創星のレクイエム

有永 ナギサ

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3章 第3部 学園生活

103話 風紀委員

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 夕暮れの空の下、耳をすませば放課後を満喫している生徒たちの声があちこちから聞こえてくる。今はとくに部活や研究室の生徒たちが、新入生を呼び込もうと勧誘もしているのだ。そのためいつもよりガヤガヤしていた。
 陣、灯里、奈月は学園の中庭のベンチに座りながら、自動販売機で買った飲み物を片手に一息ついているところ。現在灯里のために学園を案内しており、今はある程度見て回って休憩中であった。

「あはは、こうやってきたばっかりの学園を探検するのは、わくわくしてたまりませんなー! 陣くん! 次はどこ行くの?」
「次か、そうだな」

 灯里が足をブラブラさせながら、目を輝かせてくる。
 そのため次の目的地を考えていると。

「はぁぁー。――おっと」
「うわっ!?」

 大きなあくびをしていたガラの悪い不良っぽい学生と、無駄に態度がでかい学生。その二人が陣たちと少し離れたところで、肩と肩がぶつかるところを目撃してしまう。
 不良っぽい学生は、あくびをしていて前方をよく見ていなかったため。態度がでかい学生は、向こうが避けるだろうと思っていたために、ぶつかってしまったみたいだ。

「わりぃな」

 不良っぽい学生は軽く謝罪の言葉を残しながら、去っていこうと。
 しかしそこへ態度がでかい学生が、なにやらいちゃもんを付け始めた。

「おい、きさま! 無礼だぞ!」 
「なんだ? 謝ったじゃねーか」
「誠意がまったく感じられん。僕を誰だと思っている? 断罪者だんざいしゃの名家中の名家であるグレーナー家の人間であり、近い将来断罪者になることを約束されているアルノー・グレーナーだぞ」

 アルノーは胸板に手を当て、声高らかに宣言する。

「――はぁ……なんかめんどくさいやつにからまれちまったぜ……」

 不良っぽい学生は頭をかきながら、めんどくさそうにため息をつく。

「未来の断罪者である僕になんて口のきき方を!」
「断罪者、断罪者って、そんなに断罪者さまはえれーのかよ。しょせん星葬せいそう機構の猟犬ってだけだろ」
「なっ!? あろうことか断罪者を侮辱したな! 許せん! 二度とその減らず口がたたけぬよう、きさまにグレーナー家の力を垣間かいま見せてやろう!」

 アルノーはこぶしを震わせ、怒りをあらわに。不良っぽい学生へ向かって、星詠ほしよみを行使しようと。

「陣くん、あれやばくない!?」
「おいおい、こんなところで星詠みはさすがにまずいだろ」
「――はぁ……、これだから断罪者の名家のプライドは」

 まさかの展開にあきれる陣と奈月。
 周りで見ていた生徒たちはあまりの雲行きの怪しさに、困惑しだす。

「へー、それはぜひとも見せてもらおうじゃないか。猟犬の力ってやつを!」

 不良っぽい学生は怖気づかず挑発ちょうはつを。
 よくみればその瞳は血に飢えているケモノのよう。やる気満々の様子。

「ヒュー、そういうことか。あの学生」
「創星術師のようね」

 ここで陣たちは気づく。不良っぽい学生もまた、己が星を持っていることに。彼もまたひそかに星詠みを行使する準備をしていたのだ。
 
「痛い目に合わないとわからないらしい! ならばとくとその目に焼き付けろ!」
御託ごたくはいいからこいよ!」

 お互いバチバチであり、もはや一触即発の状態。このままでは創星術師同士の争いが目の前で起こってしまう。さすがにこのまま放置しとくわけにもいかず、止めに行くかと割り込もうとした瞬間。

「ストーップ! 風紀委員のクリス・メイナードだよ! 両方とも、おとなしくして!」

 大財閥クロノスの子会社として世界中に展開する、PMC業を生業なりわいとする組織。ロンギヌスに所属しているクリスが、風紀委員の腕章を突き出しながら陣より先に割り込んでいったという。

「ちっ、いいところだったのによ」
「邪魔するな風紀委員。僕は断罪者の名家であるグレーナー家の人間だ。今から行うのは教育であり、キミたちの出番はない!」
「教育って、そんなの許されるはずないでしょ。ほら、さっさと臨戦態勢を解いて。でないと風紀委員の特権により、武力行使しちゃうよ」
「風紀委員ふぜいが、きさまも僕をなめる気か? もう、いい! グレーナー家に立て突いた罰だ! まとめて痛い目に合ってもらおう!」

 アルノーはプライドを傷つけられ、完全に頭に血が上っている様子。
 なりふりかまわず星詠みを行使しだした。

「輝け! グレーナー家秘伝! 岩石がんせきの星よ!」

 次の瞬間、アルノーのいた周囲の地面が浮き上がっていき、彼の元へ集まっていく。そしてアルノーは全身に砕けたコンクリートや岩石をまとい、通常よりも一回り大きい岩男へと姿を変えた。

