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5章 第5部 ゆきの決意
230話 女神の欠片
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「わるいですね、お嬢さん。これはもらっておきますよ」
腕が幽霊の女の子から引き抜かれ、彼女はバグ本体の紅色に輝く水晶を奪われてしまう。そして幽霊の女の子の姿はスッと消えてしまった。
「いやいや、あなたたちが注意を引いてくれたおかげで、スムーズにことが運べました。感謝しますよ」
白衣を着ている男、ウォルターが頭を下げてくる。
「それにしても今回の件、なかなか興味深いケースでしたね。あの幽霊、残留思念か何かがバグの影響で姿を得たのでしょう。そして偶然にも近くに出現したであろう女神の欠片に触れ、願いを形に。この世界を生み出した」
ウォルターはアゴに手を当て、思考をめぐらせる。
「ただ少し残念でもありますね。欠片自体は申し分ないのに、使ったのが不確定要素が多すぎる幽霊だとは。これでは有益なデータがあまり得られそうにない。それにここまで願いに染まっているとなると、世界の変更はもう無理でしょう」
(いったい、なんの話をしているんだ?)
なにやら重要なことを言っているみたいだが、内容が内容だけによくわからなかった。
「まあ、今回は実物を確保できただけでも、よしとしときましょうか。ふむ、それにしても見事な代物ですね。この石と比べたら大きさ、内包する力が比べ物にならない」
ウォルターは自身の指につけた紅色の小さな宝石がはめられた指輪と、手にする水晶の欠片を見比べながら畏怖の念を。
「はっ!? あの不気味な人形はぁ!?」
すると突然、気絶していたゆきが目を覚ましキョロキョロ辺りを見渡しだす。
「ゆき、やっと起きたのか。いや、それよりあんたエデン財団の人間だな。その水晶をどうする気なんだ?」
「もちろん貴重なサンプルとして回収させてもらいますよ。もともとこれは我々の研究の成果ともいえる代物ゆえ、文句は言わせません」
「つまりお前らのせいでバグがひどくなって、エデンがさらにめちゃくちゃになってるってことなんだなぁ! よくもぉ!」
ゆきは状況を察したらしく、ウォルターに指を突き付け文句を。
「ふむ、完全には否定はできませんね。ですが元を正せば、我々の研究対象はもともとエデンにあった正規のプログラム。なのであんなモノを用意していた、セフィロトにも非があると言わざるをえません」
ウォルターはとくに悪びれた様子もなく、不敵に笑う。
「正規のプログラム? あんたらはいったいなにを研究してるんだ?」
「フッ、ずばり世界の創造ですよ」
「は!?」
「なぁ!?」
彼のあまりにスケールがでかい発言に、二人して驚くしかない。
「そのためにピースを集めているところなんです。この石、そして今ようやく女神の欠片へと。フッ、欠片の出現でここからさらに忙しくなりますね。もっとサンプルを集めなくては」
「お前らの好きにさせてたまるかぁ!」
なにやらよからぬことをたくらむウォルターに対し、ゆきが七本の剣を念動力で掃射。
七つの閃光が敵を串刺しにしようと、猛威を振るうが。
「防ぎなさい」
しかしウォルターがはめた指輪をきらめかせた瞬間、放たれた剣たちが見えない障壁に突如はじかれてしまった。
「なっ!? ゆきの攻撃が!?」
「そんなぁ!? どうしてぇ!?」
「ふむ、石の力でもなんとかなりそうですが、せっかくの機会だ。この欠片の力、少し実験してみましょうか。もし面白いものを見たければ、ついてきてください。ついでに相手もしてあげましょう」
ウォルターは身をひるがえす。それと同時に彼の進行方向に空間の穴が現れた。
そしてウォルターは空間の穴へと入っていき、姿を消す。
「ゆき、どうする?」
「もちろん、行くに決まってるだろぉ!」
今だ空間の穴は空いたまま。なのでウォルターに続き、レイジたちも中へ。
「どうやらあの空間から出れたみたいだな。さっきの男は?」
すると座標移動した感覚がきて、気が付けば廃工場地帯の入り口前。
さっきの場所に戻ったのかと思ったが、空の色は赤黒くなく普通の夜の色。とくにイヤな感じもせず、どうやらいつものクリフォトエリアに戻ってきたみたいだ。
