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4章 第3部 謎の少女と追いかけっこ
176話 休憩
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「――えっへへ……、さすがに疲れたかな……」
「――ははは……、昨日からほとんど情報収集に明け暮れてたから、疲れるのも無理はないさ。それにしても、まったく進展がないとは……」
カノンとレイジはテーブルにぐったり伏せ、力なく笑う。
現在レイジとカノンがいるのは、現実の白神コンシェルン本部のビル内にあるなかなかおしゃれな喫茶店。店内はクラシック音楽が流れ、落ち着いた雰囲気がただよっている。もはや疲れたときにゆっくりするには、もってこいの場であった。このビル内はエデン協会本部でもあるため、協会に属する者たち用の様々な施設がある。ここもその中の一つであった。
すでに冬華に条件を言い渡されてから一日が経っており、時刻は朝十時ごろ。レイジたちはファントムとのやり取りから、エデン財団について夜遅くまで調べていたのだ。そして今日も引き続き朝から調べていたのだが、ほとんど手掛かりがつかめない状態。なので少し休憩をと、この喫茶店へ来たというわけだ。ちなみに結月は一端家に戻りながら、独自に情報を集めてくれるとのこと。
「うん、がんばってるけど、全然手掛かりがつかめないんだよ。聞き込みはもちろん、情報屋を当たってもダメだったしね」
「一応カノンが寝てから、エデン財団側のアーカイブポイントへ張り込んだりしたが、成果はなかったな。こうなると力づくしかなさそうだ」
さすがにエデン財団上層部の情報となると、普通のやり方では歯が立たないらしい。今のレイジたちだと彼らにケンカを売るぐらいしなければ、情報を手にいれられそうになかった。
「メモリースフィアの運搬中を、狙いに行くのかな?」
「とりあえず一つの案としてはだな。シティーゾーンとかで戦力を雇って、襲撃するぐらいしか現状思いつかないし。ともあれ少し休憩だ。このくたくたの状況で戦場に向かうのは、得策じゃない。それにもっと別のアプローチを考えた方が、いい気がする。どこがエデン財団上層部とつながってるかわからない以上、徒労に終わる可能性大だからな」
まだ目星がついていれば、襲撃の案は現実的といっていい。強制ログアウトから得たデータでアーカイブポイントの場所を特定したり、そのまま運搬中のメモリースフィアを奪ったり。もちろんこの手段は厳重な警備を相手にしないといけないためリスクが。しかし事態を進展に導く可能性があるゆえ、わるい賭けではないはずだ。しかし現状外れる可能性が高く、しかもその一回一回の徒労は半端ない。ゆえに別の方法をとる方が、明らかに建設的だろう。
「賛成かな。よし、しばらくお茶して、リフレッシュしよう! それからまた、もうひとがんばりだね!」
カノンはどんよりムードを変えようと、手をパンっと合わせにっこりほほえむ。
「カノンはこのまま休んでくれていいぞ。こんな闇雲の状況で、わざわざ出向く必要はない。なにか手掛かりをつかむまで、オレに任せて待っといてくれ」
「レージくんががんばってるのに、そうはいかないんだよ」
レイジの気遣いに対し、カノンは胸元近くで両手をぐっとにぎりやる気をあらわに。
「だけどな」
付き合ってくれるのはありがたいが、現状どれも成果をあまり見込めない。しかもそれなりにハードなので、疲労もたまる。クリフォトエリアに通い詰めていたレイジならば、慣れているのでそこまで苦に感じないのだがカノンは違う。エデンにいる時はずっと巫女の間にいたため、外で動くのは慣れていないはず。よってよけいに疲労がたまるのではないかと心配なのだ。
「あのね、レージくん。本音を言うと、今すごく充実してるんだよ。これまでは巫女の間から出れなかった分、みんなに頼りっぱなしだった。でも今なら私も一緒に戦える。それがすごくうれしいの」
するとカノンは胸に手を当て、ほがらかに笑いながら告白する。
そのどこか満足げな表情に、なにも言い返せなくなってしまう。
「だからお願い。私にもっと手伝わせてほしいんだよ」
「――カノン……」
「それにね、今まで味わえなかった外の景色にふれられることが、すごく新鮮でたまらないの。ほら、ずっと隔離されてた鬱憤を、思う存分晴らせる感じかな。言ってしまうと、まだまだ暴れ足りないんだよ!」
そして目をキラキラ輝やかせて、楽しげにウィンクしてくるカノン。
そういえばアビスエリアの十六夜島からカノンを逃がす時、緊迫した中でも彼女がはしゃいでいたのを思い出す。
「わかった。そういうことなら、もうしばらく付き合ってもらうことにするか」
本人が苦にせず楽しんでいるなら、止めるのは無粋というもの。なのでここは彼女の願いを聞き入れることに。
「そうこなくっちゃなんだよ!」
「では、美月もその日頃の鬱憤晴らしに、お付き合いしてもよろしいでしょうか?」
カノンがやる気に満ちていると、一人の少女が会話に割り込んできた。
「大歓迎だよ! 仲間は多い方が楽しいからね! ――あれ? あなたは……、どちらさんなのかな?」
仲間ができたとノリノリで歓迎してしまうカノンであったが、そこでふとおかしいことに気づきちょこんと首をかしげる。
「――キミはもしかして……」
突如話に加わってきた少女の声に聞き覚えがあった。あれは確か上位序列ゾーンに入る許可をもらいに連絡したときに。
才気あふれるオーラが際立だつ、茶色がかった髪をした少女。その瞳はどことなく見るものすべてがつまらないといった、かわいた印象が。
「クス、これは申し遅れました。片桐結月の妹の美月です。今回は姉さんに代わって、二人の手伝いに来ました」
