カラダ目当て

桜 朱理

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番外編

節分

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「ママ!」
 ニコニコ笑顔の息子が、スマホを操作してカメラを立ち上げる咲子に向かって得意げにポーズをとる。
「暁、本当にいいの?」
 可愛い息子の姿に咲子は苦笑しながら、もう何度目かわからない確認を取る。
「いいの! 僕が鬼しゃんするの!」
 舌足らずな言葉で満面の笑みを浮かべる暁は、真っ赤なサロペットに白と黒のボーダーの長袖Tシャツ、黄色のスカーフを首に巻き、頭には赤鬼のお面。手には咲子が暁にねだられて作った布製の金棒を持って、ポーズを決めている。
 ふん! ふん! と金棒を振り回す息子は、親のよく目を抜きにしてもとても可愛い。
 ――可愛いんだけど……何で鬼をやりたがるのかな?
 咲子は首を傾げずにはいられない。
 二月二日の今日は節分だ。今年、三歳になる息子と季節の伝統行事を行うために、数日前から準備をしてきた。
 暁にも節分がどんな行事なのかも説明したし、豆まきのやり方も練習した。
 しかし、何故か、暁は豆をまくことよりも鬼役をやることに興味を持ってしまった。
 数日前、豆まき用の豆を買った時に、おまけについてきたセルロイドのお面を見た時から、暁の目はきらきらと輝いて、絶対に自分が鬼をやると言い出した。
 ――何かのヒーローと勘違いしてる?
 どこかで説明を間違えたかと悩みもするが、やる気満々の息子を見ていれば、その愛らしさに咲子の唇には、自然と笑みが浮かんでしまう。
 しかし、問題は、今年は暁にとって初めて我が家で行う節分だ。数日前から遠田は張り切って鬼役をやるつもりでいる。
 ――さて、この事態をどう説明しようかな?
 束の間、迷う咲子に、暁が元気に呼びかけてくる。
「ママ! ママ! さと君、かっこいい?」
 咲子お手製の金棒を構える息子の写真をスマホでパシャリ。
 ――うん。これはもう仕方ない。
 鬼のお面を付けて、満面の笑みを浮かべる暁の写真を見下ろして、咲子はくすくすと笑って、遠田に画像をラインで送る。

『今年の鬼はとても最強です。絶対に敵いそうにありません。早く帰ってきてください』

 困った顔をしたキャラクターのスタンプと一緒にコメントを送れば、すぐに既読がついた。

『これは大問題だ。可愛すぎて、退治できない。すぐ帰る』
『咲子。動画も撮っておいて』
『うちの子は鬼でも可愛い』
『豆を投げられない。どうしよう?』

 立て続けに送られてきた遠田からの返事に咲子はくすくす笑う。
 ――あの人は、今、仕事中だろうに……一体、どんな顔でこのメッセージを送って来てるのかな?
「ママ?」
 笑う咲子に、暁が不思議そうに首をこてんと傾げる。一緒に頭につけていた鬼の面がずれて落ちた。
「もすうぐパパが帰ってくるって」
 笑いながら咲子は暁が付けた鬼のお面の角度を直してあげる。
「きゃー」
 嬉しそうに歓声を上げた暁が、部屋の中を駆け回った。

 にぎやかな遠田家の初めての節分が、もうすぐ始まる――






※お久しぶりです。お昼休みに急に思いついたので、短いですが、楽しんでもらえたらと思います。

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感想 28

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みんなの感想(28件)

2021.02.03 ユーザー名の登録がありません

退会済ユーザのコメントです

桜 朱理
2021.02.07 桜 朱理

nagnao様

感想ありがとうございます。遠田はきっと息子にでれででだろうなーという想像から生まれた話です。
楽しんでもらえたなら幸いです。
小説を書き始めてそろそろ十年――長いお付き合いありがとうございます。
これからもマイペースですが、何かしら描いて行きたいと思っているので、お付き合いいただけると嬉しいです。嬉しいお言葉に元気が出ました。ありがとうございます。

解除
むねさん
2021.02.02 むねさん

ありがとうございます😊
こんな可愛い💕お話読めるとは思いませんでした。
ほっこりの節分でした

桜 朱理
2021.02.07 桜 朱理

むねさま
感想ありがとうございます。
たまには季節の行事物もいいかなと思ってのお話でした。
楽しんでもらえたらなら幸いです。

解除
ななこ
2020.07.24 ななこ

しっとりと進む恋、とても素敵なお話でした。
北海道のオーベルジュでの2人の老後のお話も読みたいです。

桜 朱理
2020.07.27 桜 朱理

ななこ様

感想ありがとうございます。

この二人は書いてる桜自身がとても楽しんで書いてました。なので、楽しんでもらえてうれしいです。
二人の老後もいつかお話が思いついたら、書いてみたいです。

解除

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