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2章 第3部 陣の選択
74話 起死回生の一手
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陣はあれからなんとか逃げ切った後、廃ビルの陰に隠れ態勢を整える。
そして肩で息をつきながら、リルにたずねる。
「――はぁ、はぁ、リル、この戦力差どうにかならないのか?」
「ごめん、あそこまでサイファス・フォルトナーの星詠みを使われたら、さすがに厳しいんだよ」
「だよな。いくらリルの擬似恒星があるとはいえ、こっちは制限付き。普通の創星使いにも劣る状態だから、勝機がみいだせない。クソ、どうすれば……」
あまりの勝ち目のなさに、頭を悩ますしかない。
現状陣の星詠みは、出力の問題でまったく歯が立たない状況。苦肉の策で魔法も使ってみたが案の定効かず、もはやなすすべがなかった。
「付け入る隙があるとすれば、アンドレーは暴走間近ということかな。もし今の力の均衡を崩す事ができれば、あるいは……」
「一理あるが、そんなのどうやって……」
リルの助言はもっともだが、その方法が思いつかない。
しかしそこでふと頭によぎることが。
「――まてよ? そういえばあのとき……」
陣はリル・フォルトナーの擬似恒星を見つめ、この前のアンドレー戦のことを思いだす。というのもあの戦いで一つ、心当たりがあったのだ。
だがその思考も長くは続かず。
「はっ!? ジンくん! 来るよ!」
「ッ!? 下から!?」
リルにうながされ真下を見ると、地面から力の流動を感じた。次の瞬間、地面から黒いオーラの奔流が湧き出て、陣を飲み込もうと。どうやらアンドレーに居場所がばれてしまったようだ。
そんなまさかの下からの攻撃であったが、直前に気付いたためなんとか飛び出ることに成功。敵の奇襲をやりすごす。
しかし。
「もらったぜ!」
「ッ!? 今のは陽動!? クッ!?」
なんと回避した先に、アンドレーが。彼は陣の動きを読み、すでに攻撃態勢をとっていたのだ。
とっさに腕でガードしようとするが、もはや敵は懐にまで侵入しており間に合わない。燃え盛る黒いオーラの拳は見事陣の胴体をとらえ、猛威を。圧倒的破壊と共に、陣を吹き飛ばした。
「しまいだな。まあ、その程度の操作で、よくここまで食らいついたとほめてやるよ。その褒美に、最後はお前さんが求めたこの輝きでおわらせてやる」
アンドレーは倒れている陣へ、とどめをさそうと近づいてくる。
今の一撃はもろに入ったため、誰が見てもこの勝負片が付いたとみるだろう。実際陣は今だ倒れたまま。たとえ動けたとしても、反動でそうそう動けるはずがない。
「あばよ!」
アンドレーが黒いオーラをまとわせた拳を、振り下ろそうと。
「今だ!」
「なに!?」
しかしその瞬間、陣は急に立ち上がり攻撃へ。
これにはアンドレーも驚愕するしかないようだ。陣はあの時ガードが間に合わず、もろにくらったはず。あの刹那の攻防で、ほかに手を打つ余裕などあるはずがないのだ。
ではなぜ陣は動けているのか。答えはアンドレーの拳が届く瞬間、リルが星詠みで守ってくれたから。基本擬似恒星は所持者の星詠みをサポートすることしかできず、勝手に動くことはありえない。だがリルのように確かな意志を持っていれば、話は別というもの。実際これまで陣が行使してきた星詠みは、リルが用意してくれたものを振りかざしているに過ぎない。なので陣の意識関係なく、目の前に星詠みの防壁を作ってもおかしくないのであった。
おかげで陣は軽傷で済み、そのままやられたふりを。そして敵が間合いに入ってくる最善のタイミングで動いたのであった。
「アンドレー、わるいが狙いはあんたじゃないぜ」
「ハッ!? まさかてめぇ!」
即座に腕でガードしようとするアンドレーだが、あいにく狙いはそっちじゃないのだ。
たとえ陣の全力の星詠みをたたき込んでも、この程度の出力では仕留めきれないだろう。ゆえに陣が狙うのは彼ではない。そう、先程気付いた打開策。サイファス・フォルトナーの擬似恒星へ攻撃を。
「狙いはその擬似恒星だ! ありったけのリルの星詠みをくらえ!」
アンドレーのポケットに入っている擬似恒星目掛けて、リルの星詠みを放つ。すでにこれまでの戦いで、どこに擬似恒星を持っているかは把握していた。その場所はアンドレーのマナの流れから、容易に特定できていたのである。
(二つの擬似恒星は共鳴しあっている。ならリルの星詠みを注ぎ込めば、やつの星の均衡になにかしらの影響を与えられるかもしれない!)
