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2章 第3部 陣の選択
73話 陣vsアンドレー
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静寂に包まれた建物内ゆえ、コツコツと足音が響きわたっている。陣はレンと別れてからエントランスを抜け、屋上に続く階段を上っていた。そしてとうとう最上階である八階にたどり着く。屋上に出る扉を開き、外へと。曇っていた空はさらに黒さをまし、今にも雨が振りだしそうであった。
屋上のど真ん中には、一人たたずみ待ちわびるアンドレーの姿が。
「来やがったな。でも本当にいいのか? 今ならまだ引き返せるぞ?」
「最後の忠告どうも。でも、もう決めたことだ。あんたを倒し、サイファス・フォルトナーの擬似恒星を手に入れる。そして待ちに待った、スタート地点に立たせてもらうさ」
陣の身を案じて問うてくるアンドレーに、きっぱりと覚悟を告げる。
レンとの一件ですでに迷いは晴れた。なのであとはアンドレーを倒し、サイファス・フォルトナーの擬似恒星を手に入れるだけだ。
「クハハ、そう来なくっちゃな! 言っとくが、横やりは心配しなくていいぜ。グレゴリオの野郎が、梅雨払いを引き受けてくれたからな」
するとアンドレーはさぞ愉快気に笑い、臨戦態勢を。
「グレゴリオ大司教が?」
「やつも化け物じみた創星術師だ。たとえ断罪者であろうと、遅れはとらねーさ」
まだここら一帯に星葬機構の兵士たちがいるはずと警戒していたが、どうやらその心配はいらなさそうだ。これなら少しばかりドンパチしても、しばらく横やりははいらないだろう。
「それにお前さんところの、ルシアっていう嬢ちゃんもいることだしな」
「ルシアもか。オレがより高みに行くための、お膳立てっていうわけだな」
姿を見かけないと思っていたら、グレゴリオ大司教と合流していたらしい。
魔道をきわめる上で、闘争は重要なファクター。なのでルシア的には、ここで陣が経験を積み飛躍することを願っているのだろう。
「さあ、準備が整ったところで、さっさと始めようぜ! お前さんの持つ擬似恒星には興味があったんだ! ここまでサイファス・フォルトナーの擬似恒星が反応するってことは、よほどの代物だろ! 冥途の土産にその輝きを見せてくれ!」
アンドレーは腕をバッと横に振りかざし、声高らかに吠える。
「望むところだ! リル、いくぞ!」
「サポートは任せてほしいんだよ」
そんな彼の誘いに、陣たちも全力で応えてやった。
リル・フォルトナーの擬似恒星であるロケット式のペンダントを右手にとり、意識を集中する。リルの方も全力でいくためか姿を消し、擬似恒星の中に戻っていくのを感じた。
「まずはあいさつがわりに! ハァッ!」
陣はリル・フォルトナーの擬似恒星へマナを注ぎ、星詠みを起動。そしてマナを身体にまとい、身体強化の魔法を行使。地を蹴り、アンドレー目掛けて突撃を。またたく間に間合いを詰め、敵の鳩尾に右拳をたたき込もうとする。
「来な!」
だがアンドレーは陣の動きをとらえ、同じく右拳で迎え撃ってきた。
その拳には彼の星詠みによる力が。破壊という概念を凝縮したような、黒いオーラ。一度触れればいかなるものも黒く塗り潰し、消滅するといわんばかりの力の塊だ。
しかし陣の拳も負けてはいない。こちらにはリル・フォルトナーの星詠みの力がまとっているのだ。相変わらずその原理はわからないが、力を発揮出来ているのでそこまで問題ない。あとはサポートしてくれているリルを信じ、拳を振るうだけだ。
そして両者の拳は真っ向から衝突。無色と黒の力が相手を塗り潰そうと咆哮を上げた。そのあまりの力の激突に、大気を震わせ余波がこの場一体を襲う。かくいう陣も踏ん張らなければ、吹き飛ばされてしまいそうな勢いであった。
「クハハ、この一撃を防ぎやがるか! おもしれー!」
アンドレーは豪快に笑いながら、つかさず左拳で二撃目を。
対して陣は即座に後ろに下がり、二撃目の黒い拳を回避した。
「よし、前回どうようこの力ならやれるな。リル、一気にたたみかけるぞ!」
「わかったんだよ!」
リルに声を掛け、陣は再び攻撃を開始。間合いを詰め次々に格闘による猛襲を。拳撃、蹴り、拳打など繰り出す技は様々。ロンギヌス代表の神代ハルトに教わった武術を最大限いかし、打って出る。しかもその一打一打にリルの星詠みをまとわせてだ。
「クッ、てめぇ!?」
アンドレーも戦い慣れしてるためか、なんとか対応を。しかしこれまで格闘重視で数々の戦場を駆けめぐってきた陣の方が、一枚上手だったようだ。次第にアンドレーを押していくように。
(いける! 敵の攻撃を相殺できるなら、あとは格闘なれしたオレに分があるはず!)
