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2章 第4部 尋ね人との再会

109話 アイギスメンバー

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 レイジたちは最奥の巫女のに向かうため、駆け抜ける。
 このアポルオンの巫女が隔離かくりされている場所は、神殿しんでん風の内装がほどこされたセキリュティゾーンといった感じだ。ダンジョンのように張りめぐらされた通路を進みながら、ところどころに配置された敵を倒していく。

「この先の広い空間にデュエルアバターが三人、ゼロアバターが八人待ち構えてるよぉ」

 ゆきが改ざんであたりを索敵し、報告してくれる。

「わかった。アリス、行くぞ」
「フフフ、任せてちょうだい」

 アリスに声をかけ、レイジは駆ける速度上げた。
 目標は敵集団。後ろにはアリスを引きつれ敵本陣に真っ向から突っ込む。

「敵が来たぞ、迎え撃て!」

 相手側の配置は主戦力であるデュエルアバター三人が前衛を務め、残りのゼロアバターは後方から援護えんごする陣形のようだ。
 デュエルアバター三人は、いち早く向かってくるレイジとアリスを止めようと前に。前二人が剣とおのを持った近接タイプ、残りの一人は武器を持っていないところを見るとアビリティ重視のタイプらしい。ゆえに真っ先に片付けるのは。
 アリスに目配せしようと後ろを振り返るが、すでに彼女はいなかった。気の早いアリスのことなので、打ち合わせもせず真っ先に突っ込んでいってしまったようだ。

(ほんとアリスの方は平常運転だな。戦いになると我先と突っんでいくんだから)

 なつかしさのあまり、思わず笑ってしまう。

「じゃあ、昔のように、危なっかしい困った戦友の後ろにつくとするか」

 レイジはアリスの動きを予測し、行動を開始した。
 次の瞬間重力アビリティによって流星と化した斬撃が、上空から降りそそぐ。アリスの狙いはアビリティ重視で戦うであろう、デュエルアバター使い。上空からゆえ、前衛を無視しての攻撃だ。さすがに接近戦タイプのデュエルアバターでないため対処できず、彼女の暴虐ぼうぎゃくの剣に斬り裂かれた。

「くっ、まだ!」

 しかし相手を強制ログアウトしきれなかったようだ。相手は大ダメージを受けながらも、アビリティで反撃に打ってでようと。

「させないさ。これでおわりだ」

 だがアリスのすぐ後ろにはレイジの姿が。レイジはあれから前衛二人の攻撃を刀で受け止めかいくぐり、そのままアビリティタイプのデュエルアバター使いまで間合いを詰めていたのだ。
 レイジの剣閃がきらめき、敵をまたたく間にち斬った。
 タイミングはまさに完璧。アリスの攻撃後即座にくり出された一撃だ。たとえ初撃で仕留めきれなくても、二撃目でしとめきる。もし倒しきれなくてもアリスの攻撃後の隙を狙わせない、見事なコンビネーション。言葉で説明すると簡単だが、よほど息が合っていないとできない芸当である。
 一人目が強制ログアウトしたのを確認し、レイジとアリスは背中合わせに剣をかまえる。せまりくるデュエルアバター使い二人を迎え撃つために。

「やられたか……、こうなれば我ら二人でなんとしてでも止めるぞ」

 相手が間合いに入ったと瞬間、レイジとアリスは剣を振るう。互いの動きを熟知しているからこそできる、完璧な連携でだ。

「その程度の戦力でオレたち黒い双翼のやいばを」
「止められると思ってるのかしら?」

 そして黒い双翼の刃の剣舞が乱れ咲き、敵を容赦ようしゃなく斬り込んでいった。
 これで勝負がついたのは確かだが、当然敵は彼ら三人だけではない。すでにゼロアバター使いの集団がガーディアンや銃器を使い、レイジたちに攻撃を仕掛けようと。今だ敵デュエルアバター使いと戦っているレイジとアリスを狙い、八体のガーディアンとショットガン持ちのゼロアバター使い二人が殺到する。

「まったくー、好き放題突っ込みやがってぇ。これだから脳筋どもはぁ。ほら、剣閃の魔女直々じきじきの援護だぁ。ありがたく思ってよねぇ」

 だがレイジたちの後方には、すでにこの場に到着していたゆきたちの姿が。ゆきは文句を言いつつも、念動力のアビリティで八本の装飾された剣を操作。指揮者のごとく手を振りかざしたと同時に、八本の剣が縦横無尽に駆けめぐり敵を次々につらぬきしとめていく。
 ゆきの演算力は電子の導き手SSランクから分かる通り、世界トップクラス。そんな彼女だからこそ操る剣舞の操作精度はもはや神業かみわざレベル。標的がどれだけ回避や防御をためそうが、おかまいなしに食らいつくといっていい。もはや彼女のかなでる剣閃は、Aランクの腕があったとしても対処するのが難しいほどなので、彼らがかなう道理はなかった。
 すでに前衛側は壊滅状態に近いため、後方にいたゼロアバターたちはあわてて銃器の引き金を引こうとするが。

「おっと! 横やりは入れさせませんよー! 那由他ちゃんの華麗かれいなる銃さばきに見惚みほれながら、退場してくださいねー!」
「私たちは一刻も早くその先に向かわないといけないの。だからそこをどいて」

 那由他と結月が彼らに告げる。
 次の瞬間精確無慈悲の銃弾と、いかなるものも串刺しにするといわんばかりの氷杭ひょうこうが、ゼロアバター使いの集団に降り注ぎ撃破していった。

「――くそ、こんな奴ら止められるはずが……」

 那由他と結月の攻撃に、かろうじて生き残ったゼロアバター使いは一人だけ。彼はよろめきながらなんとか立ち上がり、絶望の言葉をこぼす。レイジたち五人の圧倒的戦力に、戦意を完全に喪失そうしつしたようだ。

「うわぁぁぁぁ!?」

 そんな最後に残った一人であったが、レイジとアリスにすれ違いざまに斬られ強制ログアウトしていくのであった。

「アリス、その左腕で本当にいけるのか? 破損してるせいで思うように動かせないだろ?」

 戦闘をおえレイジは隣で走っているアリスに、気になっていたことをたずねた。
 実は彼女のデュエルアバターはレイジとの戦いで大ダメージをっただけでなく、左腕の内部データが破損したらしいのだ。外側の傷ならば自己修復でふさぐことが可能だが、内部の破損となると自然回復か改ざんによる修復の二択。
 今回自然回復に任せるには圧倒的に時間が足りない。一応ゆきや那由他に改ざんで修復を頼む手はあるのだが、彼女たちはこれから巫女の制御権の破壊のため改ざんをフルに使わなくてはならず、できるだけ精神的負担を避けた方がいい。そのため現状のデュエルアバターの状態で、事に当たらないといけないのであった。

「フフフ、問題ないわ! なんたって今はレージがいるんだもの! アタシ一人ならさすがにマズイけど、頼りになる戦友さんがフォローしてくれるはずでしょ? これまでみたいに背中を預けられるレージがいれば、なにも心配せず思う存分に戦えるんだから!」

 高ランクのデュエルアバター戦において、片腕に支障があるのは大きなハンデを背負っているも同じ。ここに来るまでの敵はそこまで手強い相手ではなかったため特に問題はなかったが、アーネスト・ウェルベリック相手だと一気に不利になったといっていい。にも関わらずアリスはあっけからんに、大丈夫だと言い張った。戦友としてレイジのことを信頼しきっているがゆえに。

「ははは、オレもアリスとの戦いで結構ボロボロなんだが、そこまで言われるとこたえないわけにはいかないな」
「フフフ、期待してるわよ。二人で力を合わせれば相手がアーネスト・ウェルベリックだろうと、そう簡単に遅れは取らないはず。アタシたち黒い双翼の刃の力、とくと見せてあげましょう!」
「ああ、昔みたいにいっちょう派手にやるとするか」

 互いのこぶしをあわせ合い、不敵に笑い合う。
 ともに連戦によるダメージでボロボロだが、黒い双翼の刃としてのコンビネーションでカバーすればなんとかなるはず。これまでもこういった修羅場を何度もくぐり抜けてきたのだ。ギリギリの戦いなど、もはや慣れっこであった。

「それで結月の方は大丈夫なのか? デュエルアバターのダメージもそうだけど、連戦による精神的負担も相当だろ?」
「――あはは……、少し厳しいかな……。ここまで来たのはいいけど、消耗しょうもう具合からそこまで戦力になれそうにないかも……」

 結月は目をふせ、力なく笑った。
 なんでも十六夜いざよいタワーの内部空間の戦闘でかなり無茶をしたらしく、今後の戦闘に支障をきたすかもしれないと聞いていたのだ。

「十六夜タワーの戦いでゆきが裏で手を打つ関係上、ゆづきには前線で頑張ってもらったからなぁ。その分、今回は後方でゆっくりしといた方がいいと思うよぉ」
「では結月にはわたしとゆきちゃんの護衛についていてもらいましょうかねー。巫女の制御権の破壊工作に集中するため、身動きが取れなくなるでしょうし!」

 今回那由他とゆきは改ざんで巫女の制御権に干渉するため、戦闘に参加せず作業に専念するとのこと。そのため作業を邪魔させないように、彼女たちを守る人間が必要になってくるというわけだ。前方はレイジたちが受け持つが、後方からシャロンたちが増援として駆けつける可能性が。よって常に護衛しつつ、後ろを警戒してもらうのが得策であろう。

「そういうことでアーネストさんの相手は、レイジとアリス・レイゼンベルトでお願いします! こちらの邪魔をさせないよう、時間を稼いでくれるだけでいいので!」

 今回巫女の制御権さえ破壊出来ればこちらの勝利。別にアーネストを倒す必要がないのである。さすがに倒すのは今の状況的に厳しいが、時間を稼ぐというのなら話は別。十分勝ち目のある戦いであった。

「わかった。オレとアリスでなんとしてでも、くい止めてみせるさ」

 拳をグッとにぎり、気合いを入れる。

「フフフ、時間稼ぎと言わず、どうせなら倒してあげようかしらね」

 ほおに手を当て、ニヤリと笑うアリス。

「よぉし、この先が最奥の巫女の間みたいだぁ。向こうについて安全を確保しだい、始めるからぁ。マナも準備の方はいいかぁ?」
「いつでもいけますよぉ、ゆきねえさま!」

 白い子猫型のガーディアンから、マナのやる気に満ちた声が。
 ちなみにこれはゆきが、ワシのガーディアンを通して話していたのと同じ原理。改ざんで通信を無理やりつなげ、スピーカー状態にしているそうだ。

「さぁ、段取りが整ったところで乗り込みますよー! 約一名アリス・レイゼンベルトとかいう変なのがまざっていますが、アイギスメンバー出撃です!」

 那由他はいよいよ大詰めということで、元気いっぱいに宣言する。ただ一人に対してはさらっととげのある言い方でだが。
 すると聞きづてならないと、ゆきが指を突き付け抗議を入れてきた。

「おい、こらぁ、なゆた。その言い方だと、ゆきもアイギスに入ってることにならないかぁ?」
「あはは、まあまあ、ゆきちゃん、細かいことは気にしたら負けですよー! ここは流れに任せてですねー」
「いいね、それ! もうここまで来たら、ゆきもアイギスに入ってしまおうよ!」

 那由他が楽しそうにゆきのアイギス入りを押しているの見て、結月もノリノリでその話に乗っかり始めた。

「いろいろ手を貸してあげるとはいったけど、そこまでしてられるかぁ! ゆきのゆうがな電子の導き手ライフが、アイギスの仕事で埋まって台無しになるだろうがぁ!」 
「あら、抗議なら、ひどい言われようしてるアタシもしたいわ。こう見えてアタシ、アイギスのメンバー候補なのよ。レイジとこうして戦えるなら案外わるくないって思えてきたし、もしかするとアイギスにお世話になるかもしれないんだから」

 ゆきのアイギス入りをめぐって那由他たち三人が盛り上がっていると、アリスまで話に加わりだす。
 結月の推薦すいせんの話は断る気だと思っていたが、アリスの中ではまだ検討中だったらしい。アリスがアイギスに入るとなると戦力的に大幅アップであり、レイジの彼女に対する心残りもかなり軽減されるだろう。それは嬉しいのだが、レイジをめぐって那由他と争いに発展し、事務所がカオスな状況になるような気がして止まない。レイジの精神的負担がさらに増えそうであった。

「はぁ? 一体この女はなにを言ってるんですかねー。――あはは……、きっと那由他ちゃんの聞き間違いですよねー……。レイジにつきまとうアリス・レイゼンベルトが入ってきたら、もはや悪夢どころではありません。ええ、なにかの間違いのはず……」

 アリスのどこか勝ち誇ったような発言に、那由他はレイジと同じような感想を抱いたのだろう。彼女は信じたくないのか、笑って現実逃避を。

「――はぁ……、もう着くんだから、おしゃべりはあとだ。ほら、先にいってるぞ」

 せっかく引き締めた空気がゆるくなり始めたので、彼女たちに注意をうながす。そして走る速度を上げて、どんどん前へ。

「――あっ、待ってくださいってばー! レイジ!」

 那由他の静止の声に止まらず、レイジは一足先に巫女の間へとつながる通路を走り抜けるのであった。
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