32 / 96
1章 第2部 幼馴染の少女
32話 灯里とルシア
しおりを挟む
「ルシア、連れてきてやったぞ」
ルシアとレンが話しているところへ、陣たちは遅れてたどり着いた。
レンはこれまでの経緯をはしゃぎながらかたり、ルシアはやれやれといった感じで聞いてあげていたようだ。
「陣さん、わざわざご足労いただき、ありがとうございます。レンさんもお礼を」
ルシアは深々と頭を下げ礼を。
そしてレンにも、ここまで送ってもらった礼をうながす。
「ありがとう、陣お兄さん! また今度、一緒に出かけようね!」
レンはぴょんぴょん飛び跳ねながら、満面の笑顔で伝えてくる。
「うふふ、あのレンさんにここまで気に入られてるとは、さすが陣さん。やはりワタシの目に狂いはなかったようですね。これはますますあなたの従者にならなければなりません」
ルシアはレンになつかれている陣を見て、クスクスと意味ありげな笑みをこぼす。
それはほほえましいとかではなく、なにかとてつもない理由があるみたいにだ。
「なにがだよ?」
「いえいえ、こちらの話です。レンさんを送り届けてくれたお礼に、陣さんの従者になろうかなと」
ルシアは話を流し、そして陣に対し上目づかいで調子のいいことを口に。
どうやら昨日の従者の件、まだあきらめていないらしい。
「おい、それってレンの件関係なしに、ただルシアがなりたいだけだろ」
「なになに、こんなきれいな子が、陣くんの従者さんになるってこと?」
すると灯里は面白そうなニオイを嗅ぎつけたのか、くいついてきた。
「はい、つきっきりでおそばにひかえ、どんな命令でも受ける覚悟です」
「どんな命令でもって!? もしかしてルシアちゃんみたいな美少女を、好きにできるってこと? それはもしやエロいことでも?」
灯里は口に手を当て大げさに驚き、そして意味深な言葉を。
「おい、灯里なにをいってるんだ?」
なにをバカなことをとあきれていると、あろうことかルシアがその話にノリだす。
結果、ここに一つの茶番劇が。
「もちろんです。ワタシは従順な下僕。ゆえに陣さんが望むなら、あんなことやこんなことまでオッケー。なんなりとご命令を」
ほおに手を当て、ぽっと顔を赤らめるルシア。
「陣くん、一体ルシアちゃんになにをさせようとしてるの!? お天道様が許しても、この灯里さんは許さないよ!」
そして灯里はルシアの前に立ち、腕をバッと横に広げながら主張を。
「灯里さん、いいんです。それがワタシの使命ですから、どんな目に合おうとも」
「ルシアちゃん! キミって子は、なんて健気な!」
灯里はしくしくといたいけにかたるルシアを、がばっと抱きしめる。
もはや完全に陣が、ひどい男といった空気になってしまっていた。
「ははは、お前ら少しだまろうな! なに初めて会って早々、コントをしてるんだ?」
さすがにこの茶番に付き合ってられず、すぐさま抗議を。
「ルシアちゃん! 決まったね!」
「ハイ、灯里さん、バッチリです!」
すると灯里とルシアは成功したと、ハイタッチして喜びだす。
「というかルシア、そんなキャラだったのかよ?」
「うふふ、いえ、灯里さんがあまりにも気持ちのいいお方だったので、つい」
ルシアはおかしそうに笑い、ウィンクを。
「――さて、ここは教会前。礼拝者の方々の邪魔になってはいけませんので、ぜひ建物の中に。レンさんのお礼に、お茶をご馳走しますよ」
そして教会を手で示し、中に入るようにうながしてきた。
すると陣たちの横を老夫婦が通って、教会へと入っていく。確かにこんなところで騒いでいたら、迷惑になるだろう。なので中に上がるか、このままおいとまするか。さっきまで話に加わらず、教会の方を忌わしげに見ていたクレハに聞いてみた。
「だってよ。どうするクレハ?」
「もちろん、遠慮しとく。それよりそこのシスター。今の人達すごく普通の人っぽかったけれど、あれも頭のイカレタ星魔教信者なの?」
クレハは絶対にごめんだと断りを入れ、いぶかしげにルシアへとたずねだす。
「ふむ、おそらくあれは純粋無垢な教徒でしょうね。魔法や星詠みに興味がなく、ただ神に祈ることをメインとする感じの」
「つまり完全な一般人ってこと? なんでそんな普通の人が、よりにもよって星魔教なんかにくるのよ」
「不安だからかもしれません。今の世の中、魔法や星詠みによって混乱にみちあふれてますよね。本来ならありえない力を前に、もはや人々はこの先世界がどうなっていくのか見当もつかない。もしかすると世界そのものが壊れていて、そう遠くないうちにすべてが滅んでしまうと思ってもおかしくない状況。そんな想いが不安につながり、なにかにすがらずにはいられないのかも」
ルシアは祈るように手を組み、目をふせる。
