吸血鬼の塔に乗り込んだ女剣士ですが思ったより好待遇です。

リリファルシアンの泉

文字の大きさ
上 下
4 / 8

4.死亡フラグ

しおりを挟む
アークと一緒に舗装されていない森の道を進むと、
大きめの赤い実のなっている木が群生している場所があった。
「ここでなる実は人間の完全栄養食になります」
「へぇ、すごいね。何ていう実?」
「私達の間では人間用、で通じましたから、名前はないですね……。
これは魔力を吸って育ちますし、与える魔力によって姿が変わるから、魔物の一種なのかもしれません」
「へぇ、そんなもの食べて大丈夫なの……?」
「そうですねぇ、食べ始めは眠くなる、
あとこればかりずっと食べてると寿命が伸びるようですね」
「それ魔物っぽく身体が変化してない?」
「さぁ…… でも一個ぐらい大丈夫ですよ」
さあさあ、とアークが薦めるので一個ぐらい、と手に取った。
卵ぐらいのサイズのグミのような見かけである。
食べてみると干し柿のような食感で、クランベリーのような味がする。
「美味しい」
アークが次々薦めるので5個ぐらい食べてしまった。
気がつくとアークは紺色赤目に戻っていた。
「ヒロさんったら、眠くなるって言ってるのにそんなに食べちゃ駄目じゃないですか」
「……確かに、眠い、ね」
「少し早いですけど、移動するのも面倒なのでテント張りますよ」
「テント?」
私はそんな装備はないけど。
「ヒロさん、ちょっと目をつむっていて貰えますか」
「じゃあそこの木の下で寝てるね。」
私は木の下に座った瞬間寝た。

起きたらテントの中だった。寝巻きでお布団に入っている。あれ!?
「おはようございますヒロさん。もう夜ですよ」
「色々ごめんね」
「いえ、ただ僕がヒロさんを甘やかすせいで流れ剣士として立派に育てるという本来の主旨からズレている気はしますが」
「うーん、そもそも私が流れ者に向いていないから、そろそろ何処かに定住しないといけないのかもしれない」
「いっそ隣国まで行ってしまえばどうです?
知性のある魔物が人と共存しているので嫌がる人も多いですが、ヒロさんなら大丈夫でしょ」
「そうねぇ。この国に居るよりいいかもね。
ねぇアーク、貴方と出会ってから絶望的な気持ちが楽になったよ。ありがとう」
心の底からお礼を言おうと思って言うと、アークは眉間に皺を寄せた。
「……
そういうことを言われると、血を飲みづらいじゃないですか」
「そんなに血を飲むのが悪いことだと思うの?」
「……いや、
僕は同族から貰うばかりであげたことはなかったけれど、
少なくとも兄は血をあげることを嫌がってはいませんでした」
「あ、そうだ。
私アークに目を治してもらいたいんだ。
だから血をあげれば、少しは気っていうのが混ざるんじゃないかな」
「まぁそれはそうですね。わかりました」
アークは私の目の前に正座して腕を広げた。
「血を飲みたいので側まで来てくれませんか?」
アークはにっこりと微笑んだ。
「うぇ、それは、随分、恥ずかしいね」
「昼間私が吸血をやめた時の気持ちがわかりましたか?」
「わかった。
でも頑張らないと……」
私はアークに抱きついた。
「おっと」
そこまでしなくても良かったのかもしれない。
恥ずかしいから顔が見えない距離に行きたかっただけなのだけど逆にゼロ距離じゃないかこれ。
「ねぇヒロさん、女性の好感度を下げないために大事なのは手を出さないことですよね?」
「突然何を言うの?
好きな女の子でも居るの?
あれ、でも国内に他に吸血鬼居たっけ」
「……なるほどそういう認識で。
とりあえず不快感を与えないよう手短に頂きますね」
首に少し違和感があったかな、と思ったらすぐにアークに突き放された。
そのままアークは何も言わずテントを出てしまった。
鏡がないからわからないけど、首のそれは小さな傷になってるだけで血は出てないようだった。
もしかして、血が不味かった?
帰ってきたら聞いてみるか……