これは先程気づいいたこと。二つの擬似恒星はなぜか共鳴しあっているのだ。これは実際近くで戦っていてわかったことであり、さらに前アンドレーと戦った時見た謎の光景からもうかがえる。これをふまえもしサイファス・フォルトナーの擬似恒星に、リルの星詠みをたたき込んだらどうなるか。おそらくサイファス・フォルトナーの擬似恒星が活性化し、今のアンドレーが保っている均衡を崩せるかもと思ったのだ。
「チッ!? おさまりやがれー!?」
陣の攻撃後、アンドレーに異変が。彼はサイファス・フォルトナーの擬似恒星をポケットから取り出し、必死ににぎりしめだした。
どうやらうまくいったらしい。サイファス・フォルトナーの擬似恒星は突然活性化し、それにリンクしていたアンドレーの星にまで影響を。結果、彼は急に膨れ上がる星を抑えるのに、精一杯のようだ。
「うおぉぉぉぉぉ!?」
「ッ!?」
アンドレーから湧き出るあまりの星の余波に、陣は吹き飛ばされてしまう。
だがアンドレーは今だ抑え込むのに必死。暴走手前だったこともあり、そうとう効いたようだ。あとは無防備なアンドレーを仕留めるだけだ。
「おわりだ。アンドレー」
陣はこのチャンスを逃すまいと、地を蹴り疾走。アンドレー目掛けてとどめの一撃を繰り出そうと、間合いを詰める。
「ふざけるな! こんなところでおわれるかーーー!」
「なっ!?」
しかし予想外のことが。
なんとアンドレーは気力を振りしぼり、土壇場で攻撃を。サイファス・フォルトナーの擬似恒星をにぎりしめた手で、あふれんばかりの破壊の輝きを放ってきたのだ。
その出力はこれまで戦ってきた中で最大級。膨大に圧縮された巨大な黒い波動が、陣ごと一帯を飲み込もうと。おそらく暴走して生まれた星の輝きを、そのまま投げ飛ばしたのだろう。
「ジンくん、ダメ!? 今すぐ逃げて!?」
擬似恒星からリルのさけび声が聞こえる。
彼女がとり乱すのも無理はない。この出力では、陣の星詠みだと到底防ぎようがないのだ。だが後方に下がるといっても、すでに陣はアンドレーに突撃をかけている真っ最中。今から下がろうとして、果たして間に合うかどうか。
それにこの攻撃を突き破ることができれば、反動で動けないアンドレーを確実に仕留めることができるはず。できれば態勢を整えられる前に、このまま押し切りたいところであった。
そんな中、陣がとった行動は。
「今のお前さんはその擬似恒星に使われてるだけだ。そんな状態で繰り出される星詠みなんざ、話にもなんねーよ」
先程アンドレーが言っていた言葉を思い出し、陣はリル・フォルトナーの擬似恒星を強くにぎった。もはや普通でやって勝てないのは明白。ゆえに陣は覚悟を決め、意識を擬似恒星の中へ持っていく。それは少し前、戦う前の準備でやった同調作業のように。ただ今回は前とは違い、止まろうとは思わず一気に中へ。
(頼む。力を貸してくれ! リル・フォルトナー!)