「ははは、この身にまとった岩石は僕の星詠みにより、強度が格段に上がっている。魔法など一切きかず、いかなる星詠みでさえ防ぎきるまさに絶対防御! きさまらになすすべはない! 一方的な暴力の前にひれ伏すがいい!」

 アルノーは岩のよろいをまといながら、拳を振りかぶりクリスたちへと近づいていく。
 防御力はもちろんだが、拳そのものが硬い岩石の塊ゆえ攻撃力も高い。攻守すぐれた星詠み。さすが名家の星詠みだ。
 
「わー、硬いんだ? どれほどの強度か試していい?」
 
 常人からしたらあまりに怖すぎる光景だが、クリスはまったく怖じ気づかない。むしろ子供のようにむじゃきに駆け寄っていった。

「ムダなことだ。いかなる攻撃も僕の星詠みの前では」
「じゃあ、いっくよー! えいっ!」

 アルノーの言葉の途中にも関わらず、クリスは拳を彼のみぞおち目掛けて放つ。彼女もまた陣同様に、現ロンギヌス代表の神代ハルトから武術や様々な戦闘技術を教わっているのだ。そのため拳のキレ、体さばきも見事であり、強烈な打撃を与えられる一撃であった。
 とはいえ普通ならあまりにも無謀。かたい岩石に向かって、殴りかかりにいっているのだから。あれでは攻撃したにもかかわらず、重い自傷ダメージが返ってくるだけ。見ていた野次馬たちは、傷つくであろうクリスの手を思い浮かべ目をそらしていく。
 しかし次の瞬間。

「ぐはっ!?」

 ドガァーンと、彼の胴体にまとっていた岩石がいともたやすく砕け散り、クリスの拳がアルノーの腹に打ち込まれる。
 アルノーは痛みのあまりかまとっていた岩石を解除し、そのまま腹を押さえひざをつきながらうずくまっていった。

「ごめんね! クリスの拳はいかなるものも防げないんだよ♪」

 クリスはいたずらっぽく舌を出しながら笑う。
 よく見ていたらわかるのだが、彼女が打ち込もうとしていた拳には星の輝きがまとっていたのだ。そう、クリスもまたあの時、星詠みを行使していたのである。

「とはいってもあまりのもろさに、びっくりしちゃった! 傷つけたらだめだから、かなり手加減して放ったのに。あれで絶対防御は誇張こちょうしすぎだよー!」
「うわー、すごいねあの子!」
「さすがクリスだ。ちょっとねぎらってくるか」
「そうね」

 陣と奈月は灯里を残し、クリスへ話しかけにいく。

「クリス、あざやかな手際だったな」
「おつかれさま」
「陣センパイ! 奈月さま! へへ、どう? クリスかっこよかった?」

 クリスが胸を張って、得意げにたずねてくる。

「ああ、かっこよかったよ」
「やったー! とはいえあの程度、貫通させてもたいして誇れないよ。どうせなら絶対防御にふさわしい、奈月さまの拒絶きょぜつの輝きぐらい打ち破らないとね!」

 クリスが好奇心旺盛なまなざしを奈月に向ける。実際に試してみたいと言いたげに。

「アタシと比べるのは彼がかわいそうよ。神代かみしろの星詠みは、普通のと違う特別性なんだから」

 神代の星について、まだくわしく教えてもらっていない。わかるのは輝きの出力が異常に高いということともう一つ。本来創星術師の家系は代々同じ星を求道していくにも関わらず、神代の星の輝きの色や型、星詠みの効力はその人物によって千差万別という。ただ奈月いわく、みな同じ星を求道しているらしいのだ。
 ちなみに神代側は自分たちの星のデータをとるため、クロノス上位関係者や素質のある人間に神代の星を伝授していた。神代の血族でないクリスが彼らと同じ星を持っているのも、そういう背景があるからなのである。

「そうだね、クリスたちは創星術師じゃない。星……」
「クリス」
「ごめんなさーい! つい、口がすべりそうになっちゃった!」

 クリスは奈月に言葉をさえぎられ、てへへと舌を出す。

「神代の星の話か? くわしく聞かせてくれよ」
「ダメよ。部外者には話せない内容だもの」
「いつもそれだよな。その神代の星なら、満足できて求道してたかもしれないのに」
「遠ざけてたアタシに感謝してほしいものね。昔も言ったけど、この星を使うには身体や魂をいじる必要があるのよ。神代の血筋なら成功率は高いけど、それ以外だと失敗し重い後遺症が残る可能性もある。そんな危険な賭け、陣にさせられないわ」

 奈月がぐいっと詰め寄り、固い意思を持って言い聞かせてくる。

「それで力が入るなら、多少のリスクは喜んで受けるけどな」
「あまりいいものじゃないわよ。――こんなの……」

 瞳を閉じ、うんざりしたようにつぶやく奈月。
 その言葉には想像を絶するほどの重みを感じられてしまう。

「クリスくん、キミまた派手にやったみたいだね」

 そうこうしているとエドガーが、頭を抱えながらやってきた。
 彼は名門の軍の家系とその高い戦闘力により、若いながらも准尉まで上り詰めた軍人である。よくクロノス側と軍のパイプ役、神代正也まさや関連で会うことが多かった。
 彼もまた風紀委員の腕章をしており、風紀委員活動の真っ最中のようだ。