うーん。
綺麗に畳んである元々着ていた私の服(下着含む)を見て頭を悩ませる。
多分魔法でチャチャっとやって気づかなかったんだろうけど……
あと何故か今身につけているおそらくアークの所持品の下着のサイズが自分にぴったりなのが不思議なんだけど。
その辺も魔法でちゃちゃっとやったのだろうけど、そこまで多様な魔法が使える人間は宮廷魔法使いにも居なかったからよくわからないな。
悩んでいたらアークが帰ってきた。
「おかえり。大丈夫だった?」
「突然出ていってすみませんでした」
「もしかして私の血、不味かった?」
「いえ、そういう訳ではないのですが」
「……?」
「自分の死亡フラグが見えたので、対策を考えに行っていたんです」
「え、大丈夫? 対策出来た?」
「さぁ、どうでしょうね。
もしかしたらヒロさんは眠くないかもしれないですけど、僕はもう眠いので寝たいです。
隣で寝ていいですか」
そう言えばこの布団大きいな。
「見張りに立たなくて大丈夫?」
「このテントは僕が作ったのでよほどのことがない限り見つかりませんし壊れません」
それはすごい。
「そう……」
アークは私に近づくことに照れはしたけど、一緒に寝ることに何の抵抗もないのだから人間は恋愛対象外なのかもしれないな。
私個人が対象外だったらどうしよう。
見かけ的に、アークが17歳ぐらいで私が22歳だから十分その可能性はありうるな。
なんかもっと生きてそうな口ぶりではあったけど。
「じゃあ一緒に寝ようか」
私は布団の半分に入って座った。
「……………」
アークは口に手を当てて考えこんでいる。
髪で瞳が隠れて表情はわからない。
「この外見がいけないんだろうか」
「アーク?」
アークはかなり大きいため息をついてから、布団の半分に入った。
魔法でつけていた灯を半分の明るさにしたようだ。
「所でヒロさんは恋人はいらっしゃるんですか」
アークは静かに聞いているが若干声に怒気が含まれている気がする。何で?
「いないよ」
居たらその人の所に居たかなぁ。
居たことないからわかんないや。
「どういう人が恋人だったらいいなとか、ありますか?」
「うーん? 居たことないから想像がつかないけど。
あ、婚約者が居ない人がいいな」
「外見はマッチョがいいとか、なんかあるんじゃないですか」
「外見……?」
「色白は嫌いとか、美形は嫌いとか、目が赤い人は嫌とかなんかあるでしょう」
あ、これはアークは人間の女の子に拒否されたことがトラウマになっているんだな。
「そういうのはないよ。
私ははじめからアークが吸血鬼だって知ってるし」
「ヒロさんは吸血鬼が恋愛対象になりうるんですか?」
「え……」
突然そんなことを聞かれてびっくりした。
吸血鬼は、で、別にアークのことではないのだと気づいて自分の思い違いを恥じた。
「それは、その吸血鬼によるんじゃないかな。
気が合う吸血鬼とか、気が合わない吸血鬼とか居ると思う」
「そうですか。
異種間婚は子供は出来にくいですが、人間と吸血鬼の組み合わせなら寿命はだんだん揃ってきますし、昔は多かったようですよ」
「そうなんだ。ロマンチックなお話だね」
「ええ。
さぁ、私は少し考えごとをするので、ヒロさんは先に寝てください」
「ええっ、そう、おやすみ」
諦めて布団に横になった。
でも、寝る時に誰か居るのは、怖くなくていいな。