リル・フォルトナーの擬似恒星に同調しながら、必死に祈る。
「ふふっ、しかたないね。今回は特別なんだよ」
ふと声が聞こえた気がした。
気付けば陣は少し前同調した時に訪れた、淡く輝く白い花が咲きほこった草原に。
そして視線の先には、リルの面影を残す大人びた少女の姿が。彼女はくすくすとほほえみ、陣の期待に応えてくれる。
「これならいける!」
そんな光景もつかの間、陣の意識は再び現実に。
だが先程と違うことが一つ。なんとリル・フォルトナーの擬似恒星からあふれんばかりの力が。
「え? どうして? わたしはなにもしてないのに、勝手に力が……」
リルの驚く声が聞こえてくる。
どうやらこの力の奔流は、彼女とは別のものらしい。
「いけーーー!」
陣はそのまま擬似恒星をにぎりしめた拳を、せまりくる脅威にたたき込む。
まばゆい輝きと、膨大な黒い波動が激突。互いを塗りつぶそうと、輝き同士がほとばしり合う。
「なっ!? これはアンドレーと同じ力!?」
そこで異変が。なんと陣の拳に突然、アンドレーと同じ黒いオーラが。それは破壊という概念をつき詰めた、理不尽な力。なにもかも黒く塗りつぶし消滅させる暴虐の塊。それがなんと陣の手に宿ったのだ。
「うぉぉぉぉ! 突き破れーー!」
擬似恒星をにぎる手に全身全霊マナを込め、力を振り絞(しぼ)る。
「バカな!?」
次の瞬間、黒かった視界が急に晴れ、アンドレーの驚愕する姿が目に飛び込んできた。
それもそのはず陣は放たれた黒い波動に風穴をあけ、見事突き抜けたのだ。
「ハァッ!」
陣はそのまま間合いを詰め、彼の擬似恒星を持っている右腕をつかんだ。そしてつかんだ腕を全力でひねり、彼の間接を外す。
アンドレーは今だ暴走を抑えるのに必死であり、抵抗する余裕などないらしい。おかげですんなり間接技が決まった。
「がはっ!? てめぇ!?」
結果、アンドレーの右腕ににぎられていた擬似恒星が、落下していく。
彼は無理やり陣の腕を振り払い、左手でつかみにいこうとするが。
「させるかよ!」
アンドレーの左手が擬似恒星に届く瞬間、陣は回し蹴りを彼の胴体へとたたき込み吹き飛ばした。
そして地面に落ちていったサイファス・フォルトナーの擬似恒星を手に取る。
「これがサイファス・フォルトナーの擬似恒星……」
「ぐわぁーーーーーーッ!?」
真紅の輝きを放つ宝石に目を奪われていると、アンドレーの方からさけび声が。
彼は胸を押さえ、うずくまりながら必死に耐えていた。どうやら擬似恒星を失ったことで、自身の星を制御しきれなくなったのだろう。アンドレーの身体から、止めどない星の余波があふれだそうとしている。
「もう、あんたはおわりだ。今楽にしてやるよ」
陣はアンドレーにとどめを刺そうと。
このまま放っておくと、彼は暴走し周りに大被害が。ゆえにこの場で仕留めるのが最善の手。楽にしてやる意味も込め、リルの擬似恒星にマナを注ぎ込む。
だが。
「まだこんなところで、死んでたまるかーッ!」
「ッ!?」
アンドレーは血走った目で陣をにらみ、雄叫びを。
次の瞬間、彼を中心に黒いオーラが吹き出し、その余波で辺り一帯をふき飛ばしていく。
陣はなんとかリルの星詠みでガードするが。
「なっ!? いない!?」
視界が晴れると、すでにアンドレーの姿は消えていたのであった。
そして肩で息をつきながら、リルにたずねる。
「――はぁ、はぁ、リル、この戦力差どうにかならないのか?」
「ごめん、あそこまでサイファス・フォルトナーの星詠みを使われたら、さすがに厳しいんだよ」
「だよな。いくらリルの擬似恒星があるとはいえ、こっちは制限付き。普通の創星使いにも劣る状態だから、勝機がみいだせない。クソ、どうすれば……」
あまりの勝ち目のなさに、頭を悩ますしかない。
現状陣の星詠みは、出力の問題でまったく歯が立たない状況。苦肉の策で魔法も使ってみたが案の定効かず、もはやなすすべがなかった。
「付け入る隙があるとすれば、アンドレーは暴走間近ということかな。もし今の力の均衡を崩す事ができれば、あるいは……」
「一理あるが、そんなのどうやって……」
リルの助言はもっともだが、その方法が思いつかない。
しかしそこでふと頭によぎることが。
「――まてよ? そういえばあのとき……」
陣はリル・フォルトナーの擬似恒星を見つめ、この前のアンドレー戦のことを思いだす。というのもあの戦いで一つ、心当たりがあったのだ。
だがその思考も長くは続かず。
「はっ!? ジンくん! 来るよ!」
「ッ!? 下から!?」
リルにうながされ真下を見ると、地面から力の流動を感じた。次の瞬間、地面から黒いオーラの奔流が湧き出て、陣を飲み込もうと。どうやらアンドレーに居場所がばれてしまったようだ。
そんなまさかの下からの攻撃であったが、直前に気付いたためなんとか飛び出ることに成功。敵の奇襲をやりすごす。
しかし。
「もらったぜ!」
「ッ!? 今のは陽動!? クッ!?」
なんと回避した先に、アンドレーが。彼は陣の動きを読み、すでに攻撃態勢をとっていたのだ。
とっさに腕でガードしようとするが、もはや敵は懐にまで侵入しており間に合わない。燃え盛る黒いオーラの拳は見事陣の胴体をとらえ、猛威を。圧倒的破壊と共に、陣を吹き飛ばした。
