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4章 姫と騎士の舞踏 下  第1部 道化子との会談 

163話 カノンと天体観測

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「わぁ、レージくん、星がすごくきれいなんだよ!」

 カノンは夜空に輝く星々に両腕を広げ、ぱぁぁっと顔をほころばせる。
 時刻は深夜。レイジとカノンは今、白神しらかみコンシェルン本部の高層ビル屋上に来ていた。さすが高層ビルの屋上だけあって、景色は絶景。十六夜島の街々を見渡せ、遠くの方では月の光により青白く輝く海が広がっている。さらに手を伸ばせば星々に手が届きそうな錯覚さっかくを覚える。さすがにまだ肌寒いが、見事な夜景に感動しまったく気にならなかったといっていい。
 こうなったのもかえでに解放され部屋に戻る途中、偶然夜風に当たろうとしていたカノンに出会ったから。そして彼女に一緒にどうかと誘われ、ついていくことにしたのであった。
 ちなみに今のカノンの服装は、ピンク色のパジャマに淡い黄色のカーディガンを羽織っていた。

「ほんとだ。雲もないし、絶好の天体観測びよりかもな」

 すずしい夜風にあたりながらも、彼女につられ夜空を見上げる。空は雲がほとんどなく、満天の星々が輝いていた。

「九年前もよく、一緒にこうやって星空をながめてたよね」

 二人で夜空を見上げていると、カノンがなつかしそうに笑いかけてきた。

「ははは、そんなこともあったな。夜遅くに連れ出されて、星座の話をいっぱい聞かされたっけ」

 子供のころカノンが隔離かくりされているお屋敷にしばらく泊めてもらった時、よく彼女と天体観測をしたのだ。
 その場所は人里離れた山奥だったため、空気がんでおりよく満天の星空が。カノンはその光景を大変気に入っており、一人でたびたび星空を眺めていたそうだ。なのでレイジが訪れた時には真っ先に教えてくれ、よく天体観測に誘われたのであった。

「えへへ、星座に関してだけは、レージくんよりもくわしかったからね。だからあのころは得意げになって、つい熱弁しちゃったんだよ」

 カノンはテレくさそうに当時のことをかたる。
 レイジに外の世界を教わるばかりだったので、自分もなにか教えたかったのだろう。レイジが星にくわしくないのを知り、これなら自分でも教えることができると張り切っていたのを思い出す。

「そうだ。久しぶりに星座の話をしてあげようか? 日が昇るまでみっちりとだよ!」

 レイジの上着のそでをクイクイ引っ張りながら、楽しげに提案してくるカノン。

「ははは、明日のこともあるし、また今度な」
「えっへへ、約束なんだよ。もう一晩中付き合ってもらうんだから! じゃあ、今回は二人で星をながめるだけにしようかな」

 カノンは期待に胸をはずませ、かわいらしくウィンクしてくる。そしてレイジへそっと寄り添い、はにかんだ笑みを。
 こうしてもうしばらく二人で、星空を見上げることに。

「――そういえば今日のお泊り会、どうだったんだ?」
「もちろん楽しかったんだよ。お菓子を食べながらおしゃべりや、ゆきちゃんが用意してくれたレトロゲームでもり上がったね! 実はゆきちゃんプロ級の腕を持ってて、なかなか勝てなかったんだよ。もう、結月と二人係で、やっとでね!」

 ふとたずねた疑問に、カノンは両腕をブンブン振りながら目を輝かせて教えてくれる。その生き生きとした様子から、よほど楽しかったらしい。

「それで遊び疲れて寝ることに。そしたら結月がゆきちゃんの隣で寝たいって主張して、また盛り上がってね。まあ、結局、ゆきちゃんはわたしの隣で寝ることになったんだけど」
「そっか、ゆきの奴、なんとか結月の魔の手からのがれられたんだな」

 おそらく結月の提案に対し、ゆきは必死に抵抗したのだろう。下手すれば抱き枕にされ、でられまくる未来が待っているのだから。

「――あ、でもここに来る前に結月と代わってあげたから、寝ていたゆきちゃんは今ごろ、抱き枕にされてるかも……、――えっへへ……」

 回避できてよかったと思っている矢先、カノンが少しバツのわるそうに補足を。

「え? カノン、ゆきを裏切ったのか?」
「だってあまりに結月が懇願こんがんしてくるから、ことわれなかったんだもん。かわいいものスイッチが入った結月は、強かったんだよ」
「――ははは……、なんか目に浮かぶな。まあ、それならしかたないか。ゆきにはわるいが、最近頑張ってる結月のご褒美ほうびになってもらおう」
「――うん、そうだね、――えっへへ……」

 二人でゆきに同情しながら、笑いあう。
 今度ゆきになにかおごってやろうと、心の中で思うレイジであった。

「――あぁ、それにしても、今日は本当にいろいろあったんだよ。レージくんと外の世界で遊べたし、あこがれの学園にもいけた。そしていきなりの逃走劇。最後にはみんなではしゃぎまくったお泊り会。えへへ、どれもこれもすごく楽しかったなぁ……。この日のことは、一生忘れないんだよ……」

 カノンは胸を両手でぎゅっと押さえ、感慨かんがい深く今日のことを振り返る。まるで夢でも見ているかのよう、はかなげに幸せをかみしめてだ。

「ははは、大げさだな。安心しろ。これからこんな楽しい日々が毎日続くよう、必ずカノンを自由にしてみせるから」
「もー、レージくん、今キミは謹慎きんしん中。正式なアイギスメンバーじゃないの、忘れてないよね? だからレージくんはそんなことしなくてもだね」

 レイジの心からの宣言に、カノンは人差し指を立てながらやさしくたしなめてくる。
 だがここまで来たからには、レイジとしてもそうやすやすと引き下がるわけにはいかない。あともう少しでカノンを本当の意味で自由にできるのだから。

「ははは、今オレが力を貸してるのはアイギスメンバーとしてでなく、カノンの幼馴染としてだぞ? 大切な幼馴染が困ってるなら、助けないわけにはいかないさ」

 胸をドンっとたたき、力強くほほ笑む。

「――うぅ……、その言い方、ずるいんだよ……」

 するとカノンはパジャマのズボンをぎゅっとにぎり、はずかしそうにうつむいてしまう。

「お、効いてる? これならアイギスメンバーじゃなくても、カノンのために戦える大義名分に」
「それは絶対認めないんだよ。今だってレージくんを巻き込んでいるの、すごく心苦しいんだからね」

 カノンは申しわけなさそうに目をふせ、それだけはゆずってくれなかった。
 もっと頼ってほしいのだが、彼女にはまだ抵抗があるみたいだ。

「――ダメか……。カノンは強情ごうじょうだな」
「それはこっちのセリフなんだよ。どうして昔からキミは、私の言うことを聞いてくれないのかな?」

 レイジの腕を揺さぶりながら、恨めしそうに抗議してくるカノン。

「ははは、性分しょうぶんだからな」
「むー、レージくんのいじわるー」

 レイジのまったく聞き分けのない様子に、カノンはかわいらしくほおをふくらませる。
 そんな感じに楽しいひとときを過ごす、レイジたちなのであった。
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