69 / 113
2章 第3部 陣の選択
68話 リル・フォルトナーの星の輝き
しおりを挟む
「――ここはどこだ……? オレは確か、リルの擬似恒星の中に同調してたはずだが……?」
陣が目を開けると、そこには別世界が。
まるで月に照らされたかのように淡く輝く白い花が、見渡す限り咲きほこっている。そして空はなにもないかのごとく、空虚な闇に染まっていた。ただ淡く輝く白い花たちによって辺りは明るく、月夜の花畑にいるような感じが。
(――なんて清廉さだ……、圧巻とはこういうことを言うんだろうな……。こんな景色どこを探してもなさそうだ)
あまりの光景に思わず息をのむ。ここを一言で表すなら、まさに清廉。穢れなどなく、ただ純粋に真っ白な世界。もはやあまりの清廉さに、自分がここにいていいのか不安になってくるほどである。
陣の近くにはすぐさまお茶会ができそうな、白いガーデニングテーブルとイスが。しかもちょうどテーブルの上には、ティーセットが用意されていた。
「うん? 歌?」
そこでふと気づく。
今までこの光景に心を奪われていたため気付けなかったが、すぐ近くで女の子が歌ってることに。
歌の聞こえる方に視線を移すと、透きとおるような銀色の髪の少女の後ろ姿が。その少女には見覚えがあった。確かアンドレーとの戦闘中に見た、リルの面影を残す少女だったはず。
「――女の子……? ――クッ!?」
(ダメだ!? これ以上進んだら、戻ってこれなくなる!?)
近づこうとした瞬間頭に頭痛が走り、足が動かなくなってしまう。まるで脳がこの先に行くのを、拒んでいるかのように。
(――それでもオレはこの輝きを……)
しかしそれでも前に進もうと、一歩踏み出した。
わかるのだ。ここから先に進めば、四条陣がほしかったものが手に入ると。魔道の深淵に手が届くかもしれないゆえ、進まずにはいられなかった。たとえその結果、みずからの身をほろぼすことになったとしても。
(――動け! そしてあの輝きに手を伸ばせ!)
自身を奮い立たせ、銀色の髪の少女に手を伸ばす。
すると陣がいることに気付いたのか、少女は歌を止めこちらを振り返ろうと。
「ッ!?」
(なんだこれ!? 頭になにか入ってくる!?)
少女の澄んだ瞳が陣をとらえた瞬間、脳裏に無数の映像が。
だがそれらのほとんどが理解できず、通り過ぎていくだけ。最果てにいたるに欠かせない情報なのはわかるが、今の陣には読み解けなかった。
「――ジンくん!? ジンくん!? しっかりするんだよ!」
あまりの情報の波に意識が薄れていく中、リルのさけび声が。
そして陣の意識は闇へと堕ちていくのであった。
目を開けると、先程までいた荒れ果てたオフィスの光景が。
「――戻ってきたのか……」
「戻ってきたのか、じゃないんだよ!? なに勝手に奥に進んでるのかな!? 下手したら、そのまま浸食されてたかもしれないんだよ!?」
意識を取り戻して早々、リルが詰め寄りぷんぷん怒ってくる。
どうやら知らないうちに、擬似恒星の内部まで進んでしまっていたらしい。おそらくあまりの輝きを前に欲望を抑えきれず、無意識に行動してしまったようだ。
「ははは、あれが真理の一端……」
リルに怒られているのも忘れ、笑みが浮かび上がってしまう。
それほどまでに素晴らしい体験だったのだ。リル・フォルトナ-の星の輝きもそうだが、先程脳裏に流れてきた情報。これぞ陣がずっと待ちわびていたものだと。
「ちょっと!? ジンくん、なに笑ってるのかな!?」
「ははは、リル、お前ってほんとすごかったんだな。まさかあそこまで心を奪われるとは、見直したぞ」
抗議してくるリルの頭をなでながら、賞賛の言葉を送る。
「え? そう? ふふっ、まぁ、それほどでもあるんだよ!」
するとリルはテレくさそうにほほえみ、えっへんと胸を張りだす。
ほめられたことがうれしかったのか、先程の怒りを忘れているみたいだ。
(あの領域まで行ければ、この渇きだって絶対……。ははは、ああ、欲しくてたまらなくなってきやがった……)
先程の体験で一つ分かったことがある。
それは魔道の求道の果てに、陣の渇きを潤すなにかがあるということ。たった一端に触れてでさえ、ここまで心躍るのだ。ならばそのすべてを手に入れた瞬間、一体どうなってしまうのだろうか。もはや想像するだけで、探究心が疼いて仕方ない。少し前の灯里の陽だまりへの誘いを、忘れてしまうほどに。
