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2章 第4部 手に入れた力
76話 陣の選択
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現在時刻は十六時ごろ。見上げると今にも雨が降りそうな黒い雲におおわれ、時々ゴロゴロと雷の音が鳴り響いている。
あれから陣たちはロストポイントの旧市街から出て、それぞれのやるべきことを果たしにいっていた。奈月とルシアは情報を集めるのと、福音島に行く準備を。そして陣は呼び出した灯里と会うため、住宅地や学生寮が密集する区画へ。そしてこの前リルと取り引きの話をした、小さな公園へと来ていた。
「陣くん、どうしたの? 急に呼び出したりして?」
「灯里にリルを返そうと思ってさ。ほら、これ、貸してくれて助かったよ」
駆(か)け寄ってくる灯里に、リル・フォルトナーの疑似恒星を手渡す。
ただその当の本人であるリルは姿を現さない。というのも灯里と二人で話したかったため、事前にリルに頼んでおいたのだ。
「ってことは例の創星術師を倒したんだ!? やったね! 陣くん!」
ぱぁぁっと顔をほころばせ、ガッツポーズをする灯里。
「いや、これから引導を渡しに行くところだ」
「え? じゃあ、まだこの疑似恒星をもっとかないと! はい、遠慮せずに使って使って! レンタル料は取らないから、安心していいよ!」
灯里は返された疑似恒星を、陣に押し付けようとしてくる。
だが陣はその手を制し、もう一つの疑似恒星。サイファス・フォルトナーの疑似恒星である、紅色の宝石をポケットから取り出した。
「ははは、大丈夫だ。こっからはこの、オレの疑似恒星を使わせてもらうからな」
「――オレのってもしかして……」
灯里は口元を押さえ、悲しげに目をふせる。
「ああ、オレはサイファス・フォルトナーの疑似恒星と、契約するつもりだ。そして魔道の深淵へ足を踏み入れ、最果てを目指す。だから灯里が手を差しのべてくれた、陽だまりの日々への誘い。わるいけど、断らさせてもらうな」
灯里をまっすぐに見すえ、選択した答えを告げる。
陣が魔道の道を選んだ以上、もはや灯里との陽だまりの道は閉ざされてしまった。なのであの時の彼女の誘いを、断るしかなかった。
「――決心は固いの?」
「ああ、よく考えた結果だ。確かに灯里の道も、わるくはなかったよ。みんなとなにげない日々を過ごして、笑いあう。それは本来あるはずだった、四条陣の幸せそのものだったはず……。実際、この想いは、魔道の道を選ぶのを最後の最後まで躊躇させたほどだったしな」
遠い目をしながら、本心を伝える。
これまで考えたこともなかった、灯里の陽だまりへの道。これに関しては自分でも驚くほど、感化されていたといっていい。その勢いは選んだ選択に、今だ迷いを抱かせるほど。それほどまでに灯里やリル、それに奈月やセナ、クレハにカナメといった親しい者たちと過ごす日々を夢見てしまっていたのだ。
「じゃあ!」
「だけどそれはオレが求めていた幸せじゃない。同類の灯里ならわかるだろ。この狂おしいほどの力の渇きからくる、空虚さを。もう普通の生き方じゃ、生を実感することなんてできやしない。オレが本当の意味で救われるには、星詠みを求道し今だ見ぬ輝きに手を伸ばすしかないんだ」
陣の詰め寄り説得の言葉を投げかけようとする灯里に、きっぱりと言い放つ。
確かに彼女の目指す道は、好ましいもの。だがそこでは陣が本当にほしかったものは、手に入らないのだ。それはなにかというと、ズバリ生の実感。物心ついた時から常人とは違う次元を見ていたので、普通の事象では到底満足できなかった。そのためいつも空虚さが心を支配し、生きている実感がずっと稀薄のまま。だからこそかわいた心を震わせてくれる未知の輝きを、求めずにはいられなかったのだ。
「だから灯里、オレはみずからの生をつかみ取るためにも、この道を進み続けるよ」
「――陣くん……」
灯里は悲痛げに両手で胸をぎゅっと押さえる。
「きっとこれがオレたちみたいな、特別な力をもって生まれてしまった人間のさだめなんだと思う。それが誰かの思惑か、はたまた世界の意思かどうかはわからない。でもきっとなにかしらの意味があるはずだ。オレはその答えも知ってみたいんだ。この道の果てでさ……」
はるか遠い彼方を見るように、天を仰ぎみた。
そう、陣は魔道を求道し生を実感することともう一つ、願いが。それはこの特別な力をもって生まれた意味を知ること。そこにはなにかしらの理由がある気がして、止まないのだから。ゆえにその謎を解き明かすためにも、魔道の道以外ありえないのである。
「ははは、つい話しこんでしまったな。――じゃあ、オレは行くよ」
陣は踵を返し、灯里に別れの言葉を。
そろそろ奈月やルシアの準備が整っている頃合いのはず。なのでいつまでもおしゃべりしているヒマはなかった。
「――待って!? 陣くん!?」
手を伸ばし切実に引き留めようとしてくる灯里に、陣は振り向かずに先へ進む。
ここで立ち止まったら、また迷いを抱いてしまう気がしたから。それを断ち切るためにも、立ち止まるわけにはいかないのだ。