ここまで陣がくいついていけているのも、現状バトルスタイルが同じだから。
これまでのアンドレーの戦い方をみるに、その圧倒的破壊の力を拳に宿し、相手の星詠みごと術者をたたきつぶすバトルスタイルのはず。サイファス・フォルトナーほどの星詠みならば、そんな単純な方法でこれまで十分だったのだろう。しかしそれが可能だったのも、彼の攻撃を止める術がなかったから。陣のように相殺出来てしまえば、あとは純粋に接近戦に秀でる者が勝つのは道理。アンドレーの方も武術に心得はあるようだが、彼の星詠みゆえここまで格闘戦をした経験はほとんどないはずだ。よって陣の方に軍配が上がる結果に。
しかし。
「やるじゃねーか、お前さん。ならこっちもそろそろ本気を出すとするか!」
「ッ!? ヤバイッ!?」
突如の異変に、陣はすぐさま距離をとる。
なにが起こったかというと、アンドレーの星詠みの出力が格段に上がったのだ。そのあふれんばかりの力を前に、これはやばいと本能をが叫び後退を余儀なくされた。
実際その判断は正しかったようで、アンドレーの拳をまとう黒いオーラはみるみるうちに肥大化。巨大な球体にまでに膨れ上がっていく。
「なんだあの大きさ!? さっきまでと比べモノにならないぞ!?」
「驚くのはまだ早いぜ! くらいな!」
「なッ!?」
アンドレーの攻撃に驚愕する。
なんと彼は破壊の概念を凝縮した球体を、陣目掛けて放ってきたのだ。その威力はでかさからもわかる通り、さっきまでの比ではない。しかも今回の射程は、後方に下がった陣を完全にとらえているのだ。これまで射程が短いのが唯一の救いだったのに、その考えを根本からくつがえしてくる攻撃であった。
放たれた黒い波動は、地面を抉りながらなにもかも飲み込み陣へと。
「間に合え!?」
陣は身体強化の魔法の出力を限界まで上げ、地を思いっきり蹴る。
そのおかげでギリギリ回避することに成功。アンドレーの攻撃をやり過ごした。
「おいおい、遠距離攻撃が使えるなんて聞いてないぞ……」
「クハハ、身にまとうだけなわけねーだろ! 今までのは暴走抑制の、擬似恒星だけの星詠み。ここから先はオレさま自身の星詠みだぜ! 覚悟しな!」
アンドレーは雄叫びを上げ、二発目を。だがそれだけではおわらない。黒いオーラの波動を次々に放ち、陣を仕留めようと。
(マジかよ! 今まで全然本気じゃなかったということか?)