「しまいだな。まあ、その程度の操作で、よくここまで食らいついたとほめてやるよ。その褒美に、最後はお前さんが求めたこの輝きでおわらせてやる」
アンドレーは倒れている陣へ、とどめをさそうと近づいてくる。
今の一撃はもろに入ったため、誰が見てもこの勝負片が付いたとみるだろう。実際陣は今だ倒れたまま。たとえ動けたとしても、反動でそうそう動けるはずがない。
「あばよ!」
アンドレーが黒いオーラをまとわせた拳を、振り下ろそうと。
「今だ!」
「なに!?」
しかしその瞬間、陣は急に立ち上がり攻撃へ。
これにはアンドレーも驚愕するしかないようだ。陣はあの時ガードが間に合わず、もろにくらったはず。あの刹那の攻防で、ほかに手を打つ余裕などあるはずがないのだ。
ではなぜ陣は動けているのか。答えはアンドレーの拳が届く瞬間、リルが星詠みで守ってくれたから。基本擬似恒星は所持者の星詠みをサポートすることしかできず、勝手に動くことはありえない。だがリルのように確かな意志を持っていれば、話は別というもの。実際これまで陣が行使してきた星詠みは、リルが用意してくれたものを振りかざしているに過ぎない。なので陣の意識関係なく、目の前に星詠みの防壁を作ってもおかしくないのであった。
おかげで陣は軽傷で済み、そのままやられたふりを。そして敵が間合いに入ってくる最善のタイミングで動いたのであった。
「アンドレー、わるいが狙いはあんたじゃないぜ」
「ハッ!? まさかてめぇ!」
即座に腕でガードしようとするアンドレーだが、あいにく狙いはそっちじゃないのだ。
たとえ陣の全力の星詠みをたたき込んでも、この程度の出力では仕留めきれないだろう。ゆえに陣が狙うのは彼ではない。そう、先程気付いた打開策。サイファス・フォルトナーの擬似恒星へ攻撃を。
「狙いはその擬似恒星だ! ありったけのリルの星詠みをくらえ!」
アンドレーのポケットに入っている擬似恒星目掛けて、リルの星詠みを放つ。すでにこれまでの戦いで、どこに擬似恒星を持っているかは把握していた。その場所はアンドレーのマナの流れから、容易に特定できていたのである。
(二つの擬似恒星は共鳴しあっている。ならリルの星詠みを注ぎ込めば、やつの星の均衡になにかしらの影響を与えられるかもしれない!)
これは先程気づいいたこと。二つの擬似恒星はなぜか共鳴しあっているのだ。これは実際近くで戦っていてわかったことであり、さらに前アンドレーと戦った時見た謎の光景からもうかがえる。これをふまえもしサイファス・フォルトナーの擬似恒星に、リルの星詠みをたたき込んだらどうなるか。おそらくサイファス・フォルトナーの擬似恒星が活性化し、今のアンドレーが保っている均衡を崩せるかもと思ったのだ。
「チッ!? おさまりやがれー!?」
陣の攻撃後、アンドレーに異変が。彼はサイファス・フォルトナーの擬似恒星をポケットから取り出し、必死ににぎりしめだした。
どうやらうまくいったらしい。サイファス・フォルトナーの擬似恒星は突然活性化し、それにリンクしていたアンドレーの星にまで影響を。結果、彼は急に膨れ上がる星を抑えるのに、精一杯のようだ。
「うおぉぉぉぉぉ!?」
「ッ!?」
アンドレーから湧き出るあまりの星の余波に、陣は吹き飛ばされてしまう。
だがアンドレーは今だ抑え込むのに必死。暴走手前だったこともあり、そうとう効いたようだ。あとは無防備なアンドレーを仕留めるだけだ。
「おわりだ。アンドレー」
陣はこのチャンスを逃すまいと、地を蹴り疾走。アンドレー目掛けてとどめの一撃を繰り出そうと、間合いを詰める。
「ふざけるな! こんなところでおわれるかーーー!」
「なっ!?」
しかし予想外のことが。
なんとアンドレーは気力を振りしぼり、土壇場で攻撃を。サイファス・フォルトナーの擬似恒星をにぎりしめた手で、あふれんばかりの破壊の輝きを放ってきたのだ。
その出力はこれまで戦ってきた中で最大級。膨大に圧縮された巨大な黒い波動が、陣ごと一帯を飲み込もうと。おそらく暴走して生まれた星の輝きを、そのまま投げ飛ばしたのだろう。
「ジンくん、ダメ!? 今すぐ逃げて!?」
擬似恒星からリルのさけび声が聞こえる。
彼女がとり乱すのも無理はない。この出力では、陣の星詠みだと到底防ぎようがないのだ。だが後方に下がるといっても、すでに陣はアンドレーに突撃をかけている真っ最中。今から下がろうとして、果たして間に合うかどうか。
それにこの攻撃を突き破ることができれば、反動で動けないアンドレーを確実に仕留めることができるはず。できれば態勢を整えられる前に、このまま押し切りたいところであった。
そんな中、陣がとった行動は。
「今のお前さんはその擬似恒星に使われてるだけだ。そんな状態で繰り出される星詠みなんざ、話にもなんねーよ」
先程アンドレーが言っていた言葉を思い出し、陣はリル・フォルトナーの擬似恒星を強くにぎった。もはや普通でやって勝てないのは明白。ゆえに陣は覚悟を決め、意識を擬似恒星の中へ持っていく。それは少し前、戦う前の準備でやった同調作業のように。ただ今回は前とは違い、止まろうとは思わず一気に中へ。
(頼む。力を貸してくれ! リル・フォルトナー!)
