補佐役として転生したら、ダメダメ美少女勇者さまのお世話をするはめに!?

有永 ナギサ

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   2章5部 ミルゼ教の儀式

シンヤの願い

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 打ち上げパーティーの途中、シンヤは冒険者ギルド本部の建物の屋上へと向かっていた。
 というのも少し前に、トワが夜風に当たりに一人で屋上へ行ったという。そのあとなかなか戻って来ないため、シンヤが様子を見にきたのであった。
 屋上に出ると、きれいな満天の星空が広がっている。そして地面に座りながら、夜空をどこか遠い目でながめるトワの姿を発見した。

「トワ、どうしたんだ?」
「――あ、シンヤ。えっと、ここ最近のことを思い返していたんだ。なんかすごいことになってきたなーって」
「ミルゼ教の件か。確かに向こうのアジトに潜入してから、怒涛どとうの展開だったよな。あの信者たちに力を与えた祭典に、災禍さいかの六大魔獣の復活の計画。そしてみんなでクリスタルガーゴイル討伐まで」
「――あはは……、実をいうと、今までは少し楽観ししていたんだよね。敵側のトップがわたしたちと同じ転生者で、話が通じそうなミルゼちゃんやハクアさんだったから。案外仲よくなれて、事態も丸く治まるかもとかちょっと期待してた。でもミルゼちゃん側の動きを見るに、そんな悠長なことを言ってる場合じゃないかもって。改めて事態の重さを痛感したんだ」
「確かに。このままだとミルゼ教の勢力が拡大していって、かつて倒した災禍の六大魔獣みたいなバケモノクラスの敵が、どんどん復活させられていくことになるだろうからな」
「うん。勇者としてがんばらないとだよね。人々を守るためにも、ミルゼちゃんたちの好きにはさせられない」

 トワはこぶしをにぎり、まるで自分に言い聞かせるようにかたる。ただその拳はよく見るとわずかに震えていたという。

「ははは、トワは偉いな。勇者としての責務を果たそうと、気合をいれてたわけか」
「――えっと……、どちらかというと、逆に不安で押しつぶされそうになってたというか……」

 トワは手をもじもじさせながら、申しわけなさそうに白状する。

「え?」
「だってミルゼちゃん側のムーブ、やばすぎないかな!? しかもそれとは別にハクアさんの野望とかも止めないといけないんでしょ!? なんか手に負える気しないんだけど!?」

 そして彼女はシンヤに詰め寄り、涙目になりながらうったえてきた。

「おいおい、えらく弱気だな」
「だって今回の騒動、思い返すとわたしあまり活躍してなかったもん。ただその場にいただけでほとんどシンヤが話を進めてくれて、勇者として全然うまく立ち回れてなかった気がする……」
「活躍なら、クリスタルガーゴイルに致命打を与えてたじゃないか」
「あれはみんながあそこまで、お膳立てしてくれたからだし。――はぁ……、こんな体たらくで、この先うまくやっていけるのかなって……。みんなのわたしに対する期待値もすごく高いし、こたえられる自信がないよ……」
「ははは、なーにいってんだ。あれだけことがすべてうまくいったのは、勇者であるトワがいてくれたおかげなんだぞ。もしいなかったら特別扱いしてもらえず、あの廃坑内で大変な目に合ってたかもしれない」

 どんより落ち込むトワへ、笑いかけながら確かな事実を伝える。

「それに勇者がそばにいてくれるってのは、もう心強さがハンパないんだぞ。アルスタリア前線基地跡地で、あれだけ大胆に攻めていけたのだって、勇者がいるという安心感あってこそ。オレはもちろん、冒険者のみんなもどれだけ勇気づけられてたことか。そういうわけだからトワは自分が思っている以上に、貢献こうけんしてるんだぜ」
「うーん、あまり実感が……」

 彼女の存在がどれほど大きな影響を与えているのかをいてみるが、トワはあまりピンときてなさそうだ。

「そもそもの話、オレは勇者であるトワの補佐ほさ役だ。オレがうまくやれているということは、つまりキミの手柄てがらも同然なんだぞ。だからそんなふうに自分のふがいなさを感じる必要はない。補佐役の働きで、トワの勇者としての成果がより輝かしいものになったって心持ちで、喜んでおけばいいんだよ」
「でもそれなんかずるくないかな? がんばったのはシンヤなのに……」
「それが補佐役のさだめだ。陰から支えて、補佐する人間を輝かせるのが仕事。オレはいうならば裏方で、メインはあくまで勇者であるトワなんだし気にする必要はないさ」
「シンヤはそれでいいの?」
「もちろん。オレが補佐役をしてるのは、女神さまに言われたからじゃない。純粋にトワという女の子の想いを夢を、叶えてあげたいからやってるんだ。オレのがんばりがトワの勇者としての活躍につながるのなら、むしろ本望だよ」

 彼女の瞳をまっすぐに見つめ、嘘偽りのない本心を告げた。

「――シンヤ……」
「これからもオレが補佐役として、トワの勇者としての軌跡を輝かしいものにしていくからさ。心置きなく前に進んで、あこがれの勇者の日々を存分に満喫してくれ。そしたらオレもうれしいし、やりがいがあるってもんだ」

