創星のレクイエム

有永 ナギサ

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2章 第4部 手に入れた力

85話 その後

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 時刻は朝の十時ごろ。今日は雲一つない快晴であり、絶好のおでかけ日和びより。ここは神代かみしろ特区内の海岸沿いにある大きな広場。木々や芝生により緑豊かであり、さらには海も見えるとあって人々には人気の場所。散歩だったりおしゃべりだったり、みなのんびりとした時間を過ごしている。
 陣が歩いているのは、広場内の海に面した道。心地よい潮風がほおをなで、とてもすがすがしかった。

「よっ! 奈月、おはようさん!」

 そして待ち合わせ場所にいた奈月に元気よく声をかける。
 すでにアンドレーを倒してから二日がたっており、今日はその間の事後処理のことを奈月に聞きに来たのだ。ちなみに昨日は激闘の疲れから、一日中身体を休めていたのであった。

「――はぁ……、おはよう、陣。今日はなんだかテンション高いわね」

 奈月はため息交じりに返事を。

「ははは、なんたって、やっとふさわしい星を見つけたんだぜ。これでようやくオレも念願のスタート地点! ああ、ここまで来るのに、ほんと長かった……。やばい、感激のあまり泣けてきそうだ」

 これまで長かった道のりを思い浮かべ、感慨にふける。
 そう、今の陣にはずっと探し求めていた輝き、創造の疑似恒星があるのだ。これで力の渇(かわ)きに悩まされ続ける日々とは、おさらば。あとは魔道の深淵しんえんに足を踏み入れ、求道していくだけゆえ、気分はだいぶ軽くなったといってよかった。

「それはよかったわね。アタシなんかこの数日間、忙し過ぎて憂鬱ゆううつな気分よ。クレハ・レイヴァースと星海学園の件から始まり、陣と灯里が追っていた疑似恒星の件。さらにはその事後処理の手伝いまで。もう、くたくたよ」
「ご苦労さん。アンドレーの件は本当に助かったよ。奈月のサポートがなきゃ、今ごろどうなっていたことか」

 ぐったりする奈月の肩に手を置き、心からの感謝を伝える。
 彼女が裏で動いてくれたおかげで、無事アンドレーと決着をつけるところまでいけたのだ。奈月は今後の星海学園の件で忙しいはずなのに、最後まで付き合ってくれたことに感謝せざるをえない。

「この借りは大きいんだからね。がんばって返してちょうだい!」

 すると奈月は陣の胸板に手を当て、意味ありげにウィンクしてくる。
 なので姫にしたがう騎士のように、うやうやしく頭を下げた。

「ははは、わかってるさ。これからも誠心誠意、奈月お嬢さまのために働かせてもらいますよ」
「くす、よろしい。また学園が始まったら忙しくなると思うから、今のうちに英気を養っておきなさい」

 両腰に手を当てながら、満足げにほほえむ奈月。
 その表情からどれだけ信頼されているか、もはやいうまでもなかった。

「おっ、そうだ。そういえばこの疑似恒星ぎじこうせいの件、どうなったんだ?」

 創造の疑似恒星のペンダントを取りだし、奈月にたずねる。

「安心なさい。神楽かぐら姉さんがいろいろ手を回してくれたおかげで、これからもその疑似恒星は陣のものよ。星葬機構側には陣がクロノスの身内ということで、釘を刺してくれたみたい。手を出したら、ただじゃおかないってね」
「さすがは神楽さん、まじでなんとかしてくれるとは」

 実際、物が物だけに星葬機構が創造の疑似恒星をいつ押収おうしゅうしにきても、おかしくない状況。最悪そのまま断罪される場合も。だというのにことを穏便に済ませ、しかも創造の疑似恒星の所有まで認めさせるとは。神楽の手腕しゅわんに感服するしかない。

「まあ、この件に関しては、クレハ・レイヴァースが少し手を回してたみたいね。彼女、サイファス・フォルトナーの疑似恒星であることも報告してなかったみたいだし。おかげでそこまでてこずらなかったって、姉さんが言ってたわ」
「――そっか、クレハが……」

 どうやらクレハのほうも、陣をかばってくれていたみたいだ。
 本来ならことの真相をすべて伝え、レイヴァース当主の責務を果たさなければならないはず。しかし今回も、陣の身の安全を優先してくれたらしい。

「陣、アタシからも一ついいかしら? 創造の疑似恒星を手に入れてから、どれぐらい求道できたの?」

 そんなクレハのことを思っていると、奈月がほおに手を当てながら首をかしげてきた。
 その瞬間、陣の表情が少し曇ってしまう。

「あー、そのことな……」
「どうしたのかしら? なんか急にテンションが下がったけど?」
「えっとね、奈月ちゃん。創造の疑似恒星はあまりに強大な輝きだから、同調は慎重にすべきなんだよ。だからマスターには徐々に慣らしてもらって、その都度つど同調してもらうつもりなの」

 するとリルが姿を見せ、事情を説明してくれる。
 そう、今の陣は創造の疑似恒星で、思うように求道できないのである。というのも創造の星はあまりに規格外らしく、扱いには慎重にならないといけないとか。そのため満足に同調作業もできず、創星術師などほど遠い状況。しばらくは創造の疑似恒星を使うだけの、創星使いでやっていかなければならなかった。

