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2章 第2部 隠された世界
85話 女の子との縁?
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那由他と合流し、結月の権限で管理区ゾーンを少し散策。それから聖域と呼ばれる上位序列ゾーンに来ていた。ちなみにファントムの小鳥型のガーディアンは、人目にふれないようにレイジのポケットに入って顔をのぞかせている状態という。
この上位序列ゾーンに入るには、アポルオンメンバーの当主クラスの権限が必要とのこと。そのため結月の妹の美月に話をつけ、関係者が入れる一時的な許可証を発行してもらったのである。この許可証の発行には制限があり、最大でも七人ぐらいまでしかつれていけないとのこと。ちなみに美月との連絡手段だがアビスエリアもクリフォトエリア同様、基本外部との連絡が取れない。だが管理区ゾーンだけはアーカイブポイントみたいに外部との連絡、ネット回線やアーカイブスフィアにつながれるらしくなんとかなったのであった。
この聖域と呼ばれる上位序列ゾーンだが、入るのに強い権限がいるだけでとくに変わったところがなく、基本現実の十六夜島そのままの街並みが広がっていた。あとこの十六夜島内部には、野良のガーディアンが徘徊していないとかなんとか。なので今回、彼らに出会えそうになかった。
「ファントムさん、今具体的にどんなことをしてるんですか?」
「くわしい地理データの収集かなー。一応改ざんで全体のデータとか取れるけど、そこまで焦点を絞れない。電子の導き手の隠ぺい工作や、アーカイブポイントの場所、柊さんが欲しがってる十六夜島の隠されたギミックとかは無理ってわけ。これらをつかむには実際に足を使って、周辺の地理データを取り込んでいくしかないんだよねー」
この作業はゲームでよくあるダンジョンを進むごとに、マップが更新されていく感じといっていい。だからファントムの指示通り、管理区ゾーンに続き上位序列ゾーンを歩き回っているのであった。
「その収集したデータって、ガーディアンを通して直接メモリースフィアに書き込んでるんだろ? それを回収する時はどうするんだ?」
アビスエリアはクリフォトエリアと基本同じゆえ、自分のところのアーカイブスフィアの端末にもアクセスが不可能。結果データを取り込んだとしても保存することができない。これは個人端末の方も同じ。クリフォトエリアで作ったデータは自動的に高位のデータとみなされ、アーカイブスフィアで管理するしかなかった。ゆえにこういったところでデータを取る時は、メモリースフィアに一度入れて後からアーカイブスフィアに移す作業をしないといけないのである。
今回のように遠隔操作でデータを取る場合は、改ざんの起点となっているガーディアンにしかデータを保存できる権限がない。だからメモリースフィアを装着し、データを書き込む流れ。なのでのちに回収しないといけないわけだ。
「アビスエリアでのアーカイブスフィアやメモリースフィアは、クリフォトエリアの十六夜島になら送り込める仕様になってるんだってさー。だからすべてがおわったらワタシのところに送って、回収する手はずなのよん!」
ようするにアビスエリアからデータを回収する場合、最低でも二人は必要ということ。クリフォトエリアに送ったとしても、そこに誰もいなければ奪われる可能性がある。一々ログアウトして取りに行こうとしても、三十分は入れないため必ず受け取る側を用意しないといけないのだ。
ただこの仕様だとクリフォトエリアの十六夜島にアーカイブポイントを設置しておけば、安全に回収できると思うかもしれない。だがあそこの十六夜島だけ、なぜかアーカイブポイントを設置できないように設定されているので不可能なのであった。おそらくそれではリスクを背負うことにならないみたいな感じで、セフィロトが手を打ったのだろう。
