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3章 第4部 逃走劇

153話 追撃者

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 レイジと結月はあれから無事カノンと合流し、管理区ゾーンまで来ていた。
 ゆきの改ざんによる場の支配によると、敵側の戦力がいるのは主に管理区ゾーン入口付近。どうやら序二位側はレイジたちの動きを呼んでいたらしく、すでに戦力をこのアビスエリアの十六夜いざよい島に集結していたようだ。だが上位序列ゾーンには戦力を配置していなかったらしく、特になにもないままカノンと合流しここまで来れたのであった。
 現在レイジたちがいるのは、管理区ゾーンに設置されていたとある大豪邸の中。外は巨大な噴水が際立つ、バカでかい西洋式の庭園が広がっている。このゾーンには大財閥の者たちの会談や密談の場にも使われるため、こういった建物も複数用意されているとのこと。ちなみになぜこんなところにいるかというと、今ゆきの索敵データをもとに那由他が脱出経路とプランを考えているところであった。
 ちなみに管理区ゾーン内の建物は、夜だと明かりがつく仕様になっているらしい。なので室内にはどこも電気がついており、外はなかなかきれいな夜景が広がっていた。

「では我々は先にいって、暴れてきますんで」

 屋敷の二階で待機していると、カノンと同じく合流したヴァーミリオンメンバーの青年が声をかけてきた。
 どうやら那由他の指示を受け、これから先行してくれるようだ。彼らに配置されている敵戦力を強襲してもらい、引きつけてもらう。その隙にレイジたちがカノンを連れ逃げる算段であった。

「ああ、頼んだ。できるだけ敵をかき乱してくれると助かる」
「了解。ではみなの者、行くぞ!」

 ヴァーミリオンメンバーたち六人は二階のテラスの方から地上に飛び降り、二人ペアとなって散開していく。あとは彼らが敵と交戦したのを確認し、出発するだけだ。

「ここからがいよいよ本番だね。えへへ、なんだかワクワクするんだよ!」

 カノンが小さく両手でガッツポーズしながら、うずうずと今の心境をかたりだす。

「へー、緊張じゃなく、ワクワクなんだな」
「うん、なんかこういけないことをする不良になった気分なんだよね! 私ってずっといい子を通してきたから、この感覚すごく新鮮なんだ!」

 てへへとかわいらしく舌を出しながら、はしゃぐカノン。

「それならせっかくの機会だし、存分に楽しんどいてくれ。小難しいことはオレたちが全部片づけておくからさ」
「えへへ、じゃあ、お言葉に甘えさせてもらおうかなー」
「ははは、お姫様を快適に送れるよう頑張らせてもらいますよ。――ということでゆき、状況はどうだ?」

 カノンと笑いあったあと、ゆきに現状をたずねてみた。

「向こうにもなかなかの改ざんの使い手がいるみたいで、ちょっとマズイ状況。場の支配の奪い合いなら今も主導権をにぎり続けてるけど、相手側にゆきの場所が補足されたぁ。場の支配に勝てないと見て、まずはゆき本人をつぶす作戦に変えてるみたいでさぁ」

 ゆきの声色には少し危機感が。どうやら万事うまくはいってないみたいだ。

「まあ、セオリー的にもそう来るよな」

 こういった場合、まず敵の改ざんによるサポートをつぶすのが先決。なので場の支配の主導権を奪いに行くのもそうだが、改ざんをしている本人の居場所を割り出したたきに行くのも手なのである。一応こちらも敵の索敵に引っかからずに済むステルスを張れるのだが、相手が腕の立つ改ざんの使い手だといづれ見つかってしまうのであった。

「今のところゆきが場の支配権を完全に掌握しょうあくしてるから、なおさらにねぇ。まぁ、敵を引きつけることができてるし、いいんじゃない? なゆたやれーしすがいるから、かのんが脱出するまではもつはずー」
「そっか。あれから敵戦力の方は?」
「さっきとあまり変わらず、そこまで多くないよぉ。でもいつ増援が来るかわからないから気をつけてねぇ」

 今ゆきの場の支配によって通信や索敵はできているが、敵は使えない状況。よって有利に事を運べているのだが、一つ足りないことが。通信のジャミングはできたらしいが、管理区ゾーン内の仕様で、外からの増援を防ぐ一定範囲内の侵入禁止制限はかけられなかったとのこと。よっていつ敵の増援が駆けつけるかわからないのだ。
 ちなみにクリフォトエリアのシティーゾーンも通信や外との連絡を遮断しゃだんできるが、侵入禁止設定だけはかけられないという。

「おぉ、そろそろ先行したヴァーミリオンメンバーが敵とぶつかるなぁ。あきらたちもすぐに動けるよう待機させてあるから、そっちも準備しといてねぇ」
「わかった。引き続きサポートを頼むぞ。――カノン、結月、そろそろ出よう」