美月はスカートの裾をつかんで優雅にお辞儀し、協力を申し出てくるのであった。
「――ははは……、昨日からほとんど情報収集に明け暮れてたから、疲れるのも無理はないさ。それにしても、まったく進展がないとは……」
カノンとレイジはテーブルにぐったり伏せ、力なく笑う。
現在レイジとカノンがいるのは、現実の白神コンシェルン本部のビル内にあるなかなかおしゃれな喫茶店。店内はクラシック音楽が流れ、落ち着いた雰囲気がただよっている。もはや疲れたときにゆっくりするには、もってこいの場であった。このビル内はエデン協会本部でもあるため、協会に属する者たち用の様々な施設がある。ここもその中の一つであった。
すでに冬華に条件を言い渡されてから一日が経っており、時刻は朝十時ごろ。レイジたちはファントムとのやり取りから、エデン財団について夜遅くまで調べていたのだ。そして今日も引き続き朝から調べていたのだが、ほとんど手掛かりがつかめない状態。なので少し休憩をと、この喫茶店へ来たというわけだ。ちなみに結月は一端家に戻りながら、独自に情報を集めてくれるとのこと。
「うん、がんばってるけど、全然手掛かりがつかめないんだよ。聞き込みはもちろん、情報屋を当たってもダメだったしね」
「一応カノンが寝てから、エデン財団側のアーカイブポイントへ張り込んだりしたが、成果はなかったな。こうなると力づくしかなさそうだ」
さすがにエデン財団上層部の情報となると、普通のやり方では歯が立たないらしい。今のレイジたちだと彼らにケンカを売るぐらいしなければ、情報を手にいれられそうになかった。
「メモリースフィアの運搬中を、狙いに行くのかな?」
「とりあえず一つの案としてはだな。シティーゾーンとかで戦力を雇って、襲撃するぐらいしか現状思いつかないし。ともあれ少し休憩だ。このくたくたの状況で戦場に向かうのは、得策じゃない。それにもっと別のアプローチを考えた方が、いい気がする。どこがエデン財団上層部とつながってるかわからない以上、徒労に終わる可能性大だからな」
まだ目星がついていれば、襲撃の案は現実的といっていい。強制ログアウトから得たデータでアーカイブポイントの場所を特定したり、そのまま運搬中のメモリースフィアを奪ったり。もちろんこの手段は厳重な警備を相手にしないといけないためリスクが。しかし事態を進展に導く可能性があるゆえ、わるい賭けではないはずだ。しかし現状外れる可能性が高く、しかもその一回一回の徒労は半端ない。ゆえに別の方法をとる方が、明らかに建設的だろう。
「賛成かな。よし、しばらくお茶して、リフレッシュしよう! それからまた、もうひとがんばりだね!」
カノンはどんよりムードを変えようと、手をパンっと合わせにっこりほほえむ。
「カノンはこのまま休んでくれていいぞ。こんな闇雲の状況で、わざわざ出向く必要はない。なにか手掛かりをつかむまで、オレに任せて待っといてくれ」
「レージくんががんばってるのに、そうはいかないんだよ」
レイジの気遣いに対し、カノンは胸元近くで両手をぐっとにぎりやる気をあらわに。
「だけどな」
付き合ってくれるのはありがたいが、現状どれも成果をあまり見込めない。しかもそれなりにハードなので、疲労もたまる。クリフォトエリアに通い詰めていたレイジならば、慣れているのでそこまで苦に感じないのだがカノンは違う。エデンにいる時はずっと巫女の間にいたため、外で動くのは慣れていないはず。よってよけいに疲労がたまるのではないかと心配なのだ。
「あのね、レージくん。本音を言うと、今すごく充実してるんだよ。これまでは巫女の間から出れなかった分、みんなに頼りっぱなしだった。でも今なら私も一緒に戦える。それがすごくうれしいの」
するとカノンは胸に手を当て、ほがらかに笑いながら告白する。
そのどこか満足げな表情に、なにも言い返せなくなってしまう。
「だからお願い。私にもっと手伝わせてほしいんだよ」
「――カノン……」
「それにね、今まで味わえなかった外の景色にふれられることが、すごく新鮮でたまらないの。ほら、ずっと隔離されてた鬱憤を、思う存分晴らせる感じかな。言ってしまうと、まだまだ暴れ足りないんだよ!」
そして目をキラキラ輝やかせて、楽しげにウィンクしてくるカノン。
そういえばアビスエリアの十六夜島からカノンを逃がす時、緊迫した中でも彼女がはしゃいでいたのを思い出す。
「わかった。そういうことなら、もうしばらく付き合ってもらうことにするか」
本人が苦にせず楽しんでいるなら、止めるのは無粋というもの。なのでここは彼女の願いを聞き入れることに。
「そうこなくっちゃなんだよ!」
「では、美月もその日頃の鬱憤晴らしに、お付き合いしてもよろしいでしょうか?」
カノンがやる気に満ちていると、一人の少女が会話に割り込んできた。
「大歓迎だよ! 仲間は多い方が楽しいからね! ――あれ? あなたは……、どちらさんなのかな?」
仲間ができたとノリノリで歓迎してしまうカノンであったが、そこでふとおかしいことに気づきちょこんと首をかしげる。
「――キミはもしかして……」
突如話に加わってきた少女の声に聞き覚えがあった。あれは確か上位序列ゾーンに入る許可をもらいに連絡したときに。
才気あふれるオーラが際立だつ、茶色がかった髪をした少女。その瞳はどことなく見るものすべてがつまらないといった、かわいた印象が。
「クス、これは申し遅れました。片桐結月の妹の美月です。今回は姉さんに代わって、二人の手伝いに来ました」
美月はスカートの裾をつかんで優雅にお辞儀し、協力を申し出てくるのであった。
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