「それなら一度ここに入れた財閥側のアーカイブスフィアも、クリフォトエリアに戻せるというわけか」
「ファントム、それでここの十六夜島について、なにかつかめました?」
「うーん、難しいねー。この十六夜島は侵入制限がある特別な構造になってるから、なにかしらのシステム的ギミックはあると思うんだけどさー。やっぱりそういう核心に近づくことはもっと奥、あのいかにも怪しいブラックゾーンあたりとかかなー」
ファントムの口調から、今のところとくに目ぼしい情報は手に入っていない様子。
「あそこは入れないので望み薄ですが、すぐそばまで行けばなにかわかるかもしれませんねー。では、向かいましょう!」
「ちょっと、タンマ! せっかくこんな奥まで来たんだし、そんなあせらずもっとゆっくり見て回ろうなのよん! いろいろアクションを起こしてどうなるかの実験とか、そこらへんにいる人間をこっそり強制ログアウトして情報を得たりとかさー」
勝手に進行を進めようとする那由他に、ファントムは抗議を。
アビスエリアの隠された秘密もそうだが、情報屋としてほかにも実用性のあるさまざまなデータを仕入れておきたいみたいだ。
「えー、嫌ですってばー! 今は時間がないので、また今度でお願いします!」
しかし那由多は彼女の言い分を、笑顔でバッサリ切る。もはや有無を言わさない勢いでだ。
「――ああ……、危ない橋を渡らず、データを集めまくれるチャンスだったのになー。お二人さんだけなら、もっとワタシのいうことを聞いてくれたはずだし、どうしてこんなことに……」
聞く耳すら持ってくれない那由多に、ファントムは嘆きだす。
初めに那由他に対し危惧していた予感が見事に当たっていたみたいだ。
ちなみにファントムがあまり強くでれないのも、下手すれば自分の身が危険にさらされるかもしれないからだ。彼女はガーディアンを操作するのと、のちにメモリースフィアを回収するため現在クリフォトエリアの十六夜島にいるらしい。そのため那由他に執行機関の人間を呼ばれ、取り囲まれでもしたら目も当てられない状況に。
「アポルオンを嗅ぎまわるのはあまりお勧めしませんよー。見つかれば執行機関がだまっていませんしねー!」
那由多は愛銃のデザートイーグルをちらつかせ、ふくみのある笑顔で警告する。
「――それにしてもまったくー。レイジってばなんでこうも、女の子と縁がありまくりなんですかー! これってハーレム系の主人公属性がついちゃってるレベルですよ! こっちにしてみればライバルが増えすぎて、たまったものじゃありません!」
すると今度はレイジの方に振り向く那由多。そして両腰に手を当てて、ざぞ不服そうにほおを膨らませてくる。
「なに言ってるんだ、あんたは」
「だってだって、女の子の知り合いが、急増しちゃってるじゃないですかー! さっきなんか美月ちゃんとデートの約束を取りつけてましたしー!」
那由多はレイジの肩をポカポカたたきながら、涙目でうったえてくる。
「――あ、あれは向こうが勝手にだな……」
上位序列ゾーンに入る許可をとりに、管理区ゾーンで結月の妹の美月に連絡した時のことを思い出した。
「姉さん、その許可はできません」
「美月、そこをなんとか、お願い!」
結月は両手を合わしながら、必死に頼み込む。
「あのですね、美月は姉さんに危ない目にあってほしくないんです。だからアポルオンの巫女の手伝いをすると言いだした時も、反対したはず。そんな美月が許可するはずないでしょう?」
「――うぅ、そうなんだけど……」
優しくたしなめてくる美月に、押されがちの結月。
心配だからという彼女のことを思っての答えゆえ、押し通すのが難しそうである。
「美月ちゃん! 今どうしても向こうに行きたいんですよ! だからなんとかなりませんかね?」
そこへ那由他が結月の加勢と説得に加わった。
「女性に頼まれてもなんの心変わりもしませんね。クス、どうせなら美月好みのイケメンをご所望します」
それすらも軽く流されてしまい、美月は冗談交じりのむちゃぶりをしてくる始末。
