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1章 第1部 エデン協会アイギス
20話 片桐家のご令嬢
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「ただの学生ってことしか聞いてないな」
「――そっか……、でも大体のことは察してるよね。私が少し特別な境遇にいることを」
「ああ、結月がたぶん、あの有名な片桐グループの関係者ってぐらいは。それがどうした?」
なにも聞かされていなくても、大体のことは察しがついていた。
片桐という有名な苗字。レーシスの言っていた、身分の高い人をさすような言葉。そして彼女のどこか気品溢れる立ち振る舞い。これだけヒントがあれば答えにたどり着けるというもの。その答えは、世界有数の財閥の一つ、片桐グループの関係者ということだ。片桐家の経営する財閥は東條家のところと比べると一ランク下がるぐらいだが、それでも誰もがその名を知っているといっても過言ではない、トップクラスの財閥の一つであった。
「ううん……、久遠くんって那由多と同じで、普通に接してくれるから少し気になったんだ。那由他は全部察してたと思うけど、久遠くんの場合は私の身分を知りながら、こんなふうに自然体で接してくれてるのかなって」
「――もしかしてオレって失礼だったか……?」
レイジはおそるおそる結月にたずねる。
彼女の場合、那由他やレーシスのような特別な感じがほとんどせず、いかにも年相応の少女という感じで話しやすかったのだ。そのため片桐家のことを忘れていつの間にか、なんの気兼ねなく接してしまっていたのである。
「全然そんなことない! 逆にうれしいの! 片桐家は世界的にすごい影響力があって、けっこう特別扱いされてしまうことが多いんだ……。そのせいでフレンドリーに接してくれる人ってほとんどいなかったから……」
結月は両手をぶんぶん左右に振って、どこか寂しげにかたる。
やはり名家のお嬢様となると、いろいろ苦労があるのだろう。彼女の雰囲気にはそのことをわかってしまうほどの、影がふくまれている気がした。
「まあ、あの片桐家のご令嬢って聞いたら、やっぱり気後れしてしまうのも仕方ないのかもな……」
「うん。そうなの。家の関係でみんなにすごいイメージを持たれることが多くて、正直疲れるのよね……。期待されてる以上裏切るわけにもいかないから、頑張らないといけないし……」
スカートの裾をぎゅっとにぎりしめ、目をふせる結月。
「そっか。――でもそうなると、結月は学園のアイドルみたいなことになってるんじゃないのか? ただでさえ気品溢れてて、よくできたお嬢様って感じだしな。男子からしたら高値の花すぎて、崇拝レベルとかになってたりして」
少し重々しい雰囲気になってしまったため、空気を変えようと冗談交じりに言う。
とはいってもこれに関しては、正直本当なのではと思う内容であったが。
「が、学園のアイドル!? そ、そんなわけないよ! 私も他のみんなと同じ、普通の女の子なんだから!」
すると顔を真っ赤に染め、あわわと必死に否定してくる結月。
「いやいや、結月の場合容姿、性格からして絶対それぐらいなってると思うぞ」
「もうっ! そんなにからかわないで! ――て、テレちゃうじゃない……」
最終的には恥ずかしそううつむいてしまう。
反応がかわいいためもう少しツッコミたい衝動にかられるが、さすがにかわいそうなのでやめておくことにした。
「ははは、わるい、わるい」
「――ええと、話を戻すと、久遠くんみたいに普通に接してくれるとすごくうれしい。家のことじゃなく、本当の私を見てくれてる感じがしてね……。そのおかげで気楽に振る舞えるから、これからも同じように接してほしいかな」
そして結月は手をモジモジしながら、上目遣いでお願いしてきた。
「そういうことなら任せてくれ。ここに来る前は狩猟兵団にいた無法者だから、あまり堅苦しいのは好きじゃないんだ」
「ありがとう! 久遠くんみたいな男の子が同僚にいてくれて、すごく助かるよ。――実は私こういう関係にすごく憧れてたんだ。身分とか関係なく、信頼しあえる仲間みたいな関係を……」