そして陣はしばらくの間、今だ冷めぬ熱を胸に想いをはせるのであった。
陣が目を開けると、そこには別世界が。
まるで月に照らされたかのように淡く輝く白い花が、見渡す限り咲きほこっている。そして空はなにもないかのごとく、空虚な闇に染まっていた。ただ淡く輝く白い花たちによって辺りは明るく、月夜の花畑にいるような感じが。
(――なんて清廉さだ……、圧巻とはこういうことを言うんだろうな……。こんな景色どこを探してもなさそうだ)
あまりの光景に思わず息をのむ。ここを一言で表すなら、まさに清廉。穢れなどなく、ただ純粋に真っ白な世界。もはやあまりの清廉さに、自分がここにいていいのか不安になってくるほどである。
陣の近くにはすぐさまお茶会ができそうな、白いガーデニングテーブルとイスが。しかもちょうどテーブルの上には、ティーセットが用意されていた。
「うん? 歌?」
そこでふと気づく。
今までこの光景に心を奪われていたため気付けなかったが、すぐ近くで女の子が歌ってることに。
歌の聞こえる方に視線を移すと、透きとおるような銀色の髪の少女の後ろ姿が。その少女には見覚えがあった。確かアンドレーとの戦闘中に見た、リルの面影を残す少女だったはず。
「――女の子……? ――クッ!?」
(ダメだ!? これ以上進んだら、戻ってこれなくなる!?)
近づこうとした瞬間頭に頭痛が走り、足が動かなくなってしまう。まるで脳がこの先に行くのを、拒んでいるかのように。
(――それでもオレはこの輝きを……)
しかしそれでも前に進もうと、一歩踏み出した。
わかるのだ。ここから先に進めば、四条陣がほしかったものが手に入ると。魔道の深淵に手が届くかもしれないゆえ、進まずにはいられなかった。たとえその結果、みずからの身をほろぼすことになったとしても。
(――動け! そしてあの輝きに手を伸ばせ!)
自身を奮い立たせ、銀色の髪の少女に手を伸ばす。
すると陣がいることに気付いたのか、少女は歌を止めこちらを振り返ろうと。
「ッ!?」
(なんだこれ!? 頭になにか入ってくる!?)
少女の澄んだ瞳が陣をとらえた瞬間、脳裏に無数の映像が。
だがそれらのほとんどが理解できず、通り過ぎていくだけ。最果てにいたるに欠かせない情報なのはわかるが、今の陣には読み解けなかった。
「――ジンくん!? ジンくん!? しっかりするんだよ!」
あまりの情報の波に意識が薄れていく中、リルのさけび声が。
そして陣の意識は闇へと堕ちていくのであった。
目を開けると、先程までいた荒れ果てたオフィスの光景が。
「――戻ってきたのか……」
「戻ってきたのか、じゃないんだよ!? なに勝手に奥に進んでるのかな!? 下手したら、そのまま浸食されてたかもしれないんだよ!?」
意識を取り戻して早々、リルが詰め寄りぷんぷん怒ってくる。
どうやら知らないうちに、擬似恒星の内部まで進んでしまっていたらしい。おそらくあまりの輝きを前に欲望を抑えきれず、無意識に行動してしまったようだ。
「ははは、あれが真理の一端……」
リルに怒られているのも忘れ、笑みが浮かび上がってしまう。
それほどまでに素晴らしい体験だったのだ。リル・フォルトナ-の星の輝きもそうだが、先程脳裏に流れてきた情報。これぞ陣がずっと待ちわびていたものだと。
「ちょっと!? ジンくん、なに笑ってるのかな!?」
「ははは、リル、お前ってほんとすごかったんだな。まさかあそこまで心を奪われるとは、見直したぞ」
抗議してくるリルの頭をなでながら、賞賛の言葉を送る。
「え? そう? ふふっ、まぁ、それほどでもあるんだよ!」
するとリルはテレくさそうにほほえみ、えっへんと胸を張りだす。
ほめられたことがうれしかったのか、先程の怒りを忘れているみたいだ。
(あの領域まで行ければ、この渇きだって絶対……。ははは、ああ、欲しくてたまらなくなってきやがった……)
先程の体験で一つ分かったことがある。
それは魔道の求道の果てに、陣の渇きを潤すなにかがあるということ。たった一端に触れてでさえ、ここまで心躍るのだ。ならばそのすべてを手に入れた瞬間、一体どうなってしまうのだろうか。もはや想像するだけで、探究心が疼いて仕方ない。少し前の灯里の陽だまりへの誘いを、忘れてしまうほどに。
