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2章 第2部 陽だまりへの誘い
63話 灯里の願い
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「どうした?」
「ううん、改めてお礼をと思ってね。陣くんのおかげで、これからもリルと一緒にいられる。それは私にとって、感謝しきってもしきれないぐらいだもん」
灯里は胸に手を当て、幸せそうにほほえんだ。
「リルにも言ったが気にするな。オレが好きでやってるだけだから、灯里はただ手に入れた日常に浸っとけ」
「うん、ありがとう。――あのね……、厚かましいんだけど、もう一つお願いしたいことがあるんだ」
チラチラと陣に視線を送りながら、遠慮ぎみに伝えてくる灯里。
「お願い?」
「――えっと……、お願いというか、おねだりかな。――この実現した私の陽だまりの日々。そこに陣くんも加わってほしいな……、なーんて……、あはは……」
そして灯里は手をモジモジさせながら、上目づかいで告白を。
「――それは……」
「もちろんわかってるよ! 陣くんは私と違う道を選んだ。だからこっちに来るわけには、いかないことぐらい」
返答に困っていると、灯里がすぐさま補足してくる。
そう、彼女の言うように、陣には陣の道がある。それは陽だまりを求める灯里とは真逆。さらなる力を求め、魔道の深淵へと突き進む混沌の道だ。ゆえに灯里の願いを叶えるのは難しかった。
「だけど、それでも私は、陣くんにこっち側へ来てほしい! 全部同じなの。 キミが特別に想ってくれてるように、私も陣くんのことを特別に想ってる! だって同じ境遇であり、あったかもしれないもう一人の自分なんだもん! リルの時と同じように、放っておけるはずないよ!」
灯里は陣の上着を両手でぎゅっとにぎりしめ、切実にうったえてくる。
もはや彼女の想いは陣と同じ。あまりに似通っているため他人事には思えず、まるで自分のことのように特別視をしてしまうのだろう。陣もその感情があるゆえ、ここまで灯里のために動いているのだ。なので彼女の言いたいことは、痛いほどわかってしまう。
「――灯里……」
「無理にとは言わない。これ以上わがままを押しつけるのも、わるいしね。でももし少しでも私が生きる世界がいいなって想うなら、この手をとってほしい! そしたら陣くんを、こっち側に連れていってみせるから!」
灯里は手を差し出し、自身が抱く覚悟を胸に告げてきた。
「たとえ想っていたとしても無理だ。きっとオレは灯里のように、この力への渇きを振り払えない。もう取り返しのつかないほど、魅入られてしまってるんだ。今さら別の道へだなんて……」
そう、たとえその道を望んでいたとしても、陣は内から湧き出る衝動に逆らうことができないのだ。ゆえに気持ちはうれしいが、断るしかなかった。
「うん、わかるよ。否定した私でさえ、ふとそっち側に戻ってしまいそうになるぐらいだもん。だから陣くんがあきらめるのも、無理はないと思う」
「だろ? だからオレの分も灯里が……」
彼女だけでも幸せに生きてほしいと、伝えようと。
だがその言葉が紡がれる前に、灯里が不服そうに割り込んできた。
「もー、陣くん! そんな程度で灯里さんがあきらめると思うの?」
「いや、だってどうしようも……」
「あはは、安心して! 立ち止まりそうになったら、陣くんの手を無理やりにでも引っ張るから! そして陽だまりの先まで連れていってあげる! だから大丈夫。たとえどれほどの渇きが襲ってきても、二人で手を取り合うならきっと切り抜けられるよ!」
灯里は陣の手をとり、陽だまりのようなまぶしい笑顔でさとしてくる。
確かに陣一人ではダメだろう。だか灯里が手をとり連れていってくれるなら、なんとかなるかもしれない。たとえ立ち止まりそうになっても、彼女が笑いかけてくれるなら、きっと。