かわしながらも、動揺を隠せない。
これまでのアンドレーは創星使いと同じレベル。それはまだ陣と同じ土俵で戦っていたといっても過言ではないのだ。創星使いレベルでギリギリついていけていたのに、本物の創星術師レベルとなるとどうなってしまうのか。もはやその事実に軽く絶望を覚えてしまう。
「オラオラ、さっきまでの威勢はどうした!」
「クッ!? うかつに近づけない!?」
もはや陣は回避に専念するしかない。
こうも連続で撃たれるとなると、近づくのは至難の業。アンドレーの砲撃はその星詠みの特性上、一撃一撃が必殺級の代物。当たれば大ダメージはまのがれないため、うかつに攻撃に転じられないのだ。
「おっと、接近戦を忘れてもらっちゃ、困るぜ!」
「ッ!?」
遠距離ばかりに気をとられていると、いつの間にかアンドレーが目の前に。そして燃え盛るような黒いオーラをまとう拳が、陣へとせまる。
その拳にまとう星詠みの出力は、オーラの大きさからも見て分かる通り明らかに上。もはや今の擬似恒星を使った拳では、相殺することは叶わないだろう。そう判断し陣は思いっきり地を蹴って後方へ大きく跳躍。結果、ビルの屋上から飛び降りる形に。
これによりアンドレーの拳は標的を見失い、そのまま屋上の床を破壊。爆音と共にクレータを生んでいた。
「逃がすかよ!」
回避できて安堵するのもつかの間、アンドレーは今だ上空にいる陣に狙いをさだめ、黒い波動を撃ち込んできたのだ。
「直撃コース!? チッ!?」
黒い波動は完全に陣をとらえており、いくら回避に専念しようと被弾はまのがれない。
ゆえに陣はリルの星詠みの出力を限界まで上げ、両腕で受け止めた。
(なんて威力だ。これが奴の本気かよ!?)
そのまま破壊の概念に押しつぶされそうになるが、必死にこらえる。そしてなんとか軌道を変え、そらしてみせた。
「まだまだー!」
「ッ!? 上!?」
上を見上げると、いつの間にかアンドレーも上空に。どうやら黒い波動を放った後、跳躍し追撃をかけてきたようだ。
アンドレーはすでに攻撃態勢を。燃え盛る黒いオーラをまとった拳を、たたきつぶす要領で振りかざしてきた。
陣はとっさにリルの星詠みをまとった両腕でガードを。
「クッ!?」
次の瞬間、重い衝撃が陣を襲う。
多少はダメージを軽減できたであろうが、それでもあの黒いオーラの破壊力は相当だったようだ。全身を巨大な鈍器でなぎ払われたかのような衝撃と共に、たたき落とされてしまった。
「ジンくん、しっかり!? まだ上から来るんだよ!」
意識が飛びそうになる中、リルの声が。
見上げるとアンドレーが落下する陣にとどめを刺すため、圧縮した黒い波動を放とうとしていた。
「マジかよ!? 風よ!」
陣は地面にたたきつけられる直前に、風の魔法を発動。圧縮した大気を地面へ撃ち、クッション代わりに。落下の勢いを殺して、地面に着地。そして身体強化した足で跳躍し、振り下ろされる暴虐の塊をかわす。
「――ふぅ、危機一髪……。この戦力差、どうすれば……、――ハッ!?」
爆音とともに巨大なクレータを生むアンドレーの砲撃を見ながら、呼吸を整える。
先程の攻撃はよほどの威力だったらしく、直撃地点には今だ土煙が。そこへアンドレーが着地したのを見さだめ。
「炎よ、焼き尽くせ!」
陣は即座にマナを練り、目の前の土煙目掛けて魔法を発動。
轟轟と燃えたぎる炎の渦がその一帯を取り巻いた。もはや巨大な火柱と化した業火は、中にいるモノを焼き尽くそうと勢いを増していく。
だがそんな炎の中から人影が。
「こんなもんでオレさまがくたばるかよ!」
火柱を突き破り、陣に突撃してくるのはアンドレー。
ドス黒いオーラをまとった腕を伸ばし、陣につかみかかってきた。
「ヤバイッ!?」
向こうは身体強化の魔法で全力で突っ込んできているため、彼の腕はもう目の前に。
このままでは胴体へもろに入るため、両腕をすべりこませガード。すぐさまリルの星詠みを発動し、身を守る。
「クハハ、止められるものなら止めてみろ!」
アンドレーはガードする陣の腕をつかむ。そしてそのまま無理やり押し込み、廃ビルの壁にたたきつけてきた。
「グハッ!?」
だがそれだけで事態はおわらない。今だアンドレーの黒いオーラが、陣を押しつぶそうと猛威を振るっているのだ。現状なんとかリルの星詠みで抵抗しているが、このままではいずれ限界がきてしまうだろう。