もはや一向に折れてくれる気はないらしい。
「――ぐぬぬ……、手強いですねー! ふっふっふっ、ならば! こちらの秘密兵器! アイギスきってのイケメン、久遠レイジの出番ですよー!」
悔しがりながらも那由他は次の手を。そう、美月のオーダーに近しいであろう人物、レイジを説得に参加させたのだ。しかも大声で自信満々に宣言をしながら。
「おい、なにはずかしい紹介をしてくれてるんだよ?」
「あはは、大丈夫です! レイジは那由他ちゃん一押しのイケメンさんですからねー!」
レイジの抗議に、那由多はウィンクしながら笑いかけてくる。
「――いや、そういう問題じゃなくてだな」
「――ほぉ、あの久遠ですか……」
すると美月がふと、意味ありげにつぶやきだした。
レイジの名字になにやら気になることがあったらしい。そのことについてたずねようとすると。
「――久遠さん、姉さんとの関係は恋人かなにかですか?」
「み、美月!? ほ、本人を目の前になんてことを!? ――あ、あはは……、もうこの子ったら……、私と久遠くんは仕事仲間みたいなもので、まだそんな関係じゃ……」
美月の爆弾発言に、結月は顔を真っ赤にして目を丸くする。そして手をもじもじさせながら、チラチラとレイジの方に視線を向けてきた。
「ほぉ、まだ、ということはもしかして」
「ち、ちがっ!? い、今のはその!? な、なんというか……、あわわ……」
手をバタバタさせながら、とり乱す結月。
彼女は純情な分、この手の話題には過剰に反応してしまうみたいだ。
「クス、あの姉さんが男性にこのような反応を示すとは……。これはいろいろと面白いことになるかもしれませんね……」
対して美月はさぞ愉快げにかたる。
事前に得ていた情報通り、なかなかいい性格をしていらっしゃるようだ。その笑みにはどうからかってやろうという、ニュアンスがふくまれてたに違いない。
「先程の件、了承しました。ですが見返りを要求します。久遠さん、今度美月とデートしてください」
そして美月はまたまた爆弾発言を繰り出すのであった。
これが美月との一連の流れ。レイジは唖然とし、那由他と結月は声を合わせ驚愕したのだ。
まあ、その程度で済むのならばと、了承することになったわけである。那由他も結月もどこか複雑そうな心境をしていたみたいだが、状況が状況なのでしぶしぶ受け入れたのであった。
「久遠くん、ごめんね。美月ったら、私をからかうためにあんな条件を出したと思うの」
結月は申し訳なさそうに謝ってくる。
「大丈夫だ。おかげでこのゾーンに入ることができたし、一日ぐらいの犠牲ならなにも問題はないさ」
「――レイジにフラグが次々と……。――はぁ……、結月も怪しい感じですし、マジでどうするべきなんでしょうか……」
ちなみに那由多はというと、ショックのあまり額に手を当てながらふらついていた。
そんなやり取りをしていると、突然別の声が。
「――チッ、誰かと思えばまた那由他か……」
出会ったのはルナの護衛である少女、長瀬伊吹であった。
「おや、伊吹ちゃんもこの十六夜島の調査ですか?」
那由多は伊吹に気づき、彼女の方へと駆け寄る。
「まあな。ルナの権限でこのゾーンに入って、革新派連中が行動を起こそうとしてないか見回ってたところだ。一応、自分のほかにも、保守派側に依頼されて来ている執行機関は何人かいるがな」
アポルオンの秩序のために動く執行機関も、今回の件はアビスエリアが怪しいのかもしれないと踏んでいるらしい。そのためこの上位序列ゾーンにはほかにも、執行機関の者たちが見回っているということに。
「えー、それなら那由他ちゃんも呼んでくださいよー! ここに来るのってかなり大変なんですからー!」
那由多は伊吹の腕を揺さぶりながら、抗議する。
「誰が那由他みたいな騒がしい奴を呼ぶか。それにこれは保守派側につく執行機関への依頼。アポルオンの巫女側のお前には関係ない」
しかし伊吹は一切かえりみずに却下した。