今の世界は魔法や星詠みという未知の力にあふれ、混沌と化している。
そう、今まで表舞台に出ていなかった力が、今や誰でも使えるぐらいになっているのだ。それは明らかに異常な事態。世界がどんどんおかしくなっているのは、誰の目からも明白である。
なのでこのまま時間が進めば、さらに世界は狂っていってしまうと思うのも無理はない。陣たちみたいな魔道に足を踏み入れた人間からすれば、願ったり叶ったりなこと。だが、一般人からすれば、もはや恐怖以外のなにものでもないのだ。ゆえに彼らは不安をまぎらわせるため、神といった大いなる者に祈るしかないのだろう。よく星魔教が教会で行う大規模な礼拝に、一般人の人々がこぞって集まるのはよく聞く話であった。
「今の星葬機構の秩序では、まだまだ力不足というのね。やっぱり世界に混沌をまき散らす、神代やあんたたち星魔教を、早くどうにかしないと」
「たとえそれが叶ったとしても、根本的な問題は変わらないと思いますけどね。恐怖で支配する星葬機構にすがろうなんて、そうそう思いはしませんよ。うふふ、逆に今の支配から助けてほしいと、神に祈るんじゃないんですか?」
「ふん、それならすべての元凶そのものを絶つまでよ。ワタシの代で、あの計画を……」
ルシアの皮肉めいた言葉に、クレハは天を仰ぎ見り万感の思いを込めてつぶやく。
「あの計画、それは一体……?」
「ふん、楽しみにしてなさい。さあ、陣、灯里、おいとましよう」
クレハはそれだけ言って、歩いていってしまう。
まるでレイヴァースには、今のこの状況を打破する切り札があるような言い方であった。
「待ってよー! クレハ!」
その後ろ姿を、灯里はあわてて追いかけていく。
クレハの発言は気になったが、とりあえず陣も二人の後を追うことに。なのでルシアに別れの言葉を。
「じゃあ、そういことでオレたちは行くぞ」
「はい、このたびは本当にありがとうございました。なにか困ったことがありましたら、いつでもご連絡ください。陣さんの助けになるなら、すぐさま駆けつけますので」
ルシアは胸に手を当てながら、うやうやしく頭を下げる。
「バイバイ! 陣お兄さん!」
レンはレンで大きく手を振りながら、満面の笑顔で別れを。
こうして彼女たちに見送られて、この場をあとにするのであった。
ルシアとレンが話しているところへ、陣たちは遅れてたどり着いた。
レンはこれまでの経緯をはしゃぎながらかたり、ルシアはやれやれといった感じで聞いてあげていたようだ。
「陣さん、わざわざご足労いただき、ありがとうございます。レンさんもお礼を」
ルシアは深々と頭を下げ礼を。
そしてレンにも、ここまで送ってもらった礼をうながす。
「ありがとう、陣お兄さん! また今度、一緒に出かけようね!」
レンはぴょんぴょん飛び跳ねながら、満面の笑顔で伝えてくる。
「うふふ、あのレンさんにここまで気に入られてるとは、さすが陣さん。やはりワタシの目に狂いはなかったようですね。これはますますあなたの従者にならなければなりません」
ルシアはレンになつかれている陣を見て、クスクスと意味ありげな笑みをこぼす。
それはほほえましいとかではなく、なにかとてつもない理由があるみたいにだ。
「なにがだよ?」
「いえいえ、こちらの話です。レンさんを送り届けてくれたお礼に、陣さんの従者になろうかなと」
ルシアは話を流し、そして陣に対し上目づかいで調子のいいことを口に。
どうやら昨日の従者の件、まだあきらめていないらしい。
「おい、それってレンの件関係なしに、ただルシアがなりたいだけだろ」
「なになに、こんなきれいな子が、陣くんの従者さんになるってこと?」
すると灯里は面白そうなニオイを嗅ぎつけたのか、くいついてきた。
「はい、つきっきりでおそばにひかえ、どんな命令でも受ける覚悟です」
「どんな命令でもって!? もしかしてルシアちゃんみたいな美少女を、好きにできるってこと? それはもしやエロいことでも?」
灯里は口に手を当て大げさに驚き、そして意味深な言葉を。
「おい、灯里なにをいってるんだ?」
なにをバカなことをとあきれていると、あろうことかルシアがその話にノリだす。
結果、ここに一つの茶番劇が。
「もちろんです。ワタシは従順な下僕。ゆえに陣さんが望むなら、あんなことやこんなことまでオッケー。なんなりとご命令を」
ほおに手を当て、ぽっと顔を赤らめるルシア。
「陣くん、一体ルシアちゃんになにをさせようとしてるの!? お天道様が許しても、この灯里さんは許さないよ!」
そして灯里はルシアの前に立ち、腕をバッと横に広げながら主張を。
「灯里さん、いいんです。それがワタシの使命ですから、どんな目に合おうとも」
「ルシアちゃん! キミって子は、なんて健気な!」
