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   2章5部 ミルゼ教の儀式

新必殺技

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 シンヤたち3人はミルゼの部屋から出て、祭典会場であった廃坑内のやたら広いフロアにたどり着く。さきほどあれだけ信者がいた場所だが、今はほとんど人がいない。みなアルスタリアを攻める作戦に参加したり、すでに元いた場所に戻ったりしているのだろうか。

「まったく、部屋でおとなしくしていればよかったものの。出てきたからにはもう客人ではありません。侵入者として排除させてもらいますよ」

 このままこのフロアを出ようとしたところ、一人のミルゼ教信者が立ちはだかる。その人物はアルスタリアの旧市街で出会った、あの信者の青年だ。

「あんたはあのときの」
「また会ったね。まさかあのままついて来てしまうとは。おかげでとんだ恥をかいたじゃないか」

 穏やかな表情をしているが、瞳には怒りの炎が燃えあがっていた。

「ははは、それはわるいことをしたな。もしかしてなにか罰せられたりしたのか?」
「いや、レネさまは寛大かんだいなお方だ。むしろ招いたことに、よくやったと喜ばれておられた」
「ならいいじゃないか」
「だが失態は失態だ。取り返さないといけない。だからキミたちを撃退して、功績を立たせてもらうよ!」

 信者の青年が敵意をむき出しにしてくる。

「へー、あんた一人でかよ」
「さすがにボク一人では荷が重すぎるよ。実はレネ様がなにかあったときに備えて、兵を用意してくれていてね。さあ、こい!」

 信者の青年が地面に手を当てた。
 次の瞬間、地面が禍々しく光だし、魔物たちが次々に現れる。

「あれは?」
「たくさんいるのがそうるないと、あのでかいのがそうるあーまー」

 十数体いるソウルナイトは、中身のない軽装の全身鎧であるプレートアーマーが武器を持ち一人でに動いている魔物。そしてソウルナイトの集団の中心にたたずむ、3メートルほどの巨体の魔物。ごついプレートアーマーが大斧と大盾を装備し、一人でに動いているソウルアーマーであった。

「さあ、魔物たちよ。彼らを排除しろ!」

 ソウルナイトたち12体が、剣を振りかぶり一斉に押し寄せてくる。

「わぁ!? シンヤ、ど、どうしよ!?」
「数で攻めてきたか! 迎え撃つぞ!」

 愛銃のリボルバーをクルクル華麗に回しながら取り出し、かまえる。

「でもどれからやればいいの!?」

 涙目になりながら、剣をブンブン振り戸惑いっぱなしのトワ。
 彼女はこの中で唯一の前衛なので、いい感じにさばいてきてほしいところ。だが戦闘経験がほとんどない状態。さらに相手が集団で一斉に攻めてきたとなると、どう動けばいいかわからないのもしかたがないだろう。

「――そうだな」

 個別に来てくれたらうまく各個撃破できるだろうが、集団でこられると確かにどこから崩していけばいいか困ってしまう。

「あいつらはイオがやるー」

 するとイオが前に出て、引き受けてくれた。

「おぉ! とうとう凄ウデ魔法使いの本領が、垣間見れるのか! イオ、こんどこそ頼んだぞ!」
「まかせてー」

 イオはマナを練りながら手をかかげる。
 力の余波があふれ出しており、どれだけその魔法が高威力なのかわかってしまう。

(イオのやついったいどんな魔法を?)

 彼女に期待のまなざしを向けた。
 アルマティナから派遣された凄ウデの魔法使い。きっとRPGゲームの終盤覚えるような、ド派手で華やかな魔法を撃つに違いない。爆炎、雷撃、氷雪、どんなバリエーションの魔法がくり出されるのか。楽しみでしかたがなかった。

「え? 剣?」

 すると彼女の上空に、4メートルほどの巨大な淡い緑色の光の剣が現れる。

「けんよ、なぎはらえー」

 イオが指示を出すと、巨大な光の剣は一人でに動き出し、前方をソウルナイトごとフルスイングで薙ぎ払った。

「~~~~ッ!?」

 あまりの高質量の斬撃ゆえ、ソウルナイトたちのちゃちな鎧ではひとたまりもない。次々に巨大な光剣に呑み込まれ、粉砕されていく。
 そして巨大な光剣が役目を終え消えたころには、12体のソウルナイトたちは全滅。過度な暴力による、オーバーキル状態であった。

