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   2章4部 ミルゼ教

アルスタリア旧市街地

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「ここがアルスタリア旧市街地よ」

 レティシアに案内され来たのは、アルスタリアの旧市街地。
 これまでの街中は大都市ならではの華やかで、立派な造りであった。しかしこの一帯は少し古びた街並みであり、歩道や公共設備も整備があまりいき届いていない。どこもすたれかけているというべきか。あと人の姿もある程度見かけるが活気はあまりなく、どんよりとした印象を受ける。路地裏の方を見ればちらほらチンピラだったり、怪しそうな人物たちが話していたり、物騒な雰囲気がにじみ出ていた。

「旧市街地?」
「アルスタリアが栄えだしてから、街の整備に力を入れていてね。今じゃそのおかげであちこち交易都市として恥じない、立派な造りになったわけなんだけど、ここら一帯はいろいろあって整備が届いていない場所なの。だから見ての通り建物とか歩道とか、どこも寂れた感じっていうね」
「ここにミルゼ教の手がかりが?」
「旧市街はなにかと物騒なのよね。荒くれ者やチンピラがわりと居てケンカとかが勃発ぼっぱつしてたり、路地裏が多いから裏でこそこそやるには打ってつけらしくて。よく闇取り引きなんかに利用されてるそうよ」
「治安が悪いのか。それならミルゼ教のような怪しいやからがいても、おかしくなさそうだ。でもアルスタリアにこんな場所があったなんて」
「まあ、この街には多くの人々が訪れるから、どうしてもそっち系の人たちも集まっちゃうみたいなのよね。それでここがたまり場にされて、ちょっと困ってるの」

 肩を落とし、頭を悩ませるレティシア。

「ちなみに旧市街は宿屋や売ってる商品が安くて、出費を抑えられるから節約にはもってこいの場所よ。たまに掘り出しものが見つかったり、情報屋とかも居たりして、冒険者の仕事にも役立から」
「へー、そうなのか。覚えておくよ」
「レティシアさんじゃないですか? なにか掘り出し物でも探しにきたのですか?」

 レティシアの説明を聞いていると、露店で商売していた男が話しかけてきた。 

「今日は仕事で、ミルゼ教の信者を探してるのよね」
「ほう、あのミルゼ教ですか」
「なにか知ってることがあったら、教えてくれない?」

 さっそくレティシアが情報収集を始めてくれる。
 あちらは彼女に任せ、シンヤも聞き込みを開始しようと。だがそこへ前方から来た男たちにからまれることに。

「親分、あそこにいるの、この間かわいい女の子たちをはべらせてた、小僧ですぜ」
「あん? ああ、思い出した。あのいけ好かねーガキか。あのときはよくもやってくれたな。おかげでとんだ赤っ恥をかいちまったじゃねーか!」

 難癖なんくせをつけてきたのはアルスタリアの街に来た初日、シンヤたちに絡んできてレティシアに撃退されたチンピラ三人である。

「いや、やったのはレティシアだろ。オレは関係なくないか?」
「うるせー! てめーが女はべらせて見せつけてこなければ、あんな目に合わなかったんだよ!」
「そうは言われてもだな」

 文句を言ってきてヒートアップしていくチンピラに、頭を抱えるしかない。

「今度はそう都合よく助けなんてこねーぞ! 覚悟しやがれ! やろうども!」
「へい! 痛い目合わせてやりましょうぜ!」
「うっす」

 ボス格の男がオノをかまえ、それに続き下っ端たちも短刀を抜いた。

「――はぁ……、しかたねーな!」

 やる気満々のチンピラたちに、ため息をつきながらもリボルバーを抜いた。
 そして目にもとまらぬクイックドローで、チンピラたちの武器を弾丸で次々にはじき飛ばす。

「なっ!?」
「次は武器じゃなくて、身体に当てるぞ? 痛い目に合いたくなければ、さっさとあっちにいった、いった」

 武器を失った丸腰のチンピラたちへリボルバーを突きつけ、警告を。

「このガキ、もしかして強えー?」
「親分、勝てっこないですぜ! 逃げましょー」
「くっそー、覚えてやがれー!」

 慌てふためくチンピラたちが、捨てゼリフを吐いて逃げようとするが。

「あんたたち、りもせずにまた人様に迷惑かけてたの?」

 彼らの進路に、両腰に手を当てあきれるレティシアが立ちふさがった。

「げっ!? レティシア!? なんでここに!?」
「アタシの連れに手を出しておいて、まさかタダで帰してもらえるとは思っていないよね?」

 レティシアがカタナをチンピラたちへと突きつけ、怖い笑顔で圧をかける。
 これには両手を上げ、おびえるチンピラたち。

「「「「ひぃー!?」」」
「あんたたちここにいりびたってるのよね? ミルゼ教について知ってること、洗いざらい吐いてもらおうじゃないの!」
「知ってることなんでも話しますから、許してくださーい!」