そして陣はしばらくの間、今だ冷めぬ熱を胸に想いをはせるのであった。
0
お気に入りに追加
27
あなたにおすすめの小説
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
性奴隷を飼ったのに
お小遣い月3万
ファンタジー
10年前に俺は日本から異世界に転移して来た。
異世界に転移して来たばかりの頃、辿り着いた冒険者ギルドで勇者認定されて、魔王を討伐したら家族の元に帰れるのかな、っと思って必死になって魔王を討伐したけど、日本には帰れなかった。
異世界に来てから10年の月日が流れてしまった。俺は魔王討伐の報酬として特別公爵になっていた。ちなみに領地も貰っている。
自分の領地では奴隷は禁止していた。
奴隷を売買している商人がいるというタレコミがあって、俺は出向いた。
そして1人の奴隷少女と出会った。
彼女は、お風呂にも入れられていなくて、道路に落ちている軍手のように汚かった。
彼女は幼いエルフだった。
それに魔力が使えないように処理されていた。
そんな彼女を故郷に帰すためにエルフの村へ連れて行った。
でもエルフの村は魔力が使えない少女を引き取ってくれなかった。それどころか魔力が無いエルフは処分する掟になっているらしい。
俺の所有物であるなら彼女は処分しない、と村長が言うから俺はエルフの女の子を飼うことになった。
孤児になった魔力も無いエルフの女の子。年齢は14歳。
エルフの女の子を見捨てるなんて出来なかった。だから、この世界で彼女が生きていけるように育成することに決めた。
※エルフの少女以外にもヒロインは登場する予定でございます。
※帰る場所を無くした女の子が、美しくて強い女性に成長する物語です。
大好きな彼女を学校一のイケメンに寝取られた。そしたら陰キャの僕が突然モテ始めた件について
ねんごろ
恋愛
僕の大好きな彼女が寝取られた。学校一のイケメンに……
しかし、それはまだ始まりに過ぎなかったのだ。
NTRは始まりでしか、なかったのだ……
【R18】童貞のまま転生し悪魔になったけど、エロ女騎士を救ったら筆下ろしを手伝ってくれる契約をしてくれた。
飼猫タマ
ファンタジー
訳あって、冒険者をしている没落騎士の娘、アナ·アナシア。
ダンジョン探索中、フロアーボスの付き人悪魔Bに捕まり、恥辱を受けていた。
そんな折、そのダンジョンのフロアーボスである、残虐で鬼畜だと巷で噂の悪魔Aが復活してしまい、アナ·アナシアは死を覚悟する。
しかし、その悪魔は違う意味で悪魔らしくなかった。
自分の前世は人間だったと言い張り、自分は童貞で、SEXさせてくれたらアナ·アナシアを殺さないと言う。
アナ·アナシアは殺さない為に、童貞チェリーボーイの悪魔Aの筆下ろしをする契約をしたのだった!
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
ごめんみんな先に異世界行ってるよ1年後また会おう
味噌汁食べれる
ファンタジー
主人公佐藤 翔太はクラスみんなより1年も早く異世界に、行ってしまう。みんなよりも1年早く異世界に行ってしまうそして転移場所は、世界樹で最強スキルを実でゲット?スキルを奪いながら最強へ、そして勇者召喚、それは、クラスのみんなだった。クラスのみんなが頑張っているときに、主人公は、自由気ままに生きていく
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
男:女=1:10000の世界に来た記憶が無いけど生きる俺
マオセン
ファンタジー
突然公園で目覚めた青年「優心」は身辺状況の記憶をすべて忘れていた。分かるのは自分の名前と剣道の経験、常識くらいだった。
その公園を通りすがった「七瀬 椿」に話しかけてからこの物語は幕を開ける。
彼は何も記憶が無い状態で男女比が圧倒的な世界を生き抜けることができるのか。
そして....彼の身体は大丈夫なのか!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる