創星のレクイエム

有永 ナギサ

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1章 第2部 幼馴染の少女

23話 憂鬱な依頼

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「――はぁ……、奈月の奴、とんでもない面倒事を押し付けてきやがって……」

 どんより肩を落としながら、大きなため息をこぼす。
 時刻は昼過ぎ。陣はとある目的地に向かうため、現在街中を歩いていた。実は今朝急に奈月から連絡が入り、ある依頼の話が。この件は本来ならもう少しあとだったらしいのだが、向こうの都合で急に早まり対処しなければならなくなったとのこと。その内容とは、新たにレイヴァース家の当主になった少女の案内役。そう、陣はこれからその少女と出会い、神代かみしろ特区を案内しないといけないのだ。
 ちなみに始めの方は奈月も一緒に来る話だったらしい。だが向こうが神代の人間だからと、奈月の案内をこばんだため来れなくなり、陣一人だけとなったのだそうだ。

「ほんと、大丈夫か、オレ。下手すると病院送りにされるかもしれないぞ」

 今から会うレイヴァース当主とは陣の幼馴染。一応面識があるため、普通に話す分には特に問題はないだろう。しかし六年前、陣は彼女の静止の声を一方的に無視した経緯がある。そのことを当然根に持っているだろうし、なにより今の陣の立ち位置は神代側。彼女の性格からして文句と共に、攻撃の一つや二つ飛んできそうなのだ。

「やあ、やあ、陣くん! こんなところで会うなんて奇遇だねー!」 

 この先のことで頭を痛めていると、ふと明るい声が。
 声の主の方へ視線を移すと、そこには昨日出会った水無瀬みなせ灯里あかりの姿が。

「どうかな? この灯里さんとデートでもいかが?」

 彼女はとんっと胸をたたき、かわいらしく首をかしげてくる。

「なんだ、案内でもしてほしいのか」
「あはは、要約するとそうなりますなー! 昨日はあれからゆっくり休んだから、今日はその分この神代特区を満喫まんきつしようと思ってね! そういうわけで名所とか案内してくれると、うれしいんだけど! どうどう?」

 そして灯里は目を輝かせながら、詰め寄ってきた。

「ほう、オレをご指名とはお目が高い。昨日も言った通り、金で雇うなら聞いてやらんこともないぞ。もちろん初回サービスで灯里でも、十分払える金額でな」

 彼女はお金に困っていると聞いていたので、これで追い払うことができるだろう。
 ヒマがあったならばまだ考えてやってもよかったが、今から大仕事があるため彼女には付き合えないのだ。
 そんな陣の完璧な作戦だったが、今回ばかりは相手がわるかったらしい。

「はっはっは! なにを言いますか! 私と陣くんの仲じゃないかー! もちろんタダで! ほら、顔なじみによるフリーパスみたいな感じで、オッケーだよね!」

 灯里は陣の背中をバシバシたたきながら豪快ごうかいに笑い、ウィンクしてくる。
 もはや陣の攻撃を意にも返さず、すごく馴れ馴れしい押しで攻めてくる彼女。これが普通の相手ならば厚かましいと思っただろう。しかしなぜか彼女の場合、そんな不快な感情がわいてこなかった。逆にほほえましくなり、思わず笑ってうなずいてしまいたくなるほど。これも灯里の親しみやすい、陽だまりのような人がらゆえなのかもしれない。

「ははは、なにを言ってるんだ? 昨日会ったばかりのただの知り合いよ。オレたちこうして話すのも、まだ一時間も満たないんだぞ」
「ふっふっふっ、甘いね、陣くん! 仲良くなるのに時間なんて関係ない! そう、私たちは出会った瞬間から、もう友達! いや、マブダチ! さらにもう一声! なんと親友まで登り詰めていたのだよ!」

 灯里は陣の肩を右手でがっしりつかみ、左手でぐっとこぶしをにぎりながら熱弁を。
 ここまで言われるともはやうなずいてもよかったが、面白そうなのでもう少し反撃してみることに。

「いいぞ、親友で。じゃあ、まずはその役を演じるのに、月額どれぐらいかだな。よし、初回三万からで、しだいに増やしていって巻きあげるとするか」
「高! そこはふところの寂しいわたくしめのために一万からで……。――って、何言わせるの!? それ友達がほしくてしかたない、ただの悲しい子じゃない! ――はぁ……、もう、いいよ。それじゃあ、私と陣くんの運命的出会い記念でタダになったということで、早速案内よろしくね!」

