電子世界のフォルトゥーナ

有永 ナギサ

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3章 第3部 鳥かごの中の少女

141話 カノンとルナ

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 レイジとカノンはあれから十六夜いざよい学園生徒会室に来ていた。
 広々とした部屋の中心に長テーブルが置かれ、奥のほうには生徒会長用の立派な机が。そんな各席や棚(たな)といった家具、機材などここにあるもどれもが一級品。給湯室まで完備され、もはや学園の生徒会室としては最上級の一室である。
 そして出迎えてくれたのは十六夜学園高等部生徒会長であり、サージェンフォード家次期当主であるルナ・サージェンフォード。さらには如月きさらぎとおるという軍人の少年である。透に関してはルナの協力者らしく、戦力として招いたのだそうだ。ちなみにルナの護衛の長瀬伊吹ながせいぶきは、今執行機関の件で席をはずしているとのこと。
 現状四人は軽く自己紹介をしたあと、席に座りルナが入れてくれた紅茶を飲んでいる最中であった。

「それにしてもこんな形でカノン様とお話できるだなんて。フフフ、なんだか夢のような時間ですね」

 ルナは紅茶を飲みながら、うれしそうにほほえむ。
 彼女は以前巫女のでも一応カノンと会って話をしたみたいだが、その時は革新派のことばかりでプライベートの会話がまったくできなかったらしい。なのでこうして落ち着いて話せるのは初めてとのこと。

「カノン様はルナにとって、あこがれの人なのかい?」
「そうですよ、透。カノン様といえばアポルオン創設者の血を引き、幼少からアポルオンの巫女という大役をになわれているお方。私にとってはまさに雲の上のお方といっても、過言ではありません」

 透の質問に、ルナはカノンに手を向けながらどこか誇らしげにかたる。
 その口調には尊敬の念が込められており、心酔しんすいしているといってもいいほど。どうやらルナにとってカノンはかなり特別な存在のようだ。

「序列二位サージェンフォード家次期当主のルナがそこまで言うなんて。これは失礼のないようにしないとね」
「――あはは……、美化されすぎてないかな? 私ルナさんにそこまであこがれられるほど、すごくないんだよ?」

 あまりの心酔の言葉に、カノンは困った笑みを浮かべツッコミを。
「いえいえ、ご謙遜けんそんを。あなた様のことはお父様から聞かされています。子供ながらも非常にできた人格者であり、常にアポルオンの幾末を気にかけている素晴らしいお方だと。だから小さいころから、カノン様にずっと憧れていたんですよ!」

 だがルナはカノンの否定をもろともせず、目を輝かせ自身の想いを口に。

「そして実際に会ってみると、私の思っていた通りのお方でした! その神々しさはもちろんのこと、あふれんばかりの慈愛に満ちたオーラまでお持ちだなんて! 私も社交場で数多くの方々を目にしてきましたが、これほどあり方がきれいなお方を私は存じあげません!」 
「レイジくん、どうしよう!? ほめ殺しなんだよ!?」

 もはや止まらない褒め言葉の数々に耐え切れず、レイジの肩を揺さぶりながら助けを求めてくるカノン。

「うーん、ルナさんの言いたいことはわかるんだが、小さいころのカノンを知ってる身としては違和感がちょっと。カノンはこう見えて、ポンコツ属性を兼ねそなえて……」
「それひどくないかな!? 確かに昔はそうだったかもしれないけど、今はけっこうしっかりしてるんだよ! ――いや、それよりも。――ゴホン、あのね、ルナさんのことルナって呼んでいいかな?」

 両腕をぶんぶん振りながら抗議するカノンであったが、今はそれよりもとルナに向き直りたずねた。

「はい、もちろん、かまいませんよ」
「ありがとうなんだよ。じゃあ、私のことをカノンって呼んでくれるかな? あと同年代なんだから、普通に接してね! もちろん、透くんもだよ!」

 カノンは自身の胸に手を当て、二人へにっこりほほえみかける。

「――いえ、さすがにアポルオンの巫女であるカノン様を、呼び捨てにするわけには……」
「ハイハイ、そういう堅苦しいのはいいんだよ。直してくれないと私もルナを様付けで、超仰々ぎょうぎょうしく接するけどいいのかな?」

 恐縮してしまうルナに対し、カノンはいたずらっぽい笑みを向けた。

「――うぅ……、わかりました。では、カノンと呼ばせてもらいます」

 ルナは自分も身分が高い人間ゆえ、カノンの気持ちがわかったらしい。カノンの案をしぶしぶ受け入れたようだ。
 透もルナに続き了承の言葉を。

「わかったよ、カノンさん」
「ふう、これですっきりだね。さあ、身分なんて忘れて楽しくいこう!」

 カノンは腕を上げ、満面の笑顔を。
 彼女によって場の空気をたちまち和やかなものに。

「ふふ、やはりカノンはすてきな方ですね。内面の良さがこうして一緒にいるだけで伝わってきて、すがすがしい気分にさせられます。私、すっかりとりこになってしまいました」

 どうやらルナも彼女が持つ魅力にはまってしまったようだ。
 もはや人をきつけるカノンの圧倒的カリスマ力に、感心せざるを得ない。

「ルナー、あまり褒められると、居心地いごこちがわるくなってしまうんだよぉ」

 また気恥ずかし空気になってしまうと、机に突っ伏しまがらルナにジト目を向けるカノン。

「ふふ、すみません。ではカノン、あまり楽しい話題ではないのですが、一つ聞いてもよろしいでしょうか? 一度アポルオンの巫女であるあなたに、たずねたかったことがあるんです」
「おっ、なんでも聞いてほしいんだよ」

 カノンは顔をバッと上げ、胸をどんっとたたく

「ありがとうございます。カノンは今の革新派の暴挙ぼうきょに対して、どうお考えなのですか?」
「そうだね。革新派がなにを思って、アポルオンそのものに反旗はんきをひるがえしたのかはわからない。そこにはきっと私が納得できる言い分も、多々ふくまれているんだとは思うけど……。うん、ただ一つ言えることは、なにもかも争いで解決しようとするのはいただけないんだよ」

 カノンは瞳を閉じ、みずからの考えをかたっていく。
 やはり彼女は革新派のやり方に賛同できないようだ。確かに彼らの言い分には人々の自由もふくまれている。よって今の行き過ぎた管理をあまり快く思っていないカノンも、思わずうなづいてしまう考えが多々あるのだろう。しかし問題はそれを叶える手段だ。革新派は文字通り力で無理やり事を成しげようとしている。それは平和を願うカノンにとって、もはやあいいれないもの。ゆえに彼女は革新派たちを認めるわけにはいかないのだ。
「彼らのかかげる信念がいくら正しくても、その起こした争いの果てに多くの混乱を招くはず。そうなると今までたもってきた世界のバランスが崩れ、滅茶苦茶になってしまうかもしれないんだよ。さすがにそれは見過ごせない。なんとしてでも止めないとだね」

「はい、カノンの言う通りだと思います。最悪世界中にアポルオンの全容が露見ろけんし、我々の活動が困難になる恐れもありますからね」
「それともう一つ。本来みなをまとめみちびくべきはずの、アポルオンの巫女としての問題なんだよ。私の力がおよばないせいで、こんな事態になるまで発展させてしまったんだもん。言ってしまえばこの出来事は私の落ち度。だからなんとしてでもこの手で、アポルオンの内乱を止めないといけない。それがアルスレイン家の代表である者の責務……。ここに宣言するよ。私カノン・アルスレインはこの事態の収拾に全力を尽くすと!」

 胸に手を当て、申しわけなさそうに目をふせるカノン。しかしそれもつかの間、手をバッと前にだし、信念のこもったまなざしで声高らかに宣言を。
 彼女は自身のふがいなさにくじけず、前を見すえていた。その現実をただ受け止めるだけでなく、変えようとしてだ。そう、カノンは無力なままでおわらす気はないのだ。たとえどれほど困難であろうと、自身に課せられた役目を果たそうとしている。これこそレイジが力になってあげたい、カノン・アルスレインという少女。自らの信念をなにがなんでもつらぬき通す、凛々りりしき姫君ひめぎみ。そんなカノンだからこそ、那由他や結月も彼女について行くことを選んだのだろう。

「――すばらしい……」

 するとルナがうっとりとしながら、賞賛の拍手はくしゅを。

「うん? ルナ、どうしたのかな?」
「私、感服いたしました! まさかそこまでの想いをいだいていらっしゃるとは! ええ、あなたこそアポルオンの巫女にふさわしいお方です!」

 ルナは机をバンとたたきながら、勢いよく席から立ち上がる。そして祈るように手を組み、カノンをあがめだした。
 その勢いはさっき以上で、あまりの感激に瞳をうるませるほど。完全にカノンに心を奪われていたといっていい。

「――えっへへ……、大げさすぎるよ、ルナ……」
「いえいえ、カノンほどの人格者がアポルオンの巫女であらせられて、私ほこらしく思います!」  
「あわわ、またほめ殺しタイムが始まったんだよ!? 助けて、レージくん、透くん!?」

 またもや絶賛の嵐に、カノンはあわあわと助けを求めてくる。

「ははは、今度はルナさんの意見にまったくもって同意だな。それでこそカノンだ」
「ボクも今のカノンさんの覚悟に感銘かんめいを受けたよ。ぜひ応援させてほしい」

 だが助けを求めた先にも賞賛の言葉が。

「二人まで!? もぉ、気恥ずかしくて仕方ないんだよぉ!?」

 腕をぶんぶん振りながら、もだえるカノン。こうして生徒会室に、彼女のあたふたする声がこだまするのであった。

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