吸血鬼の塔に乗り込んだ女剣士ですが思ったより好待遇です。

リリファルシアンの泉

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1.吸血鬼の塔へ

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私は女の身なれど流れ剣士をしているんだが
最近立ち寄った村で無料で泊めて貰ってご飯を御馳走になった。
話を聞くと近くの森に吸血鬼が根城を張り、迷い込んだ女性の血を飲んで村に返すという。
女性は血を吸われただけで他に外傷はないが、記憶を失っているのでひどく怯えているそうだ。
また近辺の村でも似たような被害があったらしい。
なので私に退治してもらいたいという話だった。
(いやー私も女なんだけどなー)
それに別に腕の立つ方でなく
私が一人で受けた仕事なんて害獣駆除がせいぜいである。
しかし一宿一飯の恩義を受けてしまった私はしょうがないから森に向かった。

森を歩きながら考える。
我が国の吸血鬼って20年前の大粛清で滅びたんじゃなかったっけ。
生きてたとしてもヒトガタの魔物なんて相当強いだろうし……
何で血を吸って返したんだろう。
……不味かった、とか?

私の血は多分不味いと信じ歩いていたら目の前に突然塔が現れた。
突然現れる不審っぷりどう考えてもこれが吸血鬼の塔だろう。
私は一応ノックする。
「すみませーん、吸血鬼さんの塔でしょうか。
近隣の村を代表してお話があり参りました」
名乗るのが礼儀だけど、あんまり高度な魔物だと名で縛られることもあるから、
名乗らなくてごめんね。
まぁもっと高度な魔物だと名前ぐらい勝手にバレるらしいけど。
返事がないな。
鍵は空いているようだ。入るか。

扉を引くとすごい勢いで中に引き込まれ、勝手に扉がしまった。
内側からは開かないようだ。閉じ込められた。
……ですよね。
気を取り直して塔内を見ると……

白い円形の内部に、
吸血鬼の塔へようこそ!!
と書かれた垂れ幕に、
何故かご飯の並ぶ机、
ベッドにクローゼット、
女性用の服がかけてあるハンガーもある。
あれ、ここ、ホテルかな??

何か予想してたのと違う……
私はひとまず他の出入り口を探した。
上に続く螺旋階段はあるけど、魔法の障壁があって登れないみたい。
うーんこの場合、
しょうがない、
罠にかかろう。

私は机に座りほかほかのご飯を見る。
焼きたてパン、まだ暖かいスープ、謎の赤い実のデザート……
「いただきまーす」
若干塩味が薄い気がするが美味しい。
これ誰が作ったんだろうな?

「ご馳走様でした。美味しかった」
完食。
井戸的なものを探したけど
都心のホテルみたいな水の出る洗い場があった。
お茶碗を洗い、歯ブラシセットもあったので歯も磨く。
腹が満ちて調子に乗った私はその奥にあった風呂まで入ってしまった。
だってここ乾燥までやってくれる洗濯機があるのよ??
王都の一部にしかないわこんなの。

脱衣所に置いてあったネグリジェを着、
温風が出る珍しい魔法具で髪を乾かしたら
部屋が少し薄暗くなっていた。
私はちょうどいいな、と思い
ベッドですやぁ……と寝てしまった。
お前はそれでも戦士か、と思われるかもしれないけれど
もう失うものも少ないので潔いのである。

良く寝たと思う。
窓がなく朝日が入らない部屋なので、照明が明るくなっていて目が覚めた。
頭を上げると、目の前に紺色の髪の、
肌が乾いてしわくちゃ、骨と皮だけのような老人が居た。
「はじめまして、ヒロさん。わたしがこの塔の吸血鬼です」
「あ、はい、お世話になっております」
貴方の塔の設備思いっきり使っちゃいました。
いや罠だと思ったんだけどさ。
「こんな姿で申し訳ありません……。
貴方へのおもてなしを用意するために、
残り少ない生命エネルギーを使い果たしてしまいまして」
「え、思いっきり使ってすみませんでした」
髪ぐらいタオルドライにしておけば良かったか。
「……
村の様子からずっと見ていたが、
貴方は一宿一飯の恩を断れないようだ。
だから真似をしようと思ったのですけれど。
所詮は人間でなく吸血鬼のやることですから、
私は殺されても仕方ありません」
「いや殺すまでもなく天国が近いと思いますけれど」
「……そうですか。貴方は吸血鬼でも天国に行けると仰るのですね。
ではそのご慈悲で、どうか血を下さいませんか?」
「ああ。
というか早く飲まなきゃいけないんじゃないですか大丈夫ですか?」
言い終わらないうちに私は側に立てかけてあった私の剣で自分の腕を切った。
「……」
吸血鬼は一瞬何か言いたそうにしたが、私の腕に口をつけ血を飲んでいる。
私は採血の時の注射器とか、見れないタイプなので目をつむった。
戦いの時の血は大丈夫なんだけど、
いや大丈夫じゃないか宿についた後気絶してたわいつも。
血を舐めとる舌の感覚が消えた後、
回復魔法をかけてくれたのだろう、痛みがなくなった。
目を開けると
肩につかないぐらいの長さの紺色の艶やかな髪、陶器のように白い肌、
男の人にしてはくりっとした可愛らしい……
でも魔物の赤い瞳の若い男の人が居た。
雰囲気が同じだからさっきの吸血鬼か。
「良かった。死にそうではなくなりましたね」
「変わった人だ。血も美味しいし。
少し薄いのが気になるけど」
「それは栄養が取れなくて、貧乏だからね」
目眩がして、またベッドに倒れこんだ。

私は眠ってしまっていたようだ。
目が覚めたら、部屋は薄暗く、誰も居なかった。
知らない所で一人で目覚めるって怖いし、寂しすぎない?
ああだから流れ剣士には向いていないのだ。
王立騎士団に居た時貴族に好かれて、
撒くためにこんな所まで来てしまった。
孤児の育ちだったから、普通の家族に憧れて、
一生懸命生きてきたのに、何でまた一人なんだか。
ふと気がつくと、サイドテーブルに飲み物が蓋をして置いてあった。
いやー… 吸血鬼、気がきくなぁ……
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