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本編

4.距離感

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それにしてもこの魔物涙もろいなぁ。聖人君子かよ。まぁ魔物だけど。
「まだ私の話は序の口なのですが……
刺激が強いようなので今日はもうやめておきますね」
仕方ないので奇跡的に持っていたハンカチで美形の涙を拭いてあげる。
「そんなにひどい世界だったとは思えないんですよ。少なくとも自国は平和で、五日間魔物と殴り合うことはありませんでしたから」
そこでふっと遠い目になる。
殴り合いからはじまる異世界転生~どうして私が勇者なの~
「ああ、私がラナンを治療した時ひどい状態だったね。
回復魔法で身体の傷は癒えるけど、心の傷は治せないから。
でも私はラナンの心の傷も、黒い影も治したいと思っているんだよ」
「どうしてそんなに優しくしてくれるんですか」
頭の中で声がする。
お前がそんな幸せを享受するべきではない。
そんな資格などない。
幸せになってはいけない。
ずるいずるいずるいずるい……
昔のこと過ぎて、誰の声か忘れたけれど。
「君が一緒に居てくれるって言ったから。
側に居る人の苦しみは、僕の苦しみと同じだろう」
「じゃあもっと苦しんでいない人を側におけばいいのに」
「じゃあ三人で住もう。そうしたらもっと楽しいよ」
このちょっとズレた聖人君子……!!
所で私は今聖人君子魔物の顔を真正面から見ている。
ということは向かい合って膝に乗せられているんだな。
「ジルさんに下心も悪意もないこともよーくわかっているんですけどー」
外見17歳だからってやや子供っぽい服を着過ぎたか。
「私の前世的には距離が! 非常に! 近いです!
私をいくつだと思ってるんですか!!」
「え、5日」
「享年32歳です!! 足して下さい!!」
「???」
 もう今更私の前世のくたびれっぷりはおいておいても
これは子供扱いなのか何なのか。
「人間の男ではないのに触れてはいけないのかい?」
発言がおかしい。
いやこやつは魔物、こやつは魔物。
「そうですね。
というか女の子の友達でもこの距離はないですね。両親ですら成人したらこれはないですね」 
「じゃあどういう関係ならこの距離になれるんだい?」
「これはズバリ
ペットと飼い主の距離です!!」
「ほう?
わかるよ、人間には無害な小型の魔物を飼う文化もあるみたいだね」
「ええ、ですので、私の尊厳のために離して……」
「じゃあ僕がラナンを飼えばいいんだね!!」
「……」
昨日の綺麗な神父さんはよそ行きの顔だったのか。一日で顔がはげたな。
「ジル、勘違いしてはいけません。
私も貴方も 王様のペットです」
ジルは泣いた時よりしょっぱい顔になった。

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