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1章 第4部 契約内容
44話 リルとの契約内容
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「わたしが望むのはただひとつ。灯里にリル・フォルトナーの擬似恒星を、手放してもらいたいんだよ。だからジンくんにはその手伝いをしてもらうね」
リルは胸に手を当て、どこか切実そうに告げてくる。
「――灯里がリルの所有者だったのか……。あいつどこからどう見ても一般人ぽかったし、魔道なんて興味がないと思ってたんだが」
現状リル・フォルトナーの擬似恒星の所有者は、リルと一緒にいた灯里ということになる。だが灯里のこれまでを見るに、なかなか腑に落ちない。彼女はどちらかというと魔道の求道などどうでもよく、なにげない日常を愛する印象しかないのだ。もはやあの陽だまりのような少女が、陣たちと同じ側の人間だなんてとうてい思えなかった。
「その通りなんだよ。灯里は魔道を嫌ってるぐらいだもん。あの子はただ陽だまりの世界で、楽しく生きていければそれでいい。だからわたしを使わないし、魔道の求道もしていない」
「なんだそりゃ。というか魔道に興味がないなら、どういう経緯でリルを手に入れたんだ?」
「えっと、一カ月前ぐらいかな。灯里が偶然リル・フォルトナーの擬似恒星を拾ったんだよ。ふふっ、それからいろいろあってわたしと契約し、今の関係にいたったんだ」
いろいろ思い返しているのか瞳を閉じて、なつかしげにほほえむリル。
「――偶然ね……。まあ、そこらへんの話は置いとくとして、リルは魔道をきわめようとしない灯里を見限り、別の主人を求めたいということでいいんだな」
リルという本来ありえない存在と灯里の、出会ってからのエピソード。少し気になるが、とりあえず今は本題の話を進めていくことに。
彼女と灯里の関係はきわめて良好。それでも別の主人を探すということは、リル的に魔道の求道者の方が好ましいということなのだろう。陣の魔道を求める姿勢に好感を覚え、意味ありげな発言をしていたのを思い出す。
「確かに擬似恒星のわたしからすれば、使ってくれる人の方がいいかな。でも灯里は灯里で一緒にいて楽しいし、今の日々に満足してる。むしろ灯里といる方がわたしにとって、幸せなんじゃないのかって思うほどだね」
リルははかなげに顔をほころばせながら、自身の想いを告白する。
その言い分からすると、灯里は絶好のパートナ―ということに。ならばどうしてそんな彼女との関係を、切ろうとしているのだろうか。
「じゃあ、どうして灯里と縁を切ろうと?」
「すべては灯里のためなんだよ。わたしというリル・フォルトナーの擬似恒星を持っていれば、いつか必ず厄介ごとが降りかかってくるはず。そうなれば彼女の陽だまりの日々に支障をきたしかねない。最悪ケガどころじゃ、済まなくなるかも……」
リルは不安げに目をふせ、白いワンピースの裾をぎゅっと両手でにぎりしめた。
確かに彼女の心配はもっともだ。擬似恒星は魔道にたずさわる者を引きつける性質がある。それはほかの創星術師だったり、星魔教の信者、中には星葬機構の人間まで。もはや普通に生きる者にとっては荷が重すぎる代物といっていい。そのせいで、いつなにげない日常が壊れることになるか。
「現に今その未来が近づきつつあるんだ。サイファス・フォルトナーの擬似恒星とわたしは、深い関係性があるの。もしそれが例の創星術師に知れたら、きっとわたしを奪いに来る。そんなことになったら……」
「つまりリルは灯里を守るために、身を引こうとしてるんだな」
所有者の資格や相性など関係なく、ただ水無瀬灯里という少女の身を案じての選択。それほどまでにリルにとって、灯里は大切な存在らしい。
「ふふっ、わたしは灯里のお姉さんだもん。かわいい妹を危険な目に、合わせたくないんだよ」
リルは胸にばっと手を当て、さぞ愛おしげほほえんだ。その光景はまるで、灯里の本当の姉のように。
「そうか、事情はわかった。そういう事なら喜んで手を貸してやるよ。灯里とはこれからも長い付き合いになりそうだし、他人ごとじゃないからな」
彼女の心意気に少し感動を覚えたため、快く引き受けることに。
始めはリル・フォルトナーの擬似恒星欲しさしかなかったが、話を聞いてさらにやる気が出たといっていい。それに灯里とはなんだかんだ親友の関係でもあるので、彼女の今後のためにも一肌脱ぐのに抵抗はなかった。
