴る足の指がきゅっと丸まって、身体が跳ね上がる。
 いつの間にか増やされた指が、秘所の中でバラバラに動いて、環の弱いところを攻めたてる。

「あ、だ……め……やぁ……イ……クッ!!」

 同時に、親指の腹で今まで触れもしなかった花芽を潰された。環は甘い悲鳴を上げ、一気に絶頂に押し上げられる。
 視界が真っ白に染まった。
 次の瞬間、身体が脱力し、環は酸素を求めて肩をあえがせる。
 まぶたを閉じて絶頂の余韻に揺蕩たゆたう環の耳に、かちゃかちゃという金属音と衣擦きぬずれの音が聞こえてきた。
 ようやく呼吸が整ってまぶたを開いた環の視界に、避妊具を口の端で切って開ける男の姿が入った。
 思わず視線をらす。
 一体いつの間にそんなものを用意したのだとか色々突っ込みたかったが、聞いたところでろくな答えは返ってこない気がした。

「環」

 視線を戻すと、避妊具を装着した男に足を大きく広げられた。
 キスが降ってくる。環が無言でまぶたを閉じると、秘所に熱塊ねっかいが押しあてられた。
 力が入らない腕を持ち上げて、環は鷹藤の背に腕を回す。密着した硬い身体と汗の匂いに、自分を抱く男を実感する。
 蜜をまとわせるように、ぬるぬると熱塊ねっかいが秘所にり付けられた。
 先ほどまで執拗しつようほぐされ広げられていたその場所が、押しあてられるたかぶりに、期待するかのようにひくひくとうごめいた。
 それを鷹藤も感じているのかと思うと、この場から逃げ出したくなる。
 しかし、足を抱えられているので、それも叶わない。
 緊張に身体を強張こわばらせる環の下腹部を、鷹藤がそっと撫でた。
 今からここに入る――そんな宣言に思えて、環は思わず笑ってしまう。
 程よく力が抜けた瞬間を見逃さなかったのか、まろみを帯びた先端部が押し込まれた。

「あっ、ああ、あぁぁ」

 凄まじい質量のものが、身体の最奥まで一気に貫いていく。身体の奥がきしんで、痛みを覚えた。だがそれ以上に、圧迫され、押し開かれていく快楽に、環は腰を震わせた。

「ぅ……ふぁ……」

 短い呼吸を繰り返して、環は鷹藤の身体を最後まで受け入れる。
 鷹藤が環の身体を抱きしめた。隙間もないほどに密着し、環は自分が鷹藤のすべてを受け入れたことを知った。
 何を考えているのかわからないこの男と、すべてつながっている――
 いつもこの瞬間だけは、そんな想いにとらわれる。
 耳朶じだに、熱をはらんだ男の吐息を感じた。環は無言で、鷹藤の背に腕を回してすがりつく。
 それが合図だったかのように、ゆっくりと鷹藤が動き出した。
 身体を揺すられて、奥を突かれ、ただれたうずの底に叩き込まれる。
 強烈な快楽に、環はうわごとのように「ダメ」「もうダメ」と繰り返していた。
 そう言いながらも、何がダメなのか自分でもよくわかってない。

「やぁぁ!!」

 目の前にちかちかとした白い火花が散り始めたとき、不意に身体を引き起こされて、鷹藤の足の上に座る体勢になった。
 さっきまでとは違う角度で、身体の奥の一番感じる部分を突かれる。
 ひだ蠕動ぜんどうし、鷹藤にからみつく。


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