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五 テヘペロ

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「勢いよく襖を開けたのは、感覚的に言えば先ほど別れたばかりのスタイル抜群で、元気系美少女ちかちゃんでした。怜は運命を感じ、胸の鼓動が高鳴った。やべー、ドキドキするぜ」

「おい!ちか。変なアテレコをするな!俺はそんなキャラじゃない。それに何か盛り過ぎだろ!」

「テヘペロ」

 ちかは片目を閉じ、ウィンクをしながらペロッと舌を出し、ニンマリした。怜がちかに突っ込むと、先ほどの縄を解いてくれた優男に睨まれる。

「貴様、姫様にご無礼であるぞ」

斎藤さいとうさん、気にしないで下さい。怜さんは特別だから」

「しかし」

「斎藤」

「クッ」

 ちかの言葉で斎藤と呼ばれる優男は、苦々しい表情で言葉を飲み込んだ。

「それにしても、あれれー?お兄さん?お兄さんは何でここにいるの?」

 ちかは小首を傾げて、怜の顔をじっと見る。ちかの頭の中では、怜に次はどんな悪戯をするかでいっぱいだった。

「何じゃお主ら、知り合いじゃったのか!我が娘ちかをたぶらかしおって。これはもう娶ってもらわねばな」

「父様!気が早いよ」

 ちかは頬を赤らめ、まんざらでもなさそうだ。

「そうじゃな、まずは実績を出してからだな。後継ぎとして、力を見せてくれんと。可愛い娘を簡単にはやれん」

「父さまー、今はまだ友達だよ?」

「本音を話せば、とっとと付き合えってのが本心じゃが。とっとと付き合わんかワレ」

 玄は片目を閉じ、ウィンクをしながらペロッと舌を出し、ニンマリする。

「コイツら親子揃ってウゼー。それをオッサンがするとキメーぞ」

 ちかの性格は父親譲りのようだ。

「父様、真似をしないで。ちょっと引くよ」

「ふむ、そうか?」

 娘に引かれたダメージは大きかったようで、玄は寂しそうに俯いた。

「それはそうと、怜も疲れてるじゃろ。飯の前に湯浴みに行くとええ。湯殿で、ちかに背中を流してもらうといい」

「父様!冗談は止めて」

「冗談?ワシは冗談など言ったことはないぞ。最近流行の水着とかいうのを着れば問題はないじゃろ」

「それはそうだけど……」

 ちかは怜の表情を窺うようにチラチラ見る。顔を赤く染めながらも気丈に振る舞おうとするが、頭の中は混乱とドキドキでぐるぐる回っている。

「うぅー」

「冗談じゃぞ」

「!?」

「したいならすると良い」

 ちかは顔を赤くして、立ち上がるとおぼつかない足取りで壁にぶつかる。

「痛い。うぅー、父様のばかー。ばかーー。ついでに怜のばかーー」

「何で俺まで……」

 そして勢いよく襖を開け、ドタドタと走って行った。

「ずいぶんと好かれたものじゃな。羨ましいのー」

「そうか?」

「朴念仁じゃのー」

 怜は取り敢えず湯殿に行くことにした。
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