「ジンくん、ありがとう! この借りは契約した時に、精一杯返すんだよ!」
そんな陣の答えを聞いて、リルは満面の笑顔で感謝の意を。
「ははは、期待しとくぞ。――でだ、話の流れからして、現状灯里はリルを手放そうとしないんだな?」
「うん、困ったことにね。サイファス・フォルトナーの擬似恒星を感知して、灯里に別れを切り出したんだけど、まったく聞き入れてくれないんだよ。せっかく仲よくなったんだから、別れるのは嫌だって。いくら危険だと説得しても、自分なら大丈夫。リルを狙おうものなら、灯里さんが全力で守ってみせるっていうほどでね」
リルはがっくり肩を落としながら、頭を悩ませる。
「うわー、それは強敵だな。ちょっとやそっとの説得じゃ、揺らぎそうにないぞ」
まったく譲らない灯里の光景は、容易に想像できた。
彼女はいわばポジティブ精神の塊。なのでいくら危ないと注意を受けても、あまりピンと来なさそうである。となれば陣が説得に加わったとしても、望み薄であろう。
「たぶん別れたくないのもあるけど、わたしが身を引こうとしてる事に気付いてるんだろうね。灯里ともっと一緒に居たいって思ってることさえも。だからこのままを維持しようとしてる。灯里ってああ見えて、すごく優しい子だから」
「お互いがお互いを想ってる状況か。それならなおさら灯里は首を縦に振らなさそうだ。それでどうする気なんだ?」
まさか灯里が拒む理由に、リルを思いやる気持ちがあったとは。これでは身の危険を自覚させれたとしても、問題はすべて解決しないことに。おそらく灯里もリルと同じくらい、お互いを大切に想っているはず。そんな彼女がそう簡単に姉のような存在の少女を、手放すだろうか。
「うん、こうなったら少しばかり、荒治療をするしかないかな。灯里をあえて危険な目に合わす。それでわたしと一緒にいるのがどういうことか、再認識させる作戦だね。ちょうどサイファス・フォルトナーの擬似恒星の件があるし」
リルは拳をぐっとにぎりしめ、覚悟を決める。
「逆に利用してやるってことか。じゃあ、オレの役目は灯里を守りつつ、ターゲットとやり合えばいいんだな?」
二人の絆はともかく、まずは危険だということを再認識させるのが第一。それで少しでも灯里の考えを改めさせる作戦のようだ。
「お願いするんだよ。灯里の身を最優先に。例の創星術師の方は別に倒さなくていいから。今回の作戦は灯里にわたし、リル・フォルトナーの擬似恒星を手放させること。もし本気でやり合いたいなら、わたしを手にいれた後日だね。異論はないかな?」
「ないぜ。灯里の身の安全は任せろ。どういうわけかオレの中であいつの優先度は、かなり高いらしくてな。なにがあっても守り通してみせるさ」
陣にしては珍しく、灯里だけはなにがなんでも守ってやらなければという感情があるのだ。理由はわからないが、四条陣は心の奥底でそれを望んでいる。ゆえに彼女身の安全が第一というオーダーに関し、なんら不満はなかった。
「それは心強いんだよ。たぶん今回の敵の星の余波的に、そこまで使いこなせてないみたい。灯里も灯里で結構戦えると思うし、あとはわたしが説得しきれるかにかかってるかな。
幸いジンくんに所有者になってもらえるなら、わたしたちは完全に別れなくて済む。だからたぶんいけると思うんだよ」
「確かにそれなら灯里のリルを想う気持ちを、どうにかできそうだ。学園でいつでも顔を合わせられるしな」
言われてみると灯里とリルの絆の問題は、意外となんとかなるかもしれない。
灯里がリルを手放せば、もう会うことが難しくなる可能性が高い。だが次の所有者が陣の場合は話が別。なぜなら灯里とはこれからも長い付き合いになるのだ。ならば陣と一緒にいることになるであろうリルと、いつでも会えることに。これなら灯里も了承してくれる可能性が。
「よし、これで取り引き内容の確認は終了だな。あとはその作戦がうまくいくよう、全力で事に当たるだけだ」
手のひらに拳を打ち付け、気合を入れる。
「ふふっ、そしたらはれてわたしは、ジンくんのモノになるんだね。こっちはかわいい女の子なんだから、やさしく扱ってほしいんだよ」
リルははにかんだ笑みを浮かべながら、上目づかいでお願いしてくる。
「いや、正直なところリル・フォルトナーの擬似恒星は欲しいが、そこに憑いてるリルはいらないんだが。お子様のお守りをするなんて、面倒いし」
「うわーん、わたしの扱いひどすぎなんだよー!?」