「くおん、あそこだぁ!」
ゆきが指をさしたその先には、悠々とたたずむウォルターの姿が。
「来ましたね。では実験を始めましょう。さあ、女神の欠片よ、その刻まれた願いを今ここに具現化せよ」
ウォルターは紅色に輝く水晶を前へと突き出し、意味ありげに告げた。
次の瞬間、レイジたちの周りにあの不気味な人形たちが十数体姿を現す。
「まさかあの人形を操れるのか!?」
「ひぃ!? あいつらの相手はもうこりごりだよぉ!?」
ゆきはレイジの上着をつかみ、泣き言を。
「ふむ、限定的な解放だとこのレベルですか。フッ、いいでしょう。では世界を展開。ここら一帯ぐらいなら、書き換えることも可能でしょう」
だがそれだけでは満足いかなかったらしい。ウォルターは不敵に笑い、水晶を天高くかかげた。すると水晶が不気味な輝きを放ち始め。
「な、なんだ!?」
「うわぁぁぁ!?」
突然大気が震えだし、重々しい重圧が押し寄せてくる。それにより廃工場の窓ガラスや、街灯のガラス部分が耐え切れず割れていく。さらにだんだんさっきの不気味な空間にいたときのような、背筋が凍るような感覚までこみ上げてくるときた。しかも工場地帯周辺の夜の空の色が、次第に赤黒くなっていき。
「ゆき、これってまさか!?」
「独立した空間内ならまだしも、ここはクリフォトエリアの大地だぞぉ!? それを無理やり浸食して、書き換えてるだってぇ!? 今すぐ止めさせないとぉ! このままだとエデンにどんな悪影響を及ぼすか、わかったもんじゃないー!」
よほどヤバいことが起こっているらしく、ゆきは血相を変えてさけぶ。
「――あそぼ……、――あそぼ……」
しかし事態はそれだけでは終わらない。なんと工場地帯周辺のいたるところから、不気味な人形たちが出現しだしたのだ。その数、二十、三十とどんどん増えていく。そしてカタカタと関節部分を揺らしながら、ボロボロの武器を持ちノロノロとレイジたちの方へ歩いてきた。
「――まじかよ……」
「これが女神の欠片が持つ力ですか。実に興味深い。さあ、もっと見せてください。その真価を!」
ウォルターの掛け声とともに、水晶の不気味な赤い輝きがさらに増していく。
それと同時に世界の浸食が加速。赤黒い空が広がり、大気の震えが激しく。さらには地面に亀裂が走っていき、人形たちの数も膨れ上がっているのだ。もはや目をおおいたくなるような光景が広がっていた。
「止めろぉ! 世界が悲鳴をあげてるー!」
このままでは取り返しのつかないことになりかねないと、必死に止めにかかろうとするゆき。
だがそこへ。
「なっ、バカな!?」
レイジたちの後方から青白い閃光が駆け抜け、輝きを増す水晶を打ち抜いた。
すると紅色の水晶は青白い光に包まれ、次第に輝きが失われていき。
「女神の欠片が!?」
そして紅色の水晶ははじかれるようにウォルターの手から落ち、地面に転がった。
その直後、人形たちが次々と消えていき、大気の震えも止んで空も普通の夜の色に。さっきまでの異常な光景が収まっていく。
「おぉ、その力、もしやあなたは……」
ウォルターはあっけにとられながらも、レイジたちの後方を意味ありげに見つめた。
なのでレイジたちもあわてて後ろを振り返る。そこには。
「マナ!?」
「まな!?」
そこには神々しい青白い光りをまとう、マナの姿が。ただここで驚くのは白いネコのガーディアンではなく、彼女本体だということ。どうやらこの以上事態をなんとかするため、巫女の間から出てきたみたいだ。
「ゆきねえさま。レイジにいさま、お待たせして申しわけないですぅ」
マナは粛然とした態度で謝罪の言葉を。
その姿はいつもの小動物のように愛らしい彼女とは思えないほど、巫女としての貫録がすごかったといっていい。
「これは驚きました。まさかエデンの巫女、みずから来られるとは」
「あそこまで派手に暴れられたら、放っておくわけにはいかないですからねぇ。おかげでわざわざ出向くはめに……。まったくぅ、調律するマナの身にもなってほしいものですぅ」
マナはため息まじりに、目をふせる。
「ふむ、これがエデンの巫女の力ですか。いやはや、やっかいな力ですね」
ウォルターは拾った紅色の水晶を、残念そうに見つめる。
(あの水晶、輝きが失われてる?)
