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 5章 第2部 ゆきの家出

205話 相馬の側近

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「ゆき、このシティゾーンになんの用なんだ? そろそろ教えてくれよ」

 レイジとゆきはあれから近くのネットカフェに行き、エデンへ。そしてクリフォトエリアにある、十六夜いざよい島方面のシティゾーンに来ていた。
 今はゆきに先導され、廃墟街の人気のない路地裏歩いているところである。

「ふっふーん、まずは敵を知るところから、始めようと思ってねぇ。そのためにもこれからそうまにいさんの情報を、持ってる人物のところにいくつもりー」

 ゆきは歩きながら、得意げに説明してくれる。

相馬そうまさんの?」
「うん、実は昼からそうまにいさんと、ランチをとる約束をとり付けてあるんだぁ。そこでいろいろ探ろうと思ってるから、事前に準備をねぇ」
「ははは、いきなり相馬さんにあたるとは、やるなゆき。絶対手ごわいこと間違いなしなのにさ」
「もちろん、わかってるよぉ。でも現状もっとも手っ取り早いのは、そうまにいさんをどうにかすることだろぉ? 第一ほかに効果的な方法なんて、あまり思いつかないしさぁ」

 現状の打つ手のなさに、肩をすくめるゆき。
 白神しらかみコンシェルン側にとって、今最も厄介なのは相馬だ。彼が次期当主になればアポルオンを呼び込むだけでなく、マナの力が向こうにわたってしまう恐れが。ゆえにそんな相馬をどうにかできれば、当面の危機は大きく去ることになるだろう。結果、ゆきの次期当主の件への風当たりも、弱くなるかもしれない。

「そんなことよりついたよぉ。ここにお目当ての人物がいるはずー」
「ここか。看板から見るに、誰かがガンショップを開いてるのか? ということは……」

 たどり着いたのは路地裏方面から入れる、一軒の建物。そこには銃の描かれた看板が掛けられており、中から薄暗い明かりがもれている。ここまでくるとレイジにも心当たりがあった。
 店内に入ると、たなの方にはごつい銃器や弾丸がいくつも飾られている。そして奥のカウンターのところには、銃器をいじる少女の姿が。

「はなびー、来たよぉ!」
「おっ、ゆきじゃん、おひさー。あと久遠くおんも」

 少女は手を上げ、笑顔で歓迎してくれる。
 彼女の名前は一ノ瀬いちのせ花火はなび)。レイジたちとは同い年で、おしゃれに敏感なギャルっぽい少女である。彼女も電子の導き手であり、ゆきと同じSSランク。銃撃姫じゅうげきひめという異名で活動している凄ウデであった。

「なるほど、お目当ての人物って、花火だったのか。まあ、相馬さんの側近だし、だとうな判断だな」

 そう、彼女はブリジットと同じく、相馬の側近。普段は電子の導き手としての活動をしているが、相馬の要請が来ればすぐに駆けつける私兵なのだ。よって相馬について、多くの情報を持っているのは間違いない。

「花火も店を出してるみたいなこと言ってたが、こんな感じでやってるんだな」
「あたしの場合は販売だけじゃなく、銃器のメンテもあるからねー。だから空き家を借りて、どっしり店をかまえるスタンスなのさー」

 このシティーゾーンは基本無人の廃墟街。ゆえに空き家などいくらでもあるため、そこに商品を並べて店をだす者も少なくないのだ。

「そんなことより久遠も一丁どうよ? 並べてある銃器はどれも花火さんの力作だぞー。値段は少し張るけど、性能面は抜群! あの那由他なゆただって愛用してるぐらいだしねー」

 花火はカウンターに飾られていた一丁のリボルバーを手に取り、ちらつかせながらウィンクしてくる。

「そういえば那由他はここの常連だっけ」

 那由他の銃は花火のところから購入しているらしい。
 彼女は銃器の分野でトップクラスの電子の導き手。ゆえにその銃器の性能はほかより高く、非常に手になじむとか。なのでよく通っていると、那由他が言っていた。

「よくひいきにさせてもらってるよー。少し前にも銃器のメンテナンスと、新しい銃の依頼をしてきたしねー。それでゆき、例の物は?」

 花火は意味ありげにゆきへ手を差し出す。

「はい、これぇ。報酬はいつもの口座にお願いねぇ」

 そしてゆきはアイテムストレージからトランクを取り出し、花火に渡した。
 どうやら彼女はゆきになにかを注文をしていたようだ。

「もち! ほんと助かるー!」
「うん? 花火はなにを注文したんだ?」
「銃のフレームに使う金属をね! ゆきの作る素材はどれもずば抜けてるからさー。普段はしないけど、傑作けっさくを生み出すときはこうやって買ってるんだー」
「電子の導き手にも、得意不得意があるからなぁ。武器とか製作するとき、ほかの電子の導き手から材料や、付与するプログラムを仕入れるのは珍しくないことだもんねぇ」

 そう、電子の導き手が、ほかの電子の導き手に注文するパターンもあるのだ。というのも電子の導き手にも、それぞれ得意な分野がある。純度の高い素材を生み出すのが得意な者、組み込むプログラムが得意な者、ガーディアンを作るのが得意な者などなど。よって一人で全部やるよりも、ほかから仕入れて作ったほうがより強力な物ができやすいのであった。ただ電子の導き手同士だと取引中に横やりが入ったり、裏切られたり、ブツによるいざこざなどのリスクも。そのためよほど力作を作ろうとしているか、よほど信頼できる相手かぐらいじゃないと、安易に取引はしないらしい。

