不天退帰

七星北斗

文字の大きさ
上 下
16 / 22

16.堕姫

しおりを挟む
 何故だろう、ドクドクと刺すように胸が痛い。自分の唇に触れ、浅ましくも自らの主君を意識してしまう。

「小田様、大丈夫ですか?」

「問題ねーよ。あいつさ、昔からよくわかんねーけど。俺より頭いいから、何でも自分一人でしようとするんだよ」

 どうして小田様は、そんなに優しい顔をされるんですか?

「那須、今後もよろしく頼むぜ」

 小田様は、私の背中に手を伸ばし肩を組んだ。そんな些細なスキンシップに、私の心臓は溶けそうになる。

「御心のままに」

 期待されるのが嬉しい、応えられるよう強くなりたい。

「俺は、お前を一番信頼してる」

 しかし私は、その信頼に報いることができるのだろうか?

「だから側にいろ」

 その言葉に許された気がした。生涯かけて小田様の御側にいたい。

「はいっ」

 那須が暗い顔をしていた。いつも世話になっているのだから、少しは俺を頼れ。ドイツもコイツも、一人で完結しようとする。俺は、そんなに頼りないか?

 もしかしたら頼りないかもしれない、だから頼れないのか?

「頼りなくてごめんな」

 ついボソッと本音を漏らしてしまった。

「今なにかおっしゃいましたか?」

 良かった、那須には聞こえてなかったようだ。

「なんでもないよ」

 小田は、小田なりに考えているということね。だが、正直まどろこしい。そんな簡単なことで悩むなんて…いや簡単なことだからこそか。

「なにつまらない顔してんの小田。私たちには、止まっている暇なんてないわよ」

「わかってる」

 エレベーターから四階へ、また開ける扉は一つのみ。罠だったら、どうする?

「行くに決まってるでしょ」

 立花の張りのある声は、そんな思考を吹き飛ばしてくれた。

 ここで疑ってしまったら、俺は花夜を裏切ることになる。

「おう」

「いっせーのー」

 立花と同時にドアを蹴り飛ばす。大きな音を立てて、ドアは粉々になった。部屋の奥の椅子に座る熊のような図体をした男、口許を歪めて笑う。

 いた、奴だ。

「龍造寺鷹春、やっと会えたな」

「高橋の兵隊か、ようやくここまできたか」

 人の気配など感じなかったというのに、わらわらと現れた龍造寺の兵隊に囲まれる。

「龍造寺は、私と小田で倒す。この先進ませるな」

「後ろは任せた」

 目を合わせて己の役割を理解し、いざ戦いの場へ。

「歩き巫女様、お導きを」

 何がお導きだ、くだらない。

「貴女たちの傷一つない綺麗な肌、爪の先から毛穴まで切り刻んで穢したい」

 指と指の間に小さな刃物を挟んで、体全体をふらふらと揺らす独特のスタイル。

 巫女装束の女は、動きが読みにくい。数的にも不利、だからといって攻めないわけにはいかない。

 空気銃を二丁構え、最初から全力だ。

 空気の弾が吐き出され、歩き巫女に向かって進む。空気の弾は、地面を穿ち当たることがなかった。

 ただ歩いているだけにしか見えないが、残像が残り距離が縮まる。

 何が起きているのか理解できない。この女は、化物か?
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

アイドルグループの裏の顔 新人アイドルの洗礼

甲乙夫
恋愛
清純な新人アイドルが、先輩アイドルから、強引に性的な責めを受ける話です。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

憧れの先輩とイケナイ状況に!?

暗黒神ゼブラ
恋愛
今日私は憧れの先輩とご飯を食べに行くことになっちゃった!?

由紀と真一

廣瀬純一
大衆娯楽
夫婦の体が入れ替わる話

兄になった姉

廣瀬純一
大衆娯楽
催眠術で自分の事を男だと思っている姉の話

処理中です...