 カノンと結月に出発をうながしていると、突如ゆきが驚愕きょうがくの声を。

「ッ!? なんだこれぇ!? くおん、やばいぞぉ!? そっちに猛スピードで近づく敵が!?」
「久遠くん!? あれ!?」

 結月の声にしたがいあわわてて窓から外の庭園を見ると、ちょうど三人の人影が空から降りてきた。現れたのはルナととおる、そして伊吹いぶきである。

「ルナたちだね。レージくん、これは少しまずいかもしれないんだよ」
「こっちの居場所がばれてるのか? ゆき、どうなってる?」
「待っててぇ!? すぐに調べるからぁ!」

 この場所にまっすぐたどりついたということは、カノンの位置がばれていることにほかならない。どうやらルナたちには、カノンの居場所を追跡ついせきできる手段があるみたいだ。

「作戦変更だ。カノン、裏口から逃げてくれ。オレと結月が時間を稼ぐ」

 考えていてもしかたないので、ゆきにこの件を任せ動くことに。
 




 一緒に戦う意志を示すカノンを説得し、レイジと結月は庭園へと出た。
 ルナたちはおそらく向こう側の主力。もしここで足止めできれば、カノンが逃げきる確率を大幅に上げられるはず。なのでなんとしてでも彼女たちを食い止めないと。
 ほかの敵の戦力はほとんど動いていないそうなので、カノンの位置情報をわかっているのはルナたち三人だけみたいだ。現在ここら一帯の通信回線はゆきの改ざんにより、ジャミングがかけられているため仲間に連絡がとれないのだろう。ならばルナたちを押さえることができれば、まだ優位性はレイジたちにあった。

久遠くおん。カノン様はどこだ」
「ははは、さすがに答える訳にはいかないだろ?」

 伊吹の圧をかけた質問に、レイジは笑って返す。

「どうやら屋敷の裏手から逃げるようですね。早く確保しに行きましょう」

 しかしルナは見事カノンの位置を特定してみせた。
 やはりカノンの位置が完全にばれているみたいなので、ゆきに急いで確認を。

「チッ、やっぱりカノンの場所がばれてやがる。ゆき、そういうわけなんだが、どうだ?」
「こっちでも確認したぁ。かのんから微弱だけど、発信機のような電波が出てるー。きっと例のつながれてる、くさりのせいだろうなぁ」
「止められるか?」
「ふっふーん、このゆきさまをなめるなぁ。――はい! 遮断完了!」

 ゆきは不敵に笑いながら改ざんを使い、その発信機の方に干渉かんしょうを。そして
見事解除しきってみせたようだ。

「ッ! 電波が途絶とだえました!? 見失う前に今すぐ向かわないと!?」

 これにはさすがのルナも動揺を隠せない様子。
 頼みの綱の探知が出来なくなったしまった今、カノンがこれからどこに向かうのか完全に見失うはめに。よってあせるのもしかたないだろう。

「よし、いいぞ。このままルナさんたちを足止めすれば、カノンが逃げ切れる! 結月! やるぞ」
「うん! 久遠くん! 倒すのは無理かもしれないけど、時間を稼ぐぐらいならやってみせるよ!」

 あとはカノンが遠くへ逃げるまで、ルナたちを引きつけるだけだ。
 たとえやられたとしても、その時間稼ぎのおかげで向こうはカノンの位置を見失う。結果、状況は先程とあまり変わらなくなるはず。まだゆきやアキラたちがいるので、最悪みんながなんとかしてくれるだろう。
 しかし。

「伊吹、透、ここは任せました!」
「いけ、ルナ!」
「彼らの相手はボクたちに」

 だが時間稼ぎをしようとするレイジたちの計画は、すぐさまくずれてしまう。
 というのもルナを取り巻くように強い風が吹いたかと思うと、彼女はその風に乗ってレイジたちの頭上ずじょうを越え建物の裏手へと。

「なっ!? 上空とか、マジかよ!?」
「レイジくん、わかってるとは思うけど、行かせないよ」
如月きさらぎの言う通りだ。お前たちにはここで大人しくしてもらうぞ」

 ルナを追おうとするが、当然透と伊吹がそうさせてくれない。
 透はダガーを、伊吹は背丈せたけほどある巨大な大鎌おおがまを取り出し、レイジたちの前に立ちふさがった。

「久遠くん、どうしよう?」
「仕方ない。結月、伊吹さんの相手、任せていいか? オレは透の方をやる。せめてこいつらだけでも足止めしよう」
「うん、わかった!」

 状況的にルナを追うことは難しい。ならば彼女のことはカノンに任せ、レイジたちは残りの二人を足止めするべきだろう。聞いた話によるとカノンはSSランク相当の腕前をもっているらしいので、そう簡単にはやられないはず。ゆえに透たちをいち早く倒し、駆けつけるべきだ。
 そしてレイジと結月は刀と氷剣ひょうけんを取り出し、透たちの相手をするのであった。

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