「――灯里……」
「それでも誘惑に負けそうなら、そうですなー。あはは、ビンタしまくってでも、無理やり覚ませてあげるよ!」
「ははは、なんだか灯里なら、本気で連れていってくれそうだな」
「ふっふっふっ、灯里さんにドンと任せなさいなー! 陣くんが私と同じ答えにいたれるまで、とことん付き合うよ!」
胸をどんっとたたき、得意げにウィンクしてくる灯里。
もはやその心強さに、思わずそのままうなずいてしまいそうだ。
「――まったく……、それもいいかもしれないなんて、オレも焼きが回ったものだぜ」
彼女の誘いを受け、いつの間にか納得しそうになっている自分に苦笑せざるをえなかった。
「え? じゃあ!?」
「まあ、考えとくよ。さすがに簡単に決められることじゃないしな」
「――そっか……。うん、ずっと待ってるから。陣くんが来てくれるのを、リルと一緒に……」
陣の答えに、灯里は祈るように手を組み慈愛に満ちたほほえみを。
「――灯里、ありがとな……。――ははは、それにしても昨日かっこよく決めた途端に、返されるとは」
「あはは、陣くんばっかに、かっこいい思いはさせてあげないよ!」
「ははは、なにを対抗してるんだか。うん? ――着信? カーティス神父からか」
もり上がっていると、ふと着信が。確認してみるとカーティス神父からであった。
灯里に目配せして通話ボタンを押す。
「カーティス神父、どうしました?」
「実は陣さんが追っていた例の創星術師のことで、進展がありました。一度いつもの教会に来てもらえませんか?」
「わかりました。すぐに向かいます」
カーティス神父に返事をして、通話をきる。
「あれ? どっか行くの?」
「ああ、有力な情報が得られそうだ。場所が場所だし、灯里は一端家に戻っといてくれ。帰ったら報告する」
「――うん、そういうことならわかったよ。言いたいことは全部伝えられたしね! いってらっしゃい! 陣くん!」
そして灯里に見送られ、陣は待ち合わせ場所の教会へ向かうのであった。
「ううん、改めてお礼をと思ってね。陣くんのおかげで、これからもリルと一緒にいられる。それは私にとって、感謝しきってもしきれないぐらいだもん」
灯里は胸に手を当て、幸せそうにほほえんだ。
「リルにも言ったが気にするな。オレが好きでやってるだけだから、灯里はただ手に入れた日常に浸っとけ」
「うん、ありがとう。――あのね……、厚かましいんだけど、もう一つお願いしたいことがあるんだ」
チラチラと陣に視線を送りながら、遠慮ぎみに伝えてくる灯里。
「お願い?」
「――えっと……、お願いというか、おねだりかな。――この実現した私の陽だまりの日々。そこに陣くんも加わってほしいな……、なーんて……、あはは……」
そして灯里は手をモジモジさせながら、上目づかいで告白を。
「――それは……」
「もちろんわかってるよ! 陣くんは私と違う道を選んだ。だからこっちに来るわけには、いかないことぐらい」
返答に困っていると、灯里がすぐさま補足してくる。
そう、彼女の言うように、陣には陣の道がある。それは陽だまりを求める灯里とは真逆。さらなる力を求め、魔道の深淵へと突き進む混沌の道だ。ゆえに灯里の願いを叶えるのは難しかった。
「だけど、それでも私は、陣くんにこっち側へ来てほしい! 全部同じなの。 キミが特別に想ってくれてるように、私も陣くんのことを特別に想ってる! だって同じ境遇であり、あったかもしれないもう一人の自分なんだもん! リルの時と同じように、放っておけるはずないよ!」
灯里は陣の上着を両手でぎゅっとにぎりしめ、切実にうったえてくる。
もはや彼女の想いは陣と同じ。あまりに似通っているため他人事には思えず、まるで自分のことのように特別視をしてしまうのだろう。陣もその感情があるゆえ、ここまで灯里のために動いているのだ。なので彼女の言いたいことは、痛いほどわかってしまう。
