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『クズアルファはグズグズ起きず一人勃つ』 #ルクイユのおいしいごはんBL
◇アルファ視点◇
しおりを挟む素敵な企画ありがとうございました。
【鬼畜社長小クズα】×【食堂店主ぽっちゃりΩ】
夫夫ほのぼのです(当私比)
◇◇◇
どんなに抱き潰されていても、私の番の朝は早い。
夫夫のベッドから弾むように元気に躍り出る。洗面所などは飛び抜かし、丸い体をいそいそと揺らしてキッチンへ向かう。
私は一人、シーツとオメガフェロモンの残り香にくるまったまま。
パンをオーブンで焼く香ばしい匂いが、枕元へ届いてくる。今朝は何だろう。
一から設計させた平屋建ての新居は、どこにいても番の直の香りを感じられるように、空間がなだらかに繋がっている。ゆえに、見えずとも音も匂いもよくわかる。
冷蔵庫を漁る音が聞こえる。大衆食堂をワンオペで営む直は、手際がいい。
いぶりがっこという燻した沢庵を刻んでいる。トントンと小気味いいリズム。とすると、解凍ポテサラとたっぷりマヨネーズで和えて、今日はきっとサンドイッチだろう。
二つ目の常備菜のタッパーを開ける音。多分、きんぴらにチーズを足した和風サンドも、だな。
玉子焼きの甘い匂いがしてきた。厚切りトーストに挟んだ、三種類目のサンドイッチ。
成人男体オメガにしては量が多い。だが、ふっくらした直の美しい曲線を維持するためには、必要なカロリーだ。
ザクッザクッと十字に切り分ける音。
私は朝は食べない。珈琲一杯で充分だ。四分の三は直の朝食。四分の一切れは、ゴールデンウイークも仕事の私の昼食になるだろう。
バタバタといくつか開閉音がして、揚げ物が始まる。
更に、唐揚げか!
直は昨日職場の厨房で下味を仕込んだ肉を持ち帰っていたが、今晩の夕飯用ではなかったのか。
油とスパイスの匂いに、直のフェロモンが混じって漂ってくる。ああ、幸せの香り。
「勃った」
作ることも食べることも大好きな直。陽気な鼻歌のように、自然とフェロモンが溢れ出る。
組み敷いた時の発情フェロモンとは、また違う。だが、これも美味そうだ。昨晩あんなに抱いたのに、今再び柔らかな肢体を喰い尽くしてしまいたい。
「……直……」
小さく呟くが、楽しいクッキングの邪魔はしない。油が跳ねるピチピチという音が、途切れることなく延々と続いている。
私も大らかな番に感化され、随分と丸くなったようだ。性欲処理相手でしかなかったオメガ性に、こんなに穏やかな気持ちを向けるようになるとは。運命の番とはドラスティックなものだ。
時々上がる『アチッ』という声。耐えきれずつまみ食いか。愛らしい。
蕩けるような番の香りに導かれ、利き手を己の下肢に伸ばす。昂りに添えると、多幸感に包ま……
「明広! 今日ピクニック行こ! ……あ」
視線がピタリと定まっている。直はヘヘッと笑い、唇に唇を勢いよくぶち当てる。
「終わったら、起きろよな!」
キッチンへ小走りで戻っていく。
近隣の繊維工場は、大型連休は軒並み機械を止める。お得意様の工員に合わせ、直の食堂は休業だ。
私が経営する服飾ブランドは、実店舗一割、通販がメイン。年中無休二十四時間営業だ。無論、祝日の今日も。むしろ繁盛期だ。
唇のむにっとした感触を反芻する。
よし、唐突だが休むか。社長特権だ。他社から引き抜いた優秀な社畜に、全て押しつけてしまおう。
トトト、トトト。野菜を刻むまな板の音。
グズグズとベッドに横たわりながら、今度こそ幸せの香りに身を委ねた。
◇
ポケット状のピタパンに、唐揚げと刻んだ野菜。更におまけで、サンドイッチに挟まりきらない余り具材までギュウギュウに詰め、頬張る直。
私はぽっちゃりした太腿を膝枕にしながら、時折落ちてくるキャベツの欠片を番の口に戻すのに忙しい。
近所の川原の砂地に大きなゴザを敷き、長閑なピクニックだ。
渡る風はさらりと肌に優しいが、日差しは早くも夏を思わせる。遮蔽物の無い田舎の青い空。ふんわり流れゆく雲。既に空っぽのサンドイッチの籠。番のリズミカルな咀嚼音。
遠くに、気の早い水遊びに興じる親子連れが見える。はしゃぎ回る高い声が、せせらぎに切れ切れに響く。
「なあ、直。そろそろ赤ちゃんを作ろうか」
「えっ、いいの?」
喜びに慌ててモグモグする頬を、ツンと撫でる。
今日はこどもの日。十月十日後、素敵なバレンタインプレゼントができそうだ。
【終】
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