補佐役として転生したら、ダメダメ美少女勇者さまのお世話をするはめに!?

有永 ナギサ

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   3章2部 謎の商人との出会い

ハプニング

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「ごちそうさん」
「――ご、ごちそうさまです」
「ふふふふ、その分の活躍を期待していますよ!」

 シンヤたちはカフェテラス席でランチを終え、一息つく。
 そろそろ席を立とうとした、まさにそのとき。

「あー、あぶない~~」

 どこか棒読みみたいな注意喚起の声が、すぐそばから聞こえてきた。
 どうやら店員のミントグリーンの髪のウェイトレスが、つまずきバランスを崩した様子。それによりお盆に乗せていたお冷が入っているコップが、投げ出される形に。しかもその方向はちょうどイズミのいるところだったという。
 このままだと彼女は水をかぶることに。しかしすでにシンヤは動いていた。

「おっと」

 シンヤは飲み終えたティーカップをとり、降りかかろうとする水をすべてカップの中に入れて見せた。
 イズミの護衛として一応警戒していたので、予知のスキルがうまく働いたのだ。なにかが起こるというちょっとした予感。そして降りかかろうとする水に意識を集中することで、水の軌道が読めギリギリのところでカップにおさめることに成功したという。

「イズミさん、大丈夫か?」
「はい、おかげさまで。にしてもお見事ですね!」

 イズミはパチパチ拍手しながら感心を。

「す、すみませんでした~!」

 ウェイトレスは頭を下げ、店の中に逃げていってしまった。

「さて、そろそろ店をでましょうか」

 そしてシンヤたちは店をあとにして、アルスタリアの裏通りを歩いていく。

「これからどうするんだ?」
「取り引きは夕方ごろなので、それまで街をブラブラしましょうかね。護衛もかねながら、お付き合いお願いしますね」
「――街中をブラブラ……。――うぅ、が、がんばらないと……」

 トワはシンヤの背中に隠れつつ、ガクブルに震えながら気合を入れていた。
 彼女にいたってはもはや護衛どころではないみたいだ。

「はっ、イズミ、危ない!」
「はい?」

 とっさにイズミの腕を引き、静止をうながす。
 次の瞬間、上から水の入ったジョウロが落下してきたのだ。
 もしイズミが足を止めなければ、今ごろ頭にぶつかっていただろう。

「すみませ~ん、手がすべって~」

 3階の建物のベランダから、ミントグリーンの髪の少女が身を乗り出し謝ってくる。
 どうやら観葉植物に水をやっていたらしい。
 これも予知のスキルによる、とっさのイヤな予感のおかげであった。

「ありがとうございます。よく気づきましたね」
「たまたまな」
「うぅー」
「どうしたトワ?」

 なにやら鼻を押さえ痛がっているトワ。

「シンヤが急に止まるからぶつかったんだよー」

 トワはシンヤの背中にぴったりくっついてる状態だったため、急な静止に顔をぶつけたらしい。言われてみればたしかにさっき、背中にぶつかった衝撃があったという。

「わるいわるい、これもイズミさんを助けるためな」
「それはしかたないか」

 そしてまた歩みを進めていく。

「せっかくですのでトワさんに服でも買ってあげましょうか?」
「い、いいんですか?」
「はい、お姉さんがいい感じにコーディネートしてあげますよ!」
「わ~!? こける~!」

 突如曲がり角から、ミントグリーンの髪の少女が前のめりにこけだした。
 問題は彼女が運んでいた水入りバケツ。それがちょうど宙を舞い、水がどばっとシンヤたち三人にかかろうと。

「はっ」

 またもや湧き出るイヤな予感に、シンヤはすでに動いていた。とっさにイズミの腕を前へ引き、彼女と一緒に水を回避できる地点へ移動する。

「なんだ次から次へと」
「いやー、危うく濡れるところでしたよ」

 無事回避でき安堵あんどの息をつくシンヤたち。
 しかし。

「ちゅべたい!?」
「――あっ……」

 トワは対応できず、水をかぶってしまっていた。

「す、すいませんでした~」

 少女はこれはまずいと一目散に逃げていってしまう。

「――シンヤ~」

 自分も助けて欲しかったと、うらみがましい視線を向けてくるトワ。

「――ははは……、さすがに護衛してる人、優先だろ?」




「ほんとさっきはひどい目にあったよ……」

 トワはがっくり肩を落とす。
 ちなみにさっきまで着ていた服は濡れたため、イズミが新しい服を買ってくれたという。

「ふふふふ、その服とてもお似合いですよ。さすがはワタシの美的センスですね!」

 イズミは両腰に手を当て、胸をはる。

「こんな高い服買っていただいて、よかったんですか?」
「はい、ワタシからのささやかなプレゼントです! トワさんの服選びも楽しかったですし、ワタシとしても大満足ですよ!」