 こうしてチンピラたちから、情報を聞き出すことに成功するシンヤたち。







 チンピラたちを懲らしめ、シンヤたちは旧市街の奥へと。
 すると寂れた小さな広場付近に、フードをかぶった青年がいた。

「あの男がチンピラたちが言ってたやつね。見るからに怪しい。よし、ちょっと問い詰めてこよっか」

 チンピラたちの話によると、あの青年がミルゼ教の勧誘活動をしていたらしい。

「いや、まずは友好的に話しかけて、情報を集めた方がよくないか?」

 強引にことを進めようとするレティシアの肩をつかみ、別の提案をする。

「まどろっこしくない? あいつらの拠点を聞き出したほうが、手っ取り早い気がするけど」
「変に警戒させるのはいろいろまずい気がする。いったん入団希望みたいな感じで話を進めて、探る方向でいこう。あくまで今回はイオと会うのが目的なわけだし」
「それもそっか」
「レティシアは冒険者として面が割れてそうだし、オレが話しかけてくるよ」

 相手がレティシアのことを知っていた場合、冒険者が探りにきたと警戒されかねない。ただでさえ彼女はアルスタリアの街で有名そうなので、ここは素性がまだあまり広まっていないであろうシンヤが適任と判断した。

「オッケー、アタシはいつでも動けるよう、すぐ近くで待機してるから」
「ああ、もしものときは頼んだ」

 さっそくフードをかぶった信者であろう青年へ、話しかけにいった。

「すみません。ミルゼ教信者の方ですか?」
「キミは?」
「さっきここで勧誘活動をしてるって聞いて。オレ、ミルゼ教に興味があるんです!」

 いかにもミルゼ教へあこがれている少年といった感じで主張を。

「ほう、キミは今の世界になにか不満がある口かな」
「はい、今の世の中は間違ってると思うんです。だからミルゼ教に入って変えたいと」
「ふむ、なかなか有望そうな少年だ」

 適当に話を合わせていると、信者の青年は満足そうにうなずいた。

(よし、なんかうまくいってるぞ。あとは信者になるふりをして、いろいろ聞き出せれば)

 ミルゼ教のことは、いづれ邪神の眷属攻略においても関わってくるような気がする。ゆえにここで情報を得ておくのは、あとあと役に立つはず。なので探れるだけ探るべきだろう。

「くくく、キミは運がいい。ボクは高位の信者でね。キミには特別に、面白いものを見せてあげよう」

 信者の青年は興が乗ったらしく、不気味な笑みを浮かべ手をシンヤの顔へと近づけてくる。問題は彼の手に、禍々まがまがしいオーラのようなものが発せられていることだろう。

(なんだ!? この感じ!? なにかやばい気が!?)
「そう、恐れずともいいよ。これこそミルゼ様が与えてくださった奇跡」

 彼はひるむシンヤへやさしく声をかけながら、さらに手を近づけてきた。
 だがそこで異変が。

「え?」
「な!? 今はじかれた!? キミはいったい」

 信者の青年は目を丸くし、手をひっこめる。
 というのも彼の手がシンヤへ触れようとしたまさにそのとき、はじかれたのだから。

「もしかして女神の信仰者かなにかか!? 黒炎よ」

 信者の青年は敵意をむき出しにして、今だ状況がつかめず呆然とするシンヤへ攻撃をしかけてくる。
 彼の手から黒い炎が燃え盛り、黒炎でシンヤもろとも前方をぎ払おうと。

「くっ!」

 見事な不意打ちであったが、シンヤの予知のスキルによる攻撃察知が発動。攻撃の軌道や射程範囲を見抜き、即座に後方へ跳躍。すれすれのところで、せまりくる黒炎をやり過ごした。

「やろー! なっ!?」

 リボルバーを取り出しすぐさま応戦しようとするが、視界に映ったのはシンヤに背を向けすでに逃走している信者の青年の姿が。どうやら今の攻撃は目くらましが主な目的だったみたいだ。
 だが彼の逃げた先には。