「――灯里……」
「無理にとは言わない。これ以上わがままを押しつけるのも、わるいしね。でももし少しでも私が生きる世界がいいなって想うなら、この手をとってほしい! そしたら陣くんを、こっち側に連れていってみせるから!」
灯里は手を差し出し、自身が抱く覚悟を胸に告げてきた。
「たとえ想っていたとしても無理だ。きっとオレは灯里のように、この力への渇きを振り払えない。もう取り返しのつかないほど、魅入られてしまってるんだ。今さら別の道へだなんて……」
そう、たとえその道を望んでいたとしても、陣は内から湧き出る衝動に逆らうことができないのだ。ゆえに気持ちはうれしいが、断るしかなかった。
「うん、わかるよ。否定した私でさえ、ふとそっち側に戻ってしまいそうになるぐらいだもん。だから陣くんがあきらめるのも、無理はないと思う」
「だろ? だからオレの分も灯里が……」
彼女だけでも幸せに生きてほしいと、伝えようと。
だがその言葉が紡がれる前に、灯里が不服そうに割り込んできた。
「もー、陣くん! そんな程度で灯里さんがあきらめると思うの?」
「いや、だってどうしようも……」
「あはは、安心して! 立ち止まりそうになったら、陣くんの手を無理やりにでも引っ張るから! そして陽だまりの先まで連れていってあげる! だから大丈夫。たとえどれほどの渇きが襲ってきても、二人で手を取り合うならきっと切り抜けられるよ!」
灯里は陣の手をとり、陽だまりのようなまぶしい笑顔でさとしてくる。
確かに陣一人ではダメだろう。だか灯里が手をとり連れていってくれるなら、なんとかなるかもしれない。たとえ立ち止まりそうになっても、彼女が笑いかけてくれるなら、きっと。
「――灯里……」
「それでも誘惑に負けそうなら、そうですなー。あはは、ビンタしまくってでも、無理やり覚ませてあげるよ!」
「ははは、なんだか灯里なら、本気で連れていってくれそうだな」
「ふっふっふっ、灯里さんにドンと任せなさいなー! 陣くんが私と同じ答えにいたれるまで、とことん付き合うよ!」
胸をどんっとたたき、得意げにウィンクしてくる灯里。
もはやその心強さに、思わずそのままうなずいてしまいそうだ。
「――まったく……、それもいいかもしれないなんて、オレも焼きが回ったものだぜ」
彼女の誘いを受け、いつの間にか納得しそうになっている自分に苦笑せざるをえなかった。
「え? じゃあ!?」
「まあ、考えとくよ。さすがに簡単に決められることじゃないしな」
「――そっか……。うん、ずっと待ってるから。陣くんが来てくれるのを、リルと一緒に……」
陣の答えに、灯里は祈るように手を組み慈愛に満ちたほほえみを。
「――灯里、ありがとな……。――ははは、それにしても昨日かっこよく決めた途端に、返されるとは」
「あはは、陣くんばっかに、かっこいい思いはさせてあげないよ!」
「ははは、なにを対抗してるんだか。うん? ――着信? カーティス神父からか」
もり上がっていると、ふと着信が。確認してみるとカーティス神父からであった。
灯里に目配せして通話ボタンを押す。
「カーティス神父、どうしました?」
「実は陣さんが追っていた例の創星術師のことで、進展がありました。一度いつもの教会に来てもらえませんか?」
「わかりました。すぐに向かいます」
カーティス神父に返事をして、通話をきる。
「あれ? どっか行くの?」
「ああ、有力な情報が得られそうだ。場所が場所だし、灯里は一端家に戻っといてくれ。帰ったら報告する」
「――うん、そういうことならわかったよ。言いたいことは全部伝えられたしね! いってらっしゃい! 陣くん!」
そして灯里に見送られ、陣は待ち合わせ場所の教会へ向かうのであった。
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