さっきまで輝いていた水晶だったが、今ではその輝きが完全に失われていた。しかも底知れぬ力の余波のようなものも、感じられなくなっている。まるで機能を停止してるかのように。
「せっかくいい感じに舞台が出来上がりつつあるのに、そう調律されていっては困るのですがね。やはり白神コンシェルンは、早々に押さえておかなければ」
ウォルターはメガネをクイっとしながら、なにやら策略をめぐらせる。
「最近のエデンの異変の数々は、やっぱりあなたたちのしわざだったんですねぇ」
「フッ、まあ、そういうことですね」
「迷惑にもほどがありますぅ。そのせいでどれだけマナが働かされることになったかぁ。この恨み何十倍にもして返さないと気が済みません」
静かに苛立ちをあらわにするマナ。
「おやおや、怖いですねー。さて、盛大に釘をさされてしまったことですし、そろそろおいとましましょうか」
「わるいが逃がしはしないぞ」
「そうだぁ! ここまで好き放題して、無事に帰れると思うなよぉ!」
立ち去ろうとするウォルターに、レイジたちは逃がさないと武器をかまえる。
敵の切り札をつぶしたのだ。あとはこのまま強制ログアウトさせ、エデン財団上層部のデータを手に入れなければ。
だがピンチだというのに、どういうわけか敵に焦りはなく。
「フッ、もう帰りのタクシーは呼んでいるので」
「帰りのタクシー? はっ!?」
次の瞬間、ウォルターの背後に、メカメカしい大型オオカミが上空から着地。
オオカミはあちこち火花が散っており、もはやボロボロ。しかしウォルターを救助するため、身体に鞭打ってきたみたいだ。
「ロウガくん、頼みましたよ」
「けっ!」
そんなオオカミの身体にウォルターはしがみつき。
「ではこれにて失礼」
彼は優雅に頭を下げ、別れを告げる。
その直後、大型オオカミは大きく跳躍。ウォルターを連れ、またたく間に戦線離脱していくのであった。
腕が幽霊の女の子から引き抜かれ、彼女はバグ本体の紅色に輝く水晶を奪われてしまう。そして幽霊の女の子の姿はスッと消えてしまった。
「いやいや、あなたたちが注意を引いてくれたおかげで、スムーズにことが運べました。感謝しますよ」
白衣を着ている男、ウォルターが頭を下げてくる。
「それにしても今回の件、なかなか興味深いケースでしたね。あの幽霊、残留思念か何かがバグの影響で姿を得たのでしょう。そして偶然にも近くに出現したであろう女神の欠片に触れ、願いを形に。この世界を生み出した」
ウォルターはアゴに手を当て、思考をめぐらせる。
「ただ少し残念でもありますね。欠片自体は申し分ないのに、使ったのが不確定要素が多すぎる幽霊だとは。これでは有益なデータがあまり得られそうにない。それにここまで願いに染まっているとなると、世界の変更はもう無理でしょう」
(いったい、なんの話をしているんだ?)