灯里はしくしくといたいけにかたるルシアを、がばっと抱きしめる。
もはや完全に陣が、ひどい男といった空気になってしまっていた。
「ははは、お前ら少しだまろうな! なに初めて会って早々、コントをしてるんだ?」
さすがにこの茶番に付き合ってられず、すぐさま抗議を。
「ルシアちゃん! 決まったね!」
「ハイ、灯里さん、バッチリです!」
すると灯里とルシアは成功したと、ハイタッチして喜びだす。
「というかルシア、そんなキャラだったのかよ?」
「うふふ、いえ、灯里さんがあまりにも気持ちのいいお方だったので、つい」
ルシアはおかしそうに笑い、ウィンクを。
「――さて、ここは教会前。礼拝者の方々の邪魔になってはいけませんので、ぜひ建物の中に。レンさんのお礼に、お茶をご馳走しますよ」
そして教会を手で示し、中に入るようにうながしてきた。
すると陣たちの横を老夫婦が通って、教会へと入っていく。確かにこんなところで騒いでいたら、迷惑になるだろう。なので中に上がるか、このままおいとまするか。さっきまで話に加わらず、教会の方を忌わしげに見ていたクレハに聞いてみた。
「だってよ。どうするクレハ?」
「もちろん、遠慮しとく。それよりそこのシスター。今の人達すごく普通の人っぽかったけれど、あれも頭のイカレタ星魔教信者なの?」
クレハは絶対にごめんだと断りを入れ、いぶかしげにルシアへとたずねだす。
「ふむ、おそらくあれは純粋無垢な教徒でしょうね。魔法や星詠みに興味がなく、ただ神に祈ることをメインとする感じの」
「つまり完全な一般人ってこと? なんでそんな普通の人が、よりにもよって星魔教なんかにくるのよ」
「不安だからかもしれません。今の世の中、魔法や星詠みによって混乱にみちあふれてますよね。本来ならありえない力を前に、もはや人々はこの先世界がどうなっていくのか見当もつかない。もしかすると世界そのものが壊れていて、そう遠くないうちにすべてが滅んでしまうと思ってもおかしくない状況。そんな想いが不安につながり、なにかにすがらずにはいられないのかも」
ルシアは祈るように手を組み、目をふせる。
今の世界は魔法や星詠みという未知の力にあふれ、混沌と化している。
そう、今まで表舞台に出ていなかった力が、今や誰でも使えるぐらいになっているのだ。それは明らかに異常な事態。世界がどんどんおかしくなっているのは、誰の目からも明白である。
なのでこのまま時間が進めば、さらに世界は狂っていってしまうと思うのも無理はない。陣たちみたいな魔道に足を踏み入れた人間からすれば、願ったり叶ったりなこと。だが、一般人からすれば、もはや恐怖以外のなにものでもないのだ。ゆえに彼らは不安をまぎらわせるため、神といった大いなる者に祈るしかないのだろう。よく星魔教が教会で行う大規模な礼拝に、一般人の人々がこぞって集まるのはよく聞く話であった。
「今の星葬機構の秩序では、まだまだ力不足というのね。やっぱり世界に混沌をまき散らす、神代やあんたたち星魔教を、早くどうにかしないと」
「たとえそれが叶ったとしても、根本的な問題は変わらないと思いますけどね。恐怖で支配する星葬機構にすがろうなんて、そうそう思いはしませんよ。うふふ、逆に今の支配から助けてほしいと、神に祈るんじゃないんですか?」
「ふん、それならすべての元凶そのものを絶つまでよ。ワタシの代で、あの計画を……」
ルシアの皮肉めいた言葉に、クレハは天を仰ぎ見り万感の思いを込めてつぶやく。
「あの計画、それは一体……?」
「ふん、楽しみにしてなさい。さあ、陣、灯里、おいとましよう」
クレハはそれだけ言って、歩いていってしまう。
まるでレイヴァースには、今のこの状況を打破する切り札があるような言い方であった。
「待ってよー! クレハ!」
その後ろ姿を、灯里はあわてて追いかけていく。
クレハの発言は気になったが、とりあえず陣も二人の後を追うことに。なのでルシアに別れの言葉を。
「じゃあ、そういことでオレたちは行くぞ」
「はい、このたびは本当にありがとうございました。なにか困ったことがありましたら、いつでもご連絡ください。陣さんの助けになるなら、すぐさま駆けつけますので」
ルシアは胸に手を当てながら、うやうやしく頭を下げる。
「バイバイ! 陣お兄さん!」
レンはレンで大きく手を振りながら、満面の笑顔で別れを。
こうして彼女たちに見送られて、この場をあとにするのであった。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
28
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる