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4章 第3部 謎の少女と追いかけっこ

181話 痛い視線

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「さて、いろいろ聞き出したいところですが、その前に。お二人とも、誰もあそこまでやれとは言ってないのですが?」

 美月はやれやれと肩をすくめながら、なにやらレイジたちにイタイ視線を向けてくる。

「そうだよ! なにさきを放って、公衆こうしゅうの面々でイチャついてるの!」

 すると咲がまたもやテーブルをドンドンたたき、ふてくされたように抗議を。
 今レイジたちは全員カフェテラスの席に。咲も観念かんねんしたのか大人しく居座いすわり、買ってあげたドリンクを飲んでいた。

「いや、イチャついてるってなんだよ……」
「言いのがれできませんよ。もはや完全に、二人の世界に入っていましたからね。それはもう、周りが殺意の嵐を抱くほど。バカップルはぜろと、美月も思わず思ってしまうほどでした」

 ジト目でズケズケとレイジたちの痛いところをついてくる美月。
 どおりでさっきから周りの視線がイタイわけだ。こんな物騒な場所で場違いな甘々な空気を出していれば、嫌でも目立つというもの。おそらくかなりの嫉妬しっとの嵐を招いたに違いない。

「――ははは……、そんなことになってたのか……」
「――えっへへ、お恥ずかしいばかりなんだよ」

 もはや二人でしゅんとなりながら、テレ笑いするしかない。
 穴があったら入りたいとは、このことなのだろう。

「お姉さんだけずるい! 咲もお兄さんと、さっきのゲームやるー!」

 だがそこへまさかの発言が飛び込んできた。なんと咲がさっきのお菓子の箱をレイジに突き付け、ねだってきたのである。

「いや、やらないからな」
「ふふん、あれー、お兄さん、そんなこと言っていいのかなー? 咲の機嫌きげんをとっといた方が、有益な情報を聞き出せると思うけどなー?」

 すると咲はほおに指をポンポン当て、ニヤニヤと小悪魔っぽい笑みを向けてきた。

「おい、卑怯ひきょうだぞ」
「カノンさん、いいんですか? レイジさんがとられようとしてますよ?」
「レージくん、浮気うわきだね」

 咲にせまられるレイジの姿を見て、ジト目を向けてくるカノン。

「カノン、そのみょうにイタイ視線、やめてくれないか? 」
「ほらほらー、お兄さん、早くー、早くー。咲、待ちくたびれちゃうよー」

 レイジの気も知らず、咲はチョコの棒のお菓子をスタンバイして催促さいそくを。

「クス、ではおもしろそうなので、美月も参戦させてもらいましょうか。あとで姉さんをからかうのに、使えそうですし」

 そこへなぜか美月も加わりだす。
 彼女のよからぬことを考えてそうな表情をみるに、愉快犯的な行動だろう。しかも今だけじゃなく、そのあとにまで被害を拡大させようとするタチの悪さだ。

「美月、なにしれっとまざってきてるんだ? それあとで結月に怒られるパターンのやつだろ?」
「クス、いいじゃないですか。その分いい思いができるんですから。さあ、レイジさん、お願いします」
「ねえ、お兄さんまだー」

 美月と咲はチョコの棒をくわえ、詰めよってくる。

「わぁー、レージくんモテモテだねー」

 そしてそこへカノンのジト目でのツッコミが。もはやその口調は笑っていなかったといっていい。
 さらに気付けば通行人からもイタイ視線が。今やレイジはかなりヘイトを集める事態に、おちいってしまっていたのだ。

「――あー、どうしてこんなことに……」

 もはやお手上げ状態。天を見上げ、現実逃避するしかない。
 ただいつまでもこうしているわけにはいかないので、どうしようか迷っていると。

「あっ、もうこんな時間なんだ」

 咲がふとなにかに気付いた。

「どうした咲?」
「ごめんね! お兄さんたち! 咲、そろそろお仕事の時間だから、お別れの時間だよ!」
「おい、つかまえたら話してくれるんじゃなかったのか!」
「ふふん、あれは卑怯ひきょうな作戦を使ったから、ノーカンでしょ! 第一、あれはお兄さん一人での話だったしね!」

 咲は指をクルクルと振り、小悪魔な笑みで正論を口に。そして立ち上がり、この場から去ろうと。

「クッ!?」
「今日は楽しかったよ! また遊ぼうね! お兄さん!」
「逃がすか!」

 つかまえようとするが、咲はかろやかに跳躍ちょうやく。カフェの屋根の上に。

「ふふん、残念! ばいばーい!」

 それから咲は満足げな笑顔で手を振り、そのまま逃げていく。

「咲のやろう……」
「どうしよう、レージくん!? 追いかけるかな?」
「あの速度について行くのは至難だが、やるしかないな。貴重な情報源をみすみす逃がすわけにはいかない」

 彼女は現在エデン財団上層部につながる、今のところ唯一の手掛かり。ここまできて収穫なしとはいかないのだ。よってすぐさま追いかけようとするが、そこへ美月の静止の声が。

「クス、そうあわてずに。こうなることは想定済みですよ」
「美月、もしかしてなにか策があるのか」
「美月をなめないでください。すでに手は打っていますよ。リネット、首尾しゅびの方はどうですか?」

 美月はなにやら通話で確認をとる。
  その通話から聞こえてくる声には、聞き覚えがあった。

「誰にモノを言ってる? この幻惑げんわくの人形師にかかれば、追跡ついせきぐらいよゆう」
「え? その子は確か……」

 そう、革新派との戦いで、何度か目にしたことがある少女。白神しらかみゆきのライバル的存在で、電子のみちびき手SSランク幻惑の人形師。リネット・アンバーであった。
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