肩をすくめてのツッコミに対し、リルは陣の上着をぎゅっと両手でにぎりしめてくる。そして涙目になりながら、うったえてくるのであった。
あまりの扱いに、リルは涙ぐみながら嘆くのであった。
リルは胸に手を当て、どこか切実そうに告げてくる。
「――灯里がリルの所有者だったのか……。あいつどこからどう見ても一般人ぽかったし、魔道なんて興味がないと思ってたんだが」
現状リル・フォルトナーの擬似恒星の所有者は、リルと一緒にいた灯里ということになる。だが灯里のこれまでを見るに、なかなか腑に落ちない。彼女はどちらかというと魔道の求道などどうでもよく、なにげない日常を愛する印象しかないのだ。もはやあの陽だまりのような少女が、陣たちと同じ側の人間だなんてとうてい思えなかった。
「その通りなんだよ。灯里は魔道を嫌ってるぐらいだもん。あの子はただ陽だまりの世界で、楽しく生きていければそれでいい。だからわたしを使わないし、魔道の求道もしていない」
「なんだそりゃ。というか魔道に興味がないなら、どういう経緯でリルを手に入れたんだ?」
「えっと、一カ月前ぐらいかな。灯里が偶然リル・フォルトナーの擬似恒星を拾ったんだよ。ふふっ、それからいろいろあってわたしと契約し、今の関係にいたったんだ」
いろいろ思い返しているのか瞳を閉じて、なつかしげにほほえむリル。
「――偶然ね……。まあ、そこらへんの話は置いとくとして、リルは魔道をきわめようとしない灯里を見限り、別の主人を求めたいということでいいんだな」
リルという本来ありえない存在と灯里の、出会ってからのエピソード。少し気になるが、とりあえず今は本題の話を進めていくことに。
彼女と灯里の関係はきわめて良好。それでも別の主人を探すということは、リル的に魔道の求道者の方が好ましいということなのだろう。陣の魔道を求める姿勢に好感を覚え、意味ありげな発言をしていたのを思い出す。
「確かに擬似恒星のわたしからすれば、使ってくれる人の方がいいかな。でも灯里は灯里で一緒にいて楽しいし、今の日々に満足してる。むしろ灯里といる方がわたしにとって、幸せなんじゃないのかって思うほどだね」
リルははかなげに顔をほころばせながら、自身の想いを告白する。
その言い分からすると、灯里は絶好のパートナ―ということに。ならばどうしてそんな彼女との関係を、切ろうとしているのだろうか。
「じゃあ、どうして灯里と縁を切ろうと?」
「すべては灯里のためなんだよ。わたしというリル・フォルトナーの擬似恒星を持っていれば、いつか必ず厄介ごとが降りかかってくるはず。そうなれば彼女の陽だまりの日々に支障をきたしかねない。最悪ケガどころじゃ、済まなくなるかも……」
リルは不安げに目をふせ、白いワンピースの裾をぎゅっと両手でにぎりしめた。
確かに彼女の心配はもっともだ。擬似恒星は魔道にたずさわる者を引きつける性質がある。それはほかの創星術師だったり、星魔教の信者、中には星葬機構の人間まで。もはや普通に生きる者にとっては荷が重すぎる代物といっていい。そのせいで、いつなにげない日常が壊れることになるか。
「現に今その未来が近づきつつあるんだ。サイファス・フォルトナーの擬似恒星とわたしは、深い関係性があるの。もしそれが例の創星術師に知れたら、きっとわたしを奪いに来る。そんなことになったら……」
「つまりリルは灯里を守るために、身を引こうとしてるんだな」
所有者の資格や相性など関係なく、ただ水無瀬灯里という少女の身を案じての選択。それほどまでにリルにとって、灯里は大切な存在らしい。
「ふふっ、わたしは灯里のお姉さんだもん。かわいい妹を危険な目に、合わせたくないんだよ」
リルは胸にばっと手を当て、さぞ愛おしげほほえんだ。その光景はまるで、灯里の本当の姉のように。
「そうか、事情はわかった。そういう事なら喜んで手を貸してやるよ。灯里とはこれからも長い付き合いになりそうだし、他人ごとじゃないからな」
彼女の心意気に少し感動を覚えたため、快く引き受けることに。
始めはリル・フォルトナーの擬似恒星欲しさしかなかったが、話を聞いてさらにやる気が出たといっていい。それに灯里とはなんだかんだ親友の関係でもあるので、彼女の今後のためにも一肌脱ぐのに抵抗はなかった。
「ジンくん、ありがとう! この借りは契約した時に、精一杯返すんだよ!」
そんな陣の答えを聞いて、リルは満面の笑顔で感謝の意を。
「ははは、期待しとくぞ。――でだ、話の流れからして、現状灯里はリルを手放そうとしないんだな?」
