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3章 第2部 姫の休日

132話 シティゾーン

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 レイジたちはあれから電子の導き手の仕事に出かけるゆきに、社会見学みたいな感じでついていくことにしたのである。なのでゆきのアーカイブポイントにマナを残し、出かけていた。とはいってもレイジたちの四人のすぐそばには、白い子猫型のガーディアンが。この本物そっくりの白猫は、マナが遠隔で操作しているのである。この方法でならばマナがほかの場所へ出向くことを、まもるから許されていたのだ。
 レイジたちはゆきの索敵により、安全なコースを歩いていく。ここに来るまでにエデン協会と狩猟兵団がやり合っていたり、情報を求めて彷徨さまよっている者たちや場の支配を張りめぐらせている電子の導き手などいろいろ見かけていた。もしゆきのナビゲートがなければ、彼らと何度かぶつかり戦闘は避けられなかっただろう。こうして厄介事に巻き込まれずに済み、安全に目的の場所へとたどりついた。
 ちなみに足で向かったのは、普段巫女の間から出れないマナのため。散歩がてら、外の景色を見せてあげたいというゆきの案であった。

「ここが前に久遠くおんくんが言ってた、クリフォトエリアの街なのね」

 結月は人々が行きかう廃墟の街並みを、キョロキョロ見渡す。

「ああ、通称シティゾーン。そしてここは十六夜いざよい市方面に位置するシティゾーンだ」

 シティゾーンとは、クリフォトエリアで人々が行きかう都市のことを示す。このゾーンは各アースのクリフォトエリアに複数設置されており、エリアを利用する者たちのいわばたまり場となっているのだ。

「シティゾーンって、どんな特徴があるの?」
「NPCの店が転々としてて、後はこれまでのクリフォトエリア同様無法地帯。街だからといって、特に戦闘を禁止されてるわけでもない」

 シティゾーンの構造は基本廃墟街はいきょがいであり、その街中のあちこちにNPCが経営する武器や防具、乗り物といったクリフォトエリア関連のアイテムが売られている。中には人々が集まるためようにと、バーやダンスクラブといった施設が複数設置されているのだ。ただ店といっても中は、外の雰囲気に合わせて廃墟ふうなのだが。
 あと各シティゾーンの中心地には巨大な高層ビル、タワーと呼ばれる場所と、そのすぐ近くに競技場のような広い施設があった。
 もちろんここはクリフォトエリア内なので戦闘行為も普通に認められており、そこら中で戦闘が勃発ぼっぱつするのが日常茶判事なのである。

「まあ、ほかと大きく違うところはアーカイブポイントを設置できないのと、このゾーンの範囲内なら普通に外部との連絡、ネット回線やアーカイブスフィアにつながれることぐらいか」

 シティゾーン内ではアーカイブポイントを設置することができず、拠点をかまえることができないのである。
 そしてこのゾーンを利用する者たちにとってありがたいのが、クリフォトエリアにいながら現実や他のエリアとの連絡が取れるということ。そのためこのシティゾーンで用事をこなしながらも、緊急の連絡を受けられるのだ。おかげでレイジは暇な時シティゾーンに来て、街中をぶらぶらできる。その便利さもあってか、シティゾーンには多くの利用者がおとずれるのであった。
 あとネット回線やアーカイブスフィアにもつなぐことが可能。ただアーカイブスフィアに、上位データを送り込んだりすることはできなかった。

「へぇ、そうなんだ。あはは、なんだか結構にぎわってて、楽しそうな場所に見えるね! お店とか一杯あって!」

 結月は危機感をとくに抱かず、目を輝かせっぱなし。もはや早く見て回りたいとうずうずしていた。
 そうなるのもしかたのないことだろう。今レイジたちが歩いている街道は両端りょうたんに出店のようなものが広がっており、そこを多くの人々が行きかいにぎわっている状況。どことなくお祭りのような印象を受けてもおかしくはない。その各店々には強化された武器や重々しい防具、中にはいかにも改造してありそうなバイクや車といった乗り物まで並べられている。もちろん商品の画像だけ並べてあったり、なにも出さず情報屋や電子の導き手の看看板だけを掲げていたり、普通の飲食物の屋台などいろいろあった。