真っ暗な闇の夢を見る。
子供が泣いている。
いや、あれは、私だ。
「おとうさん、おかあさん、いないの?」
父のことも母のこともぼんやりとしか覚えていないのに、喪失感だけは今も夢に見る。
目が覚めて、暗闇に慣れた目でテント内を見る。
「やっぱり、アーク、居ないんだ」
じゃあ居たらどうしていたんだろう。
怖い夢を見たから慰めて欲しいの、なんて言っていただろうか。
そんなこと出来ないな。
誰かが居ることに慣れるのは怖い。
もう自分で歩けなくなりそうだから。

明け方寝たフリをしていると、アークがテントに帰ってきていた。
ほっとしたら急に眠気がきて、本当に寝てしまったようだ。

ずいぶん遅く目覚めた。
目覚めてぼうっとしていると、アークが側にきて話しかける。
「人間用の実が効きすぎてるみたいですね。今日は減らしましょうか」
「今日も食べるの?」
「貧血に良いんですよ、あれ」
何が変わったか、とはわからないが、何だか身体が入れ替わっているような気がする。
若干お肌がぷるぷるになっているような……。
「着替えるから、アーク何処か行ってて」
「外で朝食の準備をしていますから、終わったら来て下さい」
君は執事か何かか。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

できれば穏便に修道院生活へ移行したいのです

新条 カイ
恋愛
 ここは魔法…魔術がある世界。魔力持ちが優位な世界。そんな世界に日本から転生した私だったけれど…魔力持ちではなかった。  それでも、貴族の次女として生まれたから、なんとかなると思っていたのに…逆に、悲惨な将来になる可能性があるですって!?貴族の妾!?嫌よそんなもの。それなら、女の幸せより、悠々自適…かはわからないけれど、修道院での生活がいいに決まってる、はず?  将来の夢は修道院での生活!と、息巻いていたのに、あれ。なんで婚約を申し込まれてるの!?え、第二王子様の護衛騎士様!?接点どこ!? 婚約から逃れたい元日本人、現貴族のお嬢様の、逃れられない恋模様をお送りします。  ■■両翼の守り人のヒロイン側の話です。乳母兄弟のあいつが暴走してとんでもない方向にいくので、ストッパーとしてヒロイン側をちょいちょい設定やら会話文書いてたら、なんかこれもUPできそう。と…いう事で、UPしました。よろしくお願いします。(ストッパーになれればいいなぁ…) ■■

前世では美人が原因で傾国の悪役令嬢と断罪された私、今世では喪女を目指します!

鳥柄ささみ
恋愛
美人になんて、生まれたくなかった……! 前世で絶世の美女として生まれ、その見た目で国王に好かれてしまったのが運の尽き。 正妃に嫌われ、私は国を傾けた悪女とレッテルを貼られて処刑されてしまった。 そして、気づけば違う世界に転生! けれど、なんとこの世界でも私は絶世の美女として生まれてしまったのだ! 私は前世の経験を生かし、今世こそは目立たず、人目にもつかない喪女になろうと引きこもり生活をして平穏な人生を手に入れようと試みていたのだが、なぜか世界有数の魔法学校で陽キャがいっぱいいるはずのNMA(ノーマ)から招待状が来て……? 前世の教訓から喪女生活を目指していたはずの主人公クラリスが、トラウマを抱えながらも奮闘し、四苦八苦しながら魔法学園で成長する異世界恋愛ファンタジー! ※第15回恋愛大賞にエントリーしてます! 開催中はポチッと投票してもらえると嬉しいです! よろしくお願いします!!

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

聖女召喚されて『お前なんか聖女じゃない』って断罪されているけど、そんなことよりこの国が私を召喚したせいで滅びそうなのがこわい

金田のん
恋愛
自室で普通にお茶をしていたら、聖女召喚されました。 私と一緒に聖女召喚されたのは、若くてかわいい女の子。 勝手に召喚しといて「平凡顔の年増」とかいう王族の暴言はこの際、置いておこう。 なぜなら、この国・・・・私を召喚したせいで・・・・いまにも滅びそうだから・・・・・。 ※小説家になろうさんにも投稿しています。

