創星のレクイエム

有永 ナギサ

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2章 第3部 陣の選択

68話 リル・フォルトナーの星の輝き

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「――ここはどこだ……? オレは確か、リルの擬似恒星の中に同調してたはずだが……?」

 陣が目を開けると、そこには別世界が。
 まるで月に照らされたかのようにあわかがやく白い花が、見渡す限り咲きほこっている。そして空はなにもないかのごとく、空虚な闇に染まっていた。ただ淡く輝く白い花たちによって辺りは明るく、月夜の花畑にいるような感じが。

(――なんて清廉せいれんさだ……、圧巻とはこういうことを言うんだろうな……。こんな景色どこを探してもなさそうだ)

 あまりの光景に思わず息をのむ。ここを一言で表すなら、まさに清廉。けがれなどなく、ただ純粋に真っ白な世界。もはやあまりの清廉さに、自分がここにいていいのか不安になってくるほどである。
 陣の近くにはすぐさまお茶会ができそうな、白いガーデニングテーブルとイスが。しかもちょうどテーブルの上には、ティーセットが用意されていた。

「うん? 歌?」

 そこでふと気づく。
 今までこの光景に心を奪われていたため気付けなかったが、すぐ近くで女の子が歌ってることに。
 歌の聞こえる方に視線を移すと、透きとおるような銀色の髪の少女の後ろ姿が。その少女には見覚えがあった。確かアンドレーとの戦闘中に見た、リルの面影を残す少女だったはず。

「――女の子……? ――クッ!?」
(ダメだ!? これ以上進んだら、戻ってこれなくなる!?)

 近づこうとした瞬間頭に頭痛が走り、足が動かなくなってしまう。まるで脳がこの先に行くのを、こばんでいるかのように。

(――それでもオレはこの輝きを……)

 しかしそれでも前に進もうと、一歩踏み出した。
 わかるのだ。ここから先に進めば、四条陣がほしかったものが手に入ると。魔道の深淵しんえんに手が届くかもしれないゆえ、進まずにはいられなかった。たとえその結果、みずからの身をほろぼすことになったとしても。

(――動け! そしてあの輝きに手を伸ばせ!)

 自身を奮い立たせ、銀色の髪の少女に手を伸ばす。
 すると陣がいることに気付いたのか、少女は歌を止めこちらを振り返ろうと。

「ッ!?」
(なんだこれ!? 頭になにか入ってくる!?)

 少女のんだ瞳が陣をとらえた瞬間、脳裏に無数の映像が。
 だがそれらのほとんどが理解できず、通り過ぎていくだけ。最果てにいたるに欠かせない情報なのはわかるが、今の陣には読み解けなかった。

「――ジンくん!? ジンくん!? しっかりするんだよ!」

 あまりの情報の波に意識が薄れていく中、リルのさけび声が。
 そして陣の意識は闇へと堕ちていくのであった。






 目を開けると、先程までいた荒れ果てたオフィスの光景が。

「――戻ってきたのか……」
「戻ってきたのか、じゃないんだよ!? なに勝手に奥に進んでるのかな!? 下手したら、そのまま浸食されてたかもしれないんだよ!?」

 意識を取り戻して早々、リルが詰め寄りぷんぷん怒ってくる。
 どうやら知らないうちに、擬似恒星の内部まで進んでしまっていたらしい。おそらくあまりの輝きを前に欲望を抑えきれず、無意識に行動してしまったようだ。

「ははは、あれが真理の一端いったん……」

 リルに怒られているのも忘れ、笑みが浮かび上がってしまう。
 それほどまでに素晴らしい体験だったのだ。リル・フォルトナ-の星の輝きもそうだが、先程脳裏に流れてきた情報。これぞ陣がずっと待ちわびていたものだと。

「ちょっと!? ジンくん、なに笑ってるのかな!?」
「ははは、リル、お前ってほんとすごかったんだな。まさかあそこまで心を奪われるとは、見直したぞ」

 抗議してくるリルの頭をなでながら、賞賛の言葉を送る。

「え? そう? ふふっ、まぁ、それほどでもあるんだよ!」

 するとリルはテレくさそうにほほえみ、えっへんと胸を張りだす。
 ほめられたことがうれしかったのか、先程の怒りを忘れているみたいだ。

(あの領域まで行ければ、このかわきだって絶対……。ははは、ああ、欲しくてたまらなくなってきやがった……)

 先程の体験で一つ分かったことがある。
 それは魔道の求道の果てに、陣の渇きをうるおすなにかがあるということ。たった一端に触れてでさえ、ここまで心躍るのだ。ならばそのすべてを手に入れた瞬間、一体どうなってしまうのだろうか。もはや想像するだけで、探究心がうずいて仕方ない。少し前の灯里の陽だまりへの誘いを、忘れてしまうほどに。
 そして陣はしばらくの間、今だ冷めぬ熱を胸に想いをはせるのであった。

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