「ちなみにこれ那由多の新しいやつだよー。ゆきが最上級の素材を用意して、アタシが銃パーツにし組み立てる。分野最強同士が手をかけてるから、性能もダントツってね!」

 受け取ったトランクをバンっとたたき、不敵に笑う花火。

「ははは、凄ウデの電子の導き手とのコネが、どれほど大切かわかる話だな。親しい方が、それだけ手間をかけて作ってもらえるんだからさ」

 実際レイジの刀も、ゆきに多くの労力を割いてもらった代物。世話になってる分と今後の分含め、普段より力を入れてくれたらしい。彼女たちは有名なSSランクの電子の導き手。ゆえに製作依頼は多く、どうしても作品にかけられる時間も限られてくる。なのでこういったコネや親密さは、かなり重要なことといっていい。

「ふっふーん、だからくおんは、もっとゆきにこびを売っといたほうがいいんだぞぉ?
どんどんゆきの手足となって働いてねぇ!」

 ゆきはレイジの腕をクイクイ引っ張りながら、得意げにほほえんでくる。

「いや、もうけっこうなレベルで働いてるだろうが。というか本題はいいのか?」
「そうだったぁ! 花火、ついでに聞きたいことがあったんだぁ」
「聞きたいこと?」
「最近のそうまにいさん、裏でこそこそやってるでしょー? そのことでなにか知ってることがあったら、教えてほしいんだぁ。動向とか、たくらみとかさぁ」
「えー、アタシ、側近の一人だよ。言えるはずないじゃん」

 花火はまたまたーと手を振りながら、断(ことわ)りを。
 彼女の立場から情報を漏らすのは、裏切り行為といっていい。なので彼女から聞き出すのは難しそうだ。

「そこをどうかぁ! このままだとゆき、そうまにいさんと次期当主の座をかけて、強制的に戦わされるのぉ。そうなるといろいろ面倒なことになるから、なんとか和解したいんだぁ。だから少しでも交渉こうしょうがはかどるように、そうまにいさんのこと教えてぇ」

 だがそこで引き下がるゆきではない。自身の安息の未来がかかっているため、カウンターに詰め寄り手を合わせ頼み込む。

「ふーん、ゆきもいろいろ大変そうだねー。まあ、助けてあげたい気持ちも、ないわじゃないけどさー」
「頼むよ、花火。あの引きこもりのゆきが家出するほど、切羽詰まってるんだ」

 心が揺れ始める花火に、レイジも援護射撃を。

「――うーん……、ごめん! 力になりたいのは山々なんだけど、ぶっちゃけアタシも知らないんだー」

 いけるかと思ったが、花火が手を合わせ申しわけなさそうに謝ってくる。

「え? どういうことぉ?」
「だって相馬さん、自身の野望はむねに秘めるタイプで、全然教えてくれないしさー。だからアタシはただ与えられたオーダーを、こなしてるだけ。そこにどういう思惑があるとか全然知らないんだよねー」

 どうやら教えたくても、知らないため答えようがなかったみたいだ。
 相馬は野心家で用心深い性格。情報が漏れて自身の野望の弊害にならないよう、普段から心得ているに違いない。

「そんなんでよくついて行けるな」
「だって待遇とか超いいし、融通も結構きいてくれるんだよー。おかけでこんなふうに電子の導き手としての仕事もできるし、願ったり叶ったりじゃん! もう、ついていかない理由なんてないよ!」

 相馬さんサイコーと、満ち足りた笑顔を浮かべる花火。

「へー、相馬さん、人望あるんだな。まあ、オレ自身もあの人のことは気に入ってるし、気持ちはわからんではないか」

 狩猟兵団レイヴン時代の付き合いからわかるのだが、相馬は自分の信頼する者にはかなり甘い。力になってくれるなら、その分の報酬や待遇はいくらでも惜しまないといっていい。なので彼の私兵になるという話は、普通に考えると願ってもないものなのだ。

「――はぁ……、じゃあ、結局、収穫はなしかぁ。ぶっつけ本番で、そうまにいさんと交渉するはめにー」

 もともと知らないのであれば、聞いても仕方ない。ゆきは肩を落としながらため息を。

「がんばって! ゆき! アタシも応援しといてあげるからさー! あとちなみにブリジットさんからは、なにも聞けないと思うよ。あの人相馬さんのことこれでもかってぐらい、心酔してるしねー!」

 花火はカウンターから身を乗り出し、ゆきの肩をポンポンたたいてエールを。

「ええい、こうなったらやってやるー。すべてはゆきの安息の未来のためだもん! いくよぉ! くおん! そうまにいさんと直接対決だぁ!」

 ゆきは開き直ったのか、手をぐっとにぎり顔を上げる。
 どうやら相馬になにも準備なしで挑む気らしい。

「うーむ、大丈夫なのか? これ?」

 相手はあの相馬。若干じゃっかんの不安を残しつつ、レイジはゆきについていくのであった。

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