49 / 96
1章 第4部 契約内容
49話 ターゲットとの接触
しおりを挟む
ビルの屋上の扉を開けると、手すりの方に青年の後ろ姿が。どうやらクレハが会談しているであろうビルを、眺めているようだ。
陣は灯里とリルを後ろに下がらせ、男へ話しかけに行く。
「あんたがサイファス・フォルトナーの擬似恒星を持つ、創星術師か?」
「あん? なんだ、お前ら? 俺さまは今、忙しいんだ。怪我したくなかったら、今すぐ失せろ」
陣の問いに男は振り返り、軽くあしらってくる。
歳は二十代前半ぐらいで、どこか荒くれ者といった物騒な雰囲気が。
「ははは、そういうわけにもいかないんだよ。あんたの持つサイファス・フォルトナーの擬似恒星。それにクレハ・レイヴァ―スを狙おうとしてる件を、みすみす見逃すわけにはいかない」
「そこまで知ってるとはねー。どこの手の者だ?」
男はさっきまでの軽い感じではなく、殺意を込めた視線を向けたずねてきた。
陣の返答次第では、すぐに攻撃が飛んできてもおかしくないほど。生きて返さないというような意志が、ビシビシと伝わってくる。
「なあに、ただのしがないなんでも屋さ。とある依頼により、サイファス・フォルトナーの擬似恒星をもらい受けに来た」
「へえー、こいつをねー」
「ッ!? あれが!?」
男が見せてきた真紅の宝石に、思わず息を飲む。
それもそのはず真紅の宝石は、まぎれもなく擬似恒星。しかも今まで見たことがないほど、ドス黒い星の余波を放っていたのだ。もはやあまりの規格外の輝きに脳が知覚したがらず、直視するのもためらわれるほど。だというのに陣は、目を離せずにいた。
「あまりこの擬似恒星に関わらない方がいいぜ。これはたちのわるい劇薬だ。あまりの深淵に一度でも心を奪われれば、それが最後。あとは飲み込まれて、暴走する末路しかねえ」
サイファス・フォルトナーの擬似恒星に心を奪われていると、男がやれやれと忠告してくる。
「あんたのようにか?」
「おうよ。これは人様が扱えるもんじゃねえ。俺さまほどの才をもってしても、ほとんど乗りこなせないじゃじゃ馬だ。クハハ、さすがはあの伝説のサイファス・フォルトナーの擬似恒星だぜ」
男は豪快に笑い飛ばしながら、賞賛を。
しかしそれもつかの間、思い詰めた顔で自分に言い聞かせるようつぶやく。
「そういうわけで俺さまには時間がねえんだよ。正気を完全に失う前に、なすべきことをなさねえとな」
「それがクレハ・レイヴァースを狙うということか?」
「レーヴェンガルトへの義理みてえなもんだ。奴らが本格的に行動を起こすまで、持ちそうにねえからよ」
男は胸を押さえながら、どこか苦しそうにかたる。
リルの言う通り、この男はもう手遅れらしい。おそらくあまりのケタ違いの星の輝きに制御が追いつかず、彼の星は爆発寸前。限界まで膨れ上がり続けた、原子炉のような状況だ。彼はそのことをさとり、最後の役目を果たそうとしているようだ。
「クハハ、まあ、本音を言わせてもらえば、ただ俺さまが戦いたいだけなんだがよ。なんたって相手はあのレイヴァースの当主。最高の闘争ができそうじゃねえか。創星術師は戦ってなんぼ。ちまちま同調して求道するよりも、生死をかけてやり合った方がよっぽど効率がいい」
男はまたもや豪快に笑い、そして雄弁に創星術師のあり方を主張する。
「そうして俺さまはまた一歩、サイファス・フォルトナーに近づける。せめて滅ぶ前に魔道の真髄を、この目に少しでも焼き付けておきたいからよ。こんなの創星術師なら誰もが願うことだろ?」
「ははは、その気持ち痛いほどわかるよ。といっても、オレはまだ創星術師じゃないんだけどな」
切実にかたる男に、共感せざるを得ない。
その想いは魔道の求道を悲願する者であれば、誰しも抱える感情だろう。自分の本来ある人生を投げ打ってまで、走り続けたのだ。その最後を少しでも色どりたいと思うのは当然である。
「なんだ、前途有望なひよっ子ってわけか。クハハ、こりゃ、先達としていろいろアドバイスでもしてやりてえが、タイミングがわるかったな。もう、時間がないから、これ以上おまえらにかまってるヒマはねえ。わるいが、全員消えろ!」
相手は急に笑うのをやめて、殺意を全開に。
もはや普通に話すことさえできないほど、切羽詰まっているらしい。
「ははは、聞けない相談だな。あとその眼中にないみたいな態度、気に食わないんだが?」
「当たりめえだろ。てめーらなんざ、俺さまの相手にもなんねえんだからよ」
「言ってくれる。じゃあ、そのお手並み拝見させてもらおうか!」
男の挑発の言葉を最後に、陣は地を蹴った。
