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4章 姫と騎士の舞踏 下  第1部 道化子との会談 

161話 お泊り会

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「結月! ゆきちゃん!」

 最上階のエレベーターの前には、ゆきと結月の姿が。
 結月は現実に戻った後、しばらく休憩きゅうけいして白神しらかみコンシェルン本部のビルに向かうと連絡が。那由他とレーシスはカノンの今後にあたりいろいろやることがあると、あちこちを飛び回っているらしい。

「よう、こっちに来てたのか。二人とも、さっきはご苦労さん」

 手を上げ、二人をさっそくねぎらう。
 先程の報告によるとゆき、那由他、レーシスのチームはころ合いを見計らい、無事ログアウトできたとのこと。結月はルナとの戦闘でやられ、強制ログアウト。よってペナルティにより、だいたい三日はデュエルアバターを使えなくなってしまったとのこと。

「ほんとだよぉ。さっきの作戦中、ずっと改ざんで場の支配をやらされてたんだからさぁ。あー、もう甘いもの食べまくって、糖分とらないと頭がぁ」

 ゆきは髪をくしゃくしゃしながら、なにやらうったえだす。

「ははは、ほんと助かったぞ。さすがは剣閃の魔女さまだ。向こうの改ざんを封殺し、そこからの完璧なサポート。ゆきがいなかったら、マジきつかっただろうな」
「うん、今回の作戦で改ざんのサポートのすごさがよくわかったよ。自分たちだけ通信や索敵がし放題なんて。もしルナさんたちと立場が逆なら、連携が取れないまますぐに包囲されてたよね」

 そう、もし立場が逆なら、まず速攻でカノンの居場所がバレ敵が押しよせてきただろう。たとえ一時切り抜けようと、常に追手が押し寄せる状況。通信妨害により連携が取れず、安全なルートも割り出せない。もはや無事脱出するのがきわめて困難。今回の作戦は、あっという間に失敗におわっていた可能性が高かった。

「ふっふーん、ゆきの偉大さをもっとたたえるといいよぉ。敵の戦力的に、Sランクぐらいの電子のみちびき手じゃ歯が立たなかっただろうしー。もう、MVPもらってもいいぐらいなんじゃないー?」

 ゆきは両腰に手を当て、つつましい胸を張りながら豪語する。
 今回向こうは結構な数の電子の導き手を投入していたらしく、Sランク程度では物量で封殺される恐れがあったらしい。なのでゆきがドヤ顔するのも納得がいくというものだ。

「あはは、じゃあ、カノンの件が終わったら、たっぷりお礼させてもらうよ。今度、おいしいケーキの店にみんなで行こうね」
「それは楽しそうだね。みんなに一杯働いてもらった分、私がいくらでもおごるんだよ」
「――おぉ、おいしいケーキのお店なんて、引きこもりのゆきにはあこがれの場所そのものー。すごくかれるよぉー。――で、でも外に出向くのはちょっとなぁ……」

 結月とカノンの提案に、目を輝かせ食いつくゆき。だがすぐに憂鬱ゆううつそうに考えなおし始めた。

「ゆき、大丈夫! みんなで行けば怖くないよ! なんなら手をつないで行こう!

 すると結月は手を差し出し、まるでお姉さんのごとく頼れる笑顔をみせる。

「――うぅ、ゆづきー……」

 その優しさにゆきは感動するしかないようだ。
 しかしそう思ったのもつかの間。

「ふふふ、不安のあまり、ぎゅっとしがみついてくるゆき。――あぁ、かわいすぎる! もう、抱きしめたいぐらい! こう、ギューって!」

 結月はなにやらうっとりと妄想を。そして耐え切れなくなったのか、目の前にいたゆきをガバッと抱きしめだした。

「ギュー、じゃ、ないー! なに抱き付いてきてるんだぁ! ゆづき!?」
「――あはは……、ごめんね、妄想したゆきの姿があまりにもかわいくて、つい……」

 抱き着からながら必死に抵抗の意を見せるゆきに、結月はしまったと謝罪を。やはり彼女のかわいいもの好きは、自重できないらしい。

「もぉ、その時は身の安全のため、カノンのそばにいるもん!」

 ゆきはなんとか結月の抱き付き攻撃から抜け出し、カノンの後ろへ。そして彼女の上着をぎゅっとつかみながら、身を隠した。

「うん、私が隣ではげましてあげるんだよ。一緒にケーキを食べようね! ゆきちゃん」

 するとカノンはゆきの頭をやさしくなでながら、慈愛に満ちたほほえみを。

「――うぅ……、なんて慈愛に満ちた後光ごこうだぁ。もう、これからはゆづきじゃなく、かのんについて行くことにしよぉ」
「あわわ、ゆきをカノンにとられちゃうよー! どうしよう! 久遠くん!?」

 感動に打ち震え決心を新たにするゆきに、結月はあたふたと涙目でレイジに助けを求めてくる。

「まあ、なんだ。ファイトだ、結月。ところで部屋にはゆきが案内してくれるのか?」

 そんな彼女にとりあえずはげましの言葉を送ったあと、ゆきに気になっていたことをたずねてみた。

「まあねぇ。かえで姉さんにかのんの面倒を見るよう頼まれたし、ここからはゆきがおもてなしするよぉ。ついてきてー」

 こうしてゆきに案内してもらうことに。




「ここが用意してくれた部屋なんだね。すごく豪華なんだよ」

 ゆきに案内された部屋に入ってすぐ、カノンははしゃぎながらあたりを見渡す。
 高級感あふれる家具を取りそろえられた、広々とした一室。宿泊用のためベッドやバスルームなどが完備された、いたりつくせりの部屋であった。

