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1章 第2部 幼馴染の少女
29話 魔法工学の進歩
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「ここは世界最先端に位置する魔法工学の研究施設です。神代特区には魔法に関する様々な研究施設がいくつもつらなっていますが、その中でもここは格別。設備も規模も最大級であり、魔法工学にたずさわる者なら誰もが夢見る場所と言っても過言ではありません」
琴音は誇らしげに説明していく。
「ふーん、ここが魔法工学の中心地なんだ。それで具体的にはどんなことをしているの?」
「魔法工学には様々な分野がありますが、中でも主軸となるのが魔法によるエネルギー化。なので我々は魔法工学をさらに発展させるためにも、より高純度のエネルギーを生み出すシステムの開発に力を入れているのです」
「魔法によるエネルギー化ね。ほんと余計なことを。あれのせいで魔法が普及し、こんな魔法が当たり前の世界に。おまけにクロノスは魔法工学における技術の先駆者として、世界経済の実権をにぎるまでに成長するし、踏んだり蹴ったりね」
クレハは肩を落としながら、たまりにたまった不満を口に。
人々にとっては新たなエネルギー革命により、いいことづくめ。だがレイヴァースたち星葬機構側にとってだと、悪夢そのものだったらしい。確かに今まで自分たちが隠ぺいし拡散をおさえ込んできた魔法が、人々に慣れ親しまれ当たり前にまでなってしまったのだ。さらには神代率いるクロノスが財閥のトップに君臨するほどにいたり、手が出しにくく。彼らからしてみれば、厄介極まりない事態というわけだ。
「だがなクレハ、そのおかげでパラダイスロスト後の混乱をうまく押さえ込めたんだろ。魔法に対する人々の恐怖をやわらげ、共に歩もうとするまで意識を変えられたんだし」
「魔法が当たり前になって、創星術師がどんどん増えていったんだから問題ありまくりよ! それなら魔法を全面的に撤廃した世界の方がよかったはず!」
クレハは腕を横に振りかざしながら、きっぱりと言い放つ。
「――ははは……、魔法が撤廃された世界って、今だと考えるだけでも恐ろしいな」
「あのね、陣、それが本来あるべき普通の世界なのよ。こんななにもかもめちゃくちゃになってしまった世界、明らかに間違っているんだから」
「あのー、もう説明の方はおわりにしていいですか?」
クレハと今の世の中について話していると、琴音がおずおずとたずねてきた。
琴音からすれば一生懸命説明していたのに、そのことでの否定的な話で盛り上がり始めたのだ。やる気がなくなるのも無理はないだろう。
「お連れの方なんて、もう、うとうとして眠たそうですし」
「おいおい、灯里、からんでこないと思ったら、おちかけ寸前かよ」
琴音の視線に目を移すと、瞼を重そうにして立ったままうとうとしている灯里の姿が。
実は研究施設というどこか堅苦しい空気に当てられたせいか、灯里のテンションはさっきからあまり高くなかったのだ。なんでもこういった場所にあまりいい思い入れがなく、苦手とのこと。しかも彼女は勉強の方も得意ではないらしく、難しい話は嫌いとか。なのでよけいに眠気に襲われているのだろう。
「はわわー、私、あまり気分よくないし、難しい話は苦手なんだー。ということで、おやすみー」
灯里はあくびしながら近くの席に座り、机にふせだす。
「うわー、勝手に席を占領して寝やがった。図太い神経してやがるな」
「ごめんね、あの子は放っておいて話を続けて!」
クレハは申しわけなさそうに、話を進めるよう頼んだ。
「――はぁ……、わかりました。では魔法によるエネルギー化について少しくわしく。まずこのエネルギーの生成する方法ですが、知っての通り世界のマナ化が大きく関係しています。世界のマナ化はパラダイスロスト以前からも観測され、それ以降からは一気に加速していった現象。魔法を行使するにあたり必要な無色の力、マナが大気中にわき出ていることをさします」