足にマナをまとわせて速度を強化した疾走。風を切り裂きながら、敵の懐まで瞬く間に距離を詰める。
さすがに魔法で、サイファス・フォルトナーと同じ星詠みをどうにかできるとは思わない。力比べとなれば、間違いなく押しつぶされるのは目に見えているのだ。ゆえにここは得意の接近戦で攻めるべきだろう。
現状男は今だ動いておらず、突っ立っているだけだ。これならうまく接近戦に持ち込み、組み伏せられるかもしれない。
「――雑魚が」
「なっ!?」
案外余裕で片が付くかもと思っていると、事態が急変した。
なんと敵が星詠みを発動した途端、これまで経験した事がないほどの強大な禍々しい星の余波が。もはや全身に寒気が走り、今すぐこの場から離れろと本能が叫ぶ。
「そんな!? ジンくん、ダメなんだよ!? 今すぐ下がって!?」
あれを相手にしてはいけないと、後方で危機感をあらわにしたリルの声が。
だがすでに遅かった。陣と男の距離は拳が届くほどの距離。そして男の振りかざそうとする拳には、力という概念を極限にまで高めたようなドス黒いオーラが。
「消え失せろ」
まるで虫でも払うかのように繰り出された、力任せの一撃。
だが確実に陣をとらえており、回避は不可能。死を具現化したかのごとき一撃が陣に襲い掛かる。
(――ヤバイ、これは死んだかもな……)
ふとそんな感想がでた。
まずは小手調べのつもりが、いきなり窮地に。そう、今の陣にこの暴虐の塊を防ぐ手段はない。たとえどれほど強力な魔法であろうと、瞬時に塗り潰され時間稼ぎにもならないはず。ゆえに陣は次の瞬間、暴虐の力に飲まれる未来しかなかった。
「リル! お願い!」
「アカリ、わかったんだよ!」
そんな絶対絶命の中、後方で灯里とリルの声が。
その瞬間、謎の力の塊が陣と男の間に割り込んできた。
「チッ!?」
そして男の暴虐の拳と灯里の攻撃が激突。互いに力と力でぶつかり、己が星の輝きで食いつぶし合う。
そんな一瞬互角に渡り合っていると思った両者の攻撃。だが灯里の方が徐々に押され始め、かき消されてしまった。
しかしその間に陣は男と距離をとることに成功。男の拳は空を切るだけに。
「おい、女。てめえが持ってる、それはなんだ?」
だが陣が避けたことなど微塵も気にしていないのか、男はただ灯里たちの方をにらみつけ問う。並々ならぬ敵意をむき出しにして。
陣は灯里とリルを後ろに下がらせ、男へ話しかけに行く。
「あんたがサイファス・フォルトナーの擬似恒星を持つ、創星術師か?」
「あん? なんだ、お前ら? 俺さまは今、忙しいんだ。怪我したくなかったら、今すぐ失せろ」
陣の問いに男は振り返り、軽くあしらってくる。
歳は二十代前半ぐらいで、どこか荒くれ者といった物騒な雰囲気が。
「ははは、そういうわけにもいかないんだよ。あんたの持つサイファス・フォルトナーの擬似恒星。それにクレハ・レイヴァ―スを狙おうとしてる件を、みすみす見逃すわけにはいかない」
「そこまで知ってるとはねー。どこの手の者だ?」
男はさっきまでの軽い感じではなく、殺意を込めた視線を向けたずねてきた。
陣の返答次第では、すぐに攻撃が飛んできてもおかしくないほど。生きて返さないというような意志が、ビシビシと伝わってくる。
「なあに、ただのしがないなんでも屋さ。とある依頼により、サイファス・フォルトナーの擬似恒星をもらい受けに来た」
「へえー、こいつをねー」
「ッ!? あれが!?」
男が見せてきた真紅の宝石に、思わず息を飲む。
それもそのはず真紅の宝石は、まぎれもなく擬似恒星。しかも今まで見たことがないほど、ドス黒い星の余波を放っていたのだ。もはやあまりの規格外の輝きに脳が知覚したがらず、直視するのもためらわれるほど。だというのに陣は、目を離せずにいた。
「あまりこの擬似恒星に関わらない方がいいぜ。これはたちのわるい劇薬だ。あまりの深淵に一度でも心を奪われれば、それが最後。あとは飲み込まれて、暴走する末路しかねえ」
サイファス・フォルトナーの擬似恒星に心を奪われていると、男がやれやれと忠告してくる。
「あんたのようにか?」
「おうよ。これは人様が扱えるもんじゃねえ。俺さまほどの才をもってしても、ほとんど乗りこなせないじゃじゃ馬だ。クハハ、さすがはあの伝説のサイファス・フォルトナーの擬似恒星だぜ」
男は豪快に笑い飛ばしながら、賞賛を。
しかしそれもつかの間、思い詰めた顔で自分に言い聞かせるようつぶやく。
「そういうわけで俺さまには時間がねえんだよ。正気を完全に失う前に、なすべきことをなさねえとな」
「それがクレハ・レイヴァースを狙うということか?」
「レーヴェンガルトへの義理みてえなもんだ。奴らが本格的に行動を起こすまで、持ちそうにねえからよ」