「ふふん、どうー?」

 イオが得意げに胸を張ってくる。

「すごいよ! イオちゃん!」
「えっと、なんというかすごい豪快だったな……。ただ想像してたのと少し違ったというか……」

 期待していた魔法と違ったため、素直に賞賛することができなかった。

「そうなのー?」
「魔法っていったらもっとこう、な。あれだとあまりに力技すぎるというか。――まあ、持ち魔法の一つだろうし、ほかのも当然あるよな」
「いおの攻撃魔法は基本全部ああいうのだけどー。大きいやりや斧とかぶん投げたりー」
「おーい! 魔法ー!?」

 まさかのカミングアウトに、ツッコミを入れずにはいられない。

「言いたいことはわかるよー。みんなも魔法使いならもっと、属性を加えて高度なもので戦えって言ってくるー。でも結局、高質量のマナの塊で殴った方が、手間とか少なくてよくないー?」
「――そ、そうか。まあ、イオらしいと言えば、イオらしいか」
「そもそもイオは戦闘タイプの魔法使いじゃないー。魔法でシステムを構築したりするのが得意なタイプだしー」
「あれだけ破壊をまき散らすことができて、戦闘タイプじゃないのかよ……」
「なんてでたらめな魔法だ! クソ! ザコじゃ相手にならないか! やれ! ソウルアーマー!」

 イオに畏怖いふの念を抱いていると、信者の青年が取り乱しながらもソウルアーマーに指示を。

「ゴォォォォ!」

 ソウルアーマーが雄たけびを上げ、動き出す。

「なにはともあれよくやってくれた。トワ、オレたちもやるぞ!」
「うん!」
「トワはあのでかブツをやってくれ! 援護する!」
「わかった! たぁ!」

 トワがソウルアーマー目掛けて突っ込んでいく。
 だがまだ残っていたソウルナイトたちが、立ちはだかろうとするが。

「ザコは引っ込んでろ!」

 シンヤはリボルバーを華麗にガンスピンして、銃口を標的へ。そして続けざまに引き金を引き、連射する。
 ソウルナイト程度の見るからにもろい鎧なら、弾丸で軽く撃ち抜けるはず。的確に敵の急所に風穴を開け、仕留めていった。
 そしてすぐさま弾丸をリロードし、次の攻撃に備える。

「いくよ! はっ!」

 トワが大きく振りかぶり、極光をまとった剣で斬りせようと。
 対してソウルアーマーは左手に持った大盾をがっしり構え、迎え撃つ。
 そして極光の斬撃と大盾が激しくぶつかり合い。

「あわわ!? 防がれた!?」

 ガキィィィン! 鋭い金属音が周囲に鳴り響く。
 結果、大盾に深い傷を付けるだけで、敵本体に斬撃は届かなかった。いくら魔のモノに対して効果抜群の極光でも、防がれてしまってはたいしたダメージは与えられないようだ。

「ゴォォッ!」

 盾で防いだソウルアーマーは、大斧を振りかざしてくる。
 巨体からの一撃ゆえ、その破壊力は相当なもの。当たれば大ダメージはまのがれないだろう。
 対してシンヤは攻撃察知で敵の斬撃の軌道を読み、弾丸を割り込ませようとする。完全にはじけはしないだろうが、威力と速度を減衰することはできるだろう。

「いおがやるー! たてよ、ふせげー」

 しかしその前にイオが手を振りかざした。
 次の瞬間、トワの前に淡い緑色の3メートルほどある巨大な盾が出現。ソウルアーマーの渾身の一撃を、はじいてみせた。

「ゴォッ!?」

 攻撃をはじかれたソウルアーマーはバランスを崩すが、踏みとどまろうと。
 そこへ。

「チャンス!」

 すぐさま狙いをさだめ、全弾発射。
 狙いは踏みとどまろうとする敵の足部分。あの硬そうな鎧に弾丸はあまり効きそうにないため、全弾ぶちかましたという。
 銃弾は敵の足にすべて着弾。一発一発はダメージが少なくても、ここまで数で攻めればそれなりの攻撃になりえるはず。
 狙い通りソウルアーマーは足のダメージによって踏ん張りが効かなくなり、大きくバランスを崩しだす。

