21 / 21
番外編
節分
しおりを挟む
「ママ!」
ニコニコ笑顔の息子が、スマホを操作してカメラを立ち上げる咲子に向かって得意げにポーズをとる。
「暁、本当にいいの?」
可愛い息子の姿に咲子は苦笑しながら、もう何度目かわからない確認を取る。
「いいの! 僕が鬼しゃんするの!」
舌足らずな言葉で満面の笑みを浮かべる暁は、真っ赤なサロペットに白と黒のボーダーの長袖Tシャツ、黄色のスカーフを首に巻き、頭には赤鬼のお面。手には咲子が暁にねだられて作った布製の金棒を持って、ポーズを決めている。
ふん! ふん! と金棒を振り回す息子は、親のよく目を抜きにしてもとても可愛い。
――可愛いんだけど……何で鬼をやりたがるのかな?
咲子は首を傾げずにはいられない。
二月二日の今日は節分だ。今年、三歳になる息子と季節の伝統行事を行うために、数日前から準備をしてきた。
暁にも節分がどんな行事なのかも説明したし、豆まきのやり方も練習した。
しかし、何故か、暁は豆をまくことよりも鬼役をやることに興味を持ってしまった。
数日前、豆まき用の豆を買った時に、おまけについてきたセルロイドのお面を見た時から、暁の目はきらきらと輝いて、絶対に自分が鬼をやると言い出した。
――何かのヒーローと勘違いしてる?
どこかで説明を間違えたかと悩みもするが、やる気満々の息子を見ていれば、その愛らしさに咲子の唇には、自然と笑みが浮かんでしまう。
しかし、問題は、今年は暁にとって初めて我が家で行う節分だ。数日前から遠田は張り切って鬼役をやるつもりでいる。
――さて、この事態をどう説明しようかな?
束の間、迷う咲子に、暁が元気に呼びかけてくる。
「ママ! ママ! さと君、かっこいい?」
咲子お手製の金棒を構える息子の写真をスマホでパシャリ。
――うん。これはもう仕方ない。
鬼のお面を付けて、満面の笑みを浮かべる暁の写真を見下ろして、咲子はくすくすと笑って、遠田に画像をラインで送る。
『今年の鬼はとても最強です。絶対に敵いそうにありません。早く帰ってきてください』
困った顔をしたキャラクターのスタンプと一緒にコメントを送れば、すぐに既読がついた。
『これは大問題だ。可愛すぎて、退治できない。すぐ帰る』
『咲子。動画も撮っておいて』
『うちの子は鬼でも可愛い』
『豆を投げられない。どうしよう?』
立て続けに送られてきた遠田からの返事に咲子はくすくす笑う。
――あの人は、今、仕事中だろうに……一体、どんな顔でこのメッセージを送って来てるのかな?
「ママ?」
笑う咲子に、暁が不思議そうに首をこてんと傾げる。一緒に頭につけていた鬼の面がずれて落ちた。
「もすうぐパパが帰ってくるって」
笑いながら咲子は暁が付けた鬼のお面の角度を直してあげる。
「きゃー」
嬉しそうに歓声を上げた暁が、部屋の中を駆け回った。
にぎやかな遠田家の初めての節分が、もうすぐ始まる――
※お久しぶりです。お昼休みに急に思いついたので、短いですが、楽しんでもらえたらと思います。
ニコニコ笑顔の息子が、スマホを操作してカメラを立ち上げる咲子に向かって得意げにポーズをとる。
「暁、本当にいいの?」
可愛い息子の姿に咲子は苦笑しながら、もう何度目かわからない確認を取る。
「いいの! 僕が鬼しゃんするの!」
舌足らずな言葉で満面の笑みを浮かべる暁は、真っ赤なサロペットに白と黒のボーダーの長袖Tシャツ、黄色のスカーフを首に巻き、頭には赤鬼のお面。手には咲子が暁にねだられて作った布製の金棒を持って、ポーズを決めている。
ふん! ふん! と金棒を振り回す息子は、親のよく目を抜きにしてもとても可愛い。
――可愛いんだけど……何で鬼をやりたがるのかな?
咲子は首を傾げずにはいられない。
二月二日の今日は節分だ。今年、三歳になる息子と季節の伝統行事を行うために、数日前から準備をしてきた。
暁にも節分がどんな行事なのかも説明したし、豆まきのやり方も練習した。
しかし、何故か、暁は豆をまくことよりも鬼役をやることに興味を持ってしまった。
数日前、豆まき用の豆を買った時に、おまけについてきたセルロイドのお面を見た時から、暁の目はきらきらと輝いて、絶対に自分が鬼をやると言い出した。
――何かのヒーローと勘違いしてる?
どこかで説明を間違えたかと悩みもするが、やる気満々の息子を見ていれば、その愛らしさに咲子の唇には、自然と笑みが浮かんでしまう。
しかし、問題は、今年は暁にとって初めて我が家で行う節分だ。数日前から遠田は張り切って鬼役をやるつもりでいる。
――さて、この事態をどう説明しようかな?
束の間、迷う咲子に、暁が元気に呼びかけてくる。
「ママ! ママ! さと君、かっこいい?」
咲子お手製の金棒を構える息子の写真をスマホでパシャリ。
――うん。これはもう仕方ない。
鬼のお面を付けて、満面の笑みを浮かべる暁の写真を見下ろして、咲子はくすくすと笑って、遠田に画像をラインで送る。
『今年の鬼はとても最強です。絶対に敵いそうにありません。早く帰ってきてください』
困った顔をしたキャラクターのスタンプと一緒にコメントを送れば、すぐに既読がついた。
『これは大問題だ。可愛すぎて、退治できない。すぐ帰る』
『咲子。動画も撮っておいて』
『うちの子は鬼でも可愛い』
『豆を投げられない。どうしよう?』
立て続けに送られてきた遠田からの返事に咲子はくすくす笑う。
――あの人は、今、仕事中だろうに……一体、どんな顔でこのメッセージを送って来てるのかな?