昨日もそうだったが、伊吹としてはあまり那由他を快く思っていないみたいだ。ただそれは単に苦手としているだけで、そこまで嫌ってはいない雰囲気が。
「ぶー、ほんとつれませんねー。伊吹ちゃんとは執行機関の養成所時代、期待の新人美少女コンビとして名をはせあった仲だというのに! 伊吹ちゃんのいけずー」
「クク、那由他。一つ言っておくが、ここなら遠慮せずにやれるからな」
相変わらずなれなれしい那由多に、伊吹はアイテムストレージから大鎌を取り出し突きつけた。
「あはは、痛いツンは遠慮しておきますよ! それでどうです? 進展の方は?」
「――はぁ……、現状は特に変わった様子はない。向こうに幻惑の人形師がいるせいで改ざんの索敵の効果が薄いから、こうやって直に見回っているわけだがほんと静かなものだ。このままなにもなさそうなら、自分はルナのところでいつでも動けるよう待機しとくべきかもな」
あっけからんに笑う那由多に、伊吹はため息をつきながら大鎌をしまう。そしてアゴに手を当てながら、今の状況を説明してくれた。
改ざんで周りを索敵するのが一番楽なやり方。しかし相手にはSSランクの電子の導き手である幻惑の人形師がいる。そんな相手がステルス状態を張っていると、そこらの電子の導き手の索敵ではとらえきれない可能性が。なので実際に目視で探すか、対象に近づいて至近距離から改ざんの索敵をするしかないのであった。
「お前たち、あまり面倒事は起こすなよ。ここはアポルオンの聖域と呼ばれる場所。なにかしでかしたら、こちらが一斉に狩りにいくことになるからな」
鋭い視線を向け、忠告してくる伊吹。
「心配ご無用! 心得えてますよー! 伊吹ちゃん!」
「ほんとに頼むぞ。ではな」
伊吹はそう言って、この場から去っていった。
「なあ、那由他。今執行機関がうようよいるってことだろ? これってファントムを連れてたらヤバイよな?」
「――あはは……、ですねー。見つかったら大事になりそうですし、もうここでこの件はおしまいにしましょうか?」
那由多は困った笑みを浮かべ、提案してくる。
「まあまあ! そう言わず! こっちはバレないように、隠ぺい工作しまくってるからそう心配しなさんな!」
しかたないので再びファントムのガーディアンを連れて、データ収集を再び開始することに。
この上位序列ゾーンに入るには、アポルオンメンバーの当主クラスの権限が必要とのこと。そのため結月の妹の美月に話をつけ、関係者が入れる一時的な許可証を発行してもらったのである。この許可証の発行には制限があり、最大でも七人ぐらいまでしかつれていけないとのこと。ちなみに美月との連絡手段だがアビスエリアもクリフォトエリア同様、基本外部との連絡が取れない。だが管理区ゾーンだけはアーカイブポイントみたいに外部との連絡、ネット回線やアーカイブスフィアにつながれるらしくなんとかなったのであった。
この聖域と呼ばれる上位序列ゾーンだが、入るのに強い権限がいるだけでとくに変わったところがなく、基本現実の十六夜島そのままの街並みが広がっていた。あとこの十六夜島内部には、野良のガーディアンが徘徊していないとかなんとか。なので今回、彼らに出会えそうになかった。
「ファントムさん、今具体的にどんなことをしてるんですか?」
「くわしい地理データの収集かなー。一応改ざんで全体のデータとか取れるけど、そこまで焦点を絞れない。電子の導き手の隠ぺい工作や、アーカイブポイントの場所、柊さんが欲しがってる十六夜島の隠されたギミックとかは無理ってわけ。これらをつかむには実際に足を使って、周辺の地理データを取り込んでいくしかないんだよねー」
この作業はゲームでよくあるダンジョンを進むごとに、マップが更新されていく感じといっていい。だからファントムの指示通り、管理区ゾーンに続き上位序列ゾーンを歩き回っているのであった。
「その収集したデータって、ガーディアンを通して直接メモリースフィアに書き込んでるんだろ? それを回収する時はどうするんだ?」