世界のマナ化。これはどういう理屈かあまりくわしくわかっていないのだが、大気中にマナがただよっていることを示す。この現象はなんでも、サイファス・フォルトナーが引き起こした星の祝祭以降から観測されていたらしい。この件での問題点は年月が過ぎるにつれて、どんどん世界のマナ化が激しくなっていることだ。特にパラダイスロスト以降から、急激に大気中のマナの濃度が上がっているとか。
実はこの世界のマナ化は魔法使いや創星術師たちにとって、非常に最適な状況といっていいのである。なぜなら魔法や星詠みを行使する際、その大気中にあふれているマナを使えばいいのだ。そうすることで自身の生成するマナを節約でき、本来をはるかに超える回数の力を行使できるのであった。
「余談ですが人々が魔法に目覚めていったのは、この地上にあふれ出たマナを感じれるようになったためと言われていますね。事実地表のマナの濃度が上がる分、魔法使いの人数が増えているデータがありますので」
人々が魔法を使えるようになった要因。なんとこの世界のマナ化が一番の原因と言われていた。大気中のマナの濃度が上がるということは、それだけマナを感じやすくなるということ。実際そのマナ化の進行具合と、魔法を使えるようになった者たちの数が比例しているデータが出ており、もはや間違いはないとのこと。
「まあ、このことはおいといて、魔法によるエネルギー化のメカニズムは単純。ただ世界中にあふれ出るマナを、求めるエネルギーに合わせて機械で誘導してやればいい。そうすればこれまでと比べ物にならない効率で、エネルギーを生めるのです。しかも資源は理論上ほぼ無限に近いというから、驚きですね。パラダイスロストという大災厄があったのにも関わらず、人々が魔法を受け入れたのもうなずけます」
マナは無色な力の塊。なので機械によりなんらかの影響を与え刺激することで、魔法を発現することが可能なのだ。これこそ魔法工学の主軸。魔法によるエネルギー化だ。大気中のマナを専用の機械にくべさえすれば、いくらでもエネルギーを取り出せる仕組みであった。このことで驚くべきことは生み出すエネルギー量もそうだが、資源の問題であろう。なんでも大気中のマナは常に地球上からあふれ出ており、計算上もはや無尽蔵といっていいらしい。なのでひたすらエネルギーを生み出し続けることが可能とか。
ちなみにマナはいくら濃度が濃くなろうと人体に悪影響は及ばさないらしく、これからどれだけ世界のマナ化が進行したとしてもたいして問題はないのだそうだ。
「さて、ここからが先程クレハさんがたずねられた、具体的になにをしているかの答えです。この施設で今一番力を入れているのが、ズバリ世界のマナ化について。これはマナが魔法工学にとって切っても切れない関係ゆえ、この問題を解き明かせばさらなる進歩を望めるだろうという考えからきています」
「マナ化の研究って、どんなことをしているの?」
「データをとって解析する流れですね。その対象は主に星詠みによる汚染地域、ロストポイント。あそこは重度の星詠みの影響のせいか、一帯の地表が少し異質。ええ、言ってしまえば空間そのものが不安定なのです。そのため非常に興味深いデータが取れるんですよね。おそらくこのことを解き明かしていけば、世界のマナ化についても新たな発見があるはず」
ロストポイントとは簡単に説明すると、星詠みの影響を受けすぎた一帯のことを示す。星詠みは自身の星の輝き、概念で世界そのものを塗り潰す秘術。そう、この塗り潰すという行為が問題で、本来の正しい地表のあり方をずらし、一帯を異質な空間に変質させる恐れがあるのだ。
この事例は主に、暴走した創星術師が暴れるほど発生しやすいといわれている。そのため暴走した創星術師が世界各国で猛威を振るった大惨事、パラダイスロスト。あの事件により無数のロストポイントが生まれ、今もなお問題となっているのであった。
ちなみにロストポイントと呼ばれる場所だが、基本どこも廃墟街になっているといっていい。というのもこの場所にいると、高確率で魂が星詠みを欲してしまうらしいのだ。魔道にまるで興味がなかった者も、なにかにとりつかれたように変容してしまうとかなんとか。よって人々は星葬機構に退避させられ、おのずと廃墟街になるのであった。
