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桂木家のぬいぐるみ事情
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電気シェーバーを使わずに、剃刀で手慣れた感じで泡ごとするすると髭を剃る桂木に、たまたま洗面所の前を通りかかった茜は思わず見とれた。
鏡越し上半身裸の夫は、いつものごとく鉄仮面の様な無表情で、淡々と髭を剃っていた。長く器用な指先の流れる様な動きに、何故か胸が高鳴った。
今年33歳になる桂木の体は、毎朝のロードワークと定期的なジム通いで鍛え抜かれて、すっきりと筋肉がついて、弛んだところもない。
さっきまであの腕の中にいたことを思い出して、茜の顔が赤くなる。
その時、鏡越し、髭を剃っていた桂木と目があった。
洗面所の入口で真っ赤になって立ち止まっている茜に、『………どうした?』桂木が視線だけで問いかけてくる。
い…言えない……。
まさか髭を剃ってる桂木に見惚れていたなんて……!
言いたくない!
「………なんでもありません」
それだけ言って茜は慌ててその場を立ち去った。
なんだか、ちょっとだけ悔しかった。
いつも、いつも人を翻弄してくれる夫に、見惚れて惚れ直していたなんて……。
絶対に言いたくない。
ソファの上にぽすんと座って、傍にあったイルカのぬいぐるみを抱きしめる。
その手触りのいいぬいぐるみの額に赤く染まった額を押し付ける。
治まらない動悸に、どうすればいいのかわからない。
髭を剃り終わった桂木がもうすぐやってくるだろう……。
早く何でもない表情を取り戻したいのに、焦れば焦るほど心臓は鼓動を速め、顔は火照っていく。
結婚してもうすぐ1年。
だけど、まだまだ知らない桂木がいる。
ふとした瞬間に、見つける知らない桂木に茜は何度も恋をする。
何だか負けているようで悔しくなるのに、この衝動を抑える術を茜は知らない。
ぎゅっとイルカのぬいぐるみに縋る強さで抱きついて平静を保とうとしているのに、心はちっともままならない。
そう思った時、不意にイルカのぬいぐるみが取り上げられた。
「……またこいつか」
「え!」
ビックリして後ろを振り向いた茜の目の前で、ちょっとだけムッとした桂木がソファの背から手を出して、茜が抱いていたぬいぐるみを睨みつけていた。
数秒間イルカを睨みつけていた桂木が、突然イルカを放り投げた。
空を飛ぶイルカに呆気に取られて言葉もない茜に、不敵に笑った桂木のキスが降りてくる。
一瞬で、奪われたキスに戸惑う間もなく、その熱に囚われる。
本当にこの夫のキスは卑怯だ……。
そう思うのにキスがやめられない。
抵抗することも出来ずに朝からするには濃厚すぎるキスに、茜は翻弄される。
唇が離れていく瞬間、さびしいと思ってしまった自分に赤面する。
それまでの葛藤なんて、何もかも忘れて濡れた視線で離れていく唇を見上げた先、桂木の漆黒の瞳と目が合った。
「………で、うちの奥さんは、朝から何で動揺してイルカを抱いてたんだ?」
何もかもを見透かしてそう言った桂木に、茜の頬がさらに深紅に染まる。
意地悪な桂木に、茜は沈黙したままぱちんと力ないパンチで、裸の肩を殴った。
茜の力ない抵抗ににやりと笑った桂木は、かつて知ることのなかった、とっても意地悪な男の顔をしていた……。
鏡越し上半身裸の夫は、いつものごとく鉄仮面の様な無表情で、淡々と髭を剃っていた。長く器用な指先の流れる様な動きに、何故か胸が高鳴った。
今年33歳になる桂木の体は、毎朝のロードワークと定期的なジム通いで鍛え抜かれて、すっきりと筋肉がついて、弛んだところもない。
さっきまであの腕の中にいたことを思い出して、茜の顔が赤くなる。
その時、鏡越し、髭を剃っていた桂木と目があった。
洗面所の入口で真っ赤になって立ち止まっている茜に、『………どうした?』桂木が視線だけで問いかけてくる。
い…言えない……。
まさか髭を剃ってる桂木に見惚れていたなんて……!
言いたくない!
「………なんでもありません」
それだけ言って茜は慌ててその場を立ち去った。
なんだか、ちょっとだけ悔しかった。
いつも、いつも人を翻弄してくれる夫に、見惚れて惚れ直していたなんて……。
絶対に言いたくない。
ソファの上にぽすんと座って、傍にあったイルカのぬいぐるみを抱きしめる。
その手触りのいいぬいぐるみの額に赤く染まった額を押し付ける。
治まらない動悸に、どうすればいいのかわからない。
髭を剃り終わった桂木がもうすぐやってくるだろう……。
早く何でもない表情を取り戻したいのに、焦れば焦るほど心臓は鼓動を速め、顔は火照っていく。
結婚してもうすぐ1年。
だけど、まだまだ知らない桂木がいる。
ふとした瞬間に、見つける知らない桂木に茜は何度も恋をする。
何だか負けているようで悔しくなるのに、この衝動を抑える術を茜は知らない。
ぎゅっとイルカのぬいぐるみに縋る強さで抱きついて平静を保とうとしているのに、心はちっともままならない。
そう思った時、不意にイルカのぬいぐるみが取り上げられた。
「……またこいつか」
「え!」
ビックリして後ろを振り向いた茜の目の前で、ちょっとだけムッとした桂木がソファの背から手を出して、茜が抱いていたぬいぐるみを睨みつけていた。
数秒間イルカを睨みつけていた桂木が、突然イルカを放り投げた。
空を飛ぶイルカに呆気に取られて言葉もない茜に、不敵に笑った桂木のキスが降りてくる。
一瞬で、奪われたキスに戸惑う間もなく、その熱に囚われる。
本当にこの夫のキスは卑怯だ……。
そう思うのにキスがやめられない。
抵抗することも出来ずに朝からするには濃厚すぎるキスに、茜は翻弄される。
唇が離れていく瞬間、さびしいと思ってしまった自分に赤面する。
それまでの葛藤なんて、何もかも忘れて濡れた視線で離れていく唇を見上げた先、桂木の漆黒の瞳と目が合った。
「………で、うちの奥さんは、朝から何で動揺してイルカを抱いてたんだ?」
何もかもを見透かしてそう言った桂木に、茜の頬がさらに深紅に染まる。
意地悪な桂木に、茜は沈黙したままぱちんと力ないパンチで、裸の肩を殴った。
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