背比べ

ナカムラ

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背比べ

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 私は、妹の事が大好きだった。
いつも、病弱な妹の事を心配していた。


 最初の記憶は、赤ちゃんだった妹を「大福みたい」って頬っぺたをプニプニしたことだった。

 妹は、病気がちで、そんな彼女の事を私も家族も心配していた。

 私は、常に妹の事を心配していたが、なんとなく、様子が変わっていった。
 妹は、賢いし、クラスでリーダー的な存在になり、ピアノも上手だし、習い事も全て私の上を行くようになった。



 なんだろう、この感情……


 私は、他の人とは、あまり比べない。
あの人は、私より、頭が良い。この人は、私より、運動が得意だ。お金持ち、可愛い、色々あるけど、他人だと嫉妬心より、憧れの気持ちが大きい。

 私と妹の差は、どんどんついていった。
 小学校では、妹は、イベントの司会をしたり、クラスで一番の成績を修めて、誇らしげに成績表を持って帰ってくる。

 ピアノの成績も良くて、講師になる一歩手前まで進み、受験のために、泣く泣く妹は、その習い事を辞めた。

 私は、というと片方の手で、やっと弾けるぐらい。

 私は、その頃から少しずつ、妹と自分を比べるようになった。

 しかし、いつか見返すという思いがあり、妹の存在に逆に感謝したりした。
 
 私は、ポツンとひとり学校にいるような存在になり、たまに、暇潰しのように同級生からイジメを受けたりしていた。学業の成績も体育の成績も悪くて、バツが悪い感じで母に申し訳ない素振りで成績表を渡す。

 それでも、私も家族も妹の事を心配していた。
病弱だったから。父の荒い運転では、2人とも調子が悪くなった。妹は、顔を真っ青にして、母に必死に辛さを訴えた。私は、母にこれ以上心配させまいと歌って酔いの辛さを誤魔化した。そんな時に母は、いつも言う。「あなたは、いつも楽しそうね」

 私は、妹が病気になって更に学校に通える日が少なくなってくると、ある決心をするようになった。


 私は、妹の面倒を見ない人とは、結婚しない


 妹は、肝心な時には、努力して中学校も高校も大学も、結局、無事に卒業していった。
 
 私は、妹の心配をしている母に負担をかけまいととにかく、社会のレールから外れないようにした。
しかし、どんなに頑張っても、中身は、カラカラだった。
いつも、成績は、後ろから数えた方が早いし、体育は、いつも、ビリで散々だった。
それでも、私も中学校も高校も短期大学(私は、大学は、無理だった)も卒業した。

 何度も何度も辞めたいと思っていた。
成績の事もだが、中学になるとイジメが陰湿になる。自分が悪いからと自分を責め続けていた。私は、私をイジメた人間の1人に、いつの間にかなっていた。

 私は、それでも辞めなかったのは、ただひとつ、レールから外れないため……

 妹には、学校に行けない時でも仲良しの友達が何人かいて、妹の為にノートの写しを家に持ってきたりした。

 私は、毎日、学校に通っているのに、妹は、学校にほぼ行けていないのに、友達がいる……

 私は、短期大学を出た後で、事務で働くようになった。ミスばっかりで先輩達に目を付けられた。

 妹は、大学を出た後で、接客業について丁寧な接客が功を奏して、毎月、賞を取ってきて、盾を母に自慢気に見せて、母も嬉しそうだった。

 私は、数年経って、あまりの仕事の出来なさに仕事をクビになった。

 私は、ショックのあまり、仕事が出来なかったが、日雇いの軽作業を見つけては、なんとか働いていた。

 そんなある日、妹は、結婚した。
そして、やがて、可愛い子供達の母親になった。



 私は、今、ひとりぼっち……
他の人とは、比べないが、ただひとり、比べてしまう相手、それが妹だ。


 最近、そんな妹が命に関わる病気になった。
私にできる事は、今は、なにもない……



        了
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