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4章 姫と騎士の舞踏 下  第1部 道化子との会談 

165話 覚悟

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「ではまず確認の方から始めますね! カノンさんたちは今後自分たちが自由に動けるよう、後ろ盾を探していた。そしてこのワタシたちアポルオン序列四位、東條とうじょう家に白羽しらはの矢が立ったということですね!」
「そうなんだよ。今の私たちに、東條家のような最上位序列の力は欠かせない。自由に動くためはもちろん、今後の計画的にもね。だからぜひとも協力をお願いしたいんだよ」

 カノンは切実に頭を下げる。

「ふむ、個人的には面白そうなので、引き受けてもいいと思ってます。ですがワタシの一存で東條家の今後に関わる重要案件を決めるのは、いろいろ手間がかかるんですよね」

 乗り気な態度を見せる冬華であったが、やはりことがことだけにそう簡単にはいかないらしい。いくら彼女が次期当主だとしても、すべての決定権は現当主にゆだねられるはず。なのでそちらをどうにかしない限り、後ろ盾の件は難しそうだ。

「冬華、東條家がこの要請ようせいを受けてくれる可能性は、実際のところどのぐらいなんだ?」
「アポルオンの巫女の監督権かんとくけんを手に入れれば、その権限でアポルオン内での影響力が上がることになります。それにカノンさんの革命が成功すれば、彼女の地位はアポルオン全体を取り仕切るぐらいにまでふくれ上がる。そうなれば革命の立役者である東條への恩恵ははかりしれません。なのでこちらにとっても、そうわるい話ではないですね」
「いけそうか?」
「ふむ、引き受けた結果、序列二位側と敵対することになっても、東條ならそこまで恐れるにたることはありませんし。最悪この計画が失敗におわっても、東條は創設者であるアルスレイン家の義理のために協力したと、なかなか響きのいい大義名分ができます。ですのでリスクというリスクはさほどなく、いい博打ばくちが打てることに」

 圧力をかけてくるであろうサージェンフォード家は、世界のトップに君臨くんりんするほどの大財閥にしてアポルオン序列二位。だが東條とて最上位の大財閥であり、サージェンフォードにそこまで引きを取らないといっていい。よってちょっとやそっとのおどしぐらいで、びくともしないというわけだ。
 しかも今回の要請を引き受け失敗におわっても、カノン・アルスレインのために協力したという大義名分が。アルスレイン家はアポルオンに属する者たちにとって、重大な意味を持つ存在。そんな彼らを助けたことに対し、そこまで強く言及げんきゅうできないはず。よって少しのリスクで、ばくだいな恩恵が手に入る可能性があるのだ。となれば東條家としても、そうたやすく無視していい事案ではないだろう。

「まあ、次期当主であるワタシが押せば、いけるでしょう!」

 冬華はすべてをふまえた上で、強気な返事を。
 これでレイジたちの現状の憂いは晴れたも同然。あとは冬華に任せ、カノンを自由にするだけだ。

「マジか! じゃあ、冬華、頼んだぞ。あんたがオレたちの希望だ」
「うん! 冬華さん、私からもお願いするんだよ!」

 会談がうまくいったことに、喜ぶレイジとカノン。

「おや、二人とも。まだワタシは協力するなんて、一言も言ってませんよ?」

 しかしそれもつかの間、冬華がいじわるげな笑みを浮かべわざとらしく首をかしげてきた。

「おい、冬華、まさか……」
「うふふふ、レイジさんならワタシの趣向を、おわかりでしょう? こんなにもあなた方がたやすく、ピンチを乗り越えるのは正直面白くありません! ええ、もっと足掻あがいた上で切り抜けなければ!」

 冬華はいたずらっぽくほほえみ、みずからの趣向を主張する。
 確かに今思うと、そう簡単に手を貸してくれないことに気付く。いくらこの先楽しめるとしても、それで満足しないのが東條冬華。彼女の悪趣味な性格からして、今のレイジたちの状況を見逃すはずがない。せっかく窮地きゅうちにいるのだからと、あがくよう差し向ける気が。

「――くっ、ここに来てそれか。相変わらず趣味がわるいぞ、冬華」
「うふふふ、ワタシはみなをかき回し、舞台を面白くする道化を目指してますからね! なのでレイジさんたちも例外なく、おどっていただかないと!」

 レイジの文句に、冬華はまったく気にした様子を見せずとびっきりの笑顔で告げてくる。

「――えっと……、冬華さん、それで私たちはなにをすればいいのかな? できればお手柔らかに、お願いしたいんだけど……」
「おっと、カノンさん、その前に一つ気がかりなことがあるんです!」

 おそるおそるたずねるカノンに対し、冬華はバッと手で制す。

「なにかな?」
「聞いた話によると、今レイジさんはアイギスのメンバーじゃないとのこと。しかも今後アポルオン関係の件に、首を突っ込むのを禁止されてるとか!」
「――う、うん、そうだね……」
「それは非常に困るんですよねー! レイジさんと組むことを楽しみにしてきたのに、まさかその本人がいないとは……。なのでもしレイジさんが関われないのであれば、この話はなかったことにさせてもらいます! ワタシはレイジさんとの昔のよしみで協力しにきたのであって、カノンさんにそこまでする義理はないですから!」

 冬華は大げさに肩をすくめながら、不満を口に。そして満面の笑顔でカノンを突っぱなっした。
 どうやら今回強力してくれたのは今後の面白い舞台もそうだが、レイジと一緒に組みたい気持ちも強かったらしい。それほどまでに彼女に気に入られていたとは。こうなるとカノンはレイジのアイギス除名の件、なんとしてでも考え直さなければならず。

「おい、冬華。言いたいことはわかるが、それはちょっと……」
「レイジさんはだまっててください。これはあなたのために言ってることでもあるんですよ?」

 これによりレイジはなにも言えなくなってしまう。
 実際のところレイジにとって、この話は非常にいい流れ。今後も正式にカノンのもとで戦えるのだから。しかしレイジとしては、カノンの意志を無理やり曲げるのはどうかという葛藤かっとうもあり、あまり気が進まないのだが。

「――でも、レージくんをこれ以上巻き込むわけには……」
「――はぁ……、なんて甘い考えなんでしょうか。その程度の覚悟でアポルオンの変革を成しげられるとでも? 大事をなすにはそれ相応の犠牲ぎせいはつきもの。指導者としてそれぐらい、わきまえてもらわなければ!」

 戸惑うカノンに、冬華はビシッと正論をいい放つ。上に立つ者としての考えが、なっていないと。

「――うぅ……、なにも言い返せないんだよ……」

 そのあまりにもっともな意見に反論できず、うつむいてしまうカノン。

「ワタシをひきいれたいのであれば、まずその器量を見せてください! 同盟の条件もそれからですねー!――では、そういうことですので、ひとまずごきげんよう! カノンさんの覚悟が決まり次第、また連絡をください!」

 そして冬華は言いたいことを言うと、スカートのすそを持ち上げながら優雅ゆうがにお辞儀じぎを。そして手をひらひらさせ、部屋を出ていってしまう。 
 こうして東條冬華との会談は、いったん幕を閉じるのであった。
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