「――ロストポイントか……。創星術師たちが好む忌々しい場所……」
普通の人間なら誰も近づかないロストポイントだが、魔道を目指す者たちにとっては話は別。逆に通い詰めることになるのだ。なぜならロストポイントは星詠みと非常に相性がよく、自身の星の輝きを上げるのにもってこいの場所。星の安定化や同調による強化など、数倍の効率で進められるのだ。もはやこの場所にいるだけで、自身の星が活性化するといわれているほど。なので創星術師は星葬機構の目をかいくぐり、たびたびロストポイントに足を運んで魔道を極めるのであった。
あとロストポイントで魂を恒星にする作業をやると、星が安定しやすくなり創星術師になれる可能性が上がるとか。よって創星術師を目指す者も、よく星魔教の信者に連れられこの場所に訪れるとのこと。実は一昨日の暴走した創星術師を確保したあの廃墟街も、ロストポイントという。
「その中でもこの神代特区とつながっている、世界最大級のロストポイント。福音島。知っての通りパラダイスロスト時、当時のレイヴァース当主とレーヴェンガルト当主が戦った孤島ですね。あそこは特に調べる価値がある場所として、現在様々なアプローチをかけ調査しているところです」
神代特区には非常に大きいロストポイントが二つ。そのうちの一つが現状世界中で最も濃度が高いといわれている場所、福音島。パラダイスロストの時、当時のレーヴェンガルト当主がここでおおがかりな儀式を行うものの、レイヴァース当主に邪魔され敗れた場所として有名なところだ。この福音島だが上代特区の人工島と橋でつながっており、行き来ができるのであった。
そもそもなぜこの地点に神代特区があるのかというと、すべては福音島があるから。福音島は他のロストポイントと比べて歪みの深度がひどく、いろいろ謎が多い。そんな福音島の謎を解明できれば世界のマナ化などの原因をつかめるかもしれないと、すぐ近くに神代特区を創設することにしたらしい。ただこれは表向きの理由で、すべては神代の悲願のためだとか。ちなみに福音島は元は名前のない孤島であったそうだが、パラダイスロスト後にこのような名前が付けられたという。
「現状説明するべきところはこんなものでしょうか。とにかく現在の我々の最大目的は、魔法によるエネルギー生成効率を飛躍させること。これによりのちの魔法工学におけるさらなる革新を目指しているんです。すべては人々の暮らしがより潤うようにと」
琴音は真っ直ぐな志を胸に、みずからの想いをかたる。その想いはまぎれもなく本物。裏などなく、本気でそう願っているのだ。
「あれ、おかしい。なんだか神代が、世界のためにいいことをしてるように聞こえるんだけど……」
するとクレハは納得がいかないのか、怪訝そうな反応を。
「あのですね、ここをどこだと思っているんですか? 世界最先端の魔法工学の研究施設ですよ。まともに決まっているじゃないですか」
「そうだぞ、クレハ。神代でも、琴音や正也さんみたいに割とまっとうに生きてる人間もいるんだ。まあ、琴音たちみたいな神代の血族は、珍しい部類に入るんだけどな」
陣が思うに、琴音や正也はまっとうな人間だ。陣や奈月みたいに魔道を目指し好き放題生きているのではなく、人々のため自分のできることをしようとしている。もはや素直に尊敬できるほど。奈月もそんな琴音たちのことを、個人的にかなり気に入っていた。
ただ彼女たちのようなまっとうな人間は、きっすいの魔道の家系である神代だときわめて稀。大体の神代の血族は、魔道の求道にすべてを懸けるのであった。
「めずらしいほどしかいないなら、ダメでしょ」
クレハは呆れながらも、ツッコミをいれてくる。
実際その通りなのでなにもフォローすることができなかった。琴音も同じらしく、苦笑しながらも話を進めだす。
「――あはは……、では一端の説明はここまで、また質問があればそのつど聞いてください。見学の方ですがレイヴァース側に見せて困るものはとくにありませんので、ぜひごゆっくりと」