「きっとすぐに実現するさ。現にオレはもう、結月のことを信頼できる仲間だって思い始めてるからさ。だからアイギスへの加入を心から歓迎するよ」
瞳を閉じ自身の胸の内に秘めていた願いを語る結月に、つい今思ったことを打ち明けてしまう。
すると結月が急におかしそうに笑いだした。
「ふっ、あはは!」
「――う、そんなに笑われるような反応されると、すべった感じで恥ずかしいんだが……」
「あはは、ごめん。なんだか認めてもらったことが嬉しくて、つい、ね……。――ありがとう、久遠くん。私もキミのこと、信頼できる仲間と思ってる。だから改めて自己紹介をしよう」
うれしそうに涙を払い、立ち上がる結月。そしてレイジの方に近より、満面の笑顔で手を差し出してきた。
「四月から十六夜学園高等部、二年生になる片桐結月よ。これからもよろしくね! 久遠くん!」
「元狩猟兵団で今は那由他にこき使われてる、アイギスのメンバー、久遠レイジだ。こちらこそよろしくな、結月」
彼女の差し出してくれた手をつかみ、レイジも自己紹介を。
そしてお互いほほえみ合う。
「なんかこういうのってすごくいいよね! 普通の学生をやってるだけだと、絶対に味わえない高揚感みたいなものを感じられるもの!」
「――普通の学生か……。そういえば結月って、学園に通いながらアイギスの仕事をするのか?」
相当嬉しかったのかはしゃぐ結月に、ふと気になったことを聞いてみた。
彼女の自己紹介からの話だと、結月は学園に通い続けるということなのだろう。そうなると放課後になってからアイギスに来て、仕事をすることになるはず。
「うん、そういう感じになると思う」
「ってことは学業とアイギスの仕事を両立しないといけないのか。ははは……、すごいな結月は。オレだったら到底できそうにないよ」
「あれ? まるで他人事みたいに言ってるけど久遠くんたちも一緒に、四月から十六夜学園へ通うんだよね?」
アゴに指を当て、首をかしげてくる結月。
「おい、待ってくれ! 結月! いますごい衝撃的なことを言わなかったか? オレが学園に通うとかなんとか?」
あまりに聞き捨てならない話だったため、思わず彼女に詰め寄ってしまう。
「――あれ、まだ聞かされてなかった……? ――あはは……、ごめんね、今の話はなしでお願い」
「いや、なしって……」
笑ってごまかそうとする結月を問いただそうとしたところ、着信が。確認してみると相手は那由他からであった。
ちょうどいいので那由他にくわしく聞いてみることに。
「おい、那由他。聞きたいことがあるんだが?」
「レイジ! 結月との距離が急接近しちゃってたりしてませんか!? 那由他ちゃんレーダーによるとラブコメっぽい波動が、ビシビシ伝わってくるんですが!? もしかして口説いたりとかしてないですよね!? わたしという者がいるんですから、浮気なんて許しませんよー!」
学園の事を聞こうとした矢先、那由他がものすごい勢いで意味のわからないことを主張してきた。
「あんたは一体、なにを言ってるんだ? そんな理由でかけてきたんだとしたら、すぐさま切るぞ」
「あはは、 冗談です! 冗談! まあ、甘い雰囲気を感じたのは、本当なんですがねー。でもそれは今置いといて、レイジと結月に依頼ですよ! 二人でゆきちゃんのところに行ってきてください。そこまで急ぎの用件ではないので、ゆっくりレクチャーしながらでかまいません。それではよろしくお願いしますね!」
那由他は話すだけ話して、すぐさま通話を切ってきた。
ちなみにゆきちゃんとは、剣閃の魔女の通り名を持つ少女のことである。こうなってくると、学園の件はしばらく保留にしておいて、今はやるべきことに集中した方がよさそうだ。なぜならあの剣閃の魔女に会うとなると、きっと疲れることになるのは目に見えているのだから。
「那由他の奴、一方的に切りやがって……。結月、さっそくで悪いんだけど初任務だ。オレと一緒にエデンへ向かうから、準備してくれ」
「――そっか……。ここから私の、アイギスのメンバーとしての戦いが始まるのね……。――これでようやくあの子