「どうした? まさかこの程度でおわりというわけじゃねーよな? さすがに拍子抜けもいいところだぞ?」
冷めた口調で告げてくるアンドレー。
「そう思うなら少しは手加減してくれないか? こっちはまだ擬似恒星を使い慣れていないんだが?」
「クハハ、それ以前の問題だろ。今のお前さんはその擬似恒星に使われてるだけだ。そんな状態で繰り出される星詠みなんざ、話にもなんねーよ。もっと同調して、さっさと制御権を奪ってきやがれ」
アンドレーの言う通り、今の陣はお世辞にもリルの擬似恒星を使いこなせているとはいえないのだ。擬似恒星にただマナを注ぐだけで、あとのことはリルにすべて任せている状況。手伝おうにも彼女の星の特性を理解できていないため、干渉は不可。どうすることもできなかった。
「――ははは……、そうはいってもこいつ、なかなか言うことを聞いてくれなくてさ」
「おいおい、少しは見どころがあると思ったのに、しょせんその程度かよ。なら、もう、お前さんには用はねー。力を引き出せないなら、このまま押しつぶされて消えちまえ!」
アンドレーはさらに出力を上げ、陣を押しつぶそうと。
これ以上は時間の無駄と判断し、勝負を決めにきたようだ。
「クッ、こんなところでおわってたまるか! 地よ、砕けろ!」
陣は黒いオーラに押しつぶされようとする中、左手を後ろのビルの壁に。そして地属性の魔法を、コンクリートの壁に撃った。するとまたたく間に亀裂が走り、壁が崩れ去っていく。これは地面を陥落させるときに使う魔法を、応用したもの。このような用途で行使すれば穴をあけ、無理やり通路を作り出すことができるのであった。
おかげで陣は後方に逃げられるようになり、すぐさま後方へと下がる。
「逃がすかよ!」
「光よ、はじけろ」
追撃をかけようとするアンドレーに、陣はマナを練る。
そして魔法で目がくらむほどの光の球体を生み出し、一気に解放した。結果、一帯に強烈な光が襲い、周囲を一瞬真っ白に染める。
「なんだと!?」
これにはさすがのアンドレーも、一瞬だが陣を見失うはめに。その隙に陣は態勢を立て直すため、一端距離をとるのであった。
屋上のど真ん中には、一人たたずみ待ちわびるアンドレーの姿が。
「来やがったな。でも本当にいいのか? 今ならまだ引き返せるぞ?」
「最後の忠告どうも。でも、もう決めたことだ。あんたを倒し、サイファス・フォルトナーの擬似恒星を手に入れる。そして待ちに待った、スタート地点に立たせてもらうさ」
陣の身を案じて問うてくるアンドレーに、きっぱりと覚悟を告げる。
レンとの一件ですでに迷いは晴れた。なのであとはアンドレーを倒し、サイファス・フォルトナーの擬似恒星を手に入れるだけだ。
「クハハ、そう来なくっちゃな! 言っとくが、横やりは心配しなくていいぜ。グレゴリオの野郎が、梅雨払いを引き受けてくれたからな」
するとアンドレーはさぞ愉快気に笑い、臨戦態勢を。
「グレゴリオ大司教が?」
「やつも化け物じみた創星術師だ。たとえ断罪者であろうと、遅れはとらねーさ」
まだここら一帯に星葬機構の兵士たちがいるはずと警戒していたが、どうやらその心配はいらなさそうだ。これなら少しばかりドンパチしても、しばらく横やりははいらないだろう。
「それにお前さんところの、ルシアっていう嬢ちゃんもいることだしな」
「ルシアもか。オレがより高みに行くための、お膳立てっていうわけだな」
姿を見かけないと思っていたら、グレゴリオ大司教と合流していたらしい。
魔道をきわめる上で、闘争は重要なファクター。なのでルシア的には、ここで陣が経験を積み飛躍することを願っているのだろう。
「さあ、準備が整ったところで、さっさと始めようぜ! お前さんの持つ擬似恒星には興味があったんだ! ここまでサイファス・フォルトナーの擬似恒星が反応するってことは、よほどの代物だろ! 冥途の土産にその輝きを見せてくれ!」
アンドレーは腕をバッと横に振りかざし、声高らかに吠える。
「望むところだ! リル、いくぞ!」
「サポートは任せてほしいんだよ」
そんな彼の誘いに、陣たちも全力で応えてやった。
リル・フォルトナーの擬似恒星であるロケット式のペンダントを右手にとり、意識を集中する。リルの方も全力でいくためか姿を消し、擬似恒星の中に戻っていくのを感じた。
「まずはあいさつがわりに! ハァッ!」
陣はリル・フォルトナーの擬似恒星へマナを注ぎ、星詠みを起動。そしてマナを身体にまとい、身体強化の魔法を行使。地を蹴り、アンドレー目掛けて突撃を。またたく間に間合いを詰め、敵の鳩尾に右拳をたたき込もうとする。
「来な!」
だがアンドレーは陣の動きをとらえ、同じく右拳で迎え撃ってきた。
その拳には彼の星詠みによる力が。破壊という概念を凝縮したような、黒いオーラ。一度触れればいかなるものも黒く塗り潰し、消滅するといわんばかりの力の塊だ。
しかし陣の拳も負けてはいない。こちらにはリル・フォルトナーの星詠みの力がまとっているのだ。相変わらずその原理はわからないが、力を発揮出来ているのでそこまで問題ない。あとはサポートしてくれているリルを信じ、拳を振るうだけだ。
そして両者の拳は真っ向から衝突。無色と黒の力が相手を塗り潰そうと咆哮を上げた。そのあまりの力の激突に、大気を震わせ余波がこの場一体を襲う。かくいう陣も踏ん張らなければ、吹き飛ばされてしまいそうな勢いであった。
「クハハ、この一撃を防ぎやがるか! おもしれー!」
アンドレーは豪快に笑いながら、つかさず左拳で二撃目を。
対して陣は即座に後ろに下がり、二撃目の黒い拳を回避した。
「よし、前回どうようこの力ならやれるな。リル、一気にたたみかけるぞ!」
「わかったんだよ!」
リルに声を掛け、陣は再び攻撃を開始。間合いを詰め次々に格闘による猛襲を。拳撃、蹴り、拳打など繰り出す技は様々。ロンギヌス代表の神代ハルトに教わった武術を最大限いかし、打って出る。しかもその一打一打にリルの星詠みをまとわせてだ。
「クッ、てめぇ!?」
アンドレーも戦い慣れしてるためか、なんとか対応を。しかしこれまで格闘重視で数々の戦場を駆けめぐってきた陣の方が、一枚上手だったようだ。次第にアンドレーを押していくように。
(いける! 敵の攻撃を相殺できるなら、あとは格闘なれしたオレに分があるはず!)
ここまで陣がくいついていけているのも、現状バトルスタイルが同じだから。
これまでのアンドレーの戦い方をみるに、その圧倒的破壊の力を拳に宿し、相手の星詠みごと術者をたたきつぶすバトルスタイルのはず。サイファス・フォルトナーほどの星詠みならば、そんな単純な方法でこれまで十分だったのだろう。しかしそれが可能だったのも、彼の攻撃を止める術がなかったから。陣のように相殺出来てしまえば、あとは純粋に接近戦に秀でる者が勝つのは道理。アンドレーの方も武術に心得はあるようだが、彼の星詠みゆえここまで格闘戦をした経験はほとんどないはずだ。よって陣の方に軍配が上がる結果に。
しかし。
「やるじゃねーか、お前さん。ならこっちもそろそろ本気を出すとするか!」
「ッ!? ヤバイッ!?」
突如の異変に、陣はすぐさま距離をとる。
なにが起こったかというと、アンドレーの星詠みの出力が格段に上がったのだ。そのあふれんばかりの力を前に、これはやばいと本能をが叫び後退を余儀なくされた。
実際その判断は正しかったようで、アンドレーの拳をまとう黒いオーラはみるみるうちに肥大化。巨大な球体にまでに膨れ上がっていく。
「なんだあの大きさ!? さっきまでと比べモノにならないぞ!?」
「驚くのはまだ早いぜ! くらいな!」
「なッ!?」
アンドレーの攻撃に驚愕する。
なんと彼は破壊の概念を凝縮した球体を、陣目掛けて放ってきたのだ。その威力はでかさからもわかる通り、さっきまでの比ではない。しかも今回の射程は、後方に下がった陣を完全にとらえているのだ。これまで射程が短いのが唯一の救いだったのに、その考えを根本からくつがえしてくる攻撃であった。
放たれた黒い波動は、地面を抉りながらなにもかも飲み込み陣へと。
「間に合え!?」
陣は身体強化の魔法の出力を限界まで上げ、地を思いっきり蹴る。
そのおかげでギリギリ回避することに成功。アンドレーの攻撃をやり過ごした。
「おいおい、遠距離攻撃が使えるなんて聞いてないぞ……」
「クハハ、身にまとうだけなわけねーだろ! 今までのは暴走抑制の、擬似恒星だけの星詠み。ここから先はオレさま自身の星詠みだぜ! 覚悟しな!」
アンドレーは雄叫びを上げ、二発目を。だがそれだけではおわらない。黒いオーラの波動を次々に放ち、陣を仕留めようと。
(マジかよ! 今まで全然本気じゃなかったということか?)
