kiss once again

桜 朱理

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桂木家のぬいぐるみ事情

2)

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 この夫のkissは絶対に卑怯だと茜は思う。

 離れていく唇にギュッと瞑っていた瞼を開く。
 吐息の触れ合うすぐ傍には夫の端正な顔。意地悪に笑う夫に抱き寄せられるままに、その広い肩にぽすんと頬を預ける。

 今の今まで喧嘩をしていたはずなのにこのkiss一つで簡単に忘れそうになる。

 茜がどんなに突っかかっていても、その広い度量であっさりと受け止めて流すのは結婚する前からだったが、最近はkissでも誤魔化されれている気がする。

 この夫に敵わないと思っていても、負けず嫌いな自分が顔を出す。

「う~」

 思わずうねり声が出る。そんな茜を抱き寄せる桂木がクスリと笑っって、髪を梳くように撫でる。

 この優しい腕の中では怒っていたことも、喧嘩の内容も忘れそうになる。

 でも、今日は絶対にkissなんかで誤魔化されてやるもんかと茜は思う。

 桂木の肩に頬を預けたまま、間近で見つめあう夫を睨み付けて茜は大事なことを呟く。

「………イルカ」
「ん?」

 茜の呟きが聞こえなかったのか、桂木が問い返してくる。


「私のイルカ!どこに隠したんですか―――!!」


 次の瞬間、茜の怒声がリビングに響いた。

 しかし、その言葉に桂木の瞳も剣呑に光った。


 kissの前の剣呑な雰囲気が二人の間に戻る。

 大事なイルカのぬいぐるみのために一歩も引かない姿勢で挑む茜に、桂木も徹底抗戦の構えで口を閉ざす。


 睨み合う二人の間に火花が散った。

 そして、今日も桂木家ではイルカのぬいぐるみを巡る攻防が繰り広げれる。

 夫の心の狭さゆえに……。

 この攻防の勝利者がどちらになるかは誰も知らない―――。

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