「そこの方々。すこし私の店をのぞいていきませんか?」

 ベールを頭にかぶっているミントグリーンの髪の怪しげな少女が声をかけてきた。
 彼女は道端で露店を開いており、机には様々な薬剤が入ったビンなどが並べられている。

「おもしろそうですね、行ってみましょう!」

 イズミに続きシンヤとトワも向かうことに。

(うん? この子ってどこかであった気が……)

 ベールであまり顔が見れないが、声と雰囲気に少し見覚えがあったという。

「今からとっておきの調合を始めましょう。これとこれを混ぜて。見ていてくださいね」

 少女は怪しげな液体同士を調合していき、ビンを振っていく。
 イズミとトワは興味津々にのぞいていた。
 
「なっ、危ない!?」

 このままだと危ないという予感に突き動かされ、慌ててイズミを引き寄せる。
 次の瞬間、調合していた薬がブクブク泡を出し始め、急に紫色のガスが発生。
 二人がのぞいていた場所をおおったという。

「ごほごほ!?」

 逃げ遅れたトワは苦しそうにせきを。

「お客さん、大丈夫ですか!?」
「――だ、大丈夫です……」
「シンヤさん助かりました」
「ふう、よかったよかった」
「シンヤー、わたしはよくないんだけどー」

 またもや恨みがましい視線を向けてくるトワ。

「お詫びに、この美容に効く特別に調合した薬をプレゼントしましょう! さあ、お飲みください」
「美容に! それは大変興味が惹かれますね! ではいただきます!」

 イズミはピンク色の薬を受け取り飲もうと。
 先ほどの件といい、この店員のうさんくささといいさすがに止めることに。

「ちょっと待て! さすがにあやしすぎるだろ。返しとけって」
「えー、ものは試しというじゃないですか」
「わるいことは言わないから、な?」
「シンヤさんがそこまで言うなら。店員さん、お気持ちだけ受け取っておきますね」

 イズミは薬を返し、店から離れる。

「ほんとは飲んでみたかったんですがねー」
「どうみてもあやしい店だろ。絶対効き目とかないぞ。あれ、トワは?」
「トワさんならあそこで店の人と話してますよ」
「ほんとだ」

 それからすぐトワがシンヤたちの方へと走ってきた。

「トワ、何してたんだ?」
「え? べ、別になんでもないよー、あはは……」

 シンヤの質問に、トワは目をそらしごまかしたように笑う。
 あきらかになにかを隠してる様子だ。

「もしかしてなにか薬をもらったんだろ」
「ぎ、ぎく!? そ、そんなことないよ~」

 トワは明らかに動揺し、両手を後ろに隠した。
 なので今隠したであろうブツを取り上げる。

「マジでもらったのかよ。没収だ、没収」
「ちょっと待って! それ実はすごいやつなんだよ!? あとでこっそり飲もうとしてたのに!」
「なに吹き込まれたか知らないが、こんなのロクなものじゃないぞ」
「そんなことないよ。けっこういい値段したんだよ」
「おい、しかも買ったのかよ!?」
「今なら七〇パーセント引きでお得だったから、つい……」

 トワは手をもじもじさせながら、気まずそうに答える。

「ああ、うさんくささが限界値を超えたな、今すぐ返品して、って、もういないし」
「え? うそ!? もしかしてだまされたの!?」

 露店があった場所を見るとすでに撤収した様子。
 これには開いた口がふさがらず、ショックを受けるトワ。
 そうこうしているとガラの悪いチンピラ三人が、近づいてきた。

「ボス、あれがさっきの女が言ってたやつらですぜ」
「よし、さくっと仕事を終わらせて、パーっとやろうぜ。おい、そこのガキども! ちょっとつらかせや!」
「あわわっ!? シンヤ、なんか怖い人たちが来たよ!?」

 トワはびっくりしてシンヤの背中に隠れる。

「なんだ? って、あんたら」

 そのチンピラには見覚えがあった。アルスタリアに来たとき、レティシアに追い払われ。そしてイオを探しているときもからんできたので、シンヤがお灸を吸えたチンピラである。

「げ!? あのガキあのときの!?」
「ボス、あのガキがやばいですって!?」
「くそ、楽な仕事だと思ったのに!? ずらかるぞやろうども!」

 チンピラたちはシンヤに気づき、慌てて逃げていく。

「なんだったんだ? あれ?」
「まさかなにもせず追い払うだなんて。すごいですねシンヤさん!」
「まあ、めんどうごとにならずに済んでよかったか」
「あぶな~い!」

 そこへまたさっきから聞きおぼえのある少女の声が。

「今度はなんだ? って! マジかよ!?」

 声の方を振り向くと、なんと荷物を運搬していた馬車の馬が急に暴れ、シンヤたちがいる方へ突っ込んできたという。
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