「ママ?」
笑う咲子に、暁が不思議そうに首をこてんと傾げる。一緒に頭につけていた鬼の面がずれて落ちた。
「もすうぐパパが帰ってくるって」
笑いながら咲子は暁が付けた鬼のお面の角度を直してあげる。
「きゃー」
嬉しそうに歓声を上げた暁が、部屋の中を駆け回った。
にぎやかな遠田家の初めての節分が、もうすぐ始まる――
※お久しぶりです。お昼休みに急に思いついたので、短いですが、楽しんでもらえたらと思います。
0
お気に入りに追加
1,769
この作品の感想を投稿する
みんなの感想(28件)
あなたにおすすめの小説
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~
真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
ダブル シークレットベビー ~御曹司の献身~
菱沼あゆ
恋愛
念願のランプのショップを開いた鞠宮あかり。
だが、開店早々、植え込みに猫とおばあさんを避けた車が突っ込んでくる。
車に乗っていたイケメン、木南青葉はインテリアや雑貨などを輸入している会社の社長で、あかりの店に出入りするようになるが。
あかりには実は、年の離れた弟ということになっている息子がいて――。
もつれた心、ほどいてあげる~カリスマ美容師御曹司の甘美な溺愛レッスン~
泉南佳那
恋愛
イケメンカリスマ美容師と内気で地味な書店員との、甘々溺愛ストーリーです!
どうぞお楽しみいただけますように。
〈あらすじ〉
加藤優紀は、現在、25歳の書店員。
東京の中心部ながら、昭和味たっぷりの裏町に位置する「高木書店」という名の本屋を、祖母とふたりで切り盛りしている。
彼女が高木書店で働きはじめたのは、3年ほど前から。
短大卒業後、不動産会社で営業事務をしていたが、同期の、親会社の重役令嬢からいじめに近い嫌がらせを受け、逃げるように会社を辞めた過去があった。
そのことは優紀の心に小さいながらも深い傷をつけた。
人付き合いを恐れるようになった優紀は、それ以来、つぶれかけの本屋で人の目につかない質素な生活に安んじていた。
一方、高木書店の目と鼻の先に、優紀の兄の幼なじみで、大企業の社長令息にしてカリスマ美容師の香坂玲伊が〈リインカネーション〉という総合ビューティーサロンを経営していた。
玲伊は優紀より4歳年上の29歳。
優紀も、兄とともに玲伊と一緒に遊んだ幼なじみであった。
店が近いこともあり、玲伊はしょっちゅう、優紀の本屋に顔を出していた。
子供のころから、かっこよくて優しかった玲伊は、優紀の初恋の人。
その気持ちは今もまったく変わっていなかったが、しがない書店員の自分が、カリスマ美容師にして御曹司の彼に釣り合うはずがないと、その恋心に蓋をしていた。
そんなある日、優紀は玲伊に「自分の店に来て」言われる。
優紀が〈リインカネーション〉を訪れると、人気のファッション誌『KALEN』の編集者が待っていた。
そして「シンデレラ・プロジェクト」のモデルをしてほしいと依頼される。
「シンデレラ・プロジェクト」とは、玲伊の店の1周年記念の企画で、〈リインカネーション〉のすべての施設を使い、2~3カ月でモデルの女性を美しく変身させ、それを雑誌の連載記事として掲載するというもの。
優紀は固辞したが、玲伊の熱心な誘いに負け、最終的に引き受けることとなる。
はじめての経験に戸惑いながらも、超一流の施術に心が満たされていく優紀。
そして、玲伊への恋心はいっそう募ってゆく。
玲伊はとても優しいが、それは親友の妹だから。
そんな切ない気持ちを抱えていた。
プロジェクトがはじまり、ひと月が過ぎた。
書店の仕事と〈リインカネーション〉の施術という二重生活に慣れてきた矢先、大問題が発生する。
突然、編集部に上層部から横やりが入り、優紀は「シンデレラ・プロジェクト」のモデルを下ろされることになった。
残念に思いながらも、やはり夢でしかなかったのだとあきらめる優紀だったが、そんなとき、玲伊から呼び出しを受けて……
過去1ヶ月以内にエタニティの小説・漫画・アニメを1話以上レンタルしている
と、エタニティのすべての番外編を読むことができます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にエタニティの小説・漫画・アニメを1話以上レンタルしている
と、エタニティのすべての番外編を読むことができます。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。
退会済ユーザのコメントです
nagnao様
感想ありがとうございます。遠田はきっと息子にでれででだろうなーという想像から生まれた話です。
楽しんでもらえたなら幸いです。
小説を書き始めてそろそろ十年――長いお付き合いありがとうございます。
これからもマイペースですが、何かしら描いて行きたいと思っているので、お付き合いいただけると嬉しいです。嬉しいお言葉に元気が出ました。ありがとうございます。
ありがとうございます😊
こんな可愛い💕お話読めるとは思いませんでした。
ほっこりの節分でした
むねさま
感想ありがとうございます。
たまには季節の行事物もいいかなと思ってのお話でした。
楽しんでもらえたらなら幸いです。
しっとりと進む恋、とても素敵なお話でした。
北海道のオーベルジュでの2人の老後のお話も読みたいです。
ななこ様
感想ありがとうございます。
この二人は書いてる桜自身がとても楽しんで書いてました。なので、楽しんでもらえてうれしいです。
二人の老後もいつかお話が思いついたら、書いてみたいです。