吸血鬼の塔に乗り込んだ女剣士ですが思ったより好待遇です。

リリファルシアンの泉

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2.吸血鬼の名前

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目が覚めたら照明が明るくなっていた。
吸血鬼は今は居ないみたい。
脱衣所で元の服に着替え、一応帯剣する。
螺旋階段を確認すると、登れるようになっていた。
2階まで登ると、果樹園のような庭園が広がっている。
どうしようかな、と思っていたら吸血鬼が来た。
昨日はいかにも吸血鬼、というような黒マントを着ていた気がするけど、
今日は冴えない青色のシャツと紺色のズボンという服を着ている。
「ヒロさん、ここは結構厄介な魔物が出ます、危ないですよ」
「吸血鬼さんは何をしているの?」
「貴方の朝ごはんの調達です」
「……手伝おうか?」
「いいえ、まだ疲れているはずです。ですよね?
結構血を飲んでしまいましたから」
「そう。じゃあ下に居るね」
確かにいつもより剣が重く感じる。私は螺旋階段を下った。

一階のソファーで寝ていた。二度寝とはいいご身分。
吸血鬼さんがご飯を持ってきてくれたので起きた。
「では、私はこれで」
「忙しいの?」
「え、いえ、わたしは食事出来ないですし」
「そっかぁ。吸血鬼には食卓を囲むっていう文化がないのかな?
みんなで血を飲む? うーん」
「……昔は、あったそうですけど。
餌の人間と仲が良かった頃は」
「あぁやっぱり、人間のことよく知っているものね。
ご飯ありがとう」
吸血鬼は綺麗な顔を居心地が悪そうに歪め、2階に帰ってしまった。

かなり眠い。
服装もここに置いてあった白いワンピースに着替えた。
何で出来ているか知らないが肌ざわりがよく軽いのに暖かい。
またソファーで横になってしまっている。
エリクサーを飲めば回復するかな?
いやいや私の一番良かった時の給料三ヶ月分だし。
私は虎の子のエリクサーを抱きしめて寝ていた。

誰かが
私のエリクサーを持っていってしまう。
でも目が開けられない。
すごく冷たい生き物が、私を抱き上げて歩いている。
ただベッドに運んでくれたみたいだ。
布団をかけて、冷たい生き物は深いため息をついた。
呆れられている? なんで?
ひたすら眠いのは貴方が血を飲んだせいじゃない。
吸血鬼は冷たい手を私のガッサガサな手に重ねた。
「綺麗な女の人なのに、何で剣士なんか」
綺麗な女の人?
それは商売道具に入ってないから知らなかったな。
「きみは、寝ている女性に手を出すのが趣味なのかい?」
「ごめんなさい」
吸血鬼は手を引っ込めた。
「そんなに怒ってない。運んでくれてありがとう。
でも私は剣士になるしかなかったんだ」
親が剣士だったらしいから、後を追った。
記憶に薄い両親のことを思い出せるかと思って。
「何で殺せる時に殺さなかったんですか?
ぼく、元気になってしまいましたよ」
「剣士だからって何でも殺す訳じゃない。
おかげで飯と宿にありつけた。
明日は酒が飲みたいな」
「酒は今から発酵させないと……」
「吸血鬼は自給自足が常なのか?」
「人間嫌いなんですよ。
迫害してくるから。
関わりたくないんです」
「そうなんだ。
だから記憶を消して帰されるのね」
「……」
「寂しいな」
ずっと思っていたことを、この吸血鬼に打ち明けた所でしょうがないんだけど。
私は返事を聞くこともなく眠ってしまったようだ。

そうだ
もうお母さんもお父さんも居ないんだから、別に剣士じゃなくても良かったじゃない。
適当に村に行って結婚して……
耕す土地がないな。
余所者として馴染むコミュ力がないな。
うん無理。
剣士として生きよう。

次に目覚めた時には随分気分が良くなっていた。
伸びをした後周りを見渡したら吸血鬼と目が会った。
「居たの?」
「貴方が寂しいって言うから頑張って居たんですけど」
口が減らない吸血鬼だ。
「……」
突然涙がこぼれた。何でだ。
急にいい暮らしになった反動か。
「ああもったいない、泣くと血が減るでしょうが!」
まずエサの心配か。さすが吸血鬼。
「ごめん、ここがあんまり綺麗だから、
王立騎士団に居た頃のいい暮らしを思い出してしまって」
「貴方軍に居たんですか?」
「なんか運良く受かってね。
仕事は良かったんだけど貴族に…… 目をつけられて……」
「それは災難でしたね」
「婚約者と別れるとか勘弁して欲しくて……」
「ああーわかりますヒロさんならやりかねません、
魅了してしまったんですね……」
なぜ哀れなものを見る目で私を見るの?
「私がいけなかったんだ。生い立ちの話なんてしたから。
少し王都から離れれば孤児なんて溢れるほど居るけど貴族には珍しかったんだろう」
「反省出来ていてよかったですね」
「ねぇ、私ばっかり話をしているけれど貴方の名前はなんて言うの?」
私が語る前から名前を知っていた。
だからこの魔物は私の心に入り込みやすいのかもしれない。
「人間風の偽名ですか? アークです」
「アーク」
「何でしょう」
「呼んだだけだよ」
何故か名前を呼ぶと心が痛んだ。
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