かわしながらも、動揺を隠せない。
これまでのアンドレーは創星使いと同じレベル。それはまだ陣と同じ土俵で戦っていたといっても過言ではないのだ。創星使いレベルでギリギリついていけていたのに、本物の創星術師レベルとなるとどうなってしまうのか。もはやその事実に軽く絶望を覚えてしまう。
「オラオラ、さっきまでの威勢はどうした!」
「クッ!? うかつに近づけない!?」
もはや陣は回避に専念するしかない。
こうも連続で撃たれるとなると、近づくのは至難の業。アンドレーの砲撃はその星詠みの特性上、一撃一撃が必殺級の代物。当たれば大ダメージはまのがれないため、うかつに攻撃に転じられないのだ。
「おっと、接近戦を忘れてもらっちゃ、困るぜ!」
「ッ!?」
遠距離ばかりに気をとられていると、いつの間にかアンドレーが目の前に。そして燃え盛るような黒いオーラをまとう拳が、陣へとせまる。
その拳にまとう星詠みの出力は、オーラの大きさからも見て分かる通り明らかに上。もはや今の擬似恒星を使った拳では、相殺することは叶わないだろう。そう判断し陣は思いっきり地を蹴って後方へ大きく跳躍。結果、ビルの屋上から飛び降りる形に。
これによりアンドレーの拳は標的を見失い、そのまま屋上の床を破壊。爆音と共にクレータを生んでいた。
「逃がすかよ!」
回避できて安堵するのもつかの間、アンドレーは今だ上空にいる陣に狙いをさだめ、黒い波動を撃ち込んできたのだ。
「直撃コース!? チッ!?」
黒い波動は完全に陣をとらえており、いくら回避に専念しようと被弾はまのがれない。
ゆえに陣はリルの星詠みの出力を限界まで上げ、両腕で受け止めた。
(なんて威力だ。これが奴の本気かよ!?)