 トワの頭をやさしくなでながら、ほほえみかける。

「うん! わかった!」

 するとシンヤの気持ちが通じたのか、トワは満面の笑顔でうなずいてくれた。

「ははは、その意気だ。第一、トワはまだ新人勇者なんだぜ。まだまだこれからなんだから、そうあせる必要もないだろ。というか新人としては、むしろ破格の成果を出してると思うぞ。魔人ガルディアスに勝ち、ミルゼ教の情報を手に入れ、災禍の六大魔獣の一匹を倒してアルスタリアを守ってみせたんだからさ。もっとむねを張ってけ」

 彼女の背中を激励の意味をこめて、ぱんっとたたく。

「そうだよね。わたしの物語はまだまだ始まったばかりだもんね。えへへ、ありがとう、シンヤのおかげでなんだか元気が出てきたよ! やっぱりアナタはとっても頼りになる存在だね! こんなにもわたしのことを想って、支えてくれるだなんて! もう、シンヤなしでは生きていけそうにないよ!」

 トワは胸に手を当て瞳を閉じ、かみしめながら反芻はんすうする。そのあとすぐ顔をパッとほころばせ、シンヤのうでに抱き着いてきた。

「ははは、おおげさだな」
「ねー、シンヤはさ、この世界で叶えたい願いとかないのかな?」

 そして彼女はシンヤの顔を下からのぞき込みながら、興味津々といった感じにたずねてくる。

「うん? まあ、せっかくの二度目の生だし、おもしろおかしく生きられたらいいかなとは思ってるぞ」
「もう少し具体的にないかな?」
「どうしたんだ急に?」
「だってこんなにも日ごろからお世話になって、補佐役としてサポートしてくれてるんだもん! なにか恩返ししたくなるのは当然でしょ! シンヤがわたしの夢を叶えてくれようとしてるみたいに、わたしもシンヤになにかしてあげたいなって!」

 トワはシンヤの力になりたい一心で、自身の想いを告白してくる。

「――トワ……」

「だから教えて! この勇者トワが、全力でその願いを叶えてあげちゃう!」

 彼女はシンヤの方へ両腕を広げ、にっこりほほえみながら宣言を。

「ははは、勇者さまが直々に叶えてくれるなんて、光栄な話だな」
「えへへー、でしょ! どんっと来ていいよ!」
「――そうだな。オレが今一番願ってることは……」
「願ってることは?」
「前にも言ってたように、トワの夢を叶える姿を見届みとどけるってことだな。オレはなにより、トワという女の子にむくわれてほしいんだ」

 トワの頭に手を乗せ、万感の思いを込めて告げた。
 改めて考えてみて、真っ先に思い浮かんだのがこの願いだったという。

「もう、シンヤまたそんなわたしがキュンキュンするようなこと言って! すごくうれしいことだけど、今はそういうのじゃなくてー」

 するとトワがはにかみながら、シンヤの腕をぽかぽかたたいてきた。

「いや、だってほんとのことだし」
「――うぅ……」
「だからオレの願い分も、トワは存分に夢を叶えてくれ。その姿を近くで見守れるだけで、最高の恩返しだよ」

 ほおを染めうつむくトワへ、やさしく笑いかけた。

「シンヤ!」

 トワは感極まってか、がばっと抱き着いてくる。

「ははは、それにオレもトワには感謝してるんだぜ。キミのおかげでこんなやりがいのある異世界ライフを、送れているんだからさ」

 そんな彼女の頭をなでながら、心からの感謝を伝える。
 もしトワと関わらず転生ライフを過ごしていたら、今ごろとくに目的もなくおもしろいことを求めてぶらぶらしているだけだっただろう。一応満喫はできていただろうが、今みたいなやりがいのあるハラハラドキドキの冒険はできていなかったに違いない。そもそもこの世界に転生できたのも、すべてはトワがきっかけなのだ。そのこともふまえ、もう感謝しかなかった。

「――はぁ……、でもこんな展開になるなんて……」

 しばらくしてトワは満足したのか、シンヤから離れた。そして両ほおに手を当て、ため息を一つ。

「なんか不服そうだな」
「だってそれだと、シンヤの願いを叶えたって実感があまりわかないんだもん。わたしのついでに叶えたみたいな感じだし」
「そういわれてもだな」
「ほんとにほかにないの?」
「うーん、オレの願いねー」

 瞳を閉じ、深く考え込む。
 二度目の生を与えてもらって、さらに今の補佐役としての生き方。もはやすごく満足しており、これ以上望んだらバチが当たると思うほどなのだ。そのため全然思いつかなかったといっていい。

「――まあ、考えておくよ」
「できればシンヤが泣いて喜ぶような、すごいやつで!」
「ははは、善処するよ」

 期待に目を輝かせるトワに、笑って返事を。

「さあ、中に戻ろうぜ。あまり遅いとみんなが心配するぞ」
「うん、そうだね!」

 シンヤとトワは冒険者ギルドの建物内へと戻っていく。
 そして再びみんなでワイワイ楽しい時間を、過ごすのであった。 
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