「うん、困ったことにね。サイファス・フォルトナーの擬似恒星を感知して、灯里に別れを切り出したんだけど、まったく聞き入れてくれないんだよ。せっかく仲よくなったんだから、別れるのは嫌だって。いくら危険だと説得しても、自分なら大丈夫。リルを狙おうものなら、灯里さんが全力で守ってみせるっていうほどでね」
リルはがっくり肩を落としながら、頭を悩ませる。
「うわー、それは強敵だな。ちょっとやそっとの説得じゃ、揺らぎそうにないぞ」
まったく譲らない灯里の光景は、容易に想像できた。
彼女はいわばポジティブ精神の塊。なのでいくら危ないと注意を受けても、あまりピンと来なさそうである。となれば陣が説得に加わったとしても、望み薄であろう。
「たぶん別れたくないのもあるけど、わたしが身を引こうとしてる事に気付いてるんだろうね。灯里ともっと一緒に居たいって思ってることさえも。だからこのままを維持しようとしてる。灯里ってああ見えて、すごく優しい子だから」
「お互いがお互いを想ってる状況か。それならなおさら灯里は首を縦に振らなさそうだ。それでどうする気なんだ?」
まさか灯里が拒む理由に、リルを思いやる気持ちがあったとは。これでは身の危険を自覚させれたとしても、問題はすべて解決しないことに。おそらく灯里もリルと同じくらい、お互いを大切に想っているはず。そんな彼女がそう簡単に姉のような存在の少女を、手放すだろうか。
「うん、こうなったら少しばかり、荒治療をするしかないかな。灯里をあえて危険な目に合わす。それでわたしと一緒にいるのがどういうことか、再認識させる作戦だね。ちょうどサイファス・フォルトナーの擬似恒星の件があるし」
リルは拳をぐっとにぎりしめ、覚悟を決める。
「逆に利用してやるってことか。じゃあ、オレの役目は灯里を守りつつ、ターゲットとやり合えばいいんだな?」
二人の絆はともかく、まずは危険だということを再認識させるのが第一。それで少しでも灯里の考えを改めさせる作戦のようだ。
「お願いするんだよ。灯里の身を最優先に。例の創星術師の方は別に倒さなくていいから。今回の作戦は灯里にわたし、リル・フォルトナーの擬似恒星を手放させること。もし本気でやり合いたいなら、わたしを手にいれた後日だね。異論はないかな?」
「ないぜ。灯里の身の安全は任せろ。どういうわけかオレの中であいつの優先度は、かなり高いらしくてな。なにがあっても守り通してみせるさ」
陣にしては珍しく、灯里だけはなにがなんでも守ってやらなければという感情があるのだ。理由はわからないが、四条陣は心の奥底でそれを望んでいる。ゆえに彼女身の安全が第一というオーダーに関し、なんら不満はなかった。
「それは心強いんだよ。たぶん今回の敵の星の余波的に、そこまで使いこなせてないみたい。灯里も灯里で結構戦えると思うし、あとはわたしが説得しきれるかにかかってるかな。
幸いジンくんに所有者になってもらえるなら、わたしたちは完全に別れなくて済む。だからたぶんいけると思うんだよ」
「確かにそれなら灯里のリルを想う気持ちを、どうにかできそうだ。学園でいつでも顔を合わせられるしな」
言われてみると灯里とリルの絆の問題は、意外となんとかなるかもしれない。
灯里がリルを手放せば、もう会うことが難しくなる可能性が高い。だが次の所有者が陣の場合は話が別。なぜなら灯里とはこれからも長い付き合いになるのだ。ならば陣と一緒にいることになるであろうリルと、いつでも会えることに。これなら灯里も了承してくれる可能性が。
「よし、これで取り引き内容の確認は終了だな。あとはその作戦がうまくいくよう、全力で事に当たるだけだ」
手のひらに拳を打ち付け、気合を入れる。
「ふふっ、そしたらはれてわたしは、ジンくんのモノになるんだね。こっちはかわいい女の子なんだから、やさしく扱ってほしいんだよ」
リルははにかんだ笑みを浮かべながら、上目づかいでお願いしてくる。
「いや、正直なところリル・フォルトナーの擬似恒星は欲しいが、そこに憑いてるリルはいらないんだが。お子様のお守りをするなんて、面倒いし」
「うわーん、わたしの扱いひどすぎなんだよー!?」
肩をすくめてのツッコミに対し、リルは陣の上着をぎゅっと両手でにぎりしめてくる。そして涙目になりながら、うったえてくるのであった。
あまりの扱いに、リルは涙ぐみながら嘆くのであった。
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