「そういうわけで、この使えないサポートにお預けをくらってる状況なんだ。――はぁ……、オレとしては一気に同調して、創星術師になりたいのにさ」

 リルの頭にぽんっと手を置き、深いため息をつく。

「使えないとはひどくないかな!? すべてはマスターの身を、案じてのことなんだよ! アンドレーさんみたいに暴走したくないでしょ?」

 するとリルが陣の上着を両手でぎゅっとつかみ、ぴょんぴょん飛び跳ねながらうったえてくる。

「いや、オレなら大丈夫だって。そこらへんの加減はわきまえてるさ」
「えー、どの口が言ってるのかな? わたしを無視して、何度も何度も同調しまくったくせにー」

 ジト目で痛いところを突いてくるリル。

「――うっ、あれは状況が状況だったしさ……」
「陣は目を離すと、すぐ無茶するものね。だからリルさんがいてくれて本当に助かるわ。これからも陣のこと、お願いするわね」

 奈月はほおに手を当てながら、くすくすと笑う。 

「うん、マスターのおもりは任せてなんだよ、奈月ちゃん」

 リルは陣の上着のそでをつかみながら、えっへんと胸を張って奈月の期待にこたえた。
 他者から見れば、その姿はリルの幼さもあいまって非常にほほえましく見えるだろう。しかしおもり扱いされている陣だと、そうもいってられない。ゆえにリルの頭をぐりぐりしながら、ツッコミを。

「ははは、なにがおもりだ。それはこっちのセリフだろ?」
「マスター、痛いんだよー!?」

 すると涙目になりながら、腕をブンブン振るリル。

「――じゃあ、しばらく陣は、このまま創星使いでやっていくことになるのね」
「ああ、勝手にやったとしても、リルに同調のラインを切られるのがオチだからな。不本意ながら、許可が出るまで慣らしていくしかなさそうだ」

 リルを解放してやり、肩をすくめて奈月の質問に答える。
 現状、勝手に同調するといったことはできないのだ。なぜなら創造の疑似恒星にはリルが宿やどっているため、すぐに察知されてしまう。そうなるとすぐに同調していたラインを切られてしまい、中断されてしまうのであった。

「くす、いいじゃない。欲しい輝きは手に入れたんだし、あとは気長にやればね! ほら、あの子もいることだし」   

 うれう陣とは逆に、奈月はなんだかうれしそう。陣の肩に手を置き、はげましの言葉を。そして意味ありげな視線をとある人物がいる方向に向けた。

「あの子?」
「やっほー! 陣くん、リル! 奈月! こっちこっち!」

 視線を向けると、そこにははしゃいだように手を振る灯里あかりの姿が。

(――そういえば創造の疑似恒星のことで頭がいっぱいだったけど、灯里のやつオレたちについてくるんだったよな、ははは)

 灯里がリル・フォルトナーの疑似恒星を渡す時に、宣言したことを思い出す。
 彼女は陣とリルが取り返しのつかないことにならないよう、ずっとついて来てくれるとのこと。なので灯里とはこれからも、長い付き合いになっていくことに。

「まあ、それもそうだな。しばらくは灯里が願った陽だまりの日々に付き合うのも、わるくないか……」

 魔道の求道が進められない以上、時間には余裕がある。その間彼女とのバカ騒ぎに付き合うのもわるくはなかった。はちゃめちゃな灯里がいるなら、きっと退屈な日々にはならないだろうから。それに陣自身、彼女の目指す陽だまりの日々には興味があった。同類である灯里が目指す、陣とは真逆の道。その結末はどんなものなのかと。

「ふふっ、アカリのことだから、無理やりにでも巻き込んできそうだしね!」

 リルがおかしそうに笑いながら、陣へウィンクしてくる。

「ははは、リルの言う通りだな。――じゃあ、いくとするか。なにげない日常とやらを、謳歌おうかしに」

 こうして陣は元気いっぱいに駆け寄ってくる灯里に合流すべく、歩みを進めるのであった。



「――ここは……」

 陣が目をあけると、見慣れない景色が飛び込んでくる。
 空はなにもないかのごとく、空虚な闇。だが地面には月に照らされたかのようにあわく輝く白い花が、見渡す限り咲きほこっていた。

(今日は奈月と会って、それから灯里と遊んだんだっけ。それで帰宅して、いつも通りベッドで寝たはずなんだが……)

 今日は奈月に事後処理の話を聞いた後、灯里と出会いそのままみなで遊ぶ形になったのだ。そして帰宅し、どこかへ行くわけもなく普通に就寝したはず。なのでなぜこんな場所にいるのか、見当もつかないといっていい。

「ふふっ、こんなところにお客様が来るなんて、驚きだね」
「ッ!?」

 戸惑っていると、どこかで聞いたことのあるような声がする。
 声のほうに視線を移すと、そこには一人の少女。年齢は陣より一つ上ぐらいだろうか。透き通るような銀色の髪をした、リルの面影を残す少女の姿が。

「わたしの名前はリル・フォルトナー。キミの名前はなんていうのかな?」

 そしてリル・フォルトナーと名乗る少女が、親しげにほほえみ陣の名を問うてくるのであった。

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