なにやら重要なことを言っているみたいだが、内容が内容だけによくわからなかった。
「まあ、今回は実物を確保できただけでも、よしとしときましょうか。ふむ、それにしても見事な代物ですね。この石と比べたら大きさ、内包する力が比べ物にならない」
ウォルターは自身の指につけた紅色の小さな宝石がはめられた指輪と、手にする水晶の欠片を見比べながら畏怖の念を。
「はっ!? あの不気味な人形はぁ!?」
すると突然、気絶していたゆきが目を覚ましキョロキョロ辺りを見渡しだす。
「ゆき、やっと起きたのか。いや、それよりあんたエデン財団の人間だな。その水晶をどうする気なんだ?」
「もちろん貴重なサンプルとして回収させてもらいますよ。もともとこれは我々の研究の成果ともいえる代物ゆえ、文句は言わせません」
「つまりお前らのせいでバグがひどくなって、エデンがさらにめちゃくちゃになってるってことなんだなぁ! よくもぉ!」
ゆきは状況を察したらしく、ウォルターに指を突き付け文句を。
「ふむ、完全には否定はできませんね。ですが元を正せば、我々の研究対象はもともとエデンにあった正規のプログラム。なのであんなモノを用意していた、セフィロトにも非があると言わざるをえません」
ウォルターはとくに悪びれた様子もなく、不敵に笑う。
「正規のプログラム? あんたらはいったいなにを研究してるんだ?」
「フッ、ずばり世界の創造ですよ」
「は!?」
「なぁ!?」
彼のあまりにスケールがでかい発言に、二人して驚くしかない。
「そのためにピースを集めているところなんです。この石、そして今ようやく女神の欠片へと。フッ、欠片の出現でここからさらに忙しくなりますね。もっとサンプルを集めなくては」
「お前らの好きにさせてたまるかぁ!」
なにやらよからぬことをたくらむウォルターに対し、ゆきが七本の剣を念動力で掃射。
七つの閃光が敵を串刺しにしようと、猛威を振るうが。
「防ぎなさい」
しかしウォルターがはめた指輪をきらめかせた瞬間、放たれた剣たちが見えない障壁に突如はじかれてしまった。
「なっ!? ゆきの攻撃が!?」
「そんなぁ!? どうしてぇ!?」
「ふむ、石の力でもなんとかなりそうですが、せっかくの機会だ。この欠片の力、少し実験してみましょうか。もし面白いものを見たければ、ついてきてください。ついでに相手もしてあげましょう」
ウォルターは身をひるがえす。それと同時に彼の進行方向に空間の穴が現れた。
そしてウォルターは空間の穴へと入っていき、姿を消す。
「ゆき、どうする?」
「もちろん、行くに決まってるだろぉ!」
今だ空間の穴は空いたまま。なのでウォルターに続き、レイジたちも中へ。
「どうやらあの空間から出れたみたいだな。さっきの男は?」
すると座標移動した感覚がきて、気が付けば廃工場地帯の入り口前。
さっきの場所に戻ったのかと思ったが、空の色は赤黒くなく普通の夜の色。とくにイヤな感じもせず、どうやらいつものクリフォトエリアに戻ってきたみたいだ。
「くおん、あそこだぁ!」
ゆきが指をさしたその先には、悠々とたたずむウォルターの姿が。
「来ましたね。では実験を始めましょう。さあ、女神の欠片よ、その刻まれた願いを今ここに具現化せよ」
ウォルターは紅色に輝く水晶を前へと突き出し、意味ありげに告げた。
次の瞬間、レイジたちの周りにあの不気味な人形たちが十数体姿を現す。
「まさかあの人形を操れるのか!?」
「ひぃ!? あいつらの相手はもうこりごりだよぉ!?」
ゆきはレイジの上着をつかみ、泣き言を。
「ふむ、限定的な解放だとこのレベルですか。フッ、いいでしょう。では世界を展開。ここら一帯ぐらいなら、書き換えることも可能でしょう」
だがそれだけでは満足いかなかったらしい。ウォルターは不敵に笑い、水晶を天高くかかげた。すると水晶が不気味な輝きを放ち始め。
「な、なんだ!?」
「うわぁぁぁ!?」
突然大気が震えだし、重々しい重圧が押し寄せてくる。それにより廃工場の窓ガラスや、街灯のガラス部分が耐え切れず割れていく。さらにだんだんさっきの不気味な空間にいたときのような、背筋が凍るような感覚までこみ上げてくるときた。しかも工場地帯周辺の夜の空の色が、次第に赤黒くなっていき。
「ゆき、これってまさか!?」
「独立した空間内ならまだしも、ここはクリフォトエリアの大地だぞぉ!? それを無理やり浸食して、書き換えてるだってぇ!? 今すぐ止めさせないとぉ! このままだとエデンにどんな悪影響を及ぼすか、わかったもんじゃないー!」
よほどヤバいことが起こっているらしく、ゆきは血相を変えてさけぶ。