アビスエリアはクリフォトエリアと基本同じゆえ、自分のところのアーカイブスフィアの端末にもアクセスが不可能。結果データを取り込んだとしても保存することができない。これは個人端末の方も同じ。クリフォトエリアで作ったデータは自動的に高位のデータとみなされ、アーカイブスフィアで管理するしかなかった。ゆえにこういったところでデータを取る時は、メモリースフィアに一度入れて後からアーカイブスフィアに移す作業をしないといけないのである。
今回のように遠隔操作でデータを取る場合は、改ざんの起点となっているガーディアンにしかデータを保存できる権限がない。だからメモリースフィアを装着し、データを書き込む流れ。なのでのちに回収しないといけないわけだ。
「アビスエリアでのアーカイブスフィアやメモリースフィアは、クリフォトエリアの十六夜島になら送り込める仕様になってるんだってさー。だからすべてがおわったらワタシのところに送って、回収する手はずなのよん!」
ようするにアビスエリアからデータを回収する場合、最低でも二人は必要ということ。クリフォトエリアに送ったとしても、そこに誰もいなければ奪われる可能性がある。一々ログアウトして取りに行こうとしても、三十分は入れないため必ず受け取る側を用意しないといけないのだ。
ただこの仕様だとクリフォトエリアの十六夜島にアーカイブポイントを設置しておけば、安全に回収できると思うかもしれない。だがあそこの十六夜島だけ、なぜかアーカイブポイントを設置できないように設定されているので不可能なのであった。おそらくそれではリスクを背負うことにならないみたいな感じで、セフィロトが手を打ったのだろう。
「それなら一度ここに入れた財閥側のアーカイブスフィアも、クリフォトエリアに戻せるというわけか」
「ファントム、それでここの十六夜島について、なにかつかめました?」
「うーん、難しいねー。この十六夜島は侵入制限がある特別な構造になってるから、なにかしらのシステム的ギミックはあると思うんだけどさー。やっぱりそういう核心に近づくことはもっと奥、あのいかにも怪しいブラックゾーンあたりとかかなー」
ファントムの口調から、今のところとくに目ぼしい情報は手に入っていない様子。
「あそこは入れないので望み薄ですが、すぐそばまで行けばなにかわかるかもしれませんねー。では、向かいましょう!」
「ちょっと、タンマ! せっかくこんな奥まで来たんだし、そんなあせらずもっとゆっくり見て回ろうなのよん! いろいろアクションを起こしてどうなるかの実験とか、そこらへんにいる人間をこっそり強制ログアウトして情報を得たりとかさー」
勝手に進行を進めようとする那由他に、ファントムは抗議を。
アビスエリアの隠された秘密もそうだが、情報屋としてほかにも実用性のあるさまざまなデータを仕入れておきたいみたいだ。
「えー、嫌ですってばー! 今は時間がないので、また今度でお願いします!」
しかし那由多は彼女の言い分を、笑顔でバッサリ切る。もはや有無を言わさない勢いでだ。
「――ああ……、危ない橋を渡らず、データを集めまくれるチャンスだったのになー。お二人さんだけなら、もっとワタシのいうことを聞いてくれたはずだし、どうしてこんなことに……」
聞く耳すら持ってくれない那由多に、ファントムは嘆きだす。
初めに那由他に対し危惧していた予感が見事に当たっていたみたいだ。
ちなみにファントムがあまり強くでれないのも、下手すれば自分の身が危険にさらされるかもしれないからだ。彼女はガーディアンを操作するのと、のちにメモリースフィアを回収するため現在クリフォトエリアの十六夜島にいるらしい。そのため那由他に執行機関の人間を呼ばれ、取り囲まれでもしたら目も当てられない状況に。
「アポルオンを嗅ぎまわるのはあまりお勧めしませんよー。見つかれば執行機関がだまっていませんしねー!」
那由多は愛銃のデザートイーグルをちらつかせ、ふくみのある笑顔で警告する。
