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『クズアルファはぐずぐずに尽くし巣を作る』本編(完結)
◆回想◆◇処分◇◆回想◆◇処……
しおりを挟む素敵な企画ありがとうございました。
◆回想◆◇処分◇◆回想◆◇処……
恋をするとは思わなかった。
『ファッションを扱うには、お前は冷た過ぎる』
そう言われ続けたアルファの私が、あっさり恋に堕ちるとは。
◆
地方の繊維の街に、視察と接待を兼ねて招待されていた。
ホテルの朝食続きは味気ないと、空腹を刺激する匂いに釣られて入店してみた。地元民御用達のこじんまりしたワンオペ大衆食堂、そんなところに……
『いた』
ひと目でお互いにわかった。いや、ひと嗅ぎか。
くたびれてはいるが清潔な白衣。頭には店名入りのタオル巻き。うなじには厚生省支給品の分厚いネックガード。
オメガなのに、華奢とは程遠い。柔らかく弾力がありそうなまんまるのシルエット。香ばしくどこか懐かしい、美味しそうなフェロモン。
『ああ、私の番だ』
一瞬で納得した。
◆
◇
六畳ほどの狭いアパートの一室に、単独で無断で上がり込む。鍵は大家に複製させた。
クローゼットと呼ぶには貧相な布カバー付きのハンガーラック。ジッパーを開け、敷きっぱなしのシングル布団の上に中身を放り投げていく。
「こんな大衆品、全て処分だ」
◇
◆
震える手、震える声。
『……ごゆっくり』
一言添えて、カタカタと置かれた器。火照った丸い頬。食欲を唆る匂いと、性欲を掻き立てる番の香り。
これから毎日毎日、両方ぺろりといただけるのか。
にやける顔を誤魔化しつつ、私はレジ台に向かった。準備中の札を探し出し、店の引き戸に勝手にぶら下げた。
出張随行の秘書と、私の部署、本日の会合相手にキャンセルの連絡を入れた。連泊予定のホテルにも。
再び店内に舞い戻った。他の客が退くまでの間、じっくり味わおう。見開いた黒い瞳をうるうるさせた番の横で、彼の初手料理に箸をつけた。
何てしあわせなんだろう!
◆
◇
1Kの古アパートなんて、相応しくない。早く私の元に連れ帰らないと。
今の渋谷のマンションは、便は良いが周辺環境は今一つか。とりあえずは、そこに。
自ら番のために製作した服や小物で、住処を満たしたいところだ。が、揃うまでは弊社の商品で我慢しよう。
下着から全て指定して本社に送らせた一式を、クローゼットに新しく掛ける。
押入れのふすまを力任せに全開する。
なぜ、彼はサイズ感の合わない品々を身につけるのか! 私の番なのに!
背が低く、あちこちに脂肪がのっているのだ。胸囲腹囲に合わせて既製品を選べば、袖や裾はズルズルと醜い。耐えられん。
いや、むしろ愛らしさが打ち消されてきたからこそ、番は無垢のままでいられるのかもしれないが……
◇
◆
『ごちそうさま』
最後の客が年季の入った食堂を後にした。レジ打ちの場所から、カチンと固まって動けない番。
そっと隣に立ち、私のフェロモンを当て、隙間なく全身を覆ってあげた。
『名前は?』
『や……おれに、ちかづ、くな……』
恥じらいを含む声に我慢できず、彼の手首を掴み、そのまま強引に抱き込んだ。
『うっ、ああっ……』
私の腕の中で、ふるふると白い柔肌が揺れていた。アルファによって引きずり出されたオメガのフェロモンと、それだけではない香り。
『少し体に触れただけで、イッちゃったね?』
手近な食堂椅子に座り、番を膝に乗せた。白衣をはだけ、ウエストゴムのボトムに手を差し込むと、青い匂いが強くなった。
『う、うそだ……』
少しずり下げると、ゆるゆるトランクスに粘着度の高いものがべったりと。粗雑な布地にぐったりした陰茎を包んで、ゆっくり擦り上げた。
『な、にこれ……しらない……やめてやめ……』
『まさか初めて? 発情期、どうしてるの?』
はぁはぁあがる息を隠すように、私のネクタイを握り顔を寄せてきた。可愛い。
『ヒート? ひとり。このまちにアルファ、なんて……いない』
口角が上がるのを止められなかった。そうか、私だけを待っていたのか。嬉しくて、一際強く私のフェロモンで囲ってしまった。
『あぅ、また、でちゃう……やぁ』
今まで遊んできたオメガとは違う。
私だけの、オメガ。
『しらない……たすけて……こわい』
ぬちっぬちっと淫蕩な水音が、木造の低い天井にまで響いた。履き慣れ色褪せたトランクスは、精を吸い取りきれないほど薄く脆そうだった。
◆
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