吸血鬼の塔に乗り込んだ女剣士ですが思ったより好待遇です。

リリファルシアンの泉

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5.水魔

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アークは何処から取ってきたんだろう、目玉焼きに野菜とパンを添えて素敵な朝食を用意していた。
削りたてな気がする木のテーブルにイスもある。
「さあ、ご飯出来ましたよ」
「……あのねアーク、これは野営じゃなくて、
王都の貴族たちがたまに安全な郊外で楽しむアレ、キャンプよ」
「た、確かに」
アークは頭を悩ませている。
「でもありがとう。いただきます」
森で呑気に朝ごはん食べていても虫一匹来ない。
アークの威圧か何か結界が張ってあるんだろう。
アークは私の目の前に立ちため息をついた。
「人間の飼い方がわからないんです。
先代はどうやっていたかもう記録もないし」
「そうか、良かった」
「何がですか、ヒロさん」
「昨日はアークは随分思い詰めていたみたいで、
人間の恋人が欲しいのかと思ってしまったんだけど、
飼い方がわからなかっただけなのね」
「…………………」
アークは真顔で固まりコメントに詰まっている。
「ねぇアーク、私の服こっそり魔法で洗濯しているでしょ?
アークは何とも思ってないかもしれないけどさすがに下着を洗ってもらうのは気がひけるから、水がある所知らないかしら?」
「……食事が終わったらご案内します」
アークはやっとといった雰囲気で言葉を紡いだ。

「僕、水が苦手なんですよ。泳げないし、何処までも沈むし。
なので僕の代わりにこれを持っていて下さいね。たまに水魔が出るので」
アークは私に小型のナイフを持たせた。

森の中で小さな泉になっている場所に案内された。
私が下着を洗いたいと言ったのでアークは離れた所にいるようだ。
少しだけ冷たい水で衣類を洗い終わると、泉から水色の長髪の半裸の男が顔を出した。
「ようねぇちゃん、あの吸血鬼の女か?」
「はぁ。どなた様ですか」
男の水につかっている筈の場所には身体が見えない。水魔の類だろう。
「俺は水魔だよ~。別に悪い魔物じゃないさ。
ただあの不器用な吸血鬼が今度は人間のフリして女の子口説くのやめてるじゃん。
どんな相手かなって」
「やっぱり私以外の女の子は口説いてたんだね、アーク。
私のことは、好みじゃないのかなぁ……」
「え、お姉さん鈍すぎ……
いやいや、お姉さんめっちゃ好みだよ! 俺の好み!
一緒に泉に潜って水魔にならない?」
「嫌よ、それ私死んでるじゃない」
「一回、一回でいいからさ! ちょっとでいいんだ、お試しだけでもっ!!」
「そんなことを言われてもですね」
「実はあと3日のうちに女の子にキスしてもらわないと死ぬ呪いにかかってて」
「え、それは大変だね」
「だからちょっと、水魔助けだと思って~」
「死んでしまうのは可哀想だね、ねぇアーク、ちょっと来て~!」
「うわ俺死んだ」
水魔は泉に潜って見えなくなった。
「ヒロさん、どうしました?」
アークは側に来てすぐ私を強めに抱き寄せた。
「水魔が居たの、わかったの?」
「……ええ、何か話し声がしたので」
「それでその水魔が3日以内に女の子とキスしないと死ぬ呪いにかかっているんだって。
可哀想だと思うんだけど、この塔に女の子居ないじゃない?
塔から出してあげることって出来ないのかな」
「……ヒロさんの天然ボケもそこまで行くと武器ですね」
「それはどういう……」
水魔を警戒しているんだろうけどかなり強く抱きしめられているので心臓の音まで聞こえそうだ。
というかアーク、背が高かったんだね、頭が思ったより高い所にあるや。
威圧感ないから気づかなかった。
「まず、ヒロさんも女の子じゃないですか」
「いやいや、女の子っていうのはもっとこうふわふわして可愛い生き物のことでしょ」
「……。第二に、あれはかなり強い魔物なのでそんな呪いをかけられるような者は居ないと思います。
つまりヒロさんの唇を奪いたいがための適当な嘘です。
それで本当だったらキスしていたんですか?」
「あー……」
やってたかもしれない。アークの時の前科がある。
「やってたんでしょうね。わかります貴方がそういう人だから命を救われましたから。
でも今回は、何故でしょう、
この泉の水という水を沸騰させたくなりましたね」
アークは私を抱きしめたまま地獄の業火よ、かの泉を焼き払え、と詠唱した。
泉の中心部がぶくぶく泡立ちはじめる。いや、あれは、沸騰……?
「俺が悪かった! 許してくれ吸血鬼の旦那!」
アークが手を引っ込めると泉のぶくぶくは止まった。
「人の獲物に手を出しておいて無事で済むと思っているのか」
はい、吸血鬼のエサです。
「人間のねえちゃん、俺は3日以内に死ぬ呪いなんてかかってないよ」
「良かった」
「また貴方はそんなお人好しを……」
「吸血鬼の旦那、お詫びにあんたに3日以内に人間の女の子とキスしないと一晩高熱を出して苦しむ呪いをかけてやるから、お幸せにな!!」
「は!? この馬鹿っ」
アークはありったけの文句を言おうとしているが、
水魔が水で出来たステッキをひとふりすると、確かにアークを中心にハートの光がはねて、呪いがかかったように見えた。
水魔は消え泉は静まりかえっている。
「……はぁ。あの水魔、ああ見えて強いんですよ。吸血鬼の寄生虫みたいな奴なんですが」
「っていうことは呪いは本物なんだね。アーク、女の子のあてはあるの?」
「そんなもの、ヒロさん以外にあるわけないじゃないですか。
それに、ヒロさんは頼めばやってくれるでしょう」
アークは呆れた声を出してる。
今までの私の行動パターンからそう思われている訳だ。
「それは…… 嫌かな」
「え」
アークはまさか断られると思って居なかったんだろうか。
驚いた声をあげた。
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