「うぅ、人ごみに慣れていないため、酔っちゃいそうですよぉ」

 白い子猫型のガーディアンから、マナの弱弱しい声が聞こえてくる。
 彼女は完全に隔離かくりされていたため、こういった人ごみはそうそう出くわさなかったのだろう。疲れるのも無理はない。

「まな、大丈夫かぁ。ほら、ゆきが抱きかかえといてあげるから、ゆっくりしとけぇ」
「ゆきねえさま、なんてお優しい……。マナ感激ですぅ」

 ゆきはマナの操る白い子猫型のガーディアンを、抱きかかえる。
 彼女のような見た目が小さい女の子が子猫をかかえている姿は、とてもほほえましく絵になっていたといっていい。

「あはは、あー、ゆき、かわいいなー……」

 ちなみに結月はというと、うっとりしながらゆきたちに見入っていた。
 おそらくこんな人ごみが多い大通りでなかったならば、すぐさま抱き付いていただろう。

「レージくん、シティゾーンはNPCの店よりも、人がやってる店の方がメインなのかな?」

 カノンも物珍しそうに辺りを見回し、たずねてくる。
 時々視界に移るNPCの店には誰も目をとめず、彼らのような人間が出している店にみな感心を示していたからだ。

「ああ、ここのNPCが売ってるのは、特になにもカスタマイズしていない通常品。だからより高性能のものを手にいれようと思ったら、誰かがアレンジしたものになってくるんだ。というわけでご覧の通り、どこも繁盛はんじょうしてるってわけだ」

 クリフォトエリアを利用するならば、まずデュエルアバターの装備を整えなければならない。武器は実際にNPCの店に入るか、販売のシステムにアクセスして買うのが一般的。剣や槍、銃などその種類は数えきれないほど細かく用意されているのだが、一つ問題が。それらはどれも標準性能であり、それ以上の性能のモノは基本ないのである。これは防具や乗り物なども同じであり、より性能のいいモノを求めるならば人が手掛けた強化品を買うしかないのであった。
 ゆえに電子の導き手や、強化品を扱う商人の店は常に人が押し寄せるほど。非常にもうかるビジネスとかなんとか。

「ゆきもこれからこんな感じで、店を開くんだぁ。といっても注文を受けてた人達に商品を渡すだけだから、ひっそりとした場所でねぇ」

 彼女の用事とは電子の導き手としてのビジネスだ。今回は受けていた注文のしなの受け渡し。なので指定した場所に、取りに来てもらう形らしい。彼女の場合自身のアーカイブポイントバレを恐れているため、こうやって商品を持ってきて売買することが多いのだ。

「ほらぁ、ゆづきに注文されたデュエルアバターを渡したような感じだぁ。武器やガーディアン、デュエルアバターとかは、アイテムストレージから取り出して直接相手に渡さないといけないからねぇ。――はぁ……、送れる機能とかあれば、こんな苦労せずに済むのになぁ」

 ゆきはやれやれと肩をすくめる。
 装備類や電子の導き手製のアイテム類は、クリフォトエリアなどでしか渡すことができない仕様になっている。しかも送るといった機能がないため、直接手渡しでだ。しかもこういう部類のものは、相手に所有権を移す設定をしなければならないため、非常にめんどくさいとゆきがぼやいていたのを思い出す。

「受け渡しだけなら、久遠くんに依頼したりとかしないの?」
「渡した後その使用者に合うように、直接最終調整とかしたいからねぇ。使用感や今後のオーダーの話とかも直に聞けるし、こればっかりは引きこもりのゆきでも出向かないと仕方ないんだもん。くおんに依頼するなら、当然護衛でだなぁ」
「今回はいつものように依頼してこなかったが、よかったのか?」

 レイジは割とゆきの護衛という名目めいもくで、彼女のビジネスに付き添っているのだ。ゆきはSSランクの電子の導き手ゆえ、標的になる可能性が非常に高い。なので取引現場で襲われるということも。実際ゆきはかなり強いので一人でも切り抜けることが可能であるが、念には念とレイジを護衛に雇うことが多いのだ。
 剣閃の魔女であるゆきは、アイギスとビジネスパートナーの関係。ゆえに持ちつ持たれつの関係ゆえ彼女が力を貸してほしいとき、率先そっせんして彼女の依頼を引き受けるのであった。

「最近いろいろあったし、くおんも疲れてるだろうなぁってぇ。特に今は取り込み中みたいだし、今回はゆき一人でやっとくよぉ。だからゆづきやかのんたちとここの観光でも、楽しんで来たらぁ」