「トワ! 行け!」
「今度は当てる! 極光よ!」

 トワは再び大きく振りかぶり、敵のふところにもぐり込んだ。そして極光をまとった剣で横一閃。
 バランスを崩されていたこともあり、今度ばかりは盾で防ぐことは叶わない。ソウルアーマーの胴体は極光に飲まれ、深々と斬り裂かれていく。

「やった!」
「はっ、まだだ、トワ!」

 剣を振りかざし終えて喜ぶトワへ、忠告を。
 なぜなら攻撃察知により、ソウルアーマーがトワへ再び攻撃することがわかったのだ。

「え?」
「ゴォォォォ!」

 倒したと思いきや、さすがは中ボスクラスのモンスター。ソウルアーマーは瀕死の一撃を受けてなお刃向かってこようと。雄叫びをあげながら、シンヤの攻撃察知通り斧を振りかざそうと。

「魔弾装填そうてん

 そこへシンヤがリボルバーへ銃弾を一発込める。
 ただこの銃弾はさっきまでのとは違う。通常弾だとソウルアーマーのような防御力の高い相手に、決定打を与えることは難しい。ゆえにそんな強敵用へのとっておきの一撃。新技をひそかに考案していたのだ。
 それこそガルディアス戦の最後、シンヤが放った必殺の一撃。銃弾を生成するときマナを圧縮しまくり、威力を大幅に上げたのである。

「撃ち抜く!」

 必殺の銃弾に意識を集中しながら、冷静に銃口をソウルアーマーへと向ける。
 というのもこの必殺の銃撃。強化弾を装填して、あとは引き金を引くだけではだめなのだ。なぜならマナを圧縮しまくっているため、放っておくとマナがどんどん四散していき通常弾に戻ってしまうという。なので生成後やリボルバーに装填したあとも、常に意識を集中させ圧縮のヒモを緩めないようにしないといけなかった。

「くらえ! アインバレット!」

 そして引き金を引き、必殺の一撃が放たれる。
 銃弾は閃光のごとく飛翔し、空を切り裂きながら標的へ。その破壊力は通常弾とはケタ違い。たとえ重装甲であろうとも、食い破り風穴を開けるであろう。

「ゴォォォッ!?」

 銃弾は見事標的の頭部を撃ち抜き、大きな風穴を開ける。
 そしてソウルアーマーは攻撃を繰り出せないまま、倒れていった。

「ふぅ」

 シンヤはリボルバーをクルクルガンスピンしながら、一息つく。

「シンヤなに今の!? 必殺技かなにか!」

 かっこよく決めていると、トワが興奮した様子で駆け寄ってきた。

「ああ、ガルディアス戦でのあれを、アレンジした技だ」
「なんかすごくかっこよかったよ!」
「ははは、だろ。実はもう一段階、強力なやつをぶちかませたりもするんだよな。それはこうご期待ってな」

 そう、あれがシンヤの奥の手ではない。実はまださらに圧縮した銃弾を生成できるのだ。

「わー、いいなー。そういうのわたしもほしいー! なにかつくってみようっかなー」

 目を輝かせ、自身の必殺技を考案しようとするトワ。

「クソ! こうなればボクたちも戦うしかありません! みなさんやりますよ!」
「ハッ!」

 信者の青年の要請により、先ほどの戦いの中集まってきていたほかの信者たちが戦闘に参加しようとしてくる。
 どうやらこの場にいないだけで、多くの信者たちがまだ廃坑内にいるらしい。

「げっ、いつのまにか、あんなにいやがる……」
「シンヤ、どうしよう!?」
「さすがに廃坑内にいる信者たち全員とやり合うのは、マズイだろ。かくなる上は……」
「かくなる上は?」
「逃げるぞ! イオ、うまいことあの信者たちの手前辺りにすごいのを落して、ひるませてくれないか?」
「わかったー。おのよ、かちわれー!」

 イオが手を掲げると、頭上に淡く緑色に輝く4メートルほどの巨大な斧が生まれた。そして彼女が手を振りかざすと、バカでかい斧がクルクル縦回転しながら、信者たちの手前に落ち破壊をまき散らした。
 するとシンヤの狙い通り、その衝撃破とあまりに馬鹿げた光景にひるむ信者たち。

「よし、今だ! みんな逃げるぞ!」

 混乱に乗じて、シンヤたちはこの場から逃げ出すのであった。
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