「――それにしてもまったくー。レイジってばなんでこうも、女の子と縁がありまくりなんですかー! これってハーレム系の主人公属性がついちゃってるレベルですよ! こっちにしてみればライバルが増えすぎて、たまったものじゃありません!」
すると今度はレイジの方に振り向く那由多。そして両腰に手を当てて、ざぞ不服そうにほおを膨らませてくる。
「なに言ってるんだ、あんたは」
「だってだって、女の子の知り合いが、急増しちゃってるじゃないですかー! さっきなんか美月ちゃんとデートの約束を取りつけてましたしー!」
那由多はレイジの肩をポカポカたたきながら、涙目でうったえてくる。
「――あ、あれは向こうが勝手にだな……」
上位序列ゾーンに入る許可をとりに、管理区ゾーンで結月の妹の美月に連絡した時のことを思い出した。
「姉さん、その許可はできません」
「美月、そこをなんとか、お願い!」
結月は両手を合わしながら、必死に頼み込む。
「あのですね、美月は姉さんに危ない目にあってほしくないんです。だからアポルオンの巫女の手伝いをすると言いだした時も、反対したはず。そんな美月が許可するはずないでしょう?」
「――うぅ、そうなんだけど……」
優しくたしなめてくる美月に、押されがちの結月。
心配だからという彼女のことを思っての答えゆえ、押し通すのが難しそうである。
「美月ちゃん! 今どうしても向こうに行きたいんですよ! だからなんとかなりませんかね?」
そこへ那由他が結月の加勢と説得に加わった。
「女性に頼まれてもなんの心変わりもしませんね。クス、どうせなら美月好みのイケメンをご所望します」
それすらも軽く流されてしまい、美月は冗談交じりのむちゃぶりをしてくる始末。
もはや一向に折れてくれる気はないらしい。
「――ぐぬぬ……、手強いですねー! ふっふっふっ、ならば! こちらの秘密兵器! アイギスきってのイケメン、久遠レイジの出番ですよー!」
悔しがりながらも那由他は次の手を。そう、美月のオーダーに近しいであろう人物、レイジを説得に参加させたのだ。しかも大声で自信満々に宣言をしながら。
「おい、なにはずかしい紹介をしてくれてるんだよ?」
「あはは、大丈夫です! レイジは那由他ちゃん一押しのイケメンさんですからねー!」
レイジの抗議に、那由多はウィンクしながら笑いかけてくる。
「――いや、そういう問題じゃなくてだな」
「――ほぉ、あの久遠ですか……」
すると美月がふと、意味ありげにつぶやきだした。
レイジの名字になにやら気になることがあったらしい。そのことについてたずねようとすると。
「――久遠さん、姉さんとの関係は恋人かなにかですか?」
「み、美月!? ほ、本人を目の前になんてことを!? ――あ、あはは……、もうこの子ったら……、私と久遠くんは仕事仲間みたいなもので、まだそんな関係じゃ……」
美月の爆弾発言に、結月は顔を真っ赤にして目を丸くする。そして手をもじもじさせながら、チラチラとレイジの方に視線を向けてきた。
「ほぉ、まだ、ということはもしかして」
「ち、ちがっ!? い、今のはその!? な、なんというか……、あわわ……」
手をバタバタさせながら、とり乱す結月。
彼女は純情な分、この手の話題には過剰に反応してしまうみたいだ。
「クス、あの姉さんが男性にこのような反応を示すとは……。これはいろいろと面白いことになるかもしれませんね……」
対して美月はさぞ愉快げにかたる。
事前に得ていた情報通り、なかなかいい性格をしていらっしゃるようだ。その笑みにはどうからかってやろうという、ニュアンスがふくまれてたに違いない。
「先程の件、了承しました。ですが見返りを要求します。久遠さん、今度美月とデートしてください」
そして美月はまたまた爆弾発言を繰り出すのであった。
これが美月との一連の流れ。レイジは唖然とし、那由他と結月は声を合わせ驚愕したのだ。
まあ、その程度で済むのならばと、了承することになったわけである。那由他も結月もどこか複雑そうな心境をしていたみたいだが、状況が状況なのでしぶしぶ受け入れたのであった。