 灯里は気持ちのいいツッコミを入れた後、なぜかしょうがないと妥協だきょうした態度で話を進めだした。

「いや、タダにした覚えはねーし」
「えー、陣くん、男の子だったらそれぐらいの気前の良さはみせないと! それにこんなのまだ序の口。友達記念、引っ越し記念、入学記念、これからまだまだ増えてくるんだよ!」

 ちっちっちっと指を振りながら、不敵な笑みを浮かべてくる灯里。

「灯里、お前ある意味大物だな。――はぁ……、負けたよ。だがまた今度な。今はあいにく予定が入ってるんだ。先約でこれから別の奴の案内を、しないといけないからさ」

 彼女の超ポジティブ思考のアタックに、陣は折れてやることにする。
 さっきまで憂鬱だった陣だが、灯里とのやり取りで楽しませてもらい少し気分が晴れたのだ。その礼として、彼女に付き合ってやるのもわるくはないだろう。しかし先約があるためこの場はあきらめてもらい、また後日になるのだが。

「へぇ、それってもしかして女の子?」
「そうだが」
「ほほう、陣くんやりますなー! 女の子とのデートとは! ふっふっふっ、みなも言わずともわかってるよ! ここは親友として、空気を呼んで退散するから楽しんで来てね! もちろん後日、根ほり葉ほり聞いちゃうから、よろしくー!」

 灯里はひじで陣の脇腹わきばらを突つきながら、冷やかしの笑みを向けてくる。

「なに勘違いしてやがる。依頼だよ。今朝、急きょ入ってな。――はぁ……、あいつの案内とか気が重くて仕方がないぜ。絶対、ガミガミ説教くらわされるぞ。これなら灯里の案内の方が何倍もマシだ。もう、いっそのことすっぽかすか……?」

 そうであったならばどれだけよかっただろうと、もはやうんざりするしかない。

「おっ、私に乗り換えて、朝までフィーバーしちゃう?」
「よし、すべて灯里のせいにして現実逃避しよう! すべてオレのおごりだ! 朝まで飲んでハジけるぞ! 着いて来い、灯里!」

 灯里の意味ありげな視線を向けた冗談に、とことん乗っかることにする陣。
 もはや完全な現実逃避だ。おそらく幼馴染の彼女のことなので、あいつらしいと怖い笑みを浮かべとりあえず不問にしてくれるだろう。ただ次に会う時、倍にして返ってきそうだが。

「キャー、陣くんステキー! おごってくれるなんて、私どこまでもついて行くよー!」

 そんな陣の太っ腹発言。灯里は陣に腕をからめて、きゃっきゃっとはしゃぎだす。

「――て言いたいところだけど、お仕事ならダメでしょ! ほら、応援してあげるからがんばって! ファイトだよ!」

 だがそれはノリだったようで、灯里はすぐに離れ真面目に言い聞かせてきた。
 どうやら現実逃避は失敗におわったようだ。彼女にここまで言われたら現実を受け入れるしかない。

「――はぁ……、だよなー。第一そんなことしたら、奈月に怒られるし。――ん、待てよ。灯里、オレと一諸にお姫様の案内をしないか?」

 頭をかかえていると、ふとひらめく。
 一人で会うのが怖いなら、誰かを道連れにして行けばいい。いくらあの幼馴染の少女でも、ほかの人間がいればそう手荒な真似はできないはずだ。今ちょうどヒマそうな人材が目の前にいるので、この作戦はありだろう。

「ん? なになにー、私を助手として雇いたいと?  ふっふっふっ、私は結構高くつくよー」

 陣の誘いに、灯里は胸に手を当てなにやら得意げな顔を。

「おい、親友よ。ここはさっきの話の流れ的に、タダじゃないのか?」
「あはは、それとこれとは話は別でしょ! さあ、助手として手伝ってあげるから、お仕事がんばろう! えい、えい、おー!」

 正論をもろともせず、笑い飛ばす灯里。そして彼女は腕を上げ、気合いをいれた。
 とりあえず灯里が手伝ってくれる気満々なので、ここはよしとするべきだろう。

「まあ、いっか。これぐらいの出費、一人で行くのと比べたら安いもんだしな」

 こうして道連れを用意できたことで安堵あんどしながら、陣は目的地の場所へと向かうのであった。


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