「それは少し残念ね。神代側に攻め入る口実の一つや二つ、見つけたかったのだけど。じゃあ、見学に行きましょうか。ほら、灯里、行くから起きて」
クレハは本音をこぼしながらも、寝ている灯里を揺さぶった。
「うにゃ、うにゃ、もう朝ー」
「こら、寝ぼけてないで立つ」
眠そうに目をこすって顔を上げる灯里に、クレハはビシッと言い放つ。
「ふぁーい」
こうして灯里を起こすことに成功し、陣たちはこの研究施設を見学しにいくのであった。
琴音は誇らしげに説明していく。
「ふーん、ここが魔法工学の中心地なんだ。それで具体的にはどんなことをしているの?」
「魔法工学には様々な分野がありますが、中でも主軸となるのが魔法によるエネルギー化。なので我々は魔法工学をさらに発展させるためにも、より高純度のエネルギーを生み出すシステムの開発に力を入れているのです」
「魔法によるエネルギー化ね。ほんと余計なことを。あれのせいで魔法が普及し、こんな魔法が当たり前の世界に。おまけにクロノスは魔法工学における技術の先駆者として、世界経済の実権をにぎるまでに成長するし、踏んだり蹴ったりね」
クレハは肩を落としながら、たまりにたまった不満を口に。
人々にとっては新たなエネルギー革命により、いいことづくめ。だがレイヴァースたち星葬機構側にとってだと、悪夢そのものだったらしい。確かに今まで自分たちが隠ぺいし拡散をおさえ込んできた魔法が、人々に慣れ親しまれ当たり前にまでなってしまったのだ。さらには神代率いるクロノスが財閥のトップに君臨するほどにいたり、手が出しにくく。彼らからしてみれば、厄介極まりない事態というわけだ。
「だがなクレハ、そのおかげでパラダイスロスト後の混乱をうまく押さえ込めたんだろ。魔法に対する人々の恐怖をやわらげ、共に歩もうとするまで意識を変えられたんだし」
「魔法が当たり前になって、創星術師がどんどん増えていったんだから問題ありまくりよ! それなら魔法を全面的に撤廃した世界の方がよかったはず!」
クレハは腕を横に振りかざしながら、きっぱりと言い放つ。
「――ははは……、魔法が撤廃された世界って、今だと考えるだけでも恐ろしいな」
「あのね、陣、それが本来あるべき普通の世界なのよ。こんななにもかもめちゃくちゃになってしまった世界、明らかに間違っているんだから」
「あのー、もう説明の方はおわりにしていいですか?」
クレハと今の世の中について話していると、琴音がおずおずとたずねてきた。
琴音からすれば一生懸命説明していたのに、そのことでの否定的な話で盛り上がり始めたのだ。やる気がなくなるのも無理はないだろう。
「お連れの方なんて、もう、うとうとして眠たそうですし」
「おいおい、灯里、からんでこないと思ったら、おちかけ寸前かよ」
琴音の視線に目を移すと、瞼を重そうにして立ったままうとうとしている灯里の姿が。
実は研究施設というどこか堅苦しい空気に当てられたせいか、灯里のテンションはさっきからあまり高くなかったのだ。なんでもこういった場所にあまりいい思い入れがなく、苦手とのこと。しかも彼女は勉強の方も得意ではないらしく、難しい話は嫌いとか。なのでよけいに眠気に襲われているのだろう。
「はわわー、私、あまり気分よくないし、難しい話は苦手なんだー。ということで、おやすみー」
灯里はあくびしながら近くの席に座り、机にふせだす。
「うわー、勝手に席を占領して寝やがった。図太い神経してやがるな」
「ごめんね、あの子は放っておいて話を続けて!」
クレハは申しわけなさそうに、話を進めるよう頼んだ。
「――はぁ……、わかりました。では魔法によるエネルギー化について少しくわしく。まずこのエネルギーの生成する方法ですが、知っての通り世界のマナ化が大きく関係しています。世界のマナ化はパラダイスロスト以前からも観測され、それ以降からは一気に加速していった現象。魔法を行使するにあたり必要な無色の力、マナが大気中にわき出ていることをさします」