(さあ、あとはアンドレーに引導を渡すだけだ)
そして陣は福音島のほうに視線を移し、改めて気を引き締めるのであった。
あれから陣たちはロストポイントの旧市街から出て、それぞれのやるべきことを果たしにいっていた。奈月とルシアは情報を集めるのと、福音島に行く準備を。そして陣は呼び出した灯里と会うため、住宅地や学生寮が密集する区画へ。そしてこの前リルと取り引きの話をした、小さな公園へと来ていた。
「陣くん、どうしたの? 急に呼び出したりして?」
「灯里にリルを返そうと思ってさ。ほら、これ、貸してくれて助かったよ」
駆(か)け寄ってくる灯里に、リル・フォルトナーの疑似恒星を手渡す。
ただその当の本人であるリルは姿を現さない。というのも灯里と二人で話したかったため、事前にリルに頼んでおいたのだ。
「ってことは例の創星術師を倒したんだ!? やったね! 陣くん!」
ぱぁぁっと顔をほころばせ、ガッツポーズをする灯里。
「いや、これから引導を渡しに行くところだ」
「え? じゃあ、まだこの疑似恒星をもっとかないと! はい、遠慮せずに使って使って! レンタル料は取らないから、安心していいよ!」
灯里は返された疑似恒星を、陣に押し付けようとしてくる。
だが陣はその手を制し、もう一つの疑似恒星。サイファス・フォルトナーの疑似恒星である、紅色の宝石をポケットから取り出した。
「ははは、大丈夫だ。こっからはこの、オレの疑似恒星を使わせてもらうからな」
「――オレのってもしかして……」
灯里は口元を押さえ、悲しげに目をふせる。
「ああ、オレはサイファス・フォルトナーの疑似恒星と、契約するつもりだ。そして魔道の深淵へ足を踏み入れ、最果てを目指す。だから灯里が手を差しのべてくれた、陽だまりの日々への誘い。わるいけど、断らさせてもらうな」
灯里をまっすぐに見すえ、選択した答えを告げる。
陣が魔道の道を選んだ以上、もはや灯里との陽だまりの道は閉ざされてしまった。なのであの時の彼女の誘いを、断るしかなかった。
「――決心は固いの?」
「ああ、よく考えた結果だ。確かに灯里の道も、わるくはなかったよ。みんなとなにげない日々を過ごして、笑いあう。それは本来あるはずだった、四条陣の幸せそのものだったはず……。実際、この想いは、魔道の道を選ぶのを最後の最後まで躊躇させたほどだったしな」
遠い目をしながら、本心を伝える。
これまで考えたこともなかった、灯里の陽だまりへの道。これに関しては自分でも驚くほど、感化されていたといっていい。その勢いは選んだ選択に、今だ迷いを抱かせるほど。それほどまでに灯里やリル、それに奈月やセナ、クレハにカナメといった親しい者たちと過ごす日々を夢見てしまっていたのだ。
「じゃあ!」
「だけどそれはオレが求めていた幸せじゃない。同類の灯里ならわかるだろ。この狂おしいほどの力の渇きからくる、空虚さを。もう普通の生き方じゃ、生を実感することなんてできやしない。オレが本当の意味で救われるには、星詠みを求道し今だ見ぬ輝きに手を伸ばすしかないんだ」
陣の詰め寄り説得の言葉を投げかけようとする灯里に、きっぱりと言い放つ。
確かに彼女の目指す道は、好ましいもの。だがそこでは陣が本当にほしかったものは、手に入らないのだ。それはなにかというと、ズバリ生の実感。物心ついた時から常人とは違う次元を見ていたので、普通の事象では到底満足できなかった。そのためいつも空虚さが心を支配し、生きている実感がずっと稀薄のまま。だからこそかわいた心を震わせてくれる未知の輝きを、求めずにはいられなかったのだ。
「だから灯里、オレはみずからの生をつかみ取るためにも、この道を進み続けるよ」
「――陣くん……」
灯里は悲痛げに両手で胸をぎゅっと押さえる。
「きっとこれがオレたちみたいな、特別な力をもって生まれてしまった人間のさだめなんだと思う。それが誰かの思惑か、はたまた世界の意思かどうかはわからない。でもきっとなにかしらの意味があるはずだ。オレはその答えも知ってみたいんだ。この道の果てでさ……」
はるか遠い彼方を見るように、天を仰ぎみた。
そう、陣は魔道を求道し生を実感することともう一つ、願いが。それはこの特別な力をもって生まれた意味を知ること。そこにはなにかしらの理由がある気がして、止まないのだから。ゆえにその謎を解き明かすためにも、魔道の道以外ありえないのである。
「ははは、つい話しこんでしまったな。――じゃあ、オレは行くよ」
陣は踵を返し、灯里に別れの言葉を。
そろそろ奈月やルシアの準備が整っている頃合いのはず。なのでいつまでもおしゃべりしているヒマはなかった。
「――待って!? 陣くん!?」
手を伸ばし切実に引き留めようとしてくる灯里に、陣は振り向かずに先へ進む。
ここで立ち止まったら、また迷いを抱いてしまう気がしたから。それを断ち切るためにも、立ち止まるわけにはいかないのだ。
(さあ、あとはアンドレーに引導を渡すだけだ)
そして陣は福音島のほうに視線を移し、改めて気を引き締めるのであった。
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