の力になれる……。――よし! それじゃあ、ご指導お願いするね! 久遠くん!」
結月は両手で小さくガッツポーズしながら、気合いを入れる。そしてレイジのことを頼りにして、ウィンクしてくるのであった。
「――そっか……、でも大体のことは察してるよね。私が少し特別な境遇にいることを」
「ああ、結月がたぶん、あの有名な片桐グループの関係者ってぐらいは。それがどうした?」
なにも聞かされていなくても、大体のことは察しがついていた。
片桐という有名な苗字。レーシスの言っていた、身分の高い人をさすような言葉。そして彼女のどこか気品溢れる立ち振る舞い。これだけヒントがあれば答えにたどり着けるというもの。その答えは、世界有数の財閥の一つ、片桐グループの関係者ということだ。片桐家の経営する財閥は東條家のところと比べると一ランク下がるぐらいだが、それでも誰もがその名を知っているといっても過言ではない、トップクラスの財閥の一つであった。
「ううん……、久遠くんって那由多と同じで、普通に接してくれるから少し気になったんだ。那由他は全部察してたと思うけど、久遠くんの場合は私の身分を知りながら、こんなふうに自然体で接してくれてるのかなって」
「――もしかしてオレって失礼だったか……?」
レイジはおそるおそる結月にたずねる。
彼女の場合、那由他やレーシスのような特別な感じがほとんどせず、いかにも年相応の少女という感じで話しやすかったのだ。そのため片桐家のことを忘れていつの間にか、なんの気兼ねなく接してしまっていたのである。
「全然そんなことない! 逆にうれしいの! 片桐家は世界的にすごい影響力があって、けっこう特別扱いされてしまうことが多いんだ……。そのせいでフレンドリーに接してくれる人ってほとんどいなかったから……」
結月は両手をぶんぶん左右に振って、どこか寂しげにかたる。
やはり名家のお嬢様となると、いろいろ苦労があるのだろう。彼女の雰囲気にはそのことをわかってしまうほどの、影がふくまれている気がした。
「まあ、あの片桐家のご令嬢って聞いたら、やっぱり気後れしてしまうのも仕方ないのかもな……」
「うん。そうなの。家の関係でみんなにすごいイメージを持たれることが多くて、正直疲れるのよね……。期待されてる以上裏切るわけにもいかないから、頑張らないといけないし……」
スカートの裾をぎゅっとにぎりしめ、目をふせる結月。
「そっか。――でもそうなると、結月は学園のアイドルみたいなことになってるんじゃないのか? ただでさえ気品溢れてて、よくできたお嬢様って感じだしな。男子からしたら高値の花すぎて、崇拝レベルとかになってたりして」
少し重々しい雰囲気になってしまったため、空気を変えようと冗談交じりに言う。
とはいってもこれに関しては、正直本当なのではと思う内容であったが。
「が、学園のアイドル!? そ、そんなわけないよ! 私も他のみんなと同じ、普通の女の子なんだから!」
すると顔を真っ赤に染め、あわわと必死に否定してくる結月。
「いやいや、結月の場合容姿、性格からして絶対それぐらいなってると思うぞ」
「もうっ! そんなにからかわないで! ――て、テレちゃうじゃない……」
最終的には恥ずかしそううつむいてしまう。
反応がかわいいためもう少しツッコミたい衝動にかられるが、さすがにかわいそうなのでやめておくことにした。
「ははは、わるい、わるい」
「――ええと、話を戻すと、久遠くんみたいに普通に接してくれるとすごくうれしい。家のことじゃなく、本当の私を見てくれてる感じがしてね……。そのおかげで気楽に振る舞えるから、これからも同じように接してほしいかな」
そして結月は手をモジモジしながら、上目遣いでお願いしてきた。
「そういうことなら任せてくれ。ここに来る前は狩猟兵団にいた無法者だから、あまり堅苦しいのは好きじゃないんだ」
「ありがとう! 久遠くんみたいな男の子が同僚にいてくれて、すごく助かるよ。――実は私こういう関係にすごく憧れてたんだ。身分とか関係なく、信頼しあえる仲間みたいな関係を……」
「きっとすぐに実現するさ。現にオレはもう、結月のことを信頼できる仲間だって思い始めてるからさ。だからアイギスへの加入を心から歓迎するよ」
瞳を閉じ自身の胸の内に秘めていた願いを語る結月に、つい今思ったことを打ち明けてしまう。
すると結月が急におかしそうに笑いだした。
「ふっ、あはは!」
「――う、そんなに笑われるような反応されると、すべった感じで恥ずかしいんだが……」
「あはは、ごめん。なんだか認めてもらったことが嬉しくて、つい、ね……。――ありがとう、久遠くん。私もキミのこと、信頼できる仲間と思ってる。だから改めて自己紹介をしよう」
うれしそうに涙を払い、立ち上がる結月。そしてレイジの方に近より、満面の笑顔で手を差し出してきた。
「四月から十六夜学園高等部、二年生になる片桐結月よ。これからもよろしくね! 久遠くん!」
「元狩猟兵団で今は那由他にこき使われてる、アイギスのメンバー、久遠レイジだ。こちらこそよろしくな、結月」
彼女の差し出してくれた手をつかみ、レイジも自己紹介を。
そしてお互いほほえみ合う。
「なんかこういうのってすごくいいよね! 普通の学生をやってるだけだと、絶対に味わえない高揚感みたいなものを感じられるもの!」
「――普通の学生か……。そういえば結月って、学園に通いながらアイギスの仕事をするのか?」
相当嬉しかったのかはしゃぐ結月に、ふと気になったことを聞いてみた。
彼女の自己紹介からの話だと、結月は学園に通い続けるということなのだろう。そうなると放課後になってからアイギスに来て、仕事をすることになるはず。
「うん、そういう感じになると思う」
「ってことは学業とアイギスの仕事を両立しないといけないのか。ははは……、すごいな結月は。オレだったら到底できそうにないよ」
「あれ? まるで他人事みたいに言ってるけど久遠くんたちも一緒に、四月から十六夜学園へ通うんだよね?」
アゴに指を当て、首をかしげてくる結月。
「おい、待ってくれ! 結月! いますごい衝撃的なことを言わなかったか? オレが学園に通うとかなんとか?」
あまりに聞き捨てならない話だったため、思わず彼女に詰め寄ってしまう。
「――あれ、まだ聞かされてなかった……? ――あはは……、ごめんね、今の話はなしでお願い」
「いや、なしって……」
笑ってごまかそうとする結月を問いただそうとしたところ、着信が。確認してみると相手は那由他からであった。
ちょうどいいので那由他にくわしく聞いてみることに。
「おい、那由他。聞きたいことがあるんだが?」
「レイジ! 結月との距離が急接近しちゃってたりしてませんか!? 那由他ちゃんレーダーによるとラブコメっぽい波動が、ビシビシ伝わってくるんですが!? もしかして口説いたりとかしてないですよね!? わたしという者がいるんですから、浮気なんて許しませんよー!」
学園の事を聞こうとした矢先、那由他がものすごい勢いで意味のわからないことを主張してきた。
「あんたは一体、なにを言ってるんだ? そんな理由でかけてきたんだとしたら、すぐさま切るぞ」
「あはは、 冗談です! 冗談! まあ、甘い雰囲気を感じたのは、本当なんですがねー。でもそれは今置いといて、レイジと結月に依頼ですよ! 二人でゆきちゃんのところに行ってきてください。そこまで急ぎの用件ではないので、ゆっくりレクチャーしながらでかまいません。それではよろしくお願いしますね!」
那由他は話すだけ話して、すぐさま通話を切ってきた。
ちなみにゆきちゃんとは、剣閃の魔女の通り名を持つ少女のことである。こうなってくると、学園の件はしばらく保留にしておいて、今はやるべきことに集中した方がよさそうだ。なぜならあの剣閃の魔女に会うとなると、きっと疲れることになるのは目に見えているのだから。
「那由他の奴、一方的に切りやがって……。結月、さっそくで悪いんだけど初任務だ。オレと一緒にエデンへ向かうから、準備してくれ」
「――そっか……。ここから私の、アイギスのメンバーとしての戦いが始まるのね……。――これでようやくあの子
の力になれる……。――よし! それじゃあ、ご指導お願いするね! 久遠くん!」
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