「――あそぼ……、――あそぼ……」
しかし事態はそれだけでは終わらない。なんと工場地帯周辺のいたるところから、不気味な人形たちが出現しだしたのだ。その数、二十、三十とどんどん増えていく。そしてカタカタと関節部分を揺らしながら、ボロボロの武器を持ちノロノロとレイジたちの方へ歩いてきた。
「――まじかよ……」
「これが女神の欠片が持つ力ですか。実に興味深い。さあ、もっと見せてください。その真価を!」
ウォルターの掛け声とともに、水晶の不気味な赤い輝きがさらに増していく。
それと同時に世界の浸食が加速。赤黒い空が広がり、大気の震えが激しく。さらには地面に亀裂が走っていき、人形たちの数も膨れ上がっているのだ。もはや目をおおいたくなるような光景が広がっていた。
「止めろぉ! 世界が悲鳴をあげてるー!」
このままでは取り返しのつかないことになりかねないと、必死に止めにかかろうとするゆき。
だがそこへ。
「なっ、バカな!?」
レイジたちの後方から青白い閃光が駆け抜け、輝きを増す水晶を打ち抜いた。
すると紅色の水晶は青白い光に包まれ、次第に輝きが失われていき。
「女神の欠片が!?」
そして紅色の水晶ははじかれるようにウォルターの手から落ち、地面に転がった。
その直後、人形たちが次々と消えていき、大気の震えも止んで空も普通の夜の色に。さっきまでの異常な光景が収まっていく。
「おぉ、その力、もしやあなたは……」
ウォルターはあっけにとられながらも、レイジたちの後方を意味ありげに見つめた。
なのでレイジたちもあわてて後ろを振り返る。そこには。
「マナ!?」
「まな!?」
そこには神々しい青白い光りをまとう、マナの姿が。ただここで驚くのは白いネコのガーディアンではなく、彼女本体だということ。どうやらこの以上事態をなんとかするため、巫女の間から出てきたみたいだ。
「ゆきねえさま。レイジにいさま、お待たせして申しわけないですぅ」
マナは粛然とした態度で謝罪の言葉を。
その姿はいつもの小動物のように愛らしい彼女とは思えないほど、巫女としての貫録がすごかったといっていい。
「これは驚きました。まさかエデンの巫女、みずから来られるとは」
「あそこまで派手に暴れられたら、放っておくわけにはいかないですからねぇ。おかげでわざわざ出向くはめに……。まったくぅ、調律するマナの身にもなってほしいものですぅ」
マナはため息まじりに、目をふせる。
「ふむ、これがエデンの巫女の力ですか。いやはや、やっかいな力ですね」
ウォルターは拾った紅色の水晶を、残念そうに見つめる。
(あの水晶、輝きが失われてる?)
さっきまで輝いていた水晶だったが、今ではその輝きが完全に失われていた。しかも底知れぬ力の余波のようなものも、感じられなくなっている。まるで機能を停止してるかのように。
「せっかくいい感じに舞台が出来上がりつつあるのに、そう調律されていっては困るのですがね。やはり白神コンシェルンは、早々に押さえておかなければ」
ウォルターはメガネをクイっとしながら、なにやら策略をめぐらせる。
「最近のエデンの異変の数々は、やっぱりあなたたちのしわざだったんですねぇ」
「フッ、まあ、そういうことですね」
「迷惑にもほどがありますぅ。そのせいでどれだけマナが働かされることになったかぁ。この恨み何十倍にもして返さないと気が済みません」
静かに苛立ちをあらわにするマナ。
「おやおや、怖いですねー。さて、盛大に釘をさされてしまったことですし、そろそろおいとましましょうか」
「わるいが逃がしはしないぞ」
「そうだぁ! ここまで好き放題して、無事に帰れると思うなよぉ!」
立ち去ろうとするウォルターに、レイジたちは逃がさないと武器をかまえる。
敵の切り札をつぶしたのだ。あとはこのまま強制ログアウトさせ、エデン財団上層部のデータを手に入れなければ。
だがピンチだというのに、どういうわけか敵に焦りはなく。
「フッ、もう帰りのタクシーは呼んでいるので」
「帰りのタクシー? はっ!?」
次の瞬間、ウォルターの背後に、メカメカしい大型オオカミが上空から着地。
オオカミはあちこち火花が散っており、もはやボロボロ。しかしウォルターを救助するため、身体に鞭打ってきたみたいだ。
「ロウガくん、頼みましたよ」
「けっ!」
そんなオオカミの身体にウォルターはしがみつき。
「ではこれにて失礼」
彼は優雅に頭を下げ、別れを告げる。
その直後、大型オオカミは大きく跳躍。ウォルターを連れ、またたく間に戦線離脱していくのであった。
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