男は胸を押さえながら、どこか苦しそうにかたる。
リルの言う通り、この男はもう手遅れらしい。おそらくあまりのケタ違いの星の輝きに制御が追いつかず、彼の星は爆発寸前。限界まで膨れ上がり続けた、原子炉のような状況だ。彼はそのことをさとり、最後の役目を果たそうとしているようだ。
「クハハ、まあ、本音を言わせてもらえば、ただ俺さまが戦いたいだけなんだがよ。なんたって相手はあのレイヴァースの当主。最高の闘争ができそうじゃねえか。創星術師は戦ってなんぼ。ちまちま同調して求道するよりも、生死をかけてやり合った方がよっぽど効率がいい」
男はまたもや豪快に笑い、そして雄弁に創星術師のあり方を主張する。
「そうして俺さまはまた一歩、サイファス・フォルトナーに近づける。せめて滅ぶ前に魔道の真髄を、この目に少しでも焼き付けておきたいからよ。こんなの創星術師なら誰もが願うことだろ?」
「ははは、その気持ち痛いほどわかるよ。といっても、オレはまだ創星術師じゃないんだけどな」
切実にかたる男に、共感せざるを得ない。
その想いは魔道の求道を悲願する者であれば、誰しも抱える感情だろう。自分の本来ある人生を投げ打ってまで、走り続けたのだ。その最後を少しでも色どりたいと思うのは当然である。
「なんだ、前途有望なひよっ子ってわけか。クハハ、こりゃ、先達としていろいろアドバイスでもしてやりてえが、タイミングがわるかったな。もう、時間がないから、これ以上おまえらにかまってるヒマはねえ。わるいが、全員消えろ!」
相手は急に笑うのをやめて、殺意を全開に。
もはや普通に話すことさえできないほど、切羽詰まっているらしい。
「ははは、聞けない相談だな。あとその眼中にないみたいな態度、気に食わないんだが?」
「当たりめえだろ。てめーらなんざ、俺さまの相手にもなんねえんだからよ」
「言ってくれる。じゃあ、そのお手並み拝見させてもらおうか!」
男の挑発の言葉を最後に、陣は地を蹴った。
足にマナをまとわせて速度を強化した疾走。風を切り裂きながら、敵の懐まで瞬く間に距離を詰める。
さすがに魔法で、サイファス・フォルトナーと同じ星詠みをどうにかできるとは思わない。力比べとなれば、間違いなく押しつぶされるのは目に見えているのだ。ゆえにここは得意の接近戦で攻めるべきだろう。
現状男は今だ動いておらず、突っ立っているだけだ。これならうまく接近戦に持ち込み、組み伏せられるかもしれない。
「――雑魚が」
「なっ!?」
案外余裕で片が付くかもと思っていると、事態が急変した。
なんと敵が星詠みを発動した途端、これまで経験した事がないほどの強大な禍々しい星の余波が。もはや全身に寒気が走り、今すぐこの場から離れろと本能が叫ぶ。
「そんな!? ジンくん、ダメなんだよ!? 今すぐ下がって!?」
あれを相手にしてはいけないと、後方で危機感をあらわにしたリルの声が。
だがすでに遅かった。陣と男の距離は拳が届くほどの距離。そして男の振りかざそうとする拳には、力という概念を極限にまで高めたようなドス黒いオーラが。
「消え失せろ」
まるで虫でも払うかのように繰り出された、力任せの一撃。
だが確実に陣をとらえており、回避は不可能。死を具現化したかのごとき一撃が陣に襲い掛かる。
(――ヤバイ、これは死んだかもな……)
ふとそんな感想がでた。
まずは小手調べのつもりが、いきなり窮地に。そう、今の陣にこの暴虐の塊を防ぐ手段はない。たとえどれほど強力な魔法であろうと、瞬時に塗り潰され時間稼ぎにもならないはず。ゆえに陣は次の瞬間、暴虐の力に飲まれる未来しかなかった。
「リル! お願い!」
「アカリ、わかったんだよ!」
そんな絶対絶命の中、後方で灯里とリルの声が。
その瞬間、謎の力の塊が陣と男の間に割り込んできた。
「チッ!?」
そして男の暴虐の拳と灯里の攻撃が激突。互いに力と力でぶつかり、己が星の輝きで食いつぶし合う。
そんな一瞬互角に渡り合っていると思った両者の攻撃。だが灯里の方が徐々に押され始め、かき消されてしまった。
しかしその間に陣は男と距離をとることに成功。男の拳は空を切るだけに。
「おい、女。てめえが持ってる、それはなんだ?」
だが陣が避けたことなど微塵も気にしていないのか、男はただ灯里たちの方をにらみつけ問う。並々ならぬ敵意をむき出しにして。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
28
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる