創星のレクイエム

有永 ナギサ

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1章 第4部 契約内容

49話 ターゲットとの接触

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 ビルの屋上の扉を開けると、手すりの方に青年の後ろ姿が。どうやらクレハが会談しているであろうビルを、眺めているようだ。
 陣は灯里とリルを後ろに下がらせ、男へ話しかけに行く。

「あんたがサイファス・フォルトナーの擬似恒星を持つ、創星術師か?」
「あん? なんだ、お前ら? 俺さまは今、忙しいんだ。怪我したくなかったら、今すぐ失せろ」

 陣の問いに男は振り返り、軽くあしらってくる。
 歳は二十代前半ぐらいで、どこか荒くれ者といった物騒な雰囲気が。

「ははは、そういうわけにもいかないんだよ。あんたの持つサイファス・フォルトナーの擬似恒星。それにクレハ・レイヴァ―スを狙おうとしてる件を、みすみす見逃すわけにはいかない」
「そこまで知ってるとはねー。どこの手の者だ?」

 男はさっきまでの軽い感じではなく、殺意を込めた視線を向けたずねてきた。
 陣の返答次第では、すぐに攻撃が飛んできてもおかしくないほど。生きて返さないというような意志が、ビシビシと伝わってくる。

「なあに、ただのしがないなんでも屋さ。とある依頼により、サイファス・フォルトナーの擬似恒星をもらい受けに来た」
「へえー、こいつをねー」
「ッ!? あれが!?」

 男が見せてきた真紅の宝石に、思わず息を飲む。
 それもそのはず真紅の宝石は、まぎれもなく擬似恒星。しかも今まで見たことがないほど、ドス黒い星の余波を放っていたのだ。もはやあまりの規格外の輝きに脳が知覚したがらず、直視するのもためらわれるほど。だというのに陣は、目を離せずにいた。

「あまりこの擬似恒星に関わらない方がいいぜ。これはたちのわるい劇薬だ。あまりの深淵に一度でも心を奪われれば、それが最後。あとは飲み込まれて、暴走する末路しかねえ」

 サイファス・フォルトナーの擬似恒星に心を奪われていると、男がやれやれと忠告してくる。

「あんたのようにか?」
「おうよ。これは人様が扱えるもんじゃねえ。俺さまほどの才をもってしても、ほとんど乗りこなせないじゃじゃ馬だ。クハハ、さすがはあの伝説のサイファス・フォルトナーの擬似恒星だぜ」

 男は豪快に笑い飛ばしながら、賞賛を。
 しかしそれもつかの間、思い詰めた顔で自分に言い聞かせるようつぶやく。 

「そういうわけで俺さまには時間がねえんだよ。正気を完全に失う前に、なすべきことをなさねえとな」
「それがクレハ・レイヴァースを狙うということか?」
「レーヴェンガルトへの義理みてえなもんだ。奴らが本格的に行動を起こすまで、持ちそうにねえからよ」

 男は胸を押さえながら、どこか苦しそうにかたる。
 リルの言う通り、この男はもう手遅れらしい。おそらくあまりのケタ違いの星の輝きに制御が追いつかず、彼の星は爆発寸前。限界まで膨れ上がり続けた、原子炉のような状況だ。彼はそのことをさとり、最後の役目を果たそうとしているようだ。

「クハハ、まあ、本音を言わせてもらえば、ただ俺さまが戦いたいだけなんだがよ。なんたって相手はあのレイヴァースの当主。最高の闘争ができそうじゃねえか。創星術師は戦ってなんぼ。ちまちま同調して求道するよりも、生死をかけてやり合った方がよっぽど効率がいい」

 男はまたもや豪快に笑い、そして雄弁ゆうべんに創星術師のあり方を主張する。

「そうして俺さまはまた一歩、サイファス・フォルトナーに近づける。せめて滅ぶ前に魔道の真髄しんずいを、この目に少しでも焼き付けておきたいからよ。こんなの創星術師なら誰もが願うことだろ?」
「ははは、その気持ち痛いほどわかるよ。といっても、オレはまだ創星術師じゃないんだけどな」

 切実にかたる男に、共感せざるを得ない。
 その想いは魔道の求道を悲願する者であれば、誰しも抱える感情だろう。自分の本来ある人生を投げ打ってまで、走り続けたのだ。その最後を少しでも色どりたいと思うのは当然である。

「なんだ、前途有望なひよっ子ってわけか。クハハ、こりゃ、先達としていろいろアドバイスでもしてやりてえが、タイミングがわるかったな。もう、時間がないから、これ以上おまえらにかまってるヒマはねえ。わるいが、全員消えろ!」

 相手は急に笑うのをやめて、殺意を全開に。
 もはや普通に話すことさえできないほど、切羽詰せっぱつまっているらしい。

「ははは、聞けない相談だな。あとその眼中にないみたいな態度、気に食わないんだが?」
「当たりめえだろ。てめーらなんざ、俺さまの相手にもなんねえんだからよ」
「言ってくれる。じゃあ、そのお手並み拝見させてもらおうか!」

 男の挑発の言葉を最後に、陣は地を蹴った。
 足にマナをまとわせて速度を強化した疾走。風を切り裂きながら、敵のふところまで瞬く間に距離を詰める。
 さすがに魔法で、サイファス・フォルトナーと同じ星詠ほしよみをどうにかできるとは思わない。力比べとなれば、間違いなく押しつぶされるのは目に見えているのだ。ゆえにここは得意の接近戦で攻めるべきだろう。
 現状男は今だ動いておらず、突っ立っているだけだ。これならうまく接近戦に持ち込み、組み伏せられるかもしれない。

「――雑魚が」
「なっ!?」

 案外余裕で片が付くかもと思っていると、事態が急変した。
 なんと敵が星詠みを発動した途端、これまで経験した事がないほどの強大な禍々しい星の余波が。もはや全身に寒気が走り、今すぐこの場から離れろと本能が叫ぶ。

「そんな!? ジンくん、ダメなんだよ!? 今すぐ下がって!?」

 あれを相手にしてはいけないと、後方で危機感をあらわにしたリルの声が。
 だがすでに遅かった。陣と男の距離はこぶしが届くほどの距離。そして男の振りかざそうとする拳には、力という概念を極限にまで高めたようなドス黒いオーラが。

「消え失せろ」

 まるで虫でも払うかのように繰り出された、力任せの一撃。
 だが確実に陣をとらえており、回避は不可能。死を具現化したかのごとき一撃が陣に襲い掛かる。

(――ヤバイ、これは死んだかもな……)

 ふとそんな感想がでた。
 まずは小手調べのつもりが、いきなり窮地きゅうちに。そう、今の陣にこの暴虐の塊を防ぐ手段はない。たとえどれほど強力な魔法であろうと、瞬時に塗り潰され時間稼ぎにもならないはず。ゆえに陣は次の瞬間、暴虐の力に飲まれる未来しかなかった。

「リル! お願い!」
「アカリ、わかったんだよ!」

 そんな絶対絶命の中、後方で灯里とリルの声が。
 その瞬間、謎の力の塊が陣と男の間に割り込んできた。

「チッ!?」

 そして男の暴虐の拳と灯里の攻撃が激突。互いに力と力でぶつかり、己が星の輝きで食いつぶし合う。
 そんな一瞬互角に渡り合っていると思った両者の攻撃。だが灯里の方が徐々に押され始め、かき消されてしまった。
 しかしその間に陣は男と距離をとることに成功。男の拳はくうを切るだけに。

「おい、女。てめえが持ってる、それはなんだ?」

 だが陣が避けたことなど微塵みじんも気にしていないのか、男はただ灯里たちの方をにらみつけ問う。並々ならぬ敵意をむき出しにして。
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