「クリスは悪くないよ! 向こうが星詠みを使ってきたから、正当防衛でやっただけだし! ね! 陣センパイ」
「そうだな。今回は向こうが明らかに悪い」
「それならしかたないか」
「いったいどうなってるんだ? ただの風紀委員が星詠みを使ってきただと?」

 エドガーが納得していると、アルノーがよろよろと立ち上がりながら驚愕きょうがくしていた。

「キミは高等部から星海学園に入学してきた、グレーナー家の人間だね。来たばっかりなら、この学園についてくわしく知らないのもムリはないか」
「なにがだ?」
「実はこの学園の風紀委員は少し特別でね。普通の風紀の活動だけじゃなく、治安維持の仕事も任されているんだ。だからこういった魔法関係のいざこざが起きた場合、取り締まらないといけない。だがそのためにはそれ相応の力がいるだろ? なんたってこの学園には、破格の力を持つ断罪者の家系の子供たちが大勢いるんだから。ゆえに学園を運営するクロノス側は、彼らが好き勝手できないようけん制の意味も込めて、腕が立ち星詠みを行使できる人間を用意し風紀委員に所属させているのさ」

 エドガーが親切丁寧に説明していく。
 そう、星海学園風紀委員には、学園の治安維持やめんどうごとを対処するための人員が派遣されているという。それはクロノスのエージェントであったり、ロンギヌスの人間であったり、中には野良のスカウトされた創星術師だったり。そのほとんどが強者であり、たえと断罪者相手でも遅れは取ったりしないとのこと。

「ちなみに断罪者の権力を、振りかざそうとしてもムダだ。僕らはクロノス側から権力を与えられている。だから風紀委員に歯向かうということは、クロノスを敵に回すと同義。ヘタすると神代の人間がやってきて、処罰されるかもしれない。ほら、ちょうどそこにもいらっしゃる」
「ひっ!? もしかしてあなたはあの!?」

 エドガーの視線の先にいる奈月を見て、たじろぐアルノー。
 そんな彼に奈月はいたずらっぽくほほえんだ。

「くす、神代奈月よ」
「やっぱり!?」
「奈月さんならまだいいほうだ。風紀委員にいる神代きさらさんなんかにからまれたら、ひどい目に合うよ。彼女はいろいろとえげつないからね」

 神代きさらは、神楽がいる次期当主の座を奪おうとしている神代陸斗りくとの妹。そして奈月とは腹違いの同い年の姉妹である。彼女は小悪魔的なオーラを放つ、かなりクレイジーな少女であった。
 そんな彼女は前から星海学園風紀委員を、監督しているらしい。

「――す、すみませんでした!」

 神代の大物たちを出した脅しが効いたのか、アルノーは完全におとなしくなった。

「ハハ、事情がわかってくれてなによりだ。では風紀委員室まで一緒に来てくれるかな」
「はい」
「クリスくん頼んだよ」
「ラジャー!」

 クリスは敬礼しながら、元気よく返事を。

「じゃあ、俺はこれで」
「そっちの不良っぽい人もだよ!」
「げっ!? 俺もかよ!?」

 逃げようとする不良っぽい学生であったが、クリスにつかまり連行されていった。
 いろいろやらかしてしまったアルノーだが、注意程度でそこまで重い処分にはならないだろう。というのも魔道の求道において、闘争は重要なファクター。なので学園側はケンカ程度のいざこざで周りに被害がなければ、あまり問題はないという方針をとっているのである。そのため風紀委員に介入され話し合いをさせられてからも、まだいがみあっている場合。先生や風紀委員の監視のもと、お互い気が済むまで決闘させることもあった。
 ちなみにこういった魔法や星詠み関係のいざこざは、学園内でわりと頻繁ひんぱんに起こっており、そこまでめずらしいものでもないという。

「――ふぅ……、断罪者の家系の人間相手は、毎回ひやひやするな」
「業務ごくろうさま」
「ハハハ、エドガーさん、風紀委員は相変わらず大変そうですね」
「ああ、今はとくに目を光らせないといけない。クレハ・レイヴァースと一緒に、多くの断罪者の家系の子供たちが入学して来てることだしね」

 エドガーは眼鏡をくいっとさせ、鋭い眼光を光らせる。

「それちょっと怪しいわよね。まるで神代特区で動かせる手駒を、用意してきたみたいで。なにかよからぬことをたくらんでないといいけど」
「ええ、とはいえ僕らの上は、データを取るためにも争いを望んでいるようですが」

 エドガーは肩をすくめながら、苦笑する。

「陸斗兄さんやきさら案件? 苦労してるわね、あなたたちも……」

 そんな彼に同情めいた視線を送る奈月。

「――ハハ……、では僕はこれで」

 そしてエドガーも風紀委員室へと戻っていくのであった。
 
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