「VIP用の客室だからねぇ。このビルはエデン協会の本部でもあるから、企業のお偉いさと協会の人間の仲介をすることが多々ある。その関係上、こういった施設も用意されてるんだぁ」

 この白神コンシェルン本部のビル。下の階層付近はエデン協会の本部になっており、協会に属する者たちのための様々な施設が用意されているのだ。仕事の仲介所や電子の導き手関係の施設。さらには宿泊施設や娯楽施設といったものまで完備。エデン協会のライセンスがあれば、かなりお得に利用できるのである。

「くおんはもっと下の階層にある、エデン協会たちの宿泊施設を使ってねぇ」

 くすくすといじわるっぽい笑みを浮かべ、告げてくるゆき。

「――ははは……、ありがたく使わせてもらうよ」

 これにはですよねーと、笑うしかない。
 さすがにレイジの分まで、VIPルームは用意してくれていないらしい。カノンはお姫様だが、レイジはいわばエデン協会アイギスのただの構成員。ざつに扱われて当然といえば当然であった。

「そっかー、カノンは今日ここに泊まるのか……。ねえ、ゆき、私もこの部屋に泊めてもらうことってできないかな? ちょうどベッドも二つあるし」
「ふっふーん、そんなことならお安い御用だぁ! 父さんからここの施設を好きに使える許可をもらってるから、ゆき権限で許可しとくよぉ!」

 結月のお願いに、ゆきはつつましい胸をどんっとたたき得意げに了承を。
 さすが白神コンシェルンを取り仕切る白神家の人間。しかもゆきは一応白神家次期当主候補でもあるので、この程度造作もないのだろう。

「やった! これでカノンとお泊り会ができる! あ、カノンは大丈夫? 疲れてるとかなら遠慮するけど」
「くす、むしろ大歓迎だね。久々に外で夜を過ごすんだから、はっちゃけたい気分なんだよ」

 首をかしげる結月に、カノンは両腕を差し出しにっこりほほえむ。

「じゃあ、決まりね!」

 そして二人は手を取り合いながら、ワイワイとはしゃぎだす。

「ゆきの権限か。ははは、そう聞くと、改めてすごいお嬢様だったんだなって思い知らされるな」
「ふっふーん、ゆきとコネを持ってることが、どれほどスゴイことか思い知ったかぁ!」

 ゆきはレイジに指を突き付け、ビシッと宣言する。
 もはやSSランクの電子の導き手というだけでも相当のコネなのに、そこへ白神家の影響力も。今思うとレイジの周りには、すごい立場の人間が多すぎる気が。

「そうだ! どうせならゆきも一緒にお泊りしようよ!」
「ゆきも!? うぅ、お泊り会なんて、体験したことないから勝手がわからないしー……。というか引きこもりのゆきにとって、またもやハードル高すぎないー!? そんなリア充イベントなんてぇ!?」

 ゆきは手をもじもじさせ、なにやら怖気おじけだす。そして両腕をブンブン振りながら、必死にうったえ始めた。
 彼女は現実でもかなりの引きこもりらしいので、今のような状況にほとんど慣れていないようだ。

「そう言わずに。こんなの友達なら当然のことよ!」
「――友達……、まぁ、ゆづきたちがどうしてもというならいいよぉ!」

 ゆきは友達という言葉に強く反応してか、テレくさそうに視線をそらしながら肯定を。

「あはは、ぜひともお願いするね!」
「えへへ、にぎやかなお泊り会になりそうなんだよ。となればいろいろ準備しないとだね」
「それならゆきに任せてぇ! 社内からかき集めてくるよぉ! なんなら大至急ゆきの家に戻って、持ってくるからぁ!」

 手を上げピョンピョン飛びながら、準備の役を引き受けようとするゆき。
 そして三人はお泊り会のことで、キャッキャッと盛り上がり始めた。

「じゃあ、オレは退散させてもらうよ。あとは好きにやっといてくれ」
「えっへへ、レージくんは参加しなくていいのかな?」

 部屋から出ようとすると、カノンがアゴに指を当て意味ありげに小首をかしげてくる。

「いやいや、それはいろいろとマズイだろ」
「えー、私は別にかまわないけどなー。レージくんのこと、信頼してるし。昔みたいに夜遅くまで一緒におしゃべりするの、すごく楽しそうなんだよ!」

 レイジの顔をのぞきこみながら、満面の笑顔を向けてくれるカノン。からかっていると思い気や、わりと本気らしい。

「カノンがよくても、結月やゆきだっているだろ?」
「だってさ、結月、ゆきちゃん?」
「うっ、少しテレるけど、久遠くんなら私もオッケーかな。大切な仲間だしね……。――あはは……」
「まぁ、くおんがどうしてもゆきたちと居たいというなら、考えなくもないよぉ」

 するとどこかテレながら、まんざらでもないような反応を見せる二人。
 否定の言葉を期待したが、まさか乗り気な態度とは。これだとすんなり立ち去るのが難しくなってしまう。

「ほら、みんな大丈夫そうだよ。むしろ来てくれたほうが、よさそうな空気をかもし出してるし。だからレージくんもどうかな?」

 カノンはレイジの腕をクイクイ引っ張り、期待に満ちたまなざしを向けてくる。

「――ははは……、すごく魅力的な提案だが、遠慮させてもらうさ。さすがに落ち着かないだろうし、なんかカノンにからかわれそうだ」

 美少女三人とお泊り会に参加するのは、男子として非常に心が揺れる案件。だがレイジにはあまりにハードルが高そうなので、ここは素直に撤退の意を示すことに。

「残念、それすごく楽しそうなんだけどなー。じゃあ、もし気が変わったらいつでも遊びに来てほしいんだよ。大歓迎だからね!」
「――ははは……、気が向いたらな……」

 カノンのまぶしい笑顔に見送られ、レイジは部屋をあとにするのであった。
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