世界のマナ化。これはどういう理屈かあまりくわしくわかっていないのだが、大気中にマナがただよっていることを示す。この現象はなんでも、サイファス・フォルトナーが引き起こした星の祝祭以降から観測されていたらしい。この件での問題点は年月が過ぎるにつれて、どんどん世界のマナ化が激しくなっていることだ。特にパラダイスロスト以降から、急激に大気中のマナの濃度が上がっているとか。
実はこの世界のマナ化は魔法使いや創星術師たちにとって、非常に最適な状況といっていいのである。なぜなら魔法や星詠みを行使する際、その大気中にあふれているマナを使えばいいのだ。そうすることで自身の生成するマナを節約でき、本来をはるかに超える回数の力を行使できるのであった。
「余談ですが人々が魔法に目覚めていったのは、この地上にあふれ出たマナを感じれるようになったためと言われていますね。事実地表のマナの濃度が上がる分、魔法使いの人数が増えているデータがありますので」
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「まあ、このことはおいといて、魔法によるエネルギー化のメカニズムは単純。ただ世界中にあふれ出るマナを、求めるエネルギーに合わせて機械で誘導してやればいい。そうすればこれまでと比べ物にならない効率で、エネルギーを生めるのです。しかも資源は理論上ほぼ無限に近いというから、驚きですね。パラダイスロストという大災厄があったのにも関わらず、人々が魔法を受け入れたのもうなずけます」
マナは無色な力の塊。なので機械によりなんらかの影響を与え刺激することで、魔法を発現することが可能なのだ。これこそ魔法工学の主軸。魔法によるエネルギー化だ。大気中のマナを専用の機械にくべさえすれば、いくらでもエネルギーを取り出せる仕組みであった。このことで驚くべきことは生み出すエネルギー量もそうだが、資源の問題であろう。なんでも大気中のマナは常に地球上からあふれ出ており、計算上もはや無尽蔵といっていいらしい。なのでひたすらエネルギーを生み出し続けることが可能とか。
ちなみにマナはいくら濃度が濃くなろうと人体に悪影響は及ばさないらしく、これからどれだけ世界のマナ化が進行したとしてもたいして問題はないのだそうだ。
「さて、ここからが先程クレハさんがたずねられた、具体的になにをしているかの答えです。この施設で今一番力を入れているのが、ズバリ世界のマナ化について。これはマナが魔法工学にとって切っても切れない関係ゆえ、この問題を解き明かせばさらなる進歩を望めるだろうという考えからきています」
「マナ化の研究って、どんなことをしているの?」
「データをとって解析する流れですね。その対象は主に星詠みによる汚染地域、ロストポイント。あそこは重度の星詠みの影響のせいか、一帯の地表が少し異質。ええ、言ってしまえば空間そのものが不安定なのです。そのため非常に興味深いデータが取れるんですよね。おそらくこのことを解き明かしていけば、世界のマナ化についても新たな発見があるはず」
ロストポイントとは簡単に説明すると、星詠みの影響を受けすぎた一帯のことを示す。星詠みは自身の星の輝き、概念で世界そのものを塗り潰す秘術。そう、この塗り潰すという行為が問題で、本来の正しい地表のあり方をずらし、一帯を異質な空間に変質させる恐れがあるのだ。
この事例は主に、暴走した創星術師が暴れるほど発生しやすいといわれている。そのため暴走した創星術師が世界各国で猛威を振るった大惨事、パラダイスロスト。あの事件により無数のロストポイントが生まれ、今もなお問題となっているのであった。
ちなみにロストポイントと呼ばれる場所だが、基本どこも廃墟街になっているといっていい。というのもこの場所にいると、高確率で魂が星詠みを欲してしまうらしいのだ。魔道にまるで興味がなかった者も、なにかにとりつかれたように変容してしまうとかなんとか。よって人々は星葬機構に退避させられ、おのずと廃墟街になるのであった。
「――ロストポイントか……。創星術師たちが好む忌々しい場所……」
普通の人間なら誰も近づかないロストポイントだが、魔道を目指す者たちにとっては話は別。逆に通い詰めることになるのだ。なぜならロストポイントは星詠みと非常に相性がよく、自身の星の輝きを上げるのにもってこいの場所。星の安定化や同調による強化など、数倍の効率で進められるのだ。もはやこの場所にいるだけで、自身の星が活性化するといわれているほど。なので創星術師は星葬機構の目をかいくぐり、たびたびロストポイントに足を運んで魔道を極めるのであった。
あとロストポイントで魂を恒星にする作業をやると、星が安定しやすくなり創星術師になれる可能性が上がるとか。よって創星術師を目指す者も、よく星魔教の信者に連れられこの場所に訪れるとのこと。実は一昨日の暴走した創星術師を確保したあの廃墟街も、ロストポイントという。
「その中でもこの神代特区とつながっている、世界最大級のロストポイント。福音島。知っての通りパラダイスロスト時、当時のレイヴァース当主とレーヴェンガルト当主が戦った孤島ですね。あそこは特に調べる価値がある場所として、現在様々なアプローチをかけ調査しているところです」
神代特区には非常に大きいロストポイントが二つ。そのうちの一つが現状世界中で最も濃度が高いといわれている場所、福音島。パラダイスロストの時、当時のレーヴェンガルト当主がここでおおがかりな儀式を行うものの、レイヴァース当主に邪魔され敗れた場所として有名なところだ。この福音島だが上代特区の人工島と橋でつながっており、行き来ができるのであった。
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「現状説明するべきところはこんなものでしょうか。とにかく現在の我々の最大目的は、魔法によるエネルギー生成効率を飛躍させること。これによりのちの魔法工学におけるさらなる革新を目指しているんです。すべては人々の暮らしがより潤うようにと」
琴音は真っ直ぐな志を胸に、みずからの想いをかたる。その想いはまぎれもなく本物。裏などなく、本気でそう願っているのだ。
「あれ、おかしい。なんだか神代が、世界のためにいいことをしてるように聞こえるんだけど……」
するとクレハは納得がいかないのか、怪訝そうな反応を。
「あのですね、ここをどこだと思っているんですか? 世界最先端の魔法工学の研究施設ですよ。まともに決まっているじゃないですか」
「そうだぞ、クレハ。神代でも、琴音や正也さんみたいに割とまっとうに生きてる人間もいるんだ。まあ、琴音たちみたいな神代の血族は、珍しい部類に入るんだけどな」
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ただ彼女たちのようなまっとうな人間は、きっすいの魔道の家系である神代だときわめて稀。大体の神代の血族は、魔道の求道にすべてを懸けるのであった。
「めずらしいほどしかいないなら、ダメでしょ」
クレハは呆れながらも、ツッコミをいれてくる。
実際その通りなのでなにもフォローすることができなかった。琴音も同じらしく、苦笑しながらも話を進めだす。
「――あはは……、では一端の説明はここまで、また質問があればそのつど聞いてください。見学の方ですがレイヴァース側に見せて困るものはとくにありませんので、ぜひごゆっくりと」
「それは少し残念ね。神代側に攻め入る口実の一つや二つ、見つけたかったのだけど。じゃあ、見学に行きましょうか。ほら、灯里、行くから起きて」
クレハは本音をこぼしながらも、寝ている灯里を揺さぶった。
「うにゃ、うにゃ、もう朝ー」
「こら、寝ぼけてないで立つ」
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ヴァンは国を叩き直すため、あえてヴァンとは子どもを作れない異種族とばかり八人と結婚した。もし後継が生まれなければウィルクトリアは世界中から報復を受けて滅亡するだろう。生き残りたければ心を入れ替えてまともな国になるしかない。
激しく抵抗する国民を圧倒的な力でギャフンと言わせながら、ヴァンは愛する妻たちと甘々イチャイチャ暮らしていく。
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