「久遠くん、ごめんね。美月ったら、私をからかうためにあんな条件を出したと思うの」
結月は申し訳なさそうに謝ってくる。
「大丈夫だ。おかげでこのゾーンに入ることができたし、一日ぐらいの犠牲ならなにも問題はないさ」
「――レイジにフラグが次々と……。――はぁ……、結月も怪しい感じですし、マジでどうするべきなんでしょうか……」
ちなみに那由多はというと、ショックのあまり額に手を当てながらふらついていた。
そんなやり取りをしていると、突然別の声が。
「――チッ、誰かと思えばまた那由他か……」
出会ったのはルナの護衛である少女、長瀬伊吹であった。
「おや、伊吹ちゃんもこの十六夜島の調査ですか?」
那由多は伊吹に気づき、彼女の方へと駆け寄る。
「まあな。ルナの権限でこのゾーンに入って、革新派連中が行動を起こそうとしてないか見回ってたところだ。一応、自分のほかにも、保守派側に依頼されて来ている執行機関は何人かいるがな」
アポルオンの秩序のために動く執行機関も、今回の件はアビスエリアが怪しいのかもしれないと踏んでいるらしい。そのためこの上位序列ゾーンにはほかにも、執行機関の者たちが見回っているということに。
「えー、それなら那由他ちゃんも呼んでくださいよー! ここに来るのってかなり大変なんですからー!」
那由多は伊吹の腕を揺さぶりながら、抗議する。
「誰が那由他みたいな騒がしい奴を呼ぶか。それにこれは保守派側につく執行機関への依頼。アポルオンの巫女側のお前には関係ない」
しかし伊吹は一切かえりみずに却下した。
昨日もそうだったが、伊吹としてはあまり那由他を快く思っていないみたいだ。ただそれは単に苦手としているだけで、そこまで嫌ってはいない雰囲気が。
「ぶー、ほんとつれませんねー。伊吹ちゃんとは執行機関の養成所時代、期待の新人美少女コンビとして名をはせあった仲だというのに! 伊吹ちゃんのいけずー」
「クク、那由他。一つ言っておくが、ここなら遠慮せずにやれるからな」
相変わらずなれなれしい那由多に、伊吹はアイテムストレージから大鎌を取り出し突きつけた。
「あはは、痛いツンは遠慮しておきますよ! それでどうです? 進展の方は?」
「――はぁ……、現状は特に変わった様子はない。向こうに幻惑の人形師がいるせいで改ざんの索敵の効果が薄いから、こうやって直に見回っているわけだがほんと静かなものだ。このままなにもなさそうなら、自分はルナのところでいつでも動けるよう待機しとくべきかもな」
あっけからんに笑う那由多に、伊吹はため息をつきながら大鎌をしまう。そしてアゴに手を当てながら、今の状況を説明してくれた。
改ざんで周りを索敵するのが一番楽なやり方。しかし相手にはSSランクの電子の導き手である幻惑の人形師がいる。そんな相手がステルス状態を張っていると、そこらの電子の導き手の索敵ではとらえきれない可能性が。なので実際に目視で探すか、対象に近づいて至近距離から改ざんの索敵をするしかないのであった。
「お前たち、あまり面倒事は起こすなよ。ここはアポルオンの聖域と呼ばれる場所。なにかしでかしたら、こちらが一斉に狩りにいくことになるからな」
鋭い視線を向け、忠告してくる伊吹。
「心配ご無用! 心得えてますよー! 伊吹ちゃん!」
「ほんとに頼むぞ。ではな」
伊吹はそう言って、この場から去っていった。
「なあ、那由他。今執行機関がうようよいるってことだろ? これってファントムを連れてたらヤバイよな?」
「――あはは……、ですねー。見つかったら大事になりそうですし、もうここでこの件はおしまいにしましょうか?」
那由多は困った笑みを浮かべ、提案してくる。
「まあまあ! そう言わず! こっちはバレないように、隠ぺい工作しまくってるからそう心配しなさんな!」
しかたないので再びファントムのガーディアンを連れて、データ収集を再び開始することに。
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