そのまま破壊の概念に押しつぶされそうになるが、必死にこらえる。そしてなんとか軌道を変え、そらしてみせた。
「まだまだー!」
「ッ!? 上!?」
上を見上げると、いつの間にかアンドレーも上空に。どうやら黒い波動を放った後、跳躍し追撃をかけてきたようだ。
アンドレーはすでに攻撃態勢を。燃え盛る黒いオーラをまとった拳を、たたきつぶす要領で振りかざしてきた。
陣はとっさにリルの星詠みをまとった両腕でガードを。
「クッ!?」
次の瞬間、重い衝撃が陣を襲う。
多少はダメージを軽減できたであろうが、それでもあの黒いオーラの破壊力は相当だったようだ。全身を巨大な鈍器でなぎ払われたかのような衝撃と共に、たたき落とされてしまった。
「ジンくん、しっかり!? まだ上から来るんだよ!」
意識が飛びそうになる中、リルの声が。
見上げるとアンドレーが落下する陣にとどめを刺すため、圧縮した黒い波動を放とうとしていた。
「マジかよ!? 風よ!」
陣は地面にたたきつけられる直前に、風の魔法を発動。圧縮した大気を地面へ撃ち、クッション代わりに。落下の勢いを殺して、地面に着地。そして身体強化した足で跳躍し、振り下ろされる暴虐の塊をかわす。
「――ふぅ、危機一髪……。この戦力差、どうすれば……、――ハッ!?」
爆音とともに巨大なクレータを生むアンドレーの砲撃を見ながら、呼吸を整える。
先程の攻撃はよほどの威力だったらしく、直撃地点には今だ土煙が。そこへアンドレーが着地したのを見さだめ。
「炎よ、焼き尽くせ!」
陣は即座にマナを練り、目の前の土煙目掛けて魔法を発動。
轟轟と燃えたぎる炎の渦がその一帯を取り巻いた。もはや巨大な火柱と化した業火は、中にいるモノを焼き尽くそうと勢いを増していく。
だがそんな炎の中から人影が。
「こんなもんでオレさまがくたばるかよ!」
火柱を突き破り、陣に突撃してくるのはアンドレー。
ドス黒いオーラをまとった腕を伸ばし、陣につかみかかってきた。
「ヤバイッ!?」
向こうは身体強化の魔法で全力で突っ込んできているため、彼の腕はもう目の前に。
このままでは胴体へもろに入るため、両腕をすべりこませガード。すぐさまリルの星詠みを発動し、身を守る。
「クハハ、止められるものなら止めてみろ!」
アンドレーはガードする陣の腕をつかむ。そしてそのまま無理やり押し込み、廃ビルの壁にたたきつけてきた。
「グハッ!?」
だがそれだけで事態はおわらない。今だアンドレーの黒いオーラが、陣を押しつぶそうと猛威を振るっているのだ。現状なんとかリルの星詠みで抵抗しているが、このままではいずれ限界がきてしまうだろう。
「どうした? まさかこの程度でおわりというわけじゃねーよな? さすがに拍子抜けもいいところだぞ?」
冷めた口調で告げてくるアンドレー。
「そう思うなら少しは手加減してくれないか? こっちはまだ擬似恒星を使い慣れていないんだが?」
「クハハ、それ以前の問題だろ。今のお前さんはその擬似恒星に使われてるだけだ。そんな状態で繰り出される星詠みなんざ、話にもなんねーよ。もっと同調して、さっさと制御権を奪ってきやがれ」
アンドレーの言う通り、今の陣はお世辞にもリルの擬似恒星を使いこなせているとはいえないのだ。擬似恒星にただマナを注ぐだけで、あとのことはリルにすべて任せている状況。手伝おうにも彼女の星の特性を理解できていないため、干渉は不可。どうすることもできなかった。
「――ははは……、そうはいってもこいつ、なかなか言うことを聞いてくれなくてさ」
「おいおい、少しは見どころがあると思ったのに、しょせんその程度かよ。なら、もう、お前さんには用はねー。力を引き出せないなら、このまま押しつぶされて消えちまえ!」
アンドレーはさらに出力を上げ、陣を押しつぶそうと。
これ以上は時間の無駄と判断し、勝負を決めにきたようだ。
「クッ、こんなところでおわってたまるか! 地よ、砕けろ!」
陣は黒いオーラに押しつぶされようとする中、左手を後ろのビルの壁に。そして地属性の魔法を、コンクリートの壁に撃った。するとまたたく間に亀裂が走り、壁が崩れ去っていく。これは地面を陥落させるときに使う魔法を、応用したもの。このような用途で行使すれば穴をあけ、無理やり通路を作り出すことができるのであった。
おかげで陣は後方に逃げられるようになり、すぐさま後方へと下がる。
「逃がすかよ!」
「光よ、はじけろ」
追撃をかけようとするアンドレーに、陣はマナを練る。
そして魔法で目がくらむほどの光の球体を生み出し、一気に解放した。結果、一帯に強烈な光が襲い、周囲を一瞬真っ白に染める。
「なんだと!?」
これにはさすがのアンドレーも、一瞬だが陣を見失うはめに。その隙に陣は態勢を立て直すため、一端距離をとるのであった。
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