 ゆきはテレくさそうにしながら、気をつかってくれる。

「レイジにいさまの分も、マナがゆきねえさまのお手伝いをしときますねぇ」

 マナもマナで両腕で小さくガッツポーズし、笑いかけてくれた。

「助かるよ、ゆき、マナ。じゃあ、オレたちは」
「そうだね。ゆきたちにはわるいけど、私たちはここの観光をしようか!」
「はしゃぐのはいいがなにがあるかわからない分、気を引き締めてな」
「うーん、でもメインエリアとあまり変わらないみたいだから、危ない実感がね」

 あまりぴんときていないのか、アゴに指を当て首をかしげる結月。

「一応明確な違いはあるぞ。例えばあれだ」

 レイジが指さす先には看板を持ったり、通り行く人に声をかけてアピールしている集団が何人も。

「あそこに傭兵みたいな感じで、依頼を募集してる奴らがいるだろ。どこぞに属してるかソロかは知らないが、依頼を探すためわざわざシティゾーンに出張ってきてるんだよ。だから戦力がほしい時は、ああいった奴らを雇うのもありかもしれない。たまに電子の導き手がいる時もあるから、場の支配のサポートを受けられるようになるかもしれないぞ」

 ここにいるのは、そこまで有名ではないデュエルアバター使いたちが多い。依頼が入らず暇しているため、みずから売り込みにきたりしているのだ。だが時に常に依頼が入るほど凄腕のデュエルアバター使いが、まぎれ込み傭兵として出張っていることも。そのためうまく引き当てれば、強力な戦力になることは間違いなし。しかも今後、ビジネスパートナーの関係を築ける可能性もあった。

「もちろん逆にメンバーを募集してるのもいる。エデン協会や狩猟兵団のメンバー勧誘だったり、データ狩りに行って一儲ひともうけしようと即席の戦力を集めてたりとかさ。中にはレジスタンスが同士を集めてるとかヤバイのもあるから、変なのに引っかからないようにしろよ」

 クリフォトエリア内のデータを求めてさまよっている者たちの大半は、このシティゾーンで募集をかけ集まっていることが多い。バックアップ用のメモリースフィアの運搬うんぱん時を狙う場合、ウデすぐりの護衛がついているもの。そんな彼らからデータを奪うのは個人だと至難しなんわざ。ゆえに戦力をかき集め集団で襲うのが理にかなっており、この場所でまずはメンバー集めをするというわけだ。

「うん、わかった、気をつけるよ」
「あとここにいる人間は血の気の多い奴らが結構いるから、治安がかなり悪い。変な難癖なんくせつけられて、そのまま戦いに勃発ぼっぱつするなんてよくある話だ。もしそんな場面に出くわしたら、遠慮なくぶちのめしてやればいいぞ。ここは無法地帯そのものだがら、なんの罪にも問われないし、ははは」

 かつての狩猟兵団時代、アリスとよくシティゾーンでからんでくる奴らをたたきのめしたものだ。ヒマな時はそれ目当てでシティゾーンに立ちより、闘争に興じていたことも懐かしい思い出である。

「――あはは……、それって絶対、久遠くんのノリの話よね。もっと穏便な対処方とかないの?」

 そんなレイジのレクチャーに、困った笑みを浮かべる結月。

「その時は適当に助けを求めればいいよぉ。金で釣れば、いくらでも力になって追い払ってくれるだろうしねぇ」
「なるほどね」
「でも、私たちにはレージくんがついてるから、なにも心配いらないかな。ね、レージくん!」
 カノンは期待に満ちたまなざしを向け、ウィンクしてくる。

 ここまで頼られているのなら、こたえないわけにはいかないだろう。レイジは芝居しばいがかったように、うやうやしくお辞儀じぎしてその意志を示す。

「ははは、お嬢様方の護衛は、この久遠レイジが全力でつとめさせてもらいますよ」
「えへへ、頼りにしてるんだよ!」

 そして二人で子供のころのように、むじゃきに笑いあった。

「わぁ!? なんだか甘々な空気が出てるよぉ!? もう、これ男たちの嫉妬で狙われそぉ」

 こんな道の往来で軽くいい雰囲気を出しているレイジたちに、ゆきはあきれながらツッコミを入れてくるのであった。
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