リル・フォルトナーの擬似恒星に同調しながら、必死に祈る。
「ふふっ、しかたないね。今回は特別なんだよ」
ふと声が聞こえた気がした。
気付けば陣は少し前同調した時に訪れた、淡く輝く白い花が咲きほこった草原に。
そして視線の先には、リルの面影を残す大人びた少女の姿が。彼女はくすくすとほほえみ、陣の期待に応えてくれる。
「これならいける!」
そんな光景もつかの間、陣の意識は再び現実に。
だが先程と違うことが一つ。なんとリル・フォルトナーの擬似恒星からあふれんばかりの力が。
「え? どうして? わたしはなにもしてないのに、勝手に力が……」
リルの驚く声が聞こえてくる。
どうやらこの力の奔流は、彼女とは別のものらしい。
「いけーーー!」
陣はそのまま擬似恒星をにぎりしめた拳を、せまりくる脅威にたたき込む。
まばゆい輝きと、膨大な黒い波動が激突。互いを塗りつぶそうと、輝き同士がほとばしり合う。
「なっ!? これはアンドレーと同じ力!?」
そこで異変が。なんと陣の拳に突然、アンドレーと同じ黒いオーラが。それは破壊という概念をつき詰めた、理不尽な力。なにもかも黒く塗りつぶし消滅させる暴虐の塊。それがなんと陣の手に宿ったのだ。
「うぉぉぉぉ! 突き破れーー!」
擬似恒星をにぎる手に全身全霊マナを込め、力を振り絞(しぼ)る。
「バカな!?」
次の瞬間、黒かった視界が急に晴れ、アンドレーの驚愕する姿が目に飛び込んできた。
それもそのはず陣は放たれた黒い波動に風穴をあけ、見事突き抜けたのだ。
「ハァッ!」
陣はそのまま間合いを詰め、彼の擬似恒星を持っている右腕をつかんだ。そしてつかんだ腕を全力でひねり、彼の間接を外す。
アンドレーは今だ暴走を抑えるのに必死であり、抵抗する余裕などないらしい。おかげですんなり間接技が決まった。
「がはっ!? てめぇ!?」
結果、アンドレーの右腕ににぎられていた擬似恒星が、落下していく。
彼は無理やり陣の腕を振り払い、左手でつかみにいこうとするが。
「させるかよ!」
アンドレーの左手が擬似恒星に届く瞬間、陣は回し蹴りを彼の胴体へとたたき込み吹き飛ばした。
そして地面に落ちていったサイファス・フォルトナーの擬似恒星を手に取る。
「これがサイファス・フォルトナーの擬似恒星……」
「ぐわぁーーーーーーッ!?」
真紅の輝きを放つ宝石に目を奪われていると、アンドレーの方からさけび声が。
彼は胸を押さえ、うずくまりながら必死に耐えていた。どうやら擬似恒星を失ったことで、自身の星を制御しきれなくなったのだろう。アンドレーの身体から、止めどない星の余波があふれだそうとしている。
「もう、あんたはおわりだ。今楽にしてやるよ」
陣はアンドレーにとどめを刺そうと。
このまま放っておくと、彼は暴走し周りに大被害が。ゆえにこの場で仕留めるのが最善の手。楽にしてやる意味も込め、リルの擬似恒星にマナを注ぎ込む。
だが。
「まだこんなところで、死んでたまるかーッ!」
「ッ!?」
アンドレーは血走った目で陣をにらみ、雄叫びを。
次の瞬間、彼を中心に黒いオーラが吹き出し、その余波で辺り一帯をふき飛ばしていく。
陣はなんとかリルの星詠みでガードするが。
「なっ!? いない!?」
視界が晴れると、すでにアンドレーの姿は消えていたのであった。
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