「行かせるわけにはいかないってね。こうなったら洗いざらい、知ってること吐いてもらうから」

 先回りしてカタナを抜いたレティシアが、立ちふさがる。

「きさまは冒険者のレティシア!?」
「アタシのこと知ってるなら話が早いね。ケガする前に、協力したほうが身のためよ」
「こうなったら!? ミルゼ様どうかお力を!」

 追い詰められた信者の青年が、意を決し手をかかげた瞬間。

「魔物が現れやがった!?」

 驚くべき光景が。なんとレティシアの周りにウルフが三体、出現したのだ。

「ミルゼ様にあだ名す者たちをやれ! 魔物たちよ!」

 信者の青年はウルフたちへ命令し、路地裏へと逃げ込んでいく。

「待ちなさい! ッ!?」
「ガルルルー!」

 追いかけようとするレティシアだが、ウルフたちが立ちはだかった。

「シンヤ、あいつをお願い! アタシはこいつらを始末してから、追いかける」
「わかった!」

 シンヤはウルフたちからノーマークなので、邪魔をされることはない。なのでレティシアに敵を任せ、信者の青年を追うことに。

「じゃまだ、どけ!」
「きゃっ!?」
「あぶねーだろうが!」

 信者の青年は路地裏にいる人たちを乱暴に押しのけ、全力疾走でシンヤを振り切ろうとしてくる。

(銃を撃つのはさすがにやめておいたほうがいいか)

 射撃で動きを止めたいところだが、流れ弾が通行人に当たる可能性も。ゆえに追いついて、取り押さえるしかないだろう。幸い向こうはかなり息を切らしてる様子。このままいけば、持久戦でシンヤが勝ちそうだ。

「しつこい! やつを止めろ!」

 信者の青年がシンヤの方を振り向き、手を振りかざしたと思うと先ほど同様魔物が出現。
デスバードというまるでたかのような鳥系の魔物が、羽ばたきながら猛スピードで突撃してきた。

「チッ!? 確実に撃ち抜く!」

 襲い掛かるデスバードに対し、シンヤは即座に銃口を突きつけ照準をさだめる。本来なら目にも止まらぬスピードでの突貫により、気づけばすれ違いざまに切り裂かれているであろう一撃。しかしシンヤには攻撃察知により突撃してくる敵の軌道がわかるため、あとはそれにしたがい射撃するだけだ。冷静に引き金を引いた。

「ギィィ!?」

 結果、見事デスバードを撃ち抜き、倒すことに成功する。

「ミルゼ教の信者はあっちへ行ったよな」

 視界の先に信者の青年の姿はない。ただ戦闘中ちらっと横の脇道わきみちに入っていくのは見えていた。なのですぐさまあとを追う。
 しかし。

「いない!? どこ行きやがった?」

 脇道の先に信者の青年の姿はなかった。それに周囲には誰もおらず、目撃者もいない様子。さっきのデスバードの戦闘で、少しばかり時間を稼がれてしまったらしい。

「うん? あれは?」

 そこでふと地下水道へ入れる場所を発見した。

「もしかしてあそこに逃げたのか?」

 なんとなくこの先に逃げ込んだ予感がしたので、地下水道に入ることに。
 中は人が普通に行き来できるほどの、わりと広めの通路であった。いざというとき避難経路としても使われているのだろうか。

「なんだ? このイヤな気配。こっちからだ」

 なにやらおぞましいなにかをすぐ近くで感じたため、その場所へと向かってみる。
 すると通路の曲がり道の方で、黒いもやのようなものが立ち込めていた。

「これどこかで見たような。そうだ、ハクアたちが消えるとき、見たあれにそっくりだ」

 ハクアやクラウディアはこの黒い靄に包まれ、姿を消していた。なにかの移動手段のようだが、それと同じものが目の前に。ただその黒い靄が、だんだん消えかけているのがわかる。あと少しすればなくなってしまう気がした。

「ここに入れば、あの男を追える? くっ、消えかけてるし考えてる時間はないか。よし、ここはいちかばちか飛び込んでみよう」

 危険かもしれないが、これはチャンスでもある。うまくいけばミルゼ教の実態に大きく近づけるかもしれないのだから。
 シンヤは腹をくくり、黒い靄の中へと飛び込むのであった。


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