【完結】ペンギンの着ぐるみ姿で召喚されたら、可愛いもの好きな氷の王子様に溺愛されてます。

櫻野くるみ
恋愛
笠原由美は、総務部で働くごく普通の会社員だった。 ある日、会社のゆるキャラ、ペンギンのペンタンの着ぐるみが納品され、たまたま小柄な由美が試着したタイミングで棚が倒れ、下敷きになってしまう。 気付けば豪華な広間。 着飾る人々の中、ペンタンの着ぐるみ姿の由美。 どうやら、ペンギンの着ぐるみを着たまま、異世界に召喚されてしまったらしい。 え?この状況って、シュール過ぎない? 戸惑う由美だが、更に自分が王子の結婚相手として召喚されたことを知る。 現れた王子はイケメンだったが、冷たい雰囲気で、氷の王子様と呼ばれているらしい。 そんな怖そうな人の相手なんて無理!と思う由美だったが、王子はペンタンを着ている由美を見るなりメロメロになり!? 実は可愛いものに目がない王子様に溺愛されてしまうお話です。 完結しました。

眺めるだけならよいでしょうか?〜美醜逆転世界に飛ばされた私〜

波間柏
恋愛
美醜逆転の世界に飛ばされた。普通ならウハウハである。だけど。 ✻読んで下さり、ありがとうございました。✻

【完結】番である私の旦那様

桜もふ
恋愛
異世界であるミーストの世界最強なのが黒竜族! 黒竜族の第一皇子、オパール・ブラック・オニキス(愛称:オール)の番をミースト神が異世界転移させた、それが『私』だ。 バールナ公爵の元へ養女として出向く事になるのだが、1人娘であった義妹が最後まで『自分』が黒竜族の番だと思い込み、魅了の力を使って男性を味方に付け、なにかと嫌味や嫌がらせをして来る。 オールは政務が忙しい身ではあるが、溺愛している私の送り迎えだけは必須事項みたい。 気が抜けるほど甘々なのに、義妹に邪魔されっぱなし。 でも神様からは特別なチートを貰い、世界最強の黒竜族の番に相応しい子になろうと頑張るのだが、なぜかディロ-ルの侯爵子息に学園主催の舞踏会で「お前との婚約を破棄する!」なんて訳の分からない事を言われるし、義妹は最後の最後まで頭お花畑状態で、オールを手に入れようと男の元を転々としながら、絡んで来ます!(鬱陶しいくらい来ます!) 大好きな乙女ゲームや異世界の漫画に出てくる「私がヒロインよ!」な頭の変な……じゃなかった、変わった義妹もいるし、何と言っても、この世界の料理はマズイ、不味すぎるのです! 神様から貰った、特別なスキルを使って異世界の皆と地球へ行き来したり、地球での家族と異世界へ行き来しながら、日本で得た知識や得意な家事(食事)などを、この世界でオールと一緒に自由にのんびりと生きて行こうと思います。 前半は転移する前の私生活から始まります。

【完結】え、お嬢様が婚約破棄されたって本当ですか?

瑞紀
恋愛
「フェリシア・ボールドウィン。お前は王太子である俺の妃には相応しくない。よって婚約破棄する!」 婚約を公表する手はずの夜会で、突然婚約破棄された公爵令嬢、フェリシア。父公爵に勘当まで受け、絶体絶命の大ピンチ……のはずが、彼女はなぜか平然としている。 部屋まで押しかけてくる王太子(元婚約者)とその恋人。なぜか始まる和気あいあいとした会話。さらに、親子の縁を切ったはずの公爵夫妻まで現れて……。 フェリシアの執事(的存在)、デイヴィットの視点でお送りする、ラブコメディー。 ざまぁなしのハッピーエンド! ※8/6 16:10で完結しました。 ※HOTランキング(女性向け)52位,お気に入り登録 220↑,24hポイント4万↑ ありがとうございます。 ※お気に入り登